第百十四話「アキラ倒れる」
ミコ「んむっ!んんぅ…。」
ミコと唇を重ねる。柔らかいミコの唇の感触が気持ち良い。一瞬驚きに目を見開き体を硬くしたミコだったが、次第に蕩けた顔になり体の力を抜いて俺にされるがままになってきた。
俺はさらに強くミコを抱き締めて深く深く唇を重ねる。もちろんやらしい意味じゃない。フツシミタマで増大させた神力を天力に変換して再び体内に取り込む。
そうして練り上げた光の力をミコの中に注ぎこむ。ガウやタイラの光が有効だったことからも闇を払うには光が一番だとわかる。
こんなことでミコが元に戻るかどうかはわからない。でも他に方法も思いつかない。とにかくこれでミコの中に力を注ぎ込めば、少なくとも力を使いすぎて死ぬということはなくなるはずだ。
ミコ「ぷぁ…、アキラくぅん。」
アキラ「ミコ…。」
少し唇が離れた時にミコが俺に甘えた声をかけてくる。その顔は完全に蕩けきっていた。…って見蕩れてる場合じゃない。もう一度唇を重ねる。
ミコ「はむっ…、んむぅ…。」
暫く続けても何の変化もなかった。この方法では駄目なのかと思って諦めかけた頃にようやく変化が訪れた。
青黒くなっていた肌は徐々に元の白い肌へと戻り始めていた。ミコはほとんど眼を瞑っているからあまり確認出来ないが、チラチラと見える瞳は白目に黒い瞳に戻りつつあるように思う。
もう少しだと思った俺はさらに大量の天力をミコに注ぐ。俺が大半の力を消費したと実感した頃にはミコの姿は元に戻っていた。
ミコ「はぅ…。」
そのままミコの体から力が抜けた。どうやら気を失ったようだ。見たところ姿は完全に戻っているし内包している力も普通の魔力に戻っている。一先ず何とかなったようだ。
狐神「アキラぁ~…。」
師匠は切なそうに自分の唇を触りながらじっと俺の唇を見つめていた。
シルヴェストル「ハァハァ…。」
シルヴェストルは一人でハァハァしてる…。
フラン「んっ!」
フランは自分の体を抱いてフルフルと震えていた。
ティア「アキラ様わたくしともしてください!」
アキラ「うわっ!飛び掛ってくるな…。」
ガウ「がうもちゅーするの~!」
アキラ「ちょっと待ってくれ。今疲れてるから…。」
キュウ「熱い口付けでしたねぇ~。次は~、私と~、してください~。」
普段は他の者を押しのけてまで俺に迫ってこないキュウまで抱き付いてくる。
クシナ「………。」
クシナはただ真っ赤な顔でチラチラと俺とミコを交互に見ていた。
ミコ「………んぅ。」
アキラ「目が覚めたか?」
ミコの瞼がピクピクと動き出した。どうやら気付いたようだ。
ミコ「アキラ君…?私は………。あぁあぁぁ!!さっ、さっき…、わた、私アキラ君とファーストキスを!?!?」
アキラ「………そうだな。俺もあんな形でファーストキスするとは思ってなかった………。」
こんなに綺麗で可愛い嫁や愛妾達に囲まれているのに、あんな慌しいファーストキスになるとはな…。もっと落ち着いた雰囲気で甘い口付けをすると思っていただけにギャップが凄い。
ルリ「………ん。はじめて違う。はじめてはルリとした。」
ルリが俺とミコの間を引き離して割り込みながらそんなことを言い出した。…って何て?
アキラ「………え?」
ルリ「………あっくんは覚えてないの?あっくんのはじめてはルリとした。」
………待て。待て待て待て。ええ?俺は今のがファーストキスのはずだ。ルリとなんてまったく覚えがないぞ?
アキラ「いつ…?」
ルリ「………あっくんとルリのお母さんも見てた。証人がいる。写真も残ってる。ルリの宝物。」
そう言いながらルリは胸元から包みを取り出した。その中には確かに折りたたまれて少し色あせた写真が入っていた。
アキラ「………あ~!!!これっ!」
その写真には幼い子供が二人写っている。そしてその二人は確かにキスしていた。二人とはもちろん幼児の頃の俺とルリだ。
……そうだ。そういえば実家にもこの写真があったはずだ。あの事件以来俺は実家のことなど何の関心もなかったから忘れていた。
俺にこの当時の記憶はない。この写真は地球のものだ。ファルクリアでこの体に転生して以来のことは全て覚えているはずだがそれはこの体の性能のお陰だ。地球の頃は普通の人間だったんだから幼児の頃のことまで全て事細かに覚えているはずなどない。
ルリ「………わかった?」
アキラ「ああ…。動かぬ証拠があるからな………。でもよくそんな写真をこっちに持ってきていたな?」
ルリは子供の頃に突然召喚されたんだ。そんな時に偶々こんな写真を持ってたなんてすごい偶然だな。
ルリ「………偶々ちがう。ルリはこの写真を毎日持ち歩いてた。」
アキラ「え…?」
ルリ「………ルリの宝物。」
ルリは少しだけ柔らかく微笑んで写真を大事そうに胸に抱えた。ほとんど感情を失くし表情が変化することすら珍しいルリが、この時だけは微笑んでいたのだ。
………滅茶苦茶可愛い。
アキラ「ルリ可愛すぎ!」
ルリ「………ん。」
ギュッと目の前にいるルリを抱き締める。ルリも俺にされるがままに抱かれる。少しだけ抱き締め返してくるところが余計に可愛い。
狐神「それじゃ次は私と口付けする番だね!」
ガウ「がうもちゅーするの~!」
また皆がわらわらと群がってくる。何かこのまま皆とキス大会になりそうだ…。それは避けたい。こんなところでこんな状況で勢いだけで皆とキスするなんて嫌だ。
アキラ「皆とはもっとロマンチックなキスがしたい。師匠はこんなところで勢いだけでしたいんですか?」
狐神「うっ!それは………。でもこのまま放置なんて切ないよ…。」
師匠はまた自分の唇をなぞりながら俺の唇を見つめている。何か色っぽい………。
アキラ「それに今はそんな状況じゃないでしょう?先に片付けるべきことを片付けましょう。」
そうだ。闇の魔神の封印を解いたことで海人種を封じている封印がどうなったのか。解けたのか解けてないのか。解けてないのならどうすれば解けるのか。それを確かめなければならない。
それから人神だ。途中から忘れてたが人神に止めを刺しておくべきだろう。こいつが生きていたら碌なことにならないはずだ。
アキラ「まずは人神の止めから………。」
キュウ「あのぅ~、もう死んでいますぅ~。」
アキラ「………。」
キュウの言葉を受けて倒れてのたくっていたはずの人神を見てみる。
ミコ「はうっ!アキラ君とキスしちゃった…。ああっ!キス…。アキラ君のあの唇が…。はぁ…。柔らかくて…、気持ち良くて…。ああっ!!思い出しただけでも恥ずかしい!私さっき色々やらしいこと言っちゃったよ!!きゃーー!!!」
ルリに引き剥がされたはずのミコが妙に大人しいと思ったら一人で下にあるものを毟りながら身悶えていた。
よく身悶えたりしてる時に周りにあるものを触ったり毟ったりすることはあるだろう。しかしミコが毟っているものとは………。
シルヴェストル「そんな奴を触ってたら汚いのじゃ。」
ミコ「え…?あっ!!!」
ティア「止め…、刺しちゃいましたね。」
そうだ。ミコがしゃがんで毟っていたのは人神の内臓だ。さっきミコに腹を切り裂かれて飛び出していた人神の内臓をブチブチと毟って千切っていた。
それが止めになったのか、それとも俺とミコがキスしている間に息絶えていたのか、ミコのことで頭が一杯でよく見ていなかったのでわからないが、確かに人神はそこに死んでいた。
だけど何だろう?本当にこれで終わりか?散々面倒なことをしてくれた周到な人神がこんなにあっさり死んで終わりなのか?
どうにも腑に落ちない。確かに現実なんてこんなもんだと言えばその通りだ。死なないと思ってたような奴があっさり死ぬこともあるだろう。
………確かに死んでいるのは人神だ。それは間違いない。もうこれで人神との戦いは終わりなのか?
ミコ「あっ!あっ!どうしよう!私が殺しちゃったのかな?」
フラン「それは別に良いのでは?」
そうだな…。止めを刺すこと自体はいい。さっきミコにやらせたくなかったのも、あの時のミコがあのまま殺していれば闇に堕ちると思ったからであって殺してはいけないわけではない。
今は人神を殺したとしてもミコが闇に堕ちることはないのでそこには何の問題もない。むしろ人神は生かしておいてはいけない奴だから始末してよかったくらいだ。
ミコも元に戻ったし闇に堕ちることもなくなったし人神も死んだ。最良の結果になったはずだ…。それなのに俺の心は何か落ち着かない………。何か見落としている?あるいは勘違い?
アキラ「………。」
狐神「また何を難しいことを考えてるのか知らないけど…、なるようにしかならないし私らならなんとでもなるんじゃないかい?」
師匠がそっと俺の肩に手を回してそう声を掛けてくる。俺が難しい顔で考え込んでいたから気持ちをほぐしてくれた…、わけじゃないようだな。
肩に回した腕をソワソワさせながら師匠は俺に口付けしようと狙ってる。実にわかりやすい。男が女にキスしようとしてる時っていうのはこんな風なのかもしれない。女の側から見たら狙ってるのがバレバレだ。
アキラ「ありがとうございます。お陰で気が楽になりました。………でもキスは駄目ですよ。」
狐神「うぇっ!なっ、なっ、なっ、なんのことだい?」
実にわかりやすい…。師匠は完全に眼が泳いでる。
アキラ「俺は師匠とはベッドで愛を語らって良い雰囲気で落ち着いてキスがしたいです。師匠は違うんですか?」
狐神「あ~…、いや~…、その~…。」
性欲に忠実で何か師匠の方が男っぽい。ベッドで愛を語らってからなんて発想は俺の方が女っぽいだろうか?もしかして俺は徐々に女性化してるんじゃあるまいな?
クシナ「そんなことよりも!もっと色々とすることがあるのではありませんか?!」
クシナに怒られた…。何かこういうの久しぶりだな。最近のクシナは大人しかったからなぁ…。まぁ今回は全面的にクシナの言うことが正しい。
アキラ「ああ、悪い。それじゃさっさと済ませよう。」
クシナ「―ッ!!!」
あっ…。クシナも俺の唇をじっと見つめて何か真っ赤になってるな。ちょっと狙ってそうな気がする。
アキラ「とにかくまずは………。人神は死んでるな?」
俺は全員に確認を取る。皆間違いなく人神が死んでいることを確かめた。これでもういいだろう。これ以上わからないことを気にしても疲れるだけだ。
アキラ「次に………、六つの封印を解いたはずだが海人種への封印は解けたか?」
クロ「………いや、まだだな。」
あ…、そういえばクロが大人のままだった。まぁいいか………。
アキラ「だったらどうすれば解ける?」
クロ「そんなの俺が知るわけないだろ?」
アキラ「何だ。偉そうな割りに使えない奴だな。」
クロ「そっ、そんな言い方することないだろぅ~!」
何か大人のくせに情けない顔をして泣きそうになってる。やっぱり長い間子供にしてると精神に影響してそうだな。
アキラ「こういう時は最古の竜に聞くか。おい、最古の竜。何かわかるか?」
龍魂『………。』
ん?返事がない?というか龍魂の輝きが弱くなっている?
アキラ「おいっ!最古の竜?」
最古の竜『………ん。おお…。どうした?』
アキラ「どうしたはこっちの台詞だ………。お前大丈夫なのか?」
最古の竜『おお。大丈夫大丈夫………。』
大丈夫とか言ってるけど何かちょっと上の空で集中力が足りないし声に覇気もない。本当に大丈夫なのか?
クシナ「お爺様………。」
そっとクシナが龍魂に近づき触れる………、振りをしてるけどこっそり俺の後ろにぴったりくっついて龍魂を覗き込んでるな。それに何かちょっとフンフンと俺の髪の匂いを嗅いでる気がするぞ………。
俺とクシナの身長差だと後ろから一緒に覗き込むと丁度その高さになるからな………。自分の祖父が死ぬかもしれない時にそんなことでいいのか?
最古の竜『問題ない。それで何の用だ?』
アキラ「………。五龍神と闇の魔神の封印を解いたのに海人種への封印が解けていないようだ。どうすれば解ける?」
最古の竜『ふむ………。引き継いだ者が全員ここにいるのだから解呪したらどうだ?』
アキラ「………解呪って何だ?いや、何かは想像がつく。どうすればいいんだ?」
最古の竜『さてな…。それは封印をかけた者かそれを継ぐ者しかわからんのではないか?』
何だよ…。結局わからないんじゃないか………。でも死にかけの最古の竜にあまり厳しい言葉はかけたくないのでぐっと堪える。
ブリレ「つまりボク達がどうにかすればいいんだよね?主様!これが解けたら褒めてね!」
ブリレが俺に纏わり付いてくる。もしブリレに犬の尻尾があれば全力で振られていることだろう。
アキラ「そうだな…。俺達じゃどうすることも出来ないようだし五龍神とクロに任せる。」
ブリレ「これが出来たら…、奥様達の後でいいからボクとも…、あの…、キスしてね!」
モジモジして少し言い淀んだ後に急に真っ赤な顔を上げて元気にそう宣言した。そのまま飛びついてくる。何ていうか…。今まで無遠慮にじゃれついてくる子犬のようだったブリレがこうして恥じらいなどを覚えると急にお淑やかに見える。
まぁ本当にお淑やかな人はいきなり飛びついてきたりはしないのだが…。何というか…、花も恥らう乙女に見えてしまう。
ハゼリ「主様!それならばハゼリともお願いいたします!」
ハゼリもブリレに対抗して抱きついてくる。もちろん可愛い女の子と綺麗な女性に抱きつかれて嫌な気持ちがするわけもない。
アキラ「う~ん…。褒美を出すにしてもお前達だけというわけにはいかないだろう?五龍神全員に何か褒美をとらせるよ。」
いくらブリレとハゼリが俺の愛妾とは言え二人だけに褒美を与えるわけにはいかない。働きによって褒美が違うことはあり得るが今回は全員同じような褒美になるようにしよう。
クロ「アキラっ!アキラっ!俺は?」
アキラ「うるさい。大人のお前は可愛くない。何で俺がお前に褒美を与えなきゃならないんだ?」
クロ「じゃあ子供になるから!なっ?」
こいつはやっぱり頭がやばくなってきてるっぽいぞ。そもそも褒美とは上の立場の者が部下などの働きを褒めるために与えるものじゃないのか?
アキラ「お前はいつから俺の部下になったんだよ?対等の立場なら一方が一方に褒美を与えるなんておかしいだろ?」
クロ「別に物じゃなくてもいいんだよ!むしろ物じゃない方がいいんだよ!」
アキラ「はは~ん…。つまり俺とイチャイチャしたいと?」
クロ「そう!それだ!そういうのが欲しい!」
アキラ「邪神封印!」
クロ「ちょっ!おまっ!待って!ああぁぁ……。」
俺は問答無用でクロを封印する。って言ってもただ子供に戻しただけだ。もうこの邪神封印も自由自在に扱えるから何の問題もない。
アキラ「……さて。それじゃちょっと封印を解く方法を考えてみてくれ………。」
ミコ「え?アキラ君?アキラ君っ!どうしたの?大丈…………。」
何かフラフラする?ミコの声が遠くに聞こえる………。駄目だ…。体が…うまく…動か…な………。
~~~~~シルヴェストル~~~~~
海人種達への封印の解除方法を議論しておった途中でアキラが倒れてしもうた。皆が駆け寄る。
ミコ「アキラ君!?大丈夫アキラ君!!」
キツネ「ちょっと診せてごらん。」
ミコ「キツネさん………。アキラ君はどうなんですか?」
目の前にいたミコがアキラを抱きとめて寝かせるとそこへキツネが駆け寄り診察を開始したのじゃ。
ティア「あぁ!アキラ様!一体どうされたのでしょうか?」
ティアはそわそわと周囲を飛び回っておる。少し落ち着きが足らんの。
クシナ「今ならキスをするチャンスでは…。って何言っているの。こんな大変な時に…。あぁ、でも意識がない今のうちしかきっと私は出来ないわ………。」
クシナは一人頭を抱えて考え事をしておるようじゃの。何を考えておるか全部口から出とるわけじゃが…。
ガウ「がうがうがうっ!!!」
ガウもティアと一緒で周囲を駆け回っておる。心配なのはわかるがそうソワソワしてもどうにかなるものでもないじゃろ。
キュウ「アキラさぁ~ん!しっかりしてくださいぃ~!」
ルリ「………あっくん。」
キュウとルリは静かにアキラの心配をしておる。これこそが本来あるべき形じゃろう。
フラン「………最近のアキラさんは力を失っていたのに無理が過ぎた気がします。倒れられたのもそれが原因ではないでしょうか?」
フランは冷静に分析しておるの。その考えはわしの考えと一致しておるのじゃ。
キツネ「………そうだね。力の使いすぎで弱ってる時みたいになってるよ。」
シルヴェストル「やはりそうなのじゃ。」
キツネの見立てもわしやフランと同じ。やはりここ最近の無理が祟ったのじゃ。
ブリレ「主様!死んじゃやだよ主様ぁ~!!!」
ハゼリ「これブリレ。縁起でもないことを言うのではありません。主様がこのようなことで身罷られるはずなどありません。」
ブリレとハゼリも心配しておるようじゃの…。これほど皆を心配させるなどアキラは何と罪作りな者じゃ。
キツネ「とにかく暫く安静にするしかないね。」
シルヴェストル「…ほれ、ブリレ、ハゼリ。アキラが目を覚ますまでに解呪を終わらせておくのじゃ。」
ブリレ「………そうだね。そうだよ!主様は少し眠ってるだけなんだから。その間にボク達は言われたことをやっておかなくちゃね!」
どうやらブリレはすぐに立ち直ったようじゃ。さすがはアキラの愛妾なだけはある。
ハゼリ「それでは早く済ませます。行きますよブリレ。」
ブリレ「わかってるってば。………すぐ済ませてくるからね主様。」
二人は最後にアキラの顔をじっと見つめてから解呪の方法を見つけるために他の者と一緒に離れて行ったのじゃ。
ミコ「私達はどうしたら?何か私達に出来ることはないんですか?」
キツネ「う~ん………。残念ながらないね。私にも打つ手がないよ。」
アキラがやるように他者に自らの神力を注ぐことが出来るのならばあるいは打つ手もあったかもしれぬ。じゃがわしらでは出来ぬ以上は何も打つ手がないのじゃ………。あとはアキラが自力で回復するのを待つしか出来ぬのじゃ………。
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そうして暫くの時が経ったがアキラが目覚める気配はないのじゃ…。もしや本当にこのまま………。いやいや!アキラに限ってそのようなことはあり得ぬのじゃ!きっとすぐに目を覚ますはず………、なのじゃ…。
アキラのことばかり考えておると悪い方へと考えが流れてしまう。少し気分転換に五龍神達と黒の魔神の解呪を眺めてみるのじゃ。
ブリレ「こうするとどうかな?」
アジル「それではこちらがおかしくなる。」
ブリレ「そっかぁ…。あっ!それじゃこれは?」
黒の魔神「それじゃ今度はこっちがおかしいだろ!」
ブリレ「え~!もうわかんないよ!」
どうやら皆で術式でも考えておるようじゃの。五龍神達には動揺はないようじゃ。それだけアキラを信じておるということかの…。わしもこの程度でうろたえぬようにもっとアキラを信じねばならんの………。
ブリレ「あっ!これはこれは?」
黒の魔神「だからお前はちょっとは考えてから……。え?あれ?もしかしてこれって?」
ハゼリ「………問題はないように思います。」
タイラ「………うむ。」
どうやらブリレが深く考えずにあれこれ試しているうちに何かわかったようじゃの。その後少し相談してから六人はそれぞれ移動していったのじゃ。
タイラ「それではゆくぞ。」
五人「「「「「了解。」」」」」
黒の魔神「あ…。そういや何でお前が仕切ってんだよ!」
タイラ「天である我が中心だとさっきも話したであろう。」
黒の魔神「そりゃそうかもしれないけどなぁ…。俺は黒の魔神様だぞ!」
ブリレ「あまりゴネてると主様に言って抱っこしないようにしてもらっちゃうぞ!」
黒の魔神「うぇ!何だよ!そんなのずるいぞ!」
ブリレ「じゃあボク達の言う通りにするんだね。」
黒の魔神「うぅ~!」
どうやら子供状態の黒の魔神はブリレにも言い負かされるようじゃの。準備の整ったらしい六人は四人が正確に四方向に分かれ、中央にタイラが浮かびその下には黒の魔神が座るように陣取っておる。
六人「「「「「「四象陰陽、四神開放!」」」」」」
シルヴェストル「おぉ!」
四方からそれぞれ中央の上下に向けて二つの十字の光が伸びておる。そして中心たる上下がお互いに光を伸ばし合う。それはまるで上下に二つの十字があり、その中心同士を繋ぎ合わせておるような形じゃった。
さらにそれぞれの者から天空に向かって光の柱が上る。最後に中心から黒の魔神とタイラの分を合わせた大きな一本の光の柱が立ち昇ると何やら体が軽くなった気がした。
ミコ「あれ?何か体が楽になった気がするのだけれど…。」
ガウ「がうがう!」
シルヴェストル「ミコとガウもか?わしもなのじゃ…。」
キツネ「私は別になんともないけどね?」
フラン「私もなんともないです…。」
どうやらわしら三人だけのようじゃの。これで海人種への封印が解かれたのだとすれば、海人種への封印でわしら三人にも何か影響があったということかの?じゃが何故わしらだけが…?考えてもわからぬのじゃ。
キツネ「とにかく封印が解けたなら早く帰ろう。このままここにアキラを置いておくのはあまり得策じゃないよ。」
その通りなのじゃ。まだ目を覚まさぬアキラをこんなところで寝かせていてはまたあの時、空から降ってきたおなごに出会うかもしれぬのじゃ。アキラを庇いながらではあれとは戦えぬのじゃ。
ブリレ「それじゃ早く帰ろう。もう封印は解けたからね!」
ハゼリ「それでは主様は私が担ぎます。」
キツネ「却下だね。アキラを担ぐのは私さ。それよりどうやって戻るんだい?もう虹の橋はないんだろう?」
一同「「「「「………あっ。」」」」」
どうやら皆気付いてなかったようじゃの。アキラがおらねば海底都市カムスサへと戻る方法がないのじゃ。
シルヴェストル「………うまくゆくかどうかはわからぬが、わしに一つ考えがあるのじゃ。」
キツネ「へぇ?どんな?」
全員の視線がわしに集まる。わしは考えを述べる。
シルヴェストル「わしの空間移動で全員をカムスサへと移動させるのじゃ。」
ティア「えぇ?それは無理ですよ!他の人や物を一緒に移動させるのもほとんど無理なのにこれほどの大人数なんて………。」
さすが同じ精霊族のティアはよくわかっておるのじゃ。確かに精霊族の空間移動なら不可能なのじゃ。じゃがアキラと同じ力ならきっと出来るはずなのじゃ。
シルヴェストル「わしを信じる者はお互いに手を繋いでわしに触れるのじゃ。」
皆は困惑した顔でお互いに顔を見合わせておった。それはそうじゃろうな。わしだって逆の立場ならそうなるのじゃ。じゃが皆は手を繋ぎ合ってわしに触れてくれた。信じてくれたのじゃ。ちょっと泣きそうじゃ。
シルヴェストル「それではゆくのじゃ………。大転門!!!」
その瞬間フワリと浮いたような感覚がしたかと思うとふと足に地面の感触が戻ってきたのじゃ。成功じゃ!
シルヴェストル「成功なのじゃ!」
キツネ「戻ってこれたね。………それはいいけど何でシルヴェストルがアキラと同じ技を使えるんだい?」
シルヴェストル「それは………。」
ミコは古代族、いや、海人族月人種の力を使っておった。ガウは海人族太陽人種の力を使っておった。そして今わしが使ったのは海人族海人種の力なのじゃ…。
これがどういうことかはわからぬ。じゃがわしらは………。わしら三人は普通とは違うようじゃ。アキラは普通とは違ってしまったわしらのことを変わらず愛してくれるじゃろうか…。それだけが心配じゃ。