第百十三話「ミコの暴走」
ようやく人神との長かった因縁にも決着がつきそうだ。思えばこのファルクリアに転生させられることになったのもミコ達が召喚されたのも、全ての始まりはこいつだった。
この世界に転生してからも、世界中の戦争も、精霊族や獣人族がおかしな方向へと進んでいたことも、ドラゴン族が大きな犠牲を払い腑抜けていたことも、あれもこれもほとんどの問題はこいつが原因だった。
もちろんこの人神ですら裏で操っていたのは月人種と太陽人種なのかもしれない。だがこいつは無理やりだとか洗脳されて協力していたわけじゃない。自分から積極的に協力し、指示されていない悪行まで行っていたのだ。
さっきも闇の魔神を助けに来たなどと白々しいことを言っていたが大嘘だ。そもそも闇の魔神を騙してここに封じたのも人神だった。
闇の魔神は力が強かった分なのかわからないが頭が悪かった。人神の口車に乗せられて九尾の女神を犯すために必要だから少しここで眠っていてくれと言われてここの封じられていたのだ。
さっきクロの魔法で人神が闇の魔神と一緒になって行ってきた数々の悪行の記憶を見た。こいつは生かしておいてはいけないやつだ。
どんな大義があってこんなことをしてきたのかは知らない。だが例えどんな理由があろうとこいつが今までしてきたことは絶対に許されないことだ。
俺達に気づかれずにここに現れたように、確かにこいつには妙な能力がある。持っている力が小さいからと言って侮って良い相手ではない。
慎重に、確実に、この場で絶対に始末しておかなければ後々厄介なことになるだろう。
人神「出てきなさい十傑神。ふふふっ。本来なら貴女方ごときを始末するのには過剰戦力ではありますが、今回は十傑神を七人も連れてきているのですよ。」
人神は誰かを呼ぼうとしながらそんなことを語り始めた。
人神「十傑神は魔人族であろうと、ドラゴン族であろうと、たった一人で一種族を滅ぼせるほどの者達なのです!それが七人もいるということがどういうことかおわかりでしょう?ふはははっ!貴女方を始末するには過剰すぎる戦力だ!もう貴女方に助かる術はありませんよ!!!」
一人熱弁を振るっているがいつまで経っても誰も出てこない。そりゃそうだ。何故なら………。
人神「………どうしたのです十傑神達よ?早く出てきなさい。」
ミコ「それってこの人たちのことかな?もう皆二度と起きることはないと思うのだけれど?」
ミコが七つの首を持って人神の後ろから現れた。
人神「ミコ=ヤマト!?何故?どういうことです?」
ミコ「どうもこうもないよ?貴方が現れた時すぐに貴方の後ろに隠れてたこの人達を始末しただけだよ?」
ミコは黒い顔で淡々と告げる。人神の気配を感じて声を聞いた瞬間からミコの神力は凍えるほど冷たくなった。
ミコはさっきの闇の魔神の記憶を見ていないはずだが、それがあろうがなかろうが人神のことは許せないのだろう。
人神がミコがいなくなったことに気づかないほど鮮やかに速やかに人神の後ろへと周りこみ、その後ろに隠れていた十傑神を何の躊躇もなく殺してしまった。
普段の温和なミコからは考えられないくらい冷たい表情で人神を見つめている。
………今度こそ俺が戦おうと思ったのにどうやら今回も俺の出番はないようだ。
人神「………一体どんなマジックですか?貴女ごときが十傑神を倒せるはずはないでしょう?何かの幻覚でしょうか?そんなチンケな魔法で私に勝てるとお思いですか?」
どうやら人神は幻か何かを見せられていると判断したようだ。人神はシホミなどのように桁違いの力を持った存在を間近で見てきたはずだ。それなのにどうしてミコの力がわからないのだろうか?
もうこれは一種の呪いじゃないかと思うほどミコの力を理解出来ていない。俺達の中ではそんなに飛び抜けて強い方じゃないミコでも俺が渡した装備を十全に使えば第六階位でも上位に入る力があるだろう。
いや、うまく一撃が入れば第五階位とでも戦えるだけの能力がある。それに比べて人神は第九階位が精々だ。
今まで何度も言ってきた通り階位だけが全てではない。だがどうしても覆ることがない力量差というものもまた確かに存在している。
人神に俺のような時渡りの秘技で神力を何億倍にも練り上げる方法か、フツシミタマのように一気に増大させるような能力でもなければミコに傷一つすら付けられないほどの力量差があるのは間違いない。
俺ならば例え時渡りの秘技とフツシミタマがあろうとも、今の俺とミコの力量差があれば本気で常に警戒するだろう。それでもうっかり一つミスをすれば俺の方が負けかねない。
その警戒がまったくない人神は何かよほどの秘策でもあるのか?あるいはすごい能力でも持っているのか?まさかただの馬鹿ってことはないと思いたい。そんな馬鹿に今まで振り回されていたのかと思うと自分が情けなくなる。
ミコ「………貴方はどうしてこんなことをしているの?」
ミコが人神に問いかける。聞かない方が良かったかもしれない。知ればもっと許せなくなるようなことである可能性が高い。それでも何故こんなことをしているのか。どうしてこんな非道を行えるのか。それを聞かずにはいられなかったのだろう。
人神「くっ、くふふっ。あははははっ!!!知りたいですか?知りたいでしょうねぇ…。何故貴女方が私に殺されるのか。その理由が知りたいですよね!あはははっ!」
人神は狂ったように笑い始めた。このおっさんはちょっと精神に異常をきたしているのではないだろうか。いや…、そもそもいくら神格を得て神になったと言ってもベースは人間でしかないのだ。
その人間が一万年以上も生き続けていれば精神や頭がおかしくなるのかもしれない。………それならばミコやルリは神格不得之術を解除せずに寿命通りに命を終えた方が幸せなのかもしれない。ルリは半分神格を得ている状態で老化が止まっているので手遅れかもしれないが………。
人神「少しだけ教えてあげましょう。あの馬鹿娘が語っていましたよね。かつて世界中を海人族が支配していた頃にロベリアという人間族国家があったということを。」
馬鹿娘とはシホミのことだ。確かに前回シホミと一緒だった時にそんな話をしていた。
人神「その頃に中央大陸の支配を任され人間族を纏めていた国がロベリアだったのですよ。そして海人族の支配を望まない者達が集まって反旗を翻すことになりました。しかし普通に戦ったのでは人間族では海人種には到底敵わない。そこで人間族が手に入れた力が勇者召喚だったのですよ。」
ふむ…。前に聞いた話と同じことを言っている。それよりその先やもっと詳しいことが聞きたいのだ。同じ話ばかり何度も聞きたくない。
人神「そして初めて成功した召喚で呼ばれたのがこの私です。日本で冴えないサラリーマンをしていた私はそれはもう一生懸命頑張って働きましたよ。ええ、そりゃあもう一生懸命ね。」
人神が遠い目をしてどこかを見ている。まるで居酒屋で管を巻く前の酔っ払いのような雰囲気だ。いや違うよ?俺は行ったことないよ?地球では未成年だったしね?あくまで一般的なイメージだよ?
人神「ロベリアの姫がまたそれはもう綺麗で可愛いお姫様でねぇ…。私は彼女と結ばれるために何でもやりましたよ。ですがロベリアの野望がもうすぐ成就して私と姫が結ばれるという時になって姫は………。ですから私は姫のいない世界など滅ぼしてしまおうと思ったのですよ。」
人神は暗い表情で俯いて沈んだ声を出す。
人神「しかしまだ手段があったのです!月人種は月と死を司る力を持っている!そして太陽人種は太陽と生を司る力を持っている!生と死の両方の力があれば死んだ姫も生き返らせることが出来る!だから私は月人種と太陽人種に従っている振りをしながら利用してきたのですよ!あははははっ!私に利用されてるとも知らずに偉そうに命令している気になっている奴らのなんと滑稽なことでしょうか!」
今度はまた一転して大笑いし始めた。やはり人神はかなり狂っているようだな。始めからこういう奴だったのか、ファルクリアで生きているうちにこうなったのかは俺には判断はつかないが………。
人神「ああそうそう!別に私は騙されて利用されているだけではありませんよ?もし月人種と太陽人種が姫を生き返らせなかったり、そもそもそんなことが不可能だったならば私はこの世界そのものを滅ぼす用意がありますとも!だから私はどちらでもいいのですよ!姫が生き返って私と一緒に暮らすか。それとも姫が生き返らずこの世界もろとも滅ぶか。どちらでもねぇ!あははははっ!!!」
ふむ…。結局のところ新しい情報はほとんどなかったな。これじゃシホミが言っていた話とほとんど変わらない。少しばかり細かい話になっただけだ。
ただ一つわかったことがあるとすれば人神はもう狂っているのだろうということだけだ。自分の力も分も弁えず狂った妄想にとりつかれている。
相手との力量差がはっきりしているにも関わらず、それを理解せず自信過剰に振舞っているのももしかしたら狂っていることが原因かもしれない。
地球に居た時からこんな奴だったのか、それとも召喚されたショックでこうなったのか、あるいはこの世界で生きているうちにこうなったのか。色々と考えられる。
そしてもしこの世界に召喚されたためにこうなったのだとすれば人神だって被害者ではあるだろう。地球で暮らしていれば普通の人で普通の人生を送ったのかもしれない。
それなのにロベリアという国に勇者召喚されてしまったためにここまで狂ってしまったのなら哀れではある。だがだからと言ってこいつの罪がなくなるわけじゃない。
狂っていようが正常な判断が出来なかろうが関係ない。ここは地球じゃない。人権派などというクレイジーでクズな奴らが存在しないこの世界では罪には罰という原則が当然のように執行される。自分でしでかしたことの責任は取ってもらう。
ミコ「………何を言っているのか全然わからないのだけれど。そのお姫様を生き返らせるためには貴方は何をしても良いっていうことかな?それでお姫様を生き返らせることが出来なければ世界ごと全てを道連れにしようとそういうことかな?」
ミコは俯いてブルブルと震えている。その手は爪が食い込み血が流れるほど強く握り締められていた。
人神「えぇ!えぇ!そうですとも!そういうことですよ!中々飲み込みが早いではないですか。ははははっ!もっと馬鹿かと思っていましたが中々どうして。それだけ頭が使えるのなら何故私の言うことに逆らうなどという愚かな選択をしたのですか?あはははっ!」
ミコ「そんな…、そんな自分勝手なことで!許さない!貴方は絶対に許しません!」
顔を上げたミコの表情は怒りに染まっていた。………かなり怖い。ミコは俺が怒ってる時は怖いって言ったけどミコの方が怖いだろ………。
人神「私と姫以外の者など何の価値もないのですよ!姫とこの世界全てでは比べる対象にすらならないほど姫の方が大事だ!世界全てを犠牲にしても姫の方が重要だ!姫のいない世界になど価値はない!そんな世界ならばなくなればいい!!!」
ミコ「言いたいことはそれだけですか?」
人神「ははっ!何を……、え?」
完全に殺意の篭った眼で人神を見つめていたミコの体が揺らいだかと思うと人神の隣に移動していた。その手には人神の左足が握られている。
ミコは何も特別なことはしていない。ただ真っ直ぐ人神に近寄ってその左足を片手でもぎ取っただけだ。
別に俺からすれば敵を甚振るなど普通のことだ。ミコはやむを得ず敵を殺すことはあってもわざわざ甚振るようなことはしないが、それでもそういうことをする事自体は別にいい。
でも何だろう…。今のミコを見ているとざわざわと嫌な予感がする。………このままミコにやらせていていいのか?
ミコ「汚い足ですね。お返しします。」
人神「………え?…え?これは?」
ミコ「貴方の足ですよ?うふっ、あははっ!あはははははっ!!!」
人神「あ…、あぁ…、あああぁぁ!こんな!こんな馬鹿な!何故!ぎゃぁぁぁ!痛い痛い痛い!」
ミコ「あはははっ!もっと…、もっと苦しんでくださいね?ヒロミちゃんの分も、ヒデオ君の分も、私の分も。何より私の大好きなアキラ君の分を!!!もっと!もっともっと!足りない…。この程度の痛みや苦しみなんかじゃ足りませんよ!!まだまだ。まだまだまだまだ!!!苦しめ!」
ミコは狂気に染まった笑い声を上げていたかと思うと、怒りと憎しみの篭った顔に豹変して人神の両手両足をもぎ取った。
やばい…。何かわからないけどやばいぞ。このままじゃきっとミコはどうにかなる。それなのに止めに入ろうにも体が動かない?………俺だけじゃない。少しだけ視線を動かすと嫁達も五龍神ですら動けなくなっている。
ミコの神力は赤い魔力だったはずだ。それなのにその赤い魔力が徐々に黒く変色しつつある。俺達が動けなくなっているのもミコが放っている力のせいなのか?
人神「いぃぃっ!痛いぃぃ!」
ミコ「まだまだ!もっともっと!もっと苦しめ!アキラ君を死なせた罪を償え!貴方さえいなければこんなことにはならなかった!貴方の自分勝手な望みのせいでどれだけの不幸が生まれたのか!その罪を全て購え!!!」
ミコは人神をすぐには死なないように回復までかけながら長く長く甚振り続けている。そのミコに徐々に変化が現れ始めた。
雪のように白かった肌が青黒く変色し始めている。白目部分が徐々に黒く変わり始め、黒かった瞳は逆に真っ赤に染まり始めている。ミコが纏っている神力はすでに真っ黒だ。これは…、これはまさか………。
人神「たす…け…て…。」
ミコ「貴方が今まで虐げてきた人はそう言わなかったですか?貴方が今まで殺してきた人はそう願わなかったですか?足りない…。貴方の罪を償うにはまだまだ足りない!もっと!もっともっと苦しめ!アキラ君の命を奪った償いをしなさい!!!」
人神の腹を切り裂いたミコは腸を引き摺り出し人神の口の中へと詰め込む。今までのミコからは考えられない変貌振りだ。
アキラ「ミコ!もういい!もうやめろ!それ以上堕ちるな!」
俺は何とかミコの神力を振り切ってその後ろに降り立ち抱き締める。
ミコ「あはっ!アキラくぅ~ん。後できもちい~ことしようね?うふふっ。アキラ君の初めて全部奪っちゃうよ?私の初めても全部奪ってね?でも今はまだ駄目。そこで待ってて?」
あっさり俺を振り解いたミコは俺に向かって手を翳す。
アキラ「―ッ!!!がはっ!」
ミコが手を翳すと黒いモノが飛び出し俺に絡みつく。これはデスサイズと戦った時に見たものと同じだ。あの時と同じく俺の生命力そのものがガリガリ削られていく。
そして今の俺はあの時とは大きく違う。今の俺ではこれだけ『死』を浴びせられたら本当に死んでしまう。辛うじて死なないように全力で命を繋ぐことに精一杯でミコを止めることが出来ない。
ミコ「安心してアキラ君。ちゃ~んとアキラ君を殺さないように手加減してるよ?だからそこで見ててね。今から私がアキラ君の仇を討つからね。うふふっ。あははっ!」
アキラ「駄目だミコ。それ以上その力に身を委ねるな。」
これ以上『死』に魅入られたらミコは戻ってこれなくなる。俺はミコを失いたくない。
ミコ「私の心配をしてくれてるんだね。ありがとうアキラ君。でも心配しないで。すぐに終わらせるから。そしたら二人できもちい~ことしようね。」
ミコは俺の両頬を掴んで真っ直ぐに視線を合わせる。白目部分が黒く反転した紅い瞳が俺を真っ直ぐ見つめていた。
………何ていうか。あれだ………。ヤンデレっぽい…。本物のヤンデレとは!とか言われても知らないが俺のイメージの中のヤンデレさんっぽい気がする。
真面目で清廉潔白だったミコはやはりこの世界で色々と無理をしていたんだ。俺を巻き込んでしまったという負い目があったはずだ。幼馴染二人の死もそうだろう。何よりこの世界は日本で育った者にとっては残酷な世界だ。
こんな世界で暮らしているうちにミコは相当無理をしていたんだろう。表面的には平気な振りをしていてもやはり様々な心労があったに違いない。
そして今目の前にその原因であり、自分達をこんな世界に連れてきて、幼馴染まで誑かしあんな最後を遂げさせた仇敵と出会ったらどうなるか。
清廉潔白なミコには耐えられなかったはずだ。そして心がひび割れてしまった。そこを『死』につけこまれてしまった。
もうミコが纏っているのは魔力じゃない。完全に暗黒力に変わってしまっている。このまま暗黒力を使い続けたら危険だ。
月人種に連なる者かそれに相当するような力を持つ者でなければこの力は使えない。あるいはヨモツオオカミやデスサイズのように黄泉の国の住人達かだ。
それ以外の…、それこそ普通の人間でしかなかったミコが無理にこの力を使い続ければ本当に黄泉の国の住人になってしまう。
ミコ「さぁ…。続きをしようね。うふっ、うふふっ、あはははっ!」
人神「ひぃぃっ!!!」
じわじわと近づいてくるミコに人神は手足をもがれて芋虫のようになりながらも必死に這いずって逃げようとしている。
アキラ「クッ…ソ……。動け…。動けよ!」
ミコを止めたいのに体が動かない。ミコが言った通り俺に浴びせられた『死』は俺が死なない限界ギリギリで動けなくするように調整されている。ほんの僅かでも気を抜けば死にかねないギリギリでまったく動けない。余計な能力を使う余裕などまったくない。
もしこのままミコに人神を殺させたらもう二度とミコの心は戻らないだろう。何故かそんな確信がある。ミコに人神を殺させたら駄目だ。
アキラ「やめろミコ!止まれ!止まれぇぇ~~!!!」
ガウ「がうううぅっ!!!」
俺の願いに応えてガウが光輝く。唸り声を上げてミコへと飛び掛った。
狐神「私ですら動けないのにどうしてガウが?」
師匠の疑問は尤もだ。だがそれには理由がある…。
アキラ「この金色に光輝く神力は天力………?天力で暗黒力を打ち消しているのか?」
ガウは妖怪族のはずだ。それなのに今ガウが放っている神力は金色に光輝く天力だった。闇を打ち消す光の神力でミコの呪縛を打ち破ったのだろう。
ミコ「ガウちゃん!どうして私の邪魔をするのよ!私の邪魔をする者は誰でも許さない!」
ガウ「がうがうっ!」
ミコの闇とガウの光が激突する。ここに来るまではガウの方がミコより圧倒的に強かった。それなのに今の二人は拮抗している。
ミコがパワーアップした!なんて言ってる場合じゃない。無から有は生まれない。何かが発生するということは何かを消費しているということ。
いくら最近は強くなってきていたとは言ってもガウに追いつけるほどではなかった。その差を埋めるために放出しているこの力は一体どこから来ているのか?
それは…、それはミコの生命力そのものだ。これ以上力を使い続ければ本当にミコは死んでしまう。それもただ死ぬだけじゃない。闇に魂が取り込まれ永遠に苦しみ彷徨うことになる。地球で言えば地獄とかそういうものを想像すればいいだろう。
アキラ「タイラ!お前も光を使って俺達を縛ってる呪縛を解け!」
何故ガウが天力を使えたのかはわからない。でもとにかく光の属性で闇の属性を打ち消せるということはわかった。天龍神の力を引き継いでいるタイラならガウがやったようにこれを打ち消せるはずだ。
タイラ「はっ!………破天光!!!」
タイラが両手を翳すと光が溢れて俺達を縛っていた闇を打ち消した。しかし全員分の闇を打ち消すためにタイラの神力がガリガリ減っている。
ガウやタイラですらこれほど苦労するほどにミコの力が増している。つまりミコはそれだけの対価を払い続けている。もうあまり時間はないかもしれない。これ以上力を使い続ければミコが危ない。
アキラ「よくやったタイラ。お前は神力を使いすぎている。少し休んでおけ。」
タイラ「しかし…。」
アキラ「いいから休んでおけ。光の属性を持つお前の力がまた必要になるかもしれない。その時のために力を溜めておけ。」
タイラ「………はっ!」
タイラはしぶしぶ従って力を回復することに専念し始めた。もちろんこれ以上タイラに負担をかけることなく終わらせるつもりではある。
だがそう思っているからといってそうなるとは限らない。また闇に捕らわれた場合に対抗出来るのは光属性だけだ。ミコの命がかかっている以上ミスは許されない。万全に備えておく必要がある。
アキラ「皆でミコの動きを止めてください。後は俺が何とかします。」
狐神「………わかったよ。アキラに任せるからね?絶対…、ミコを救うんだよ?」
アキラ「はいっ!」
師匠は一瞬心配そうな顔で俺を見つめたあと飛び出して行った。師匠の心配はミコだけに向けられたものではなかった。
もちろんミコへの心配もある。だけど師匠が心配していたのはドミノ倒しだろう。ここでミコを救えなければ俺もまた闇に堕ちかねない。それを心配しているのだ。
そして俺が闇に堕ちれば嫁達もずるずると堕ちて行くだろう。俺の力の影響を受けている五龍神やムルキベルやポイニクスもだ。そうして皆が闇へと堕ちていけば大変なことになる。絶対に失敗は許されない。必ずミコを救い出す。
狐神「ミコっ!正気に戻りな!」
ミコ「邪魔をしないで!」
フラン「ミコ!落ち着いて!」
ミコ「私は冷静よ!冷静に殺してやるんだから!」
クシナ「誰かを恨んだり復讐に染まっても良いことはありません。私がそうだったのだからわかります。」
ミコ「偉そうに言わないで!クシナは勝手な勘違いと逆恨みでしょ!私とは事情が違う!」
ティア「ミコ…。私達は友達ではなかったのですか?」
ミコ「だから何?友達だからって私の邪魔をしてもいいの?友達なら私の邪魔をしないでよ!」
シルヴェストル「ミコは真面目で難しく考えすぎなのじゃ。それほど思い詰めることもないじゃろ?」
ミコ「何がわかるのよ!大好きな…、大事な人を目の前で失ったことがあるの?幼馴染を自分の手で殺したことがあるの?ただじっと一人で過ごしてきた人になんてわからないわ!」
キュウ「ミコさぁん、また一緒にぃ~、お料理作りましょうよ~。」
ミコ「…それだけしか言うことがないの?」
ルリ「………ミコ。そのままそっちへ行くならもうあっくんの隣にいる資格はない。」
ミコ「なんでよ!アキラ君は私のものよ!ルリに偉そうに決められる謂れなんてない!」
ルリの言葉に一番反応して激昂したミコが襲い掛かろうとする。
アキラ「…ここだ!」
普段なら誰かと戦いながらも周囲の警戒を怠らないようにしているミコだが、今の精神状態ではそこまで冷静になれないようだ。完全にルリ一人に意識が向いた隙に俺はミコに飛びかかった。
フツシミタマで増大させた大量の神力をさらに逆に天力へと変換する。今の俺は第九階位相当程度でしかない。そこに無理やり膨大な神力を流し込むために体中が裂けそうなほど軋む。
イメージで言えば普段の時渡りの秘技やフツシミタマは俺から放出されている力を、それらの能力を使って増大させるものだ。だが今やってるのはそれとは逆。外側にある神力を天力に変換しつつ俺の体内へと取り込む。
血が流れるために血管があるように、神力が流れるために経脈や絡脈のようなものがある。つまりその部分が第九階位相当でしかない今の俺に無理やり第二階位ほどの力を流し込んでいるのだ。
細いホースに物凄い水圧をかけたらホースが裂けるのと同じように俺の経脈、絡脈のようなものが裂けそうになっている。だがこの程度で怯んでいるわけにはいかない。ミコは必ず助ける。
ミコ「あ…。アキラくぅ~ん。」
正面から抱き合うように俺に抱き締められたミコは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにその表情が甘い笑顔へと変化した。普段の清楚なミコからは想像もつかないほど妖艶な笑みだ。
アキラ「ミコ!戻ってこい!」
俺は体内で練り上げた光の天力をミコへと直接流し込む。そう…。粘膜同士を直接接触させて………。
ミコ「んんんっ!!!」
俺とミコは初めて唇を重ね合わせた。
はい。というわけでミコさん悪堕ちでした!