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転生無双  作者: 平朝臣
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第百十二話「前哨戦」


 火口へと下りてみるが当然ながら溶岩も噴煙もない。ただ小さな窪地のようになっているだけだ。


ミコ「何にもないね………。」


アキラ「………でも何か妙な気配を感じないか?」


狐神「………確かに。何かあるね。」


 師匠が俺の言葉に同意したことで皆も集中して気配を探し始める。


???「は~い!呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃ………。」


アキラ「待て!それ以上言うな!」


 突然地面が爆発でもしたかのように飛び散り中から妖怪族の女が出て来た。その女が危険な言葉を言おうとしていたので慌てて上から言葉を被せてかき消す。


ヒロアリ「は~い!イツマデンのヒロアリちゃんだよ~!」


 俺に声を遮られた妖怪族の女はそれでも気にすることなくさらに名乗った。どうやら以津真天らしい。………っていうか広有って以津真天を射殺した人だよな。


 俺達の世界とは違うからって言えばそれまでだけど、日本の伝承にある以津真天を射殺した人と同じ名前とは何か因果を感じる。


アキラ「見た目は可愛らしいがこれまたうざそうな奴が出て来たもんだ。」


ヒロアリ「えぇ~?やっぱり可愛いってわかる~?いや~、参ったね~。デビューとか困る~!」


 デビューって何だ?芸能界か?そもそも可愛らしいとは言ったが他には何も言っていない。


 ヒロアリと名乗った以津真天は少し鳥の羽のようになっている手を振ったり頬に当てたり忙しなくバタバタとさせていた。


 ヒロアリの顔は可愛い美少女だ。ただし服から覗いている体には蛇の鱗のようなものが生えている。そして両腕は人間の腕を鳥の羽のようにしたかのようになっている。靴は履いておらず足の爪は長く鋭く伸びている。


アキラ「お前が闇の魔神の封印を監視している妖怪族か?」


ヒロアリ「監視とかよくわかんないけど~?でも下になら案内してあげるよ~?私の私生活が覗かれちゃう~?きゃー!!!売れっ子は私生活まで追いかけられてたいへ~ん!」


 ………もういいや。いちいち突っ込むのも疲れる。売れっ子アイドル気取りでパパラッチされてると思ってるなら勝手にそう思っていればいいだろう。俺には関係ない。


アキラ「それじゃ案内してもらおうか。」


ヒロアリ「いいよ~。こっちこっち~!」


 ヒロアリは出て来た穴へと潜っていった。上の方は土を被って隠れていたが普通に扉と階段があった。そこを嫁達と一緒に下りて行く。灯りは必要ないようだ。周囲の壁が勝手に光っている。


アキラ「おいヒロアリ。何で周りの壁が光っている?どういう仕掛けだ?あるいは道具か?」


ヒロアリ「さぁ~?知らな~い。私が知ってる頃にはもうこうだった~。」


アキラ「あっそう………。」


 使えない奴だ。この技術を知ることが出来れば色々と使い道がありそうだったのに惜しい。そもそもこれは誰の技術だ?ここを作ったのは誰だ?古代…、いや、海人族の技術か?それとも以津真天達か?


 ヒロアリはスイスイと階段を下りて行く。一体どこまで続いているのかもうかなりの距離を下りたはずだ。


ミコ「何だか少しだけ空気が蒸し暑くなってきたね。」


アキラ「そうだな。」


 もちろん俺達はその程度で苦にはならない。ただ周囲の変化を感じ取ってそう言っただけだ。平気だからと言って周囲を警戒せず、変化に無頓着だと思わぬ事態になるかもしれないからな。


 それはいい。それよりも周囲が蒸し暑くなっているということだ。これはおかしい。普通地下は冷えている。それなのに冷たくなるどころか暑くなるということは本当に溶岩の近くに近づいているのではないだろうか?


ヒロアリ「もうすぐ着くよ~。はいあそこ~!あれが終点で~す!」


 ヒロアリが突然駆け出した。そこは下りの階段が終わっていて少し開けていて扉がある。俺の知覚能力ではここが神山の麓よりさらに低い地下になっていることがわかる。


 ヒロアリが扉を開けるとその中は途轍もなく広い空間になっていた。向こうの端が見えない。これほど広大な地下空間があれば天井が抜けると思うところだが、いつも通り空間が歪められていて結界のようになっているから崩れる心配はない。


 そして暑い。地球で言えば40℃~50℃くらいはあるんじゃないかと思う。そして湿気も凄い。蒸し蒸しと余計に暑い。


 その広い空間にはシダ植物や裸子植物が生い茂っていた。まるで恐竜の時代のような感じだ。もちろん俺はそんな時代に生きてはいないし見たこともないのであくまでイメージでの話だ。


ミコ「何か恐竜でも居そうな雰囲気だね。」


 ミコも俺と同じことを考えたらしい。ドシンドシンと大きな足音を立てて大型の恐竜が歩いていても不思議ではない光景だ。


ヒロアリ「きょうりゅうってあれかな~?」


 俺達の話を聞いていたヒロアリがある方向を指差す。そこにいたのは竜脚類のような長い首を持った恐竜のようなものだった。


 もちろん俺は本物の恐竜なんて見たことはない。ただ図鑑などに描かれていたイメージ図に似ているだけだ。


ミコ「うわぁ!すご~い!本当に恐竜みたいだね!」


 それを見たミコは大喜びだった。恐竜を見て喜ぶなんて男の子みたいだと思ったら大間違いだ。ミコの場合は大きくて強い恐竜に憧れる男の子の感覚ではなく、純粋に地球では遥か昔に絶滅したと思われる生物を見られたことによる喜びだ。


ルリ「………あっちにもいる。」


 ルリはまだ小さい時にこっちに来たとは言っても、地球育ちの三人にとっては恐竜を生で見られるなんて驚きと興奮に包まれた貴重な体験だ。


 ルリの指差す方を見ているとたくさんの恐竜のようなものがいた。まるでここだけ恐竜の時代のようだ。


フラン「初めて見る生き物ですね。」


クシナ「何か親近感が湧きます。」


 魔法マニアで研究者肌のフランはあくまで珍しいものに対する興味だけで見ている。ドラゴン族は西洋のドラゴンのようなものなので恐竜に少し似ているところもある。そういう理由からクシナは恐竜に親近感が湧くのだろう。


ガウ「あれはどんな味がするの?」


 ガウはヒロアリに恐竜達の味を聞いている………。あれを食う気か?確かにどういう味がするのかそういう興味がないとは言わないが、あれを食べてみようとは思わない。


ヒロアリ「食べたことがないからわからな~い!」


 どうやらここに住んでるらしいヒロアリも食べたことがないらしい。そもそもヒロアリは以津真天であり、以津真天は鳥っぽい。鳥は恐竜とは近縁だから食べようとは思わないのかもしれない。


 例えが適切かどうかはともかく人間が類人猿をおいしそうとか食べようと思わないのと近いだろう。一部には類人猿を食べる者達もいるが………。


キュウ「あれを~、料理するのは~、大変そうですね~。」


 ………。キュウはあれを料理する場合どうすればいいか真剣に考えているようだ。


ティア「おおきーです!」


シルヴェストル「わしらとは正反対じゃの。」


 精霊族の二人は自分達と真逆の進化を遂げたかのような巨大な恐竜達に驚いているようだ。


狐神「それより早く先に行こうじゃないかい。」


ヒロアリ「こっちこっち~!」


 師匠の言葉を聞いたヒロアリはまた駆け出した。俺達もそれに付いてシダ植物と裸子植物の森の中を歩いていく。



  =======



 この広大な地下空間を歩き始めて結構な時間が経っている。滅茶苦茶広い。


狐神「まさか私が住んでる場所の足元にこんな広大な空間があったなんてねぇ。」


 師匠は山頂付近の庵に住んでいながら地下にこんな空間があることに気付かなかったことに驚いていた。確かに本来なら師匠の能力で気付かないはずなどない。


 熱量や空間把握による空洞の発見やここに住む恐竜っぽいものたちの生命力や神力を感知するなど、いくらでも気付くはずの理由があったのだ。それなのに気付かなかった。


 理由は師匠が気をつけていなかったからだとか、能力が不十分だったとかいうわけじゃない。さっきヒロアリが火口から飛び出してきた扉を開けるまでは俺ですら空洞があることに気付かなかったのだ。


 それは恐らく封印や隠蔽効果のある術のようなものがかかっていたからだろう。この場所を秘匿するために何らかの処置が施されていたはずだ。


ヒロアリ「あれあれ~!あそこが私の家だよ~!お母さんただいま~!」


お母さん「お帰り………。おや?そちらは?」


 ヒロアリが和風っぽい家の引き戸を開けて中に入ると一人の女性が出て来た。何ていうか…。失礼ながら一言で言えば普通のおばちゃんだ。


 体の特徴はヒロアリと一緒なので以津真天なのだろうが、体は小太りで顔も普通のおばさん顔だ。自然の摂理とは言え、今は可愛らしいヒロアリも将来はこうなるのかと思うと少し複雑な気持ちになる。


アキラ「闇の魔神の封印を解いてもらいたい。お前達以津真天がここの封印の監視者か?」


お母さん「え~っと?さぁ?封印とか監視者とか言われてもわかりませんけど?」


 ………どうやらこいつらはよくわかっていないらしい。まぁ何とかなるか?封印の場所にヒロアリかヒロアリのお母さんを連れて行けばガウの時のように勝手に封印が解けるかもしれない。


 とりあえずそのことをヒロアリとお母さんに話してみた。


ヒロアリ「この中を全部見て回るってこと~?」


アキラ「そうだな…。封印の場所がわからないなら最終的にはそうなるかもしれない。」


ヒロアリ「ここ滅茶苦茶広いよ~?私でも全部回ったことがないくらい~!」


 それは相当だな。ヒロアリの機動力は結構高い。そのヒロアリが今まで全部見て回ったことがないほどということはかなりの広さだということがわかる。


お母さん「待ちなさいヒロアリ!…だいたい貴女方は何なんですか?封印だとか監視だとか。娘を危険なことに巻き込まないでください!」


 おおっ?!すごい!すごい反応だぞ。そうだよ。これが普通の反応のはずだ。今までがおかしかったんだ。いきなり見ず知らずの人がやってくれば普通はこういう反応になるはずなんだ。何かようやくまともなことが起こってちょっと安心してしまった。


ミコ「困ったことになったねアキラ君。」


 ミコも俺と同じようなことを思ったのだろう。ようやくまともな反応をする相手と出会えたという安堵の表情と、今までと違って事がスムーズに進まないことで困った顔をしている。


アキラ「ああ………。」


 俺がそれに返事をしようと思った時………。


お母さん「アキラ君?貴女もしかしてアキラ=クコサト?」


アキラ「そうだが?」


お母さん「なぁんだ!そうだったの?それならそうと早く言ってくれればよかったのに!さぁさぁ上がって上がって!」


 俺の名前を聞いたお母さんの態度は急変して、俺達を家にあがらせてお茶を出したり食事を出したりと滅茶苦茶おもてなしをされた。


 ………折角まともな反応をする人物と出会えたと思ったのに結局いつも通りだ。俺の感動を返せ…。



  =======



 結局いつも通りヒロアリの家で接待を受けた。とは言え今回はあまり時間もないので軽食を振舞ってもらっただけだ。本当は軽食もいらなかったのだが、出された物を食べないのはさすがに失礼なので出された分だけはいただいた。


 もちろんヒロアリが言った通りガウの期待する恐竜の料理は出なかった。


ヒロアリ「それじゃ封印とやらを探しにいこ~!」


お母さん「いってらっしゃい。気をつけてね。」


 お母さんに見送られてヒロアリが歩き出す。俺の名前を聞いて以津真天達の態度は軟化したが封印や監視者については本当に知らないらしい。


 ヒロアリを連れてこの広大な地下空間を歩いて探索することになった。これだけの空間を闇雲に探していてはかなりの時間がかかるだろうが大体の目星はつけてある。


 何度も言ったように封印はバランスが重要だ。一方の力だけが強すぎたり、一方向にばかり重点が置かれていればバランスが悪い。


 つまり闇の封印を置く場所は光の封印の対となる位置が一番良い。何らかの理由で若干ずれるくらいのことはあり得るが、可能な限り対称になるように配置するのが望ましいからだ。


 そこでその考えに沿ってこの地下空間の中心付近、即ち神山の中心付近へと向かって行った。


 俺の空間把握能力を使って中心付近へと向かってかなり経つ。この地下空間へと下りる階段が山頂の中心付近だったのだから、下りて来た階段の近くが中心かと言うとそうじゃない。


 螺旋階段のように中心をぐるぐる回るのなら上と下の位置はそうそうずれることはない。だがここへと下りてくる階段は山の端に沿うように下りていた。


 一番下に着いた辺りではすでに山の麓の外側ほどの位置だっただろう。だから中心に向かうには結構な距離がある。


 恐竜を避けながらシダ植物と裸子植物の森の中を歩く。恐竜達は俺達に興味がないのか襲ってくることはない。無理に近寄ろうとすると逃げる。


 そうこうして歩いているうちに神山の中心の真下。つまり師匠の庵があった場所の真下へとやって来た。


アキラ「もう見るからに『これが封印だ!』って言わんばかりのものがありますね………。」


狐神「そうだねぇ…。あれが封印じゃなかったらそっちの方が驚くね。」


 皆でその地点を眺める。師匠が同意した通りそれはもう見るからにこれが闇の魔神の封印ですと言わんばかりの風景だ。


 そこはまるで底なしの穴でも開いているのかと思うような黒い穴があった。ただ穴のように見えるが厳密には穴じゃない。何か黒い物が地面の上を円形に広がっていて穴のように見えるだけだ。


ヒロアリ「あれはずっと昔からあったよ~!」


 そりゃそうだろうよ………。以津真天の寿命がどれほどでヒロアリが今いくつかは知らないが、ヒロアリのお母さんですら封印関連の知識が引き継がれていないほどなのだから、かなりの代替わりが行われたのだろうと想像がつく。


 つまり考えるまでもなく以津真天の寿命はこの封印が施された一万年の年月に比べて短いのだとすぐにわかる。となれば当然まだ年若いヒロアリが生まれるより遥か昔からこの封印があったのは当たり前のことだ。


キュウ「それでぇ~、どうすればぁ~、ここの封印が~、解けるのでしょうかぁ~?」


 ………ふむ。ガウの時のように自動的に何かが起こるということはないようだ。暫くヒロアリも連れてこの黒い穴の周りを調べてみたが何も変化はなかった。


アキラ「さて…。どうするか………。」


ヒロアリ「………昔ここには大量の死体が山積みのまま放置されていたそうです。」


 急にヒロアリが真剣な表情になって何かを語り始めた。今までのキャピキャピしたしゃべり方とは違う。


ヒロアリ「いつまでも埋葬されることなく放置されている死体の怨念が寄り集まって怪鳥が生まれました。その怪鳥は『いつまで~。いつまで~。』と啼いていたそうです。そう!それこそが私達イツマデンなのです~!!!」


 ………何だ。真面目な話をするのかと思ったらどうでもいい話だった。封印には関係なさそうだし地球の以津真天の話と良く似ている。俺にとっては何か目新しい情報が含まれているわけでもない。


 ………いや。待てよ?一つ疑問がある。日本の以津真天は疫病の流行により大量の感染者と死者が出て、死体を処理する人手も場所も足りずに放置されていた死体の怨念が~っていう話のはずだ。


 そこにはそういう状況になるだけの明確な理由が記されていた。だったらここで山積みになっていた死体の理由は何だ?何故それほど大量に死んでここに放置されていた?


アキラ「その大量の死体は何が理由で死んだんだ?何故ここに山積みにされたまま放置されていた?」


ヒロアリ「さぁ~?御伽噺にそんなこと言われてもわかりませ~ん。」


 やはりヒロアリは何も知らないようだな。伝承がやんわりと御伽噺の形で引き継がれているだけのようだ。


クロ「血の祝福ブラッディブレス………。」


アキラ「あ?クロは何か知ってるのか?」


 クロがボソリと何かを呟いた。


クロ「闇の魔神のクソヤロウがやってた儀式だ。闇の魔神を信望する信者達を集めて祝福を授けて、信者達は闇の魔神に命を捧げる。そうすることで闇の魔神は力が増すらしい…。本当に力が増すのかどうかは知らないけどあのクソヤロウはその儀式をやってやがったんだ!」


 クロの瞳に怒りが灯る。子供状態なのに普通に大人のように感じる。それほどクロにとって闇の魔神は許せない存在なのだろう。


 俺も話を聞いているだけで胸糞が悪くなるような奴だ。人伝の情報だから完全に全てが本当のことかどうかはわからないが、少なくともそんな話が出てくるほどまともじゃない奴だったのは確かなのだろう。


 ここで儀式が行われて命を捧げた信者達の死体が山積みになっていたということか?


ヒロアリ「うぅっ!!」


アキラ「どうした?大丈夫か?」


 ヒロアリが急に胸を抑えて苦しみだした。………もしかしてガウの時と同じか?俺がそう考えていると………。


ヒロアリ「ああっ!!!」


 ヒロアリの足の爪のようなものから光が出て闇で出来た穴に吸い込まれていく。っていうか何でそんなところから光が出るんだよ………。


 靴も履けないくらい長くて大きな特徴的な足の爪ではあるが、足の爪の先から光が出るとかすごいシュールだ。ヒロアリは本当に苦しかったのだろうがそれが余計に何か滑稽さのようなものを醸し出している。


???「はぁ~あ。良く寝たぜぇ。ようやく俺様の出番かよ人神………。あ?お前ら人神じゃねぇな。何だお前ら?」


 黒い穴が盛り上がったかと思うと人型になってマッチョな大男になった。


クロ「闇の魔神!てめぇぶっ殺してやる!」


 このタイミングでここから出てくるということはそうだろうと思っていたが、やはりこいつが闇の魔神のようだ。


闇の魔神「あ?何だこのガキは?俺様に何か因縁のあるガキか?」


クロ「俺は黒の魔神だ!」


闇の魔神「あぁ?黒の魔神だぁ?………ぶはははっ!!!前から青二才のガキだと思ってたが本当にガキになったのか!ははははっ!」


 闇の魔神はクロを見て笑い出した。クロの実力もわからない奴が馬鹿にして笑っている…、わけじゃない。こいつは今のクロを笑えるだけの実力がある。


 五龍神が封じられていた封印の一角を占めていたのだ。少なくとも五龍神と対等に近いかそれ以上でなければ務まらない。つまり低く見積もってもこの闇の魔神の実力は第五階位ほどはあるということだ。


闇の魔神「はははっ!………ん?おい…。おいおいおいっ!!!そこにいるのは九尾の女神じゃねぇのか!?いや…、体は小さいな。でも姿がそっくりじゃねぇか………。まぁいい!お前が九尾の女神だろうが別人だろうが俺様がお前を犯してやるぜ!げははははっ!!!」


 闇の魔神の視線は完全に俺を向いているな。どうやら俺がその九尾の女神とやらにそっくりらしい。まぁもう大体想像がつくよな。


 俺の母親は恐らく九尾の妖狐だ。そして俺とその九尾の女神とやらがそっくりらしいのだから俺の母親か、少なくとも血縁関係のあるような相手である可能性は極めて高いだろう。


 まさかどこかの馬鹿みたいに大剣を持ってるのに太刀と名乗っているみたいに、九尾の妖狐じゃないのに九尾の女神とか名乗ってるなんてことは………、滅多にないだろう。たぶん?


 それはいい。そんなことよりこの闇の魔神とか言うやつは、俺の母親を犯すために五族同盟に参加して海人種に戦争を吹っ掛けて、同族である魔人族ですら死に追いやったのだ。


 態度といい言葉遣いといい下衆野郎であることに疑いの余地はない。そして俺と俺の母親を犯そうなどと言ったのだ。こいつは万死に値する。楽になど死なせてやらない。


 もがき、苦しみ、のたうちまわり、生まれてきたことを後悔して死を懇願しても慈悲を与えず苦しめ続けてやろう。


クロ「………アキラ。怖い。けどこいつは俺がぶっ殺す。こいつだけは俺がケリを着ける。いくらアキラが怒っててもこいつだけは譲らないからな!」


 …とか言いながらクロは震えている。闇の魔神を恐れてじゃない。俺を恐れてだ………。


アキラ「俺そんなに怖いかな?」


 堪らず俺は周囲の嫁達に聞いてみる。


ミコ「うん…。アキラ君が私達には何もしないのはわかってるけれど、それでも怒ってる時はやっぱり怖いよ?」


 ミコの言葉に皆がうんうん頷いている。どうやら俺が怒っている時は嫁達も恐れているらしい。


狐神「私は別になんともないけどねぇ?」


 師匠だけは俺が怖くないようだ。さすが年の功…、とか言ったら怒られそうだから言わないけどな。


 それにしてもさっきからクロから力を返すようにという信号がガンガンきてる。すぐ隣にいるんだから口で言えばいいのに俺と繋がってる回路から信号で送ってきてるだけだ。まぁ怒ってる時の俺が怖いみたいだから怖くて口で言えないのかもな。


 俺もこの手で殺してやりたいとは思ったが、クロは一万年前からの因縁だ。ここはクロに譲ってやるか。そう考えてクロに力を流したら………。


クロ「うおおぉぉっ!!!」


 一気に大人の姿に戻った…、だけじゃない。この馬鹿、俺の力をぐんぐん吸い出してやがる。もう今の時点でクロは第四階位に近い力を放っている。それなのにさらに俺から力を抜き取ろうとするのだから洒落にならない。


 今の俺は第九階位相当だって言ってるだろうが……。色々なチート能力や戦い方で誤魔化しているだけで神力量自体は本当に第九階位相当でしかない。


 それなのに遠慮なくどんどん抜き取るものだから俺が干からびて死にそうだ。もちろん干からびないようにフツシミタマで神力を増やしているのだが増やしたら増やした分だけクロが吸い取りやがる。


 つまりクロに流れているのは普通の神力や魔力ではなく俺のフツシミタマの力が流れ込んでるわけで………。クロの力は本来ではあり得ないほどに増大している。シホミを超えているから最低でも第二階位以上になっているだろう。


闇の魔神「なっ………、何だこ………え?」


クロ「終わりだ。」


 闇の魔神がクロの変化に驚こうとした瞬間にはクロが闇の魔神の体をバラバラに刻んでしまっていた。残っているのは頭だけだ。それ以外の体は粉微塵に切り刻まれて残っていない。


クロ「サイコメトリー!」


 クロが掴んでいる闇の魔神の頭から記憶を読み取る。さすがクロだ。便利な魔法を持っている。そして俺とクロを繋げる回路から俺の中にもクロが読み取った闇の魔神の記憶が流れてくる………。


 こいつ…、本当にクソヤロウだ。クロが言っていたことより遥かに性質が悪い。この記憶を見ていると本当に胸糞が悪くなる。


闇の魔神「………一体何が?」


 闇の魔神はようやく意識が追いついたようだ。ギョロギョロと虚ろな目で周囲や自分の状態を確かめようとしている。


クロ「お前どうしようもないクズだな…。もうちょっとはマシかと思ってたけどあまりにクズ過ぎる。そんなお前にも最後の慈悲をくれてやるよ。じゃあな。」


闇の魔神「ぐぴゃっ!」


 グシャリと汚い音がして闇の魔神の頭はひしゃげて潰れた。こんなあっさり止めを刺してやるなんてクロは温すぎる。こいつは本当にクズヤロウだった。もっと苦しめてやればよかったのに………。


 そう思っていると闇の魔神の力が集まりクロに吸い込まれていった。闇の魔神のようなクズヤロウの力を引き継ぐなど気分が悪いが封印を解くためにはやむを得ない。


人神「おやおや?折角助けにきてやったというのに闇の魔神は死んだようですね。」


 その時俺達の背後からもう一人のクズヤロウの声が聞こえてきた。闇の魔神の記憶で見たがこいつもとことんクズヤロウだった。


アキラ「人神………。」


人神「闇の魔神は死んだようですが…、今度こそ決着をつけてあげましょう!!!」


 今度こそこっちのクズヤロウは俺が始末してやる。人神との最後の戦いが始まったのだった。



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