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転生無双  作者: 平朝臣
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第百十話「初めての夫婦喧嘩」


 そろそろ俺達が海底都市カムスサに滞在するようになって四ヶ月近くになる。最初の一ヶ月は海人種達の訓練には使えていなかったので訓練を始めてからは三ヶ月というところだろう。


 地上の様子を見に行ってもらってるティアやシルヴェストルの話では、まだ月人種と太陽人種に大きな動きはないということになっている。


 だが実際にはそうではないだろう。確かにまだ表立って世界には干渉していないようだが向こうは向こうで海人種との決戦の準備を着々と進めているはずだ。そう。今俺達がそうしているのと同じように…。


アキラ「そろそろ動こうと思う。」


 主要な者達が集まっている会議の場で俺はそう告げた。


狐神「打って出るのかい?」


 師匠がすぐさま反応して聞き返してくる。


アキラ「いえ。こちらから打って出ても海人種はこの海底都市カムスサから出たら力を出せません。むざむざ殺されに行くだけです。かといって月人種と太陽人種は海人種を恐れてカムスサまでは攻めて来ない。永遠に膠着状態でしょう。」


フラン「それでは一体………?」


 フランの疑問にこの場にいる全員が同意する。


アキラ「まずは五龍神の封印を解きカムスサの外でも海人種が行動できるようにする。」


 五龍神を生贄にして海人種を封じる封印はまだ解かれていない。五龍神は解放してその力を継承したはずだがそれだけでは封印を解くには足りなかったようだ。


 だからまずはこの封印を完全に解いて海人種がカムスサから打って出られるようにする。封印を解いた場合に、月人種と太陽人種がどう出るかは未知数だ。


 海人種がカムスサから出られるようになったら、仕掛けられる前に攻撃しようと向こうが先手を打ってくるかもしれない。あるいは完全に自分達のテリトリーに引き篭もって海人種を迎え撃つかもしれない。


 この辺りはもう予想と賭けでしかない。考え得る全てのパターンへの対応は考えておくが実際にどうなるかは出たとこ勝負だ。


ミコ「それでどうすれば封印が解けるのかな?」


 ミコの疑問は尤もだ。五龍神を引き継いだのに封印が解けていないのにこれ以上どうすればいいのか俺達にはわからない。しかしそれを知っている者ならいる。


最古の竜『それは俺から説明しよう。』


 龍魂から声が発せられる。………それにしても最古の竜の話し方が何か段々変わってきているな。何か発せられる声もしゃべり方も若々しい感じがする。


最古の竜『いつかアキラが言ったようにこの封印は火水土風の四つに光と闇を合わせた六つの属性による封印だ。まだ封印が解けていない理由は五つしか解除してないからに他ならない。残る最後の一つ、闇の封印を解けばこの封印も解かれるはずだ。』


 なるほど。確かに中央に置くのは四属性以外の力を一つでも置けば封印は発動出来ると言った。だが本来は陰陽を足した六つで封印するものであり、十全に効力を発揮するためには六つ置いた方が良い。


 俺達は『五龍神』と言う名前に惑わされて中央の神山で天龍神の封印を解いただけで終わりだと思ってしまっていたわけだ。


 本来ならそこにまだ闇に相当する者がいたのなら、その闇の封印を解けば全ての封印が解かれることになる。


クシナ「ですが他の龍神様は聞いたことがありませんが………。」


最古の竜『うむ。確かに他の龍神はおらん。しかしこの封印をするために全てドラゴン族の神を生贄にしなければならんわけではないぞ。』


 ん?また最古の竜の話し方がちょっと年寄り臭くなってきたな。何か不安定になってきているのか?長らく龍魂に魂を分割しすぎているせいか?


最古の竜『魔人族には三人の魔神がいることを知っておるか?』


クロ「―ッ!おいてめぇ!まさかっ!」


最古の竜『うむ。そのまさかだ。赤の魔神はまだ若い神で太古の大戦の当時はおらなんだが、当時は黒の魔神ともう一人魔神がおったのだ。その名を闇の魔神という。ここまで言えばもうわかるだろう?』


 闇の魔神…。まさに天龍神の対として生贄にするにはうってつけの属性っぽい。なかには太刀の獣神などと名乗りながら大剣を持ってる奴もいるし、名前が闇だからと言って実際に闇の属性であったのかどうかはわからないがな………。


アキラ「つまりこの封印は五龍神による封印ではなく、五龍神と一魔神による封印であったと?」


最古の竜『そういうことだな。その最後の一つが残っているために全体の封印も解けていないのだ。』


狐神「だったらその封印を解きに行くだけだね!………で、場所はどこなんだい?」


最古の竜『わからん。』


一同「「「「「………。」」」」」


 ………肝心なところで使えない奴だな。まぁそれはいつものことか。


 とにかく闇の魔神が封じられている最後の封印を解いて、海人種にかかっている封印を解ければようやくスタートラインに立てる。


 それにわからんとは言われても大体の想像はついている。この封印は六つの属性を使って世界の地脈というか龍脈の力まで利用して対象を封じる術だ。


 だから全体のバランスというものが非常に重要になってくる。各属性の封印されていた場所が綺麗に東西南北に分かれ十字の交点に中心を置いていたことでもわかると思う。


 つまり闇を置くのならこのバランスを崩さない場所にあるはずなのだ。それはつまり神山ではないかと俺は思う。


最古の竜『アキラはあの山のどこかに最後の封印があると考えていそうだが、あれだけ山中を探しても何も見つからなかったのにあそこだと思うのか?』


アキラ「………そうだな。確かに全員で何度も山中を探し回っても何も見つからなかった。だがあそこで探していない場所が二つある。そのどちらかにあるかもしれない。」


狐神「神山は隅から隅まで調べたと思うけどねぇ?どこか探してなかったところなんてあったかい?」


 師匠が疑問を口にして仲間達に視線を送る。仲間達も全員山中を歩いて探したのだから思い当たらず首を捻っていた。


アキラ「それは後のお楽しみということで。当たってるとも限りませんから俺が何か言うより皆も色々と考えてみてください。」


 俺が想像している所が当たっているとも限らない。それならば俺が考えている所を教えて変な固定観念を植え付けるよりも、それぞれが自由な発想で他の候補も考えてくれた方がより良いだろう。


スクナヒコナ「それで姐御。その封印ってのは誰が解きに行くんだ?俺がひとっ走りしてくるか?」


アキラ「アホか…。お前は俺の話を聞いていたのか?海人種のお前がノコノコ出て行ったら月人種や太陽人種に殺されに行くようなもんだろうが…。当然封印の解除には俺が行く。」


スクナヒコナ「それこそアホなでしょう!どこに大将を敵地のど真ん中に一人で送り出すやつがいるんですかい!」


狐神「一人じゃないだろう?私らが………。」


アキラ「いえ。今回は俺一人で向かいます。」


狐神「―ッ!!!………どういう意味だい?」


アキラ「言葉通りです。天龍神の封印を解いた途端に空からシホミが降ってきた。つまり敵はあそこの封印を監視でもしてたんでしょう。そんなところへ大勢でノコノコ出て行けば良い的になります。だから俺が…。」


最古の竜『それは無理だろうな。これまでも封印を解くためには試練を乗り越えて認められ、その力を継承するしかなかった。闇の魔神の封印を解くには誰か闇の魔神の力を継ぐ者が必要だろう。』


 それはそうだろうなと思っていた。それをどうにかする方法は考えてある。闇属性のゴーレムでも造って継がせればいい。


クロ「待てよ!闇の魔神との決着は俺がつける。」


アキラ「………何か因縁でもあるのか?」


クロ「ああ。当時まだケツの青いガキだった俺にとっては闇の魔神は色々と教えてくれる頼れる先達だと思ってた。けど違った。あのヤロウはクズだったんだ。魔人族を戦争に駆り立てたのも魔法の秘技を流出させることに決めたのも全部あいつだ。それにあいつは戦争にかこつけてあの女を…、女神を犯すとか抜かしやがった!いや!あいつはそのために魔人族を戦争に参加させたんだ!だからあのヤロウは俺がぶっ殺す!」


 クロは五族同盟への参加はともかく、魔法の技術の流出は特に後悔していた。それを決定した人物だと言うのならそれはさぞ憎い相手だろう。


 だがクロの表情は女神云々と言った時にもっとも怒りの感情を顕わにしていた。その女神と言うのが誰のことかはわからないが、今の精神が退行している状態ですらそれほど心を揺さぶられるほどクロにとって大事な人だったのだろう。


アキラ「ふむ………。よくわからんこともあるが………。一つだけ疑問なのは魔人族を巻き込んだ張本人だとして何か目的があったからそうしたんだろう?それなのに何故本人が五龍神と一緒に封じられている?」


 そこだけが腑に落ちない。五龍神は自ら進んで生贄となったのだ。でなければこの術は成功しない。そこらにいる奴らを攫ってきて生贄にしてもうまく発動しない。


 つまり闇の魔神も望んでその一部となったのではないかと思われるのだ。本当に一人の女を犯すために魔人族全てを犠牲にする覚悟で戦争に駆り立て、魔法の秘技まで流出させたのかどうかはわからない。


 ただそんな目的があったのだとすれば何故本人が進んで封印の一部となったのかがわからないのだ。封印されてしまえば自分の目的も達成出来ないのだから何がしたかったのかさっぱりわからない。


狐神「そんなことはどうでもいいんだよ!それよりアキラ。私らを置いて行く気かい?」


 師匠がじっと俺を見つめてくる。その瞳は様々な感情がない交ぜになっていた。


アキラ「今回の目的は敵に見つからずに最後の封印を見つけて解除することです。大人数でいけばそれだけ敵に見つかるリスクが………。」


狐神「建前はいらないんだよ!」


アキラ「………。」


 師匠が珍しく声を荒げる。他の者に対してでも滅多にないし俺にそれが向けられるなど初めてのことだ。


狐神「私らじゃ…、足手まといだって言うんだろ?だったらはっきりそう言いな!でなけりゃ納得しないよ!」


アキラ「………今回は俺について来れる者しか役に立ちません。そして俺について来れる者はいません。それが答えです。」


 今回はこれまでのお気楽旅とはわけが違う。そして今の俺じゃ全員を守ることは出来ない。


狐神「………表に出な。」


ミコ「キツネさんっ!?」


クシナ「ミコ止めないで。私もキツネさんに賛成です。私も相手をしてあげます。表に出なさい。」


ミコ「クシナまで!」


フラン「ミコは何とも思わないんですか?私もキツネさんやクシナさんに賛成ですよ。」


ミコ「えぇ!フランまでアキラ君と戦うの?」


フラン「いえ…。アキラさんとは戦えません。ですが気持ちはお二人と同じです。」


ミコ「それは………。私だって悔しいけれど…、アキラ君の言ってることもわかるから………。」


シルヴェストル「確かにアキラの物言いには腹も立つのじゃ。じゃがわしらにはそんなことは無意味。空間移動して追いかけるのみなのじゃ。」


ティア「シルヴェストル様の言われる通りです。私達は振り切れませんよ。」


ミコ「シルヴェストルちゃんにティアまで………。」


ガウ「がう!がうはご主人とずっと一緒にいるの!」


キュウ「困りましたねぇ~。」


ルリ「………あっくんが悪い。」


 嫁達の反応はある程度予想していた通りだ。当然反発されるとわかっていた。それでも連れて行こうとは思えない。


アキラ「今の俺では全員の安全は確保出来ません。俺は誰も失いたくない。別にずっと別れようと言うわけじゃありません。今回の作戦はリスクが高い。敵の待ち伏せもあり得る。そんな所へ大人数で乗り込んでも危険が増えるだけだからやめようと言ってるだけです。それがおかしいですか?」


狐神「私らはアキラに守られるだけの存在かい?足手まといでしかないのかい?今回は危険が高いから?危険じゃない時なんてあるのかい?今回置いて行かれるってことはこれから先も全部危険だからって言って置いて行かれるってことなんだよ!だから絶対に認めないよ!」


 理屈で考えれば俺が間違えているとは思わない。少人数でこっそり行って可能な限り敵に見つからずに済ませて帰ってくるのがベストだ。


 今までの旅のように大人数でワイワイ移動していては敵に見つかる危険が高い。天龍神の封印を解いた時にすぐにシホミがやって来たことからも敵は封印を監視しているか、もしくはかなりの距離があっても異変があればすぐに察知できるだけの探知能力を持っているということだ。


アキラ「………。」


狐神「だから私らがただの足手まといじゃないって見せてやるよ。表に出な。」


 ………もう戦う以外に師匠を納得させる方法はなさそうだ。だが俺は師匠を殴れない。いや、傷一つですらつけられない。でもそれじゃ師匠は納得しないだろう。その目が語っている。


 自分を止めたければ力ずくで止めてみろ!


 と………。


 もちろん戦いたくはない。それでも逃げる方法もなく皆で表に出たのだった。



  =======



 師匠と一対一で向かい合う。クシナも俺と戦うと言っていたが同時にではなく一人ずつ戦う気らしい。以前はクシナをボコボコにしたこともあるが今では俺はクシナも殴れない。二人とも傷付けたくない。


アキラ「………どうしてもやるんですか?」


狐神「当たり前だろう?私の力と覚悟を見せなきゃアキラは同行を許可しないだろう?」


 見せられても許可するつもりはないがそう言っても師匠は引かないだろう。


狐神「それじゃ………いくよ!」


アキラ「―ッ!」


 師匠がいきなり飛び掛ってくる。今の俺じゃ第三階位に届きかけている師匠とまともに戦っても勝ち目はない。俺は妖術で空へと飛び上がって避ける。


狐神「アキラともあろう者が迂闊だね。………狐狸無宙こりむちゅうの術!」


アキラ「うっ!」


 空へと飛び上がった俺は急激に吐き気を感じた。師匠が今使った術のせいだ。本来の俺と師匠の実力差ならかからないような術だが今の俺には普通にかかる。


 師匠が使った狐狸無宙の術は滅茶苦茶チートな術だ。その効果は相手の移動を全て制限してしまい、視界も方向感覚も全てを狂わせてしまうというものだ。


 具体的に言うと俺が今空を飛ぶ術を使ったのだがそれを無効化してしまう。他にも何らかの移動を加速する術など移動に関するものは全て無効化されてしまうのだ。それだけでも滅茶苦茶チートだとわかるだろう。


 さらにこの術にかかると平衡感覚もおかしくなり、視覚を失い、自分がどこにいるのか、どっちを向いているのか、全てが一切わからなくなる。


 この術にかかった者は前後左右上下の別がなくなり、あたかも上も下もない宇宙空間のような場所を漂っているかのようになる。


 これだけ強力な術ならばこの術だけ使えば無敵のように思えるがこの術には一つだけ落とし穴がある。それはあまりに大きく相手に干渉する術ゆえによほどの実力差がなければかけることが出来ないということだ。


 簡単に言えばこの術は相手の一部を掌握して自由自在に操ってしまうとすら言えるものだ。だから相手が抵抗すれば簡単にはかけられない。相手を掌握出来るほどの実力差がなければ無理だというわけだ。


 確かに強力な術ではあるが強敵にはかけることが出来ず、この術を使わなくともどうにでも出来るほど実力差のある相手にしかかけられない。そんな相手にはわざわざこれほどの術を使う理由がない。それがこの術の落とし穴だ。


 しかし今は事情が異なる。普段の実力差なら師匠にこの術をかけられることなどない。だから俺は狐狸無宙の術への警戒心がなかった。だが今は俺は力を失っておりこの術にかけられてしまう。


 完全に師匠に掌握されてしまっている今の俺は隙だらけだ。今からこの術を破ろうと何らかの能力を使ったとしても師匠がこの隙を見逃すはずはない。開始早々いきなりしてやられた。


狐神「九狐合一!!!」


アキラ「!?」


 やばい。師匠は完全に本気だ。九狐合一とは一言でわかりやすく言えば限界突破の術だ。この術があるからこそ師匠は格上のはずの三女神やヤタガラス達第三階位の者達に勝てる可能性があるのだ。


 九尾の力を全て一つに纏め上げることで一点だけ限界を超えた力を発揮することが出来る。かなりのリスクがあるこの術を惜しげもなくいきなり使うということは師匠はもうこれで決めるつもりだ。


狐神「狐火九頭竜の術!」


 あぁ…、やべぇ…。今はまだ目も見えない。だけど師匠の妖力が桁違いに増大していくのが感じられる。クロに使った時の九頭竜の術の比じゃないほどの力だ。


 師匠自身があの時よりも遥かに強くなっているし、クロには手加減して殺さないようにしていた。でも今の師匠は完全に全力で本気だ。俺を殺す気か?


アキラ「………そんなのまともに食らったら死んじゃいますよ。」


狐神「アキラがこれくらいで死ぬわけないだろう。いくよ!」


 絶大な信頼を寄せてくれているのはうれしいが、こんなものをまともに食らえば今の俺じゃ消し炭も残らず消え失せることになる。


 さすがは師匠。完璧なタイミングだ。もう防御も回避も間に合わない。戦術の組み立てといい完璧だ。………相手がチートじゃなければな。


アキラ「界渡り二の秘技、瞬影転。」


 俺が技を使うと同時に九頭の竜は俺が居た場所に襲い掛かりその猛威を振るった。超高温の青い炎の竜が地を割り空気を焼き辺り一帯を燃やし尽くす。


 あんなものが直撃していれば今の俺じゃ一瞬もかからずに蒸発してたところだ。俺ならあれくらい何とかするだろうと言う信頼があってのことではあるが、もし万が一何か事故なり失敗なりがあって俺が死んだらどうしようとは思わないのだろうか………。俺なら嫁達に死ぬ可能性のある攻撃なんて絶対出来ない。


狐神「やれやれ…。結局私の最大の攻撃も効かないんじゃないかい。」


アキラ「いやいや…。効きますよ。効くから避けたんです。」


 今の俺があれを耐えようと思えばフツシミタマで全力防御するくらいしか方法がない。それなら最初から避けておいた方が手堅いだろう。


狐神「あれだけ策を弄して完全に嵌めて完璧に捉えていてもかわされたんだ。それも含めて効かないって言ったんだよ。」


 いきなり師匠の後ろに現れた俺に驚くことなく師匠は落ち着いた声音でそう答えた。


 俺が使った瞬影転は自分の影に界渡りの門を開き影に沈みこむように消えて瞬間移動する秘技だ。ちなみに一の秘技は手転門しゅてんもんといい、手の先に移動のための門を作り出すものだ。


 それは俺が師匠の庵で最初に掌の上に出したものであり、普通はこれを出すだけでも大変なことらしい。そして本来掌の先にしか出せない門を影に重ねて出すのが二の秘技瞬影転というわけだ。


アキラ「それで…、これは俺の勝ちでいいんですか?」


狐神「そろそろ時間切れだね。私は何も出来なくなるさ。でもだからってそれは負けじゃないよ。勝ちたかったら私を負かしてみな。………うっ!」


 そう言った途端に師匠は自分の体を抱きながら蹲った。


狐神「ああぁぁっ!!!」


 そして師匠の体がみるみる縮み俺と同じくらいの少女、いや、幼女へと変化したのだった。


狐神「ふぅ…。これで私は暫く何も出来ないね。さぁ、勝ちたかったら止めを刺しな。」


 小さくなった拍子に袴は脱げてダボダボの上着だけが辛うじてその体を隠している。体が小さくなってもそこそこある胸を反らしながら師匠は自分の首を取れと言ってくる。


アキラ「師匠に…、いや、玉藻にそんなこと出来るわけないだろ?」


 俺はそっと小さくなった玉藻を後ろから抱き締める。玉藻が小さくなったのは九狐合一の反動だ。


 何のリスクもなく限界を突破して上限以上の力を自由に使えるなんて都合の良い話があるわけはない。一時的に限界を超えるために反動として効力が切れてから暫くの間はこうして何の力も使えなくなってしまう。


 体が縮んでいるのは俺と同じ理由だろう。大きく力を失ったため力の流出を抑えるために体が縮んでいるのだ。それでも俺はまだ第九階位程度の力はあるが玉藻はほとんど何の力もないただの子供同然だ。


狐神「ここで私を倒すだけの覚悟もないのかい?だったら諦めな。私の勝ちだよ。」


アキラ「はぁ…。わかりました。もうどうせ俺が何て言ってもついて来る気なんでしょう?」


狐神「当然だね。それにそれは私だけじゃなくて他の皆もだよ。」


アキラ「………わかりましたよ。嫁達は連れて行きます。でも他の者は減らしますからね。」


 さすがに全員は多すぎる。一部の者達にはこのカムスサに残ってもらおう。


 こうして結局師匠や嫁達の説得に失敗して本殿へと戻ることになったのだった。



  =======



 本殿へと戻ってきた俺達は誰が残るか話し合うことにした。当然ながら嫁達は九人全員がついてくる。


フリード「おい待てよ!そんな危険なところにアキラ達だけ行かせられるか!俺も絶対に行くぞ!」


アキラ「アホか。お前らは足手まといだ。お前らが足を引っ張れば他の全員の命が危険になる。今回はこれまでとは違う。お前らの失敗をカバーしている余裕はない。」


 まぁ本当はフリードは第五階位か、下手すれば第四階位に近いくらいの力を持っているから役に立つと言えば役に立つ。


 ただしそれほどの力を出せばフリード自身も傷つくし常に出していられる力でもない。フリードが死んでもいいつもりで利用するのならいいが、当然俺としてはこんなところでフリードに死んでもらったら困る。


ロベール「フリッツ。今回は諦めようぜ。俺達が行っても邪魔になるだけだってのはわかってるんだろ?」


フリード「………何のために、何のためにこれだけ強くなったんだよ!俺はアキラを守りたい!だからそのために力を手に入れたんだ!それなのに肝心な時に力になれないならこの力は何のためにあるんだよ!」


 フリードが床を殴る。かなりの振動でカムスサ全体が揺れただろう。ほんと馬鹿力だ。このドームや建物がスサノオ製であり、ここも空間を歪めるために結界のような状態になっているから崩れなかったが、普通の建物だったなら崩れて俺達は生き埋めになっているところだ。


ジェイド「それより俺達まで残れってどういうことだ?親衛隊は例え死地であろうとアキラについて行き身命を賭してアキラ達を守るのが使命だ。」


アキラ「最初に言った通りだ。今回は極力敵との戦闘を避ける。だから人数を減らしたい。力の弱い者から順に減らしていくのは作戦成功のためには当然の選択だろう?」


ジェイド「それはそうかもしれないが……。」


 親衛隊の者達も納得出来ないという顔をしている。その気持ちはわからなくはない。だが連れて行けないものは連れて行けない。


太刀の獣神「………。」


 太刀の獣神がじっと俺を見つめてくる。その目を見れば言いたいことはわかる。


アキラ「ああ、いいよ。言わなくてもわかる。お前も連れていけって言うんだろ?でも駄目だ。理由はお前が弱いからだ。文句があるなら強くなってみろ。」


タイラ「我らは同行させていただけるとは………。」


ブリレ「そりゃそうだよ!だってボク達は主様の愛妾だもん!」


アキラ「残念ながらそれは関係ない。五龍神を連れて行くのはお前達が前の龍神達の封印を解き力を継いでいるからだ。もしかしたら最後の封印を解除して海人種にかけられている封印を解除する時にお前達が必要になるかもしれないからな。」


 これはどうなるかわからないが最古の竜とも相談して、念のために連れて行っておいた方がいいだろうという結論になったのだ。


ムルキベル「私はただアキラ様のご命令に従うのみです。ですが…、私は考えてはいけないことを考えてしまっています。それは私も連れて行って欲しいということ…。アキラ様のご命令に逆らうようなことを考えてしまう私は一体どうしてしまったのでしょうか。」


 ゴーレムであるムルキベルは自分の心に戸惑っているようだ。確かにただのゴーレムなら主人の命令にただ黙って従うものだ。だがムルキベルには心がある。だから例え主の命令でも心が納得出来ないこともあるのだろう。その辺りは普通の人間と変わらない。


アキラ「お前をおいて行くのは弱いからじゃない。強いからこそお前にはここの守りを任せたい。」


 ムルキベルは連れて行く者の中でも強い方だ。実際に連れて行く者でムルキベルより弱い者もいる。それなのにムルキベルを残して行くのは人数を出来るだけ減らしたいことと、俺の意思通りに残った者達を守ってくれる者を残しておきたいからだ。


 バフォーメはチョーカーになっていて俺と一体も同然の状態なので連れて行っても人数が増えるということはない。こうして連れて行く者、残る者は決まった。


 まだ納得していない者も大勢いる。だが決まったことは覆らない。それぞれ自分の心に折り合いをつけて今夜は休むことにしたのだった。



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