第百九話「大戦前夜」
海人種の主要な者達との会談はあっさり終わった。と言うよりほとんど話し合いなど行われていない。海人種達が俺に恭順の意を示し、俺がそれを受け取るということが行われただけだ。
誰一人俺の言葉に異を唱える者はいない。俺をスサノオの継承者と認め全てに従うだけだ。
確かにこれは楽ではある。俺の言うことを全て守るのだから駒として使うのならこの状態がいいだろう。主の意思に逆らわず考えず命を惜しむことなくただ言われたことだけを淡々とこなす。主人にとってはこれほど都合の良い部下はない。
しかしそれが俺にとっても都合が良いかと言えばそうじゃない。俺は意思を持たぬ駒が欲しいわけじゃない。
一切俺の言うことを聞かない部下などいらないが、ただ俺に言われたことしかしない部下もそれほど必要じゃない。確かに使い道はある。だがこれほど大量にただの駒など手に入れても俺に使い道はない。
俺が欲しい部下とは、大まかに俺が示したことに向かって各自が考え最善を尽くそうとする者達だ。説明は難しいが好き勝手にする集団が欲しいわけでもない。
物事というのは一つの解しかないわけじゃない。そこへ至るルートも一つしかないわけじゃない。どれが最善かなんてわからない。
だから各自がそれぞれ考えて色々なアイデアを出し、そこに至るための創意工夫を出来る者達が欲しいのだ。新しいものを考える者達やより良いものを考える者達が欲しい。言われたことしかしないただの人形などいらない。
海人種達は俺に恭順を示し帰っていった。俺の仲間達と三女神とヤタガラスしかいなくなった本殿で考え事をする。
海人種達を俺の考える集団に纏め上げるには色々とやらなければならないことがある。これからどうやって海人種達を改革していこうかと考えを巡らせていた。
タギツ「ほらアキラ!こっちおいで!」
話し合いが終わった後も板張りの床の上に胡坐をかいて考え事をしていたら後ろからタギツに抱え上げられてしまった。
そのまま連れて行かれて畳のようなものの上にタギツが座りその膝の上に俺を乗せる。後ろから抱きかかえられているので背中にタギツのそれほど豊かじゃない胸が押し付けられている。
それにタギツが俺に密着しているために何か少女特有の甘ったるいようなミルクのような匂いが俺の鼻孔をくすぐる。
タギツ「アキラは可愛いね~。タギツおねえちゃんとこうしていられてアキラもうれしいでしょ?」
アキラ「………アホか。俺にはお前より魅力的な嫁達がいっぱいいる。お前みたいな貧乳の小娘に欲情などしない。」
ミコ「アキラ君が興奮しているのが丸わかりなのだけれど……。それと貧にゅ…、じゃなくてそういうことも言うのはやめよ?」
ミコは自分の胸を抑えながら貧乳という言葉に敏感に反応していた。
アキラ「ミコは自分で気にしているほど貧乳じゃない。むしろほど良い大きさと柔らかさで気持ちいい。ミコは決して貧乳じゃなくて平均的日本人とそれほど変わらない。」
本当は平均的日本人のバストサイズなど俺は知らないのだがそれっぽく言っておく。それが本当かどうかではなくミコがそれで納得するかどうかが重要なのだ。
ミコ「気持ちいいとか言われたらそれはそれで恥ずかしいのだけれど………。」
ミコは真っ赤になって両手を両頬に当ててイヤンイヤンをしている。
フラン「アキラさんは小さい方がお好きなのですよ。ですからいつも私の胸をごにょごにょ………。」
フランは自分から割って入ってきておきながら、自分で自分の言葉に真っ赤になって自爆して口篭った。
………っていうか俺の性癖を暴露するのはやめてくれっ!俺の方が恥ずかしいわ!
狐神「そんなことないよ!アキラは私のおっきなおっぱいが大好きさ!だからいつも一緒に寝てる時は………。」
アキラ「もう堪忍してつかぁさい………。」
慌てて師匠の言葉の上に俺の言葉を被せて遮る。これ以上俺と嫁達の夜の営みを皆の前で暴露されたら俺の方が恥ずかしくて耐えられない。
でも一度そういう話題になると中々収拾がつかない。他の嫁達も対抗するように自分の時はどうだとか色々と暴露しまくってくれた。
もう恥ずかしくて他の者達の顔が見れない!これは決して俺が初心だからとか恥ずかしがり屋だからというわけじゃない。
誰だって『夫婦の夜の営みはどんな風にしているのか?』ということを大勢の前で暴露されたら恥ずかしいはずだ。
それを聞いてイチキシマは『んまぁ~!んまぁ~!なんてことかしら!』なんて言ってノリノリだった。
タギツは『そうなんだ~!それじゃ今度はタギツおねえちゃんと一緒にしようね~?』とか言っていた。
タキリはクール系の見た目に反して顔を真っ赤にして一人隅っこで知らん顔をしていた。だけど耳だけは全力でこちらの話を盗み聞きしていたのだった。
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そろそろ俺達が海底都市カムスサに滞在するようになって二ヶ月が経とうとしている。最初の一ヶ月近くはほとんど意味のない時間だったから、俺達の目的や準備が進み始めてから考えれば一ヶ月ほどしか経っていない。
その間にティアやシルヴェストルなどの精霊族の者に外の様子を確認して来てもらった。何故火の精の伝令を使わないかと言えば二つの理由がある。
一つ目はこの場所に火の精達がやって来れなかったからだ。海底とは言えこのドームの中には普通の火の精が空間転移するために必要だろうと思われる程度の火の元素は存在している。
それなのにこの場所へと転移して来れない理由は恐らくこの場を作ったスサノオが何かをしたからだろう。パンデモニウムの時も言ったが精霊族と戦う可能性のある者からすれば、いきなり中心地に転移して来られて奇襲されては困る。
だから精霊族が転移してこれない何らかの措置を取っているのは当たり前の対策だ。パンデモニウムに施されていた対策と、海底都市カムスサに施されている対策が同じものであるかはわからないが、結果としてはどちらも同じ理由で設置され効果を発揮している。
そして二つ目の理由が敵の存在だ。平時であれば火の精達に伝令を頼めばよかっただろう。いくら転移してこれない対策がされているとは言っても実際に伝令を使う方法などいくらでもある。
俺が界渡りの秘技でカムスサの外の海などに空間を作ってそこで伝令と会うという方法など、考えればいくらでも出てくる。
それをしなかったのは敵に狙われる可能性があるからだ。どんな方法で何を狙われるのか。それは具体的にはわからない。
ただ普通に考えれば弱い火の精を利用して月人種や太陽人種がこのカムスサへと奇襲を仕掛けて来ないとは限らない。
伝令に成りすまして侵入してくるとか、伝令に何かの特殊能力を仕掛けてここに入ったらいきなり爆発するだとか、色々と利用される可能性がある。
だから念のためにティアやシルヴェストル達に頼んだのだ。もちろん俺の仲間だからって大丈夫とは限らない。それに可愛い嫁達に危険な役目などさせたくはなかった。
だが二人が危険を覚悟でその役を買って出てくれたのだから、俺の感情だけでそれを無下にすることは出来なかったのだ。
そして結果から言えばそんな心配はいらなかった。外を確認してきた精霊族達の話でわかったことは外の世界にはほとんど変化がないということだ。
パルの地面から出てきて町を破壊して空へと飛び上がった空飛ぶ城のような物が出現したことと、聖教皇国の中央の地面が割れて底なしの穴のような物が現れた以外は何も変わっていないらしい。
もちろんその二つは大きな変化だ。海人種や最古の竜に聞いた話では、空飛ぶ城は太陽人種の住む都、空中都市テンショウ、底なしの穴は月人種の住む都、地中都市ゲッカと言うらしい。
それらが現れたことで旧バルチア領と聖教皇国領は大混乱に陥ったらしい。だが月人種や太陽人種達が出てきてそこを支配するというようなことは一切なかった。
建物が崩れたりして被害が出ただけで住民達が支配されるなどということもなく、世界にはほとんど変化は起こっていないということだ。
今まで太古の大戦以来一万年も姿を隠していたのに出て来たのだから、すぐにでも攻勢に出てくるかと思っていたが、どうやら月人種や太陽人種も海人種と同じようにのんびりしているようだ。
同盟各国と連絡を取り確認してみても今のところは月人種や太陽人種から攻撃や交渉などは一切なく、接触すらしてきていないらしい。
ならば向こうが動いて来ないのならこちらから同盟各国で連携して先に打って出ようという話にはならない。理由は言うまでもなく現在地上にいる者達では全員が協力して月人種と太陽人種に立ち向かった所で勝負にすらならないからだ。
各国にも可能な限りの備えはしておくように注意はしておくが、実際にどうするかは各国の判断次第だ。俺がとやかく言うことじゃない。
とにかく敵が動いてこない間にこちらは出来る限りの備えをしておくしかない。
そこで今日もいつも通りカムスサの中央にある広場へと向かったのだった。
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広場に着くといつもの面子が揃っていた。
スクナヒコナ「今日も頼むぜ姐御!」
舎弟達「「「「「よろしくお願いしやす姐御!!!」」」」」
アキラ「だから姐御って呼ぶな。」
あれ以来スクナヒコナは俺のことを姐御と呼ぶようになった。それに倣ってスクナヒコナの舎弟達まで俺を姐御と呼ぶ。別に俺はこいつらの親分になった覚えはない。こいつらに姐御と呼ばれる筋合いもない。
それはともかく何をしにこんなところへやって来たかと言うと海人種達の訓練のためだ。
戦闘訓練もしているが戦闘訓練のために来ているわけじゃない。海人種には時間厳守だとか集団行動だとかそういう考えがほとんどない。だからタキリが主要な者達に連絡をするだけでも一ヶ月かかってもまだ終わっていなかったのだ。
そのためまずはこいつらに集団行動や規律、時間厳守などの基本的なことから学ばせているというわけだ。こうして俺がやってくる時間までに集合してきちんと整列して待っておくというのもその一環だ。
現代日本人なら学校や会社で始業前までに来て準備して待っているというのは当たり前のことになっている。だが地球でも日本以外の国では時間など遅れて当たり前という国も存在している。
またいくら個人が強くともそれぞれが自分勝手に行動していては、喧嘩には勝てても戦争には勝てない。だからきちんと規律を守り集団行動が出来るようにも訓練している。
その一方で嫁達は海人種達に修行をつけてもらっている。今のままでは嫁達と言えども足手まといにしかならない。それどころか嫁達の命すら危ない。だから海人種に修行をつけてもらって、せめて自分の身くらいは守れる程度まで鍛えたい。
この一ヶ月ほどはずっとその繰り返しだ。海人種達を鍛え、嫁達を鍛え、決戦の時に備える。
舎弟A「姐御!それ以上やったらスクナヒコナのアニキが死んじまいやす!」
スクナヒコナ「………。」
アキラ「………治癒の術。」
考え事をしながらスクナヒコナに修行をつけていたらやりすぎていたようだ。危うくここで殺してしまうところだった。
ボコボコになって口から血を吐き出して白目を向いているスクナヒコナに治癒の術をかけて端に転がしておいたのだった。
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修行が終わって皆で本殿に帰って来た。近くまで帰って来ると本殿から良い匂いがしてきていることに気付く。
今日はイチキシマが晩ご飯を作ってくれているはずだ。これはその匂いだろう。イチキシマは家事も出来るしよく気は利くし愛嬌があって可愛いし、お嫁さんにするなら一押しだろう。
まぁタキリも無表情でクールぶってる割に初心で、そのくせ実はそういうことに興味津々でこっそり聞き耳をたててるところなんて可愛いが…。
タギツはおおざっぱでざっくばらんだが思ったことには一直線だし、積極的にぐいぐい来るところも可愛い。
ん?結局三女神皆可愛いのか………。いやいや違うよ?嫁にはしないよ?三女神とのルートもないよ?ただ異母妹として可愛がってるだけだ。きっとそうに違いない。
ミコ「アキラ君誰に言い訳しているの?」
アキラ「………いや。なんでもない。っていうか何で俺の考えてることわかるの?!」
フラン「アキラさんは心の中で考えているだけのつもりかもしれませんが、時々声に出てますよ。」
そうだったのか………。だから皆俺の心が読めていたのか。そりゃ声に出てたらわかるよな。
狐神「別に三人を押し倒したっていいんだよ?」
アキラ「あの三人には手は出しませんから。」
オルカ「手は出さないけど足は出すんですよね!」
アキラ「足を出すってどういう意味だよ………?」
あまり良い予感はしないがオルカの言葉の意味を聞いてみる。
オルカ「それはもちろん真ん中の第三の足です!真ん中の足でずっぷりとっ!」
アキラ「おいぃっ!それ以上言うな!」
久しぶりにオルカの変態性が炸裂だ。最近鳴りを潜めていたから油断していた。それに今までは何か自分への被虐的な変態性だったが今回のは若干趣が違う。
まぁそれはいい。とにかくあまり過激なことは言わないで欲しい。あまり度が過ぎると十八歳未満お断りになってしまう。
イチキシマ「あっ!皆様お帰りなさい!」
俺達が長い階段を上って本殿に近づくと俺達に気付いたイチキシマが声をかけてきた。笑顔でお玉を持ったままの手を振っていて可愛い。………だけど料理の最中は手を離すのはどうかと思う。
最初は本殿には何の間仕切りもなく風呂もトイレも台所もなかった。長く生活するには不便極まりなかったので俺が勝手に改造しまくっている。
その結果壁際には台所が設置されて、そこで料理していると窓から階段を上って来る者が見えるのだ。
アキラ「良い匂いだな。」
辺りには煮物を炊いてる良い匂いが漂っていた。
イチキシマ「はいっ!アキラ様にいただいたこの液体を入れると良い匂いがいたします。」
そう言ってイチキシマは液体の入った瓶をかざして見せる。
それは俺が作った出汁だ。鰹だしベースのものに醤油っぽいものなどを加えて入れるだけですぐ使える出汁のように仕上げている。それで炊くとまるで日本にいた頃の料理のような味がするのだ。
材料も調味料も俺のボックスから出して渡したものだから誰からも味の不満は出ない。イチキシマは料理が上手なので、俺やミコなどの素材に染みてる俺の神力じゃなくて料理の味そのもので判断する者にとってもおいしい。
ちなみにタキリとタギツはまったく料理が出来ない。タキリはまだ下手くそが作った料理という感じだが、タギツの作った物は毒物へと変化する。師匠と良い勝負だ。あの二人には料理をさせてはいけない。
本殿に帰ってイチキシマのおいしい料理を食べた後はゆっくりと寛ぐ。恐らくこの先、月人種と太陽人種との戦いが始まればこうしてゆっくりしている時間はないだろう。嫁達とイチャつくなら今が最後の機会かもしれない。だから俺は嫁達といっぱいイチャイチャする。
ガウ「がうぅ…。」
狐神「良い湯だねぇ。」
俺達は今、本殿に勝手に作った風呂に入っている。風呂を設置した最初の頃は覗こうとしてのた打ち回る羽目になった馬鹿が居たが、今では風呂を覗こうとする不届き者はいない。
俺は師匠に後ろから抱えられ、俺はガウを後ろから抱えている。懐かしい三人並びで湯船に浸かっている。
ミコ「アキラ君鼻の下が伸びてるよ………。やっぱりアキラ君は大きい方が………。」
狐神「だからそう言ってるだろう?アキラは私と一緒に寝てる時はいつも私のおっぱいを………。」
アキラ「ストップ!それ以上は禁止です!」
あぶねぇ…。また俺の性癖の話になる所だった。
タギツ「じゃあタギツおねえちゃんがしてあげるよ!アキラこっちへおいで!」
タギツは師匠から無理やり俺を奪って抱きかかえる。ちょっと芯があるような少し硬いタギツの胸が………って違う!目を覚ませ俺!
フラン「ほら見てください。明らかにアキラさんが興奮していますよ。アキラさんはやはり小さい胸の方が好きなのです。」
狐神「それはもうどっちでもいいけど…、というかアキラはどっちでも好きなんだと思うけど、何勝手に私からアキラを奪ってるんだい?喧嘩売ってんのかいタギツ。」
はいどっちも好きです。師匠にはバレバレっすね………。ってそれもどうでもいい。それよりこんなところで喧嘩しないで欲しい。
アキラ「師匠抑えてください。俺は風呂くらいはゆっくり入りたい。」
師匠の眼はかなり本気だ。こんなところで戦われたら大変なことになる。どう大変かと言うと主に風呂が吹っ飛んで裸のままの他の嫁達が男の仲間達の前に晒されてしまうこととかだ。
タギツ「へっへ~ん。アキラだってこう言ってるよ!アキラはタギツおねえちゃんが良いんだよね~?」
アキラ「………タギツもあまり調子に乗るなよ?今の師匠と戦えばタギツが負けることもあり得るからな?」
この一ヶ月で嫁達はかなり強くなった。やはり俺がこんな状態な上に敵が強力だということを感じ取っているからだろう。
自分の身が危険だからとかではなく、こんな状態の俺を守ろうと皆必死に修行に励んでいた。その甲斐あってか皆あっという間に強くなってしまった。
神力量や階位だけで考えればまだ師匠の方が三女神に劣るが、今の師匠なら戦い方によっては三女神にも勝てるくらいにはなっている。そんな二人が戦えば当然風呂は滅茶苦茶になってしまうだろう。
タギツ「アっ…アキラがタギツおねえちゃんにひどいことを言うよ~!うえぇ~ん!!!」
タギツは泣き出した………。こいつはこれがあるから卑怯だ。
アキラ「泣くなってば…。」
タギツ「じゃあタギツおねえちゃんと一緒に寝てくれる?」
アキラ「それは断る。」
タギツ「うえぇ~ん!!!」
ますます泣きじゃくる。もう手がつけられない。駄々っ子と一緒だ。
タキリ「いい加減にしなさいタギツ。」
それまで黙って見ていたタキリが低い声で怒る。結構迫力があって怖い。
タギツ「―ッ!はい!」
一瞬で縮み上がったタギツは直立不動になって敬礼すると、さっと湯船から上がって体を洗い出した。もちろん体を洗いたかったわけじゃなくてタキリから逃げ出しただけだ。
イチキシマ「それではアキラ様のお体をお流しいたしますね~。」
そこへさらっとイチキシマが現れて俺を抱え上げて洗い場へと連れて行くと背中を流そうとしだした。
タキリ「何をしているのですかイチキシマ。」
イチキシマ「何ってぇ?アキラ様のお背中をお流ししようと思っただけですけど?」
イチキシマはタギツと違ってタキリの冷たい視線にも動じることなくニコニコ笑顔のまま応えている。
タキリ「アキラお異母姉様のお肌に触れるなど許されざる行為です。それでもそれをすると言うのなら長女でありカムスサ代表代行である私と代わりなさい。」
イチキシマ「え~?タキリお姉さまはアキラ様のお世話など一切しないではないですか?それなのにこれだけされると言われるのですか?それは通りませんよ?もしそう言われるのでしたら明日から、いえ、今これからは料理も掃除も洗濯も全てタキリお姉さまがなさってくださいね?」
タキリ「うぐっ!それは………。」
おお?タキリとイチキシマの対決はイチキシマの勝ちっぽいぞ。三女神最強はイチキシマか!?
勝利を確信したイチキシマが俺を座らせて背中を流そうとした瞬間に横から割って入ってくる者がいた。
タギツ「それじゃタギツおねえちゃんが流してあげるね!」
復活したタギツだ。もしかしてこいつら………。
イチキシマ「ちょっとタギツちゃん…。」
タギツ「いいよね!私が先に洗ってあげるからね!後でイチキシマおねえちゃんにもさせてあげるから!ねっ?ねっ?」
イチキシマ「あぅ~………。」
なるほどな。よく出来ている。こいつらは三竦みだ。タキリはタギツに勝ちイチキシマに負ける。イチキシマはタキリに勝ちタギツに負ける。タギツはイチキシマに勝ちタキリに負ける。三女神でうまく調和が保たれている。
狐神「ほいっと。アキラの体を撫で回す…じゃなかった。背中を流すのは私だよ。」
さらに横から割って入ってきた師匠に攫われる。
タギツ「あ~!何すんだよ~!」
狐神「うるさいね。アキラとどうするかはアキラはーれむ内で決まってるんだよ。混ざりたかったらまずはアキラはーれむに入ってから言いな。」
有無を言わせずそう言いながら師匠は俺の体を洗い始めた。
アキラ「ちょっと師匠…。そこは洗わない約束の場所じゃないですか。」
師匠は俺の敏感な部分を重点的に洗ってくる。確かに嫁達は俺と洗いっこしたりする約束を取り付けている。だがそれはあくまで風呂でちょっとスキンシップにお互いを洗いっこするだけで、妙な雰囲気にならないように敏感な場所はお互いに洗わない約束になっていたはずだ。
狐神「おっとそうかい?アキラの気のせいじゃないかい?」
アキラ「気のせいも何も今も完全に揉んでるじゃないですか………。」
狐神「体の洗いっこをすりゃそりゃあちょっとくらい触れるのは当たり前だろう?アキラが気にしすぎじゃないのかい?」
師匠はわかってやっている。だから顔がニヤニヤしている。
ティア「あ~!何をしているのですか!いくらキツネ様でも抜け駆けは許せませんよ!」
クシナ「そうですね。そういうことなら私も洗ってあげます。」
師匠の悪戯は他の嫁達に見つかってしまった。それを見た他の嫁達も我も我もと寄ってくる。クシナなんて顔が真っ赤なのに必死に寄ってきていて何だか可笑しくて可愛らしい。
こうして嫁達に加えて三女神まで混ざった入浴は組んず解れつの桃色の空間へと変化したのだった。
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何とか貞操の危機を乗り越えて無事に風呂からあがると次の試練が待っている。それは夜伽だ。タギツが毎晩毎晩俺に迫ってくる。それを嫁や他の姉妹達が止めるのだが止めるだけでは終わらない。
風呂の時と同じようにいつの間にか我も我もと皆が俺に迫ってくるようになるのだ。これではゆっくり眠れない。まぁ俺は睡眠なんてほとんど必要ない体ではあるが………。
恐らく皆も感じているのだろう………。これからの戦いはこれまでとは違う。そして肝心の俺は弱体化されたまま戻る方法もわからない。
皆自分達が命を落とすかもしれない覚悟を持っている。その上で俺を守ろうとしている。だから…、最後になるかもしれないからこうして今まで以上に迫ってくるのだ。
俺を守ろうとしてくれる気持ちはうれしい。こんな世界で生きていくには死の覚悟も必要だろう。
だが俺は自分が許せない。嫁達にそんな覚悟をさせてしまうような不甲斐無い自分が許せない。だから俺は心に決める。俺の嫁達は誰一人死なせはしない。仲間も死なせはしない。
そこらにいる一般人?そこまでは知らんよ。そいつらはそいつらで勝手に何とかすればいい。俺は俺の身内が大切だ。余裕があればわざわざ見殺しにしようとまでは思わないだろうが、身内を危険に晒してまで他人を助ける気などない。
こうしていつも通りの夜も過ぎていく。後どれほどこうしていられるかわからない。だが全員生きて乗り越えるんだ。
この件が片付けばまた皆でこうして暮らせる。そう心に誓って今夜も眠りへと落ちていったのだった。




