第百七話「海底都市カムスサ」
全員でこの古代出雲大社の本殿のような建物の中央に座る。無駄に空間が歪んでいて広い所にポツンと座っているので何か変な感じがする。
タキリ「まずは自己紹介を…。私はアキラお異母姉様の異母妹のタキリと申します。」
タキリは綺麗な動作で両手をつき頭を下げた。
………んん?何だって?異母妹?
アキラ「………異母妹?」
タキリ「はい。異母妹です。………我らの風習では異母兄弟姉妹でも結婚できるのですよ。」
アキラ「いや…。別にそんなことは聞いてないけど?」
何でいきなりそんなことを言い出したんだ?確かに昔の日本の貴族なんかは異母兄弟なら結婚出来たけども…。だから何だというのか………。
タキリ「つまりアキラお義母姉様と私は結婚できるということです。」
アキラ「いや…、それはわかってるよ?けど俺とお前は結婚なんてしないよ?」
タキリ「………。」
アキラ「………。」
暫く二人で無言で見詰め合う。
タキリ「結婚するかどうかは今後考えるとして、まずはアキラお異母姉様をお迎えするところから始めましょう。」
アキラ「いや…、後でも考えないから。………ってその迎えるっていうのは一体何のことだ?」
タキリ「これまでは私がスサノオに連なる者の直系として海人種を率いてまいりました。ですがアキラお異母姉様が参られた以上はアキラお異母姉様が海人種を率いるべきでございます。そのためにまずは全ての海人種にアキラお異母姉様をお披露目して今後我らの主であると伝えなければなりません。」
アキラ「………俺は別にお前らの主になんてなる気はないんだけど?月人種と太陽人種を倒すのに手を貸してもらいたいだけだ。」
これ以上面倒事は御免だ。火の精霊王だってさっさと譲ってしまいたい。ドラゴニアの主君だってドラゴン族が納得するように名目上だけそうなっただけでドラゴニアに何も干渉する気はない。この上、海人種の主なんて役まで押し付けられたらたまらない。
タキリ「それは聞けません。アキラお異母姉様の存在がわかった以上はどんなことがあろうとも海人種の主になっていただきます。」
アキラ「………なんで?俺が偽者かもしれないし、仮に本物でも今日初めてやって来たような奴がいきなりこの国のトップですとか言われて納得するのか?」
タキリ「します。海人種にとって継承者は何よりも重んじるべき存在です。私がこれまで海人種を率いてきたのは空白の継承者に最も近い存在だったからです。ですが本当に本物の継承者が現れればその方に譲る定めなのです。」
どうやら精霊王の資格のように何らかのものが俺に引き継がれているようだな。精霊族と同じようにそれを持つ者に対しては無条件で受け入れ従うということか。これ以上ゴネても覆りそうにない。
アキラ「だがそれをどうやって証明する?お前も俺を疑ったように精霊族の精霊王のように一目でわかるものではないんだろう?」
タキリ「精霊王ですか。確かに精霊族は何かを感知してそれを持つ者を王と定めているようですね。確かに我らにはそのような何かはありません。ですがアキラお異母姉様がスサノオの継承者であると証明する方法はあります。」
アキラ「ほう?だったら何故さっきはそれで確かめなかった?」
それならあんな無駄な戦いをする必要などなかったはずだ。俺は女の子だから殴れないとかそんなフェミニストじゃないが、だからって意味もなく女を殴る趣味もない。殴らなくて済むのなら出来るだけ殴りたくないのは本当だ。
タキリ「それはまさか時渡りの秘技を使える者がいるなどとは思わなかったからです。」
アキラ「時渡りの秘技?」
タキリ「はい。海人種は渡りの能力を持つと言われています。それは………。」
タキリは海人種について語り出した。
海人種とは『回廊を通らずに海を渡ってやってくる者達』というところからその名がついたらしい。遥かな昔から大陸間を渡るには回廊を通るしかなかった。
だが海人種は回廊を通らなくとも大陸間を自由に行き来できたためにあっという間に世界を統一してしまったそうだ。
そして三種いたその族を纏め上げ世界を統一した功績をもって次男であるスサノオが族長となりスサノオが率いる海人種から名前を取り海人族という名になった。
本来この海人種の渡る能力というのは他の種族が思ったような海を渡る能力じゃない。それは界渡りの秘技と時渡りの秘技というものだ。
界渡りの秘技というのは空間を越えて渡る能力だ。ヤタガラスがこのドーム状の建物の中と外をテレポーテーションのように移動したのも界渡りの秘技だ。そして俺のボックスもこの界渡りの能力の一端らしい。
この瞬間移動を使えば西大陸から回廊を通って南大陸を通り中央大陸へと移動しなくても、西大陸から中央大陸へと一気に移動できてしまう。
ただ全員が長距離を自由自在に渡れるわけじゃない。スサノオなら世界のどこからどこでも自由自在に移動可能だったらしいが、ほとんどの者は少し先に移動出来る程度らしいのだ。
だから海峡のように出来るだけ狭い場所で、それも海上で何度も短い距離を瞬間移動して現れては移動し、移動しては現れてを繰り返して渡ったらしい。とある漫画・アニメに出てくるヌードモデルをしているエスパー少女のようなものだ。
その短距離移動の繰り返しを見ていた他種族達が海を渡る能力なのだと勘違いして海人種と名付けてしまったにすぎない。
そしてこの界渡りの秘技。極めると凄まじいことになる。異次元だろうが異世界だろうが別の宇宙だろうがどこでも繋げてしまうのだ。
何かに似ていると思わないか?そうだ。一つは勇者召喚。別の宇宙から人を連れて来る勇者召喚だが、その方法は界渡りの秘技から来ている。遥か昔に月人種か太陽人種が海人種の界渡りの秘技を盗み人神に教えたらしい。そして人間族でも使えるようになったのが勇者召喚の魔方陣というわけだ。
人間族では海人種のように自分自身を何度も自由自在に瞬間移動させることは出来なかったが、魔方陣や生贄の生命力を集めることや様々な儀式を行うことで異世界人を召喚出来るようになった。
そして二つ目が神になった者が作れる異界の出入りの門だ。精霊の園とその出入りの門もそうだし、スイやエンもよくそれで移動したりしている。人神もそのせいでクロですら中々捕まえられなかった。
さらに魔の山にあった悪魔召喚の門だ。これも良く似ている。答えは似ていて当然の答えだった。何故ならばそれらも全て海人種の界渡りの秘技が根底にある技術だったからだ。
結局のところこれら全ての技術や能力は海人種の界渡りの秘技の派生に過ぎなかったわけだ。
そしてもう一つの能力。それが俺が加速などと言っていた能力。その名を時渡りの秘技と言うらしい。これももう名前でわかる通りだ。名前通り時を渡る能力である。
説明はいらないと思うが一応言っておくと、時を渡るとは即ちタイムワープとかタイムスリップとかいうやつだ。
その能力では過去でも未来でも自由自在に渡ることが出来る…、とされている。何故『とされている』のか。それはその能力を持ったことがある者が後にも先にもスサノオただ一人だったからだ。
その能力を使ったことがある者がスサノオしかいないのだから、伝承などで伝わっている情報しかわからないというわけだ。
俺もその時渡りの秘技を持っているのだからスサノオを継ぐ者だという証明になるのだとタキリは言った。
アキラ「そんなもので証明としていいのか?」
タキリ「そんなものと言えるのはアキラお異母姉様が使えるからです…。他の者にとってはもうその能力を持つだけでも伝説のスサノオ様の再来であると信じましょう。」
それはそれでどうかと思うが…。もっと何か確実な証拠でも確認した方がいいんじゃないかと俺の方が心配になってしまう。
まぁ俺の方がその証明をしなければならないんだから、これで納得してくれるならその方が俺のとっては楽で良いはずではあるんだけどな………。
アキラ「それに不思議なことがある。スサノオは時を渡れて海人種は程度の差はあっても空間移動が出来たはずだ。そんな者達が他の者に負けるとは思えないんだが?」
それはそうだろう?危なければ空間を移動して逃げられる。攻撃する際にも遠く離れた所から自由自在に奇襲し放題だ。それで負けるなんてあり得るか?
何よりスサノオは未来を知ることが出来るということだ。だったら敵が攻めてくるところもタイミングも数も何もかも一度未来に行って確認してから戻ってきて対策すれば絶対に負けないはずだ。
そんな種族がいくら五族同盟と月人種と太陽人種という多勢に無勢に囲まれてもあっさり負けるなんて信じられない。
タキリ「まず…、スサノオ様が時渡りの秘技をお持ちだったとは言っても、いつでもどこでも何度でも時を渡れたわけではありません。様々な制約や制限がある中でしか使えなかったのです。」
なるほど。それなら一度未来に行って戦局を確認してから戻って対策するというのは難しいかもしれない。
タキリ「さらに五龍神を生贄として封印し、その力を以って我らの力を封じる秘術を発動されたのです。この世界全てを使った封印によって、我ら海人種の力もほとんどを封じられてしまいました。」
………。確かにあの五龍神の封印は何かを封印するためのものだ。精霊族に伝わる秘術で四元素を順に置いていき中央に光と闇を置くことで対象を封じることが出来る。
五龍神は中央に天龍神しか居らず闇に当たるものがいなかったがそれでも封印自体は出来なくはない。簡単に言えば四元素を四方に置き、それ以外の力を中央に置けば一応の形となるのだ。
しかもこれは単に封印に込めた力だけで対象を封じるわけじゃない。わかりやすく言えば地脈というか龍脈というか、とにかくこの星?の力そのものを利用して封じるものであり、封をかけた者の方が封じられる者より力が弱くとも確実に抑えることが出来る。
タキリ「ですがもちろんそれでも我らを滅ぼすには足りませんでした。ですからこうして我らは今も生き残っているのです。」
………なるほどな。あれだけ大掛かりで、星の力全てを使って封じられていたようなものであった海人種が、未だにここにいるということはそれだけ海人種が強かったからだということだ。
アキラ「それで俺達が五龍神の封印を解いたからお前達の力も解放されたというわけか。」
タキリ「………。」
ヤタガラス「………。」
タキリとヤタガラスは不思議そうな表情で顔を見合わせている。
タキリ「封印は解かれておりませんが?」
アキラ「………何?」
俺は思わず後ろに控えている五龍神達を振り返った。
タキリ「………確かにそこに居られるアキラお異母姉様の家臣達は五龍神を引き継いでおられるようですが、この封印はまだ解かれておりません。」
アキラ「それにしてはタキリが強すぎないか?第三階位の力があると思うが?」
タキリ「この海底都市カムスサはスサノオ様がそのお力をもってお造りになられた空間であり、この周辺では我らを封じる封印の影響が薄く八割ほどの力が出せるのです。」
アキラ「………なるほどな。だから月人種と太陽人種もすぐに攻め込んで来ないわけか。」
タキリ「恐らく…。向こうから攻め込んで来る場合は我らの抵抗が激しいと踏んでいるのでしょう。」
俺達が虹の橋をかけたことは奴らだって把握していたに違いない。それなのに俺達を追ってきたり、先回りしたりしていなかったのはそういうわけだったということか。
タキリ「それで…、失礼ですがアキラお異母姉様はそれが全てのお力なのでしょうか?」
タキリは遠慮がちながらもはっきりと俺の力について聞いてくる。それはそうだろう。これから自分達の盟主になるかもしれない者が弱者ではこの世界では不安になるのも頷ける。
アキラ「今はこれが全力だな。」
タキリ「『今は』?」
アキラ「俺の中にはある化け物がいてな。今はそいつの暴走を抑えるために俺の力の大半がそちらに割かれてる。だから今出せる力はお前と戦った時のものが限界だ。」
もし失われている力も全て解放出来れば第一階位くらいの力は余裕であるが、無理にそれを言う必要はないだろう。何かここで自分で言ったら大きな口を叩いているみたいに聞こえてしまうかもしれないからな。
タキリ「中にいる化け物………。もしや虚無の?」
アキラ「――!………知っているのか?」
タキリ「詳しくは………。ただスサノオ様の伝承にそのような記述が少しあります。昔はスサノオ様の中にそれが居たと…。それを持つということはそれもまたスサノオを継ぐ者という証明でもありますね。」
どうやらこの化け物のことについてはここでもわからなかったようだ。とは言え俺は既にほとんど察している。ただ確証というか絶対そうだと言える証拠がないだけだ。
タキリ「暫くはここでお休みください。アキラお異母姉様が我らの主となるために準備致します。」
アキラ「………暫くってどれくらいだ?」
タキリ「………。」
ヤタガラス「………。」
またしてもタキリとヤタガラスが顔を見合わせる。
タキリ「どれくらい…、と言われましても……。百年くらいでしょうか?」
アキラ「………百年?」
タキリ「はい。百年です。」
………俺は耳がおかしくなったのか?それとも頭がおかしくなったのか?
アキラ「百年も待ってられないぞ…。そもそもその前に月人種と太陽人種が攻めてくるんじゃないのか?」
タキリ「それはありません。何しろ我らは一万年以上もこうして睨み合っているのですから。」
アキラ「一万年…。太古の大戦は一万年前だったということか?それにお互いに居る場所もわかっていたのか?」
タキリ「はい。その通りです。その間お互いに睨み合うだけで実際に衝突することはありませんでした。今争ってもお互いに無用な犠牲が出るだけで決着は付かないとわかっているからです。」
アキラ「………それはいいとして何故百年もかかる?」
タキリ「さぁ?それは百年くらいはかかるのではないでしょうか?」
ますます意味がわからない。この後タキリとヤタガラスを交えて色々聞いてみてようやくわかった。
一万年もの間、時間の流れなど気にすることもなくこの海底で過ごしてきた海人種にとって時間とはひどく曖昧なものなのだ。
一日で百年分働くこともあれば一日で終わるような仕事を百年かけることもある。何というか外の世界とは時間の感覚が違うのだ。もしかしたら竜宮城とはこういうものだったのかもしれないと思ってしまった。
何日までに、何時までに、何々をどうする。などのような時間の縛りが一切ない世界なのだ。そしてここにいる者達は皆神になっているので寿命というものもない。
待ち合わせをして待ち合わせ場所で待っているのに相手が百年遅れてやってくるなんていうのが実際にあり得る世界なのだ。俺達ならそんなことになったら相手の家に怒鳴り込んでいるだろう。
また海底のために日中や夜という概念もほとんどない。もちろんこのドーム内の町も明るくなったり暗くなったり灯りを調整するらしいが、それは別に外の世界の日中や夜間に合わせて変わるわけじゃないらしい。
十年くらい明るいままだったり、急に暗くなって五年くらいそのままだったりと何の規則性もないそうだ。そんな生活を一万年も繰り返していればそりゃぁ時間の感覚もおかしくなろうというものだ。
アキラ「とにかくそんなに待っていられない。明日にでも主要な者を集めて月人種と太陽人種への対策を話し合いたいくらいだ。」
タキリ「明日…、ですか。それではそのように伝えておきます。」
こうしてタキリとヤタガラスは引き下がり俺達はこの古代出雲大社の本殿のような建物で寝泊りすることになった。
何でもこの建物はスサノオとそれに連なる者の住まう場所だそうだ。それならタキリも住んでいるのかと言えばタキリは住んでいない。
また住居という扱いのくせに間仕切りも一切ないただのだだっ広い空間だけでトイレもお風呂も台所もない。こんな物は本当に住むための住居とは言わない。儀式的や様式的なものであって実際に誰かが住むためのものじゃないんだろう。そんなところに寝泊りしろと言われても不便で仕方がない。
とは言え今晩一晩だけの辛抱なら何とでもなるだろうと思っていた。
………そう。思っていた。
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俺達がこの本殿に寝泊りするようになってすでに七日が経過している。タキリは確かに『明日集まるように伝える』と言ったはずなのに、そのタキリですら俺達の前に現れない。
なぜ朝も昼も夜もないこのドーム内で七日経ったとわかるかと言えば俺の体内時計だ。俺の知覚能力があれば今自分がいる座標から何時何分何秒かまで全てがわかる。
俺達がここに着いたのは七日前の夕方近くであり、今は到着した日から七日経過した昼過ぎだ。その間にタキリもヤタガラスも一度も俺達の前に現れていない。
別に外に出てはいけないと言われていないので勝手に外に出たこともある。だがタキリの気配もヤタガラスの気配も辿れなかった。どこにいるかすらわからない。
だからと言って迂闊にあちこち歩き回って探すのは流石に憚られる。何しろ俺達は余所者で俺達のことを知らない上位の神がゴロゴロいる場所なのだ。
外をウロついて絡まれたりしたら一大事だ。先に言った通り俺一人なら別にここにいる奴らとも戦えるが嫁や仲間達は危険になる。それではここに嫁達を残して俺だけ出かければどうかと思うがここを襲われてはと思うと遠くまで離れる気にもなれなかった。
そうしてこの周りを少し探索するくらいで遠出も出来ず、ただタキリかヤタガラスが戻ってくるのを待って早七日が経過しているというわけだ。
オルカ「これでどうでしょう?」
クシナ「………うん。この味でいいわよ。」
ミコ「う~ん…。人間にはちょっと味が濃いかもしれないけれど?アキラ君がどう思うかな?」
キュウ「アキラさんならぁ~、これでも~、食べてくださると思いますがぁ~、おいしいと思ってくださっているかはぁ~、わかりませんね~。」
嫁達が料理をしている。皆は七日も待たされても何とも思わないようだ。カリカリしてるのは俺だけか?
タマ「やぁ~っ!!!」
ロベール「踏み込みが甘い。」
タマ「―ッ!」
ロベールが剣を振りかぶって斬りかかったタマを軽く往なして木刀で腕を叩く。二人が何をしているかと言えば見たままだ。ロベールがタマに剣術を教えている。
何故か知らないがタマはロベールによく懐いている。懐いているだけじゃなくて弟子入りまでしている。何故ロベールなのかは知らないがタマはロベールに憧れているようだ。
ロベールの方もあっさりタマの弟子入りを認めて、この七日間毎日稽古をつけている。タマも中々筋が良い。この七日であっという間に強くなった。もちろん中央大陸にいる普通の人間族に比べての話だ。
すでにタマは人間族の一般兵士よりは強いだろう。それでも中央大陸にいる、ある程度訓練を積んだ大人の獣人族には勝てない程度でしかない。
なぜタマとミィは弱いのか。それは俺のボックスに入れていた食材や料理を極力食べさせていないからだ。
別に意地悪で食べ物を与えていないわけじゃない。普通の食材は食べさせている。ただ俺のボックスで寝かせた物を食べさせると強くなりすぎてしまう。
普通の一般人であるタマとミィが、それもまだ分別もつかない子供である二人が、神格を得るほど強くなってしまうのは良くないだろうと思ったのだ。
だから二人に食べさせる分は俺がドームの壁まで行き、界渡りの秘技を使って外の海にいる魔獣をこのドームの中へと引き込み捕まえた物を食べさせている。
多少の調味料くらいは使っているので普通の獣人族の子供に比べればかなり強くなってしまっているのは確かだろう。だがまだそれほどまでにはなっていない。
それに調味料も塩くらいならいくらでも用意できる。だから可能な限り二人にはボックス内の物は食べさせないように調達出来るものはしているのだ。
フリード、パックス、ロベールの人間族三人に加えてタマとミィのガルハラ帝国の者達はそうやって修行や稽古をして過ごしていた。
五龍神達と親衛隊達もそうだ。皆で修行したりして過ごしている。
ブリレ「主様ぁ。えへへ~。スリスリ~。」
修行したりして過ごしている………。
ハゼリ「離れなさいブリレ!今はハゼリの時間ですよ!」
………修行したりして過ごしている。
ブリレ「何だよぉ~。いいじゃん。主様の右腕が空いてるんだからさぁ。ねぇ主様?」
アキラ「ああもう!修行はどうした!?」
ハゼリ「もちろん修行もきちんと行っております。ですが今は主様に甘えて良い時間なのです。」
何で今は俺に甘えて良い時間なんだろうか?それはよくわからない。でもたぶん嫁達が決めている俺に甘えられるローテーションとかが関係しているんだろう。俺は詳しく知らないけどな。
とにかく結局のところは皆時間を持て余して修行するくらいしかやることがない。
しかし俺だって色々とすることがある。まず一つ目はもちろん闇の意識をどうにか抑えて俺の力を取り戻すことだ。これが出来れば一番手っ取り早い。
その次が力を取り戻せず今の状態のままだったとしても戦える方法の模索だ。タキリにも勝てたように現状でも俺は一対一で敵が目の前に居れば誰が相手でも負ける気はしない。
ただしいつも能力を使ったり加速状態で居続けるわけにはいかないので、能力を使っていない間に不意打ちされれば今の俺は第九階位相当くらいの力しかない。そういう欠点を補い敵と戦える方法を色々と考えている。
最後に新たに手に入れた力の練習だ。一体俺が何の力を手に入れたのか。それはもちろん界渡りの秘技だ。タキリやヤタガラスに界渡りの秘技を見せてもらい教えてもらったので、俺もかなり使えるようになっている。
だがまだ完全に使いこなしているとは言いがたい。見たものを真似している程度の段階でしかない。これらは今までと違って見たからといっていきなり完全に使えるようにはならなかった。
前の俺が練習していたわけではないので、見て記憶を取り戻したらすぐに使えるようになっていた今までとは違うということだろう。
それと界渡りの秘技だけではなく時渡りの秘技についても一応練習している。何故一応なのか。それはタキリもヤタガラスもこれは使えずに実際に見せてもらったわけじゃないからだ。
二人が知ってる伝承に出てくる話を聞かせてもらっただけで、二人は使えず実際に見せてもらったわけじゃないから中々うまくいかないのだ。
そんなことをしながら七日間も待っているがタキリは一向に戻ってこない。もしかして本当に百年待たされるのではないかという不安が出てくる。
狐神「そんなに焦らなくたっていいんじゃないかい?」
アキラ「師匠………。」
確かにここで俺が焦ったところで何も変わらない。師匠の言うこともわかる。だけど焦るっていうか何かただじっと待たされてることにイライラしてると言った方が正しいだろう。
ミコ「ほらアキラ君。ご飯が出来たよ。」
家事をする嫁達が少し遅めの昼ご飯を持ってやってくる。
キュウ「お腹がぁ、一杯になればぁ、気持ちも~、落ち着いてくると思いますぅ~。」
キュウが俺の前にテーブルを置き料理を並べてくれる。
アキラ「………そうだな。もう暫くは待ってみるか。」
こちらから動くのも面倒なのでもう暫くはタキリとヤタガラスを待ってみることにした。
ただしいつまでもじっと待ってるわけじゃない。もう少し待って動きがなければこちらから動くと心に決めて嫁達のおいしいご飯に舌鼓を打ったのだった。




