第百五話「ブレーフェンでの再会」
光が収まると闇の意識は完全に消え去っていた。そして最高神もいない。最高神が止めていた時間も正常に動き出す。
そして俺は最高神が言っていた対価や支払いの意味を思い知らされていた………。
ミコ「えっ?!アキラ君?………可愛ぃ~~!!」
俺のもとに駆け寄ってきたミコはギュッと俺を抱き締め抱え上げた。
アキラ「おいミコ…。普通夫がこんな状態になってまず一番最初の反応がそれか?」
ミコ「あっ。やっぱりアキラ君なんだ?同じドレスを着てるしさっきまでアキラ君が立ってた場所にいたからそうかなとは思ったのだけれど………。」
おい…。俺だっていう確証もなく抱きかかえたのかよ…。それはそれで大問題だろう。さっきまで敵がいたところにいきなり見ず知らずの者が現れたのに『可愛いから』ってだけで不用意に近づいて抱き締めるとかどういう神経してるんだ?
狐神「どうしてさっきの一瞬の間にこんなことになってるんだい?」
師匠が俺とミコに近づきながら声をかけてくる。
アキラ「さっき俺はまたソドムの時のように暴走しかけたんです。そこに最高神が現れて俺の暴走を抑える手伝いをしてくれたみたいなんですけど………。タダで一方的に力を貸してくれるわけじゃないようで…、今の俺の状態が対価みたいですね。」
今の俺の状態………。それはクロのように子供になっていた。理由もわかってる。あの闇の意識を抑え込むために俺の力が大量に消費されているからだ。
エネルギーの発散や消耗を抑えるためなのか俺の体まで子供になってしまっている。今の状態の俺では全力を出しても精々第九階位程度の力しかないだろう。
狐神「ふぅん…。最高神ならアキラの力を使わなくても出来ただろうにね。意地悪な奴だねぇ。」
アキラ「まぁ…。でも最高神の言うこともわかります。本来世界に不干渉のはずの最高神の手を借りただけでも大事なのに、その上抑えるための力まで全部最高神に出せというのはおかしいでしょう。」
そうだ。最高神も言っていた通り本来ならばこれを抑えるのは俺がしなければならなかったことだ。俺の力不足のせいであれを何度も暴走させかけている。
それを止めるために手を貸してくれた側の最高神に文句を言うのはお門違いだ…。そのはずだ。だけど言わずにはいられない。何故こんな形にしたのかと………。
体は子供になってるし力の大半もあれを抑えるために使われてほとんど力が出せない。こんな状態で敵に襲われたら一溜まりもないんじゃないのか?
いや…、まさか最高神の狙いはそれか?俺が死ねば闇の意識もそのまま封じられる?だがそれはそれで腑に落ちない。もしそうなら俺を始末すればいい話だ。それなのに最高神はそうはしようとしない。
最高神が俺を殺すようなやり方だと何か問題があるから?それとも俺を殺しても闇の意識は封じられない?何にしろ最高神は俺を殺そうとしたり死なせようとしたりはしていない。
結局情報のない俺ではこれ以上考えてもわからない。わからないことに頭を悩ませるよりするべきことからしていこう。
差し当たっての問題は………。
アキラ「師匠…。何か代わりの服はないですか?」
そう。差し当たっての問題は俺の衣服だ。元々着ていたゴスロリドレスでは今の俺の体には大きすぎてブカブカだ。ミコに抱え上げられた時に脱げてしまいそうになった。歩いたら裾を引き摺るし着替えた方がいいだろう。
狐神「う~ん………。これなんてどうだい?」
師匠がどこからともなく取り出した衣装は………。
アキラ「これはちょっと………。」
ものすごく短いショートパンツとノースリーブのシャツだった。ガウとかならまぁ着れるだろう。年相応という感じの子供っぽい服装だ。
でも俺が着ると色々とヤバイ。何がか?まず俺は体が縮んだために胸も縮んでる。でもガウみたいにペッタンコじゃない。
膨らみかけの青い果実のような…、否、すでに膨らんできている青い果実のように実りかけている状態だ。そんな者がノースリーブで脇も胸元も緩々の服を着ていたらどうなるか?考えるまでもない。無防備にあちこち見えてはいけない場所が見えてしまう。
もちろん上だけじゃない。脚もそうだ。ただ子供の脚で細いだけじゃない。女性らしい張りが出つつある脚だ。そんな脚が生のまま惜し気もなく晒されていたら男ならガン見する。
さらにこのショートパンツ。かなり際どい。こんなのを履いて動いたり座ったりしたら絶対にVラインがチラチラ見える。
アキラ「こんな格好は出来ません………。」
本当の子供なら無邪気に気にすることなく着ることが出来るかもしれない。でも俺には無理だ。いくら体がかなり子供になってると言っても中身は俺のままなんだからこんなもの着られない。
狐神「そうかい?可愛いと思うんだけどねぇ…。」
アキラ「師匠………。その服を着たら俺の体があちこち見えてしまいますよ?他の者達に俺の体を見られても何とも思わないんですか?」
嫁達「「「「「「「「………。絶対駄目!!!」」」」」」」」
ガウを除いた嫁達八人は暫く黙り込んだかと思うと綺麗にハモりながら慌てて俺から師匠が出した服を取り上げた。
どうやら嫁達にとっても俺の体を他の奴らに見られるのは我慢ならないらしい。もし見られても気にならないとか、むしろ見せたいとか言われたらどうしようかと思ったけどその心配はいらなかったようで助かった。
ミコ「アキラ君これにしよう?」
ルリ「………これ。」
フラン「いえ。こちらにしましょう。」
皆が俺に服を押し付けてくる。しかもどれもかなりの厚手の服だ。散々取っ替え引っ替えして決まった服は………。
アキラ「………もうこれで良くないですか?」
狐神「う~ん……。でもねぇ?」
クシナ「ですねぇ…。」
アキラ「何か変ですか?」
フラン「変ではないですよ?」
何か嫁達の評判はイマイチみたいだな。何でだろう?
ミコ「私は可愛いと思うのだけれど?」
どうやら現代日本人のミコの感性には合うようだ。ルリも現代日本人だけど子供の時にこちらへ来たからあまり俺達の頃のファッションは知らないだろう。
俺が今着ているのはサス付きのキュロットパンツにブラウスのようなシャツだ。ファッション的には別におかしくはない。
ただ今の俺の肉体年齢並の子供が着るかと言われればちょっと『う~ん?』という気がするのは否めない。
アキラ「何が駄目なんですか?」
狐神「もっとこう…。アキラの色々な所が見えそうで見えない姿が見たいんだよ。」
アキラ「………はぁ?」
狐神「だから!他の男達にはアキラの素肌を見せずに私達だけがアキラの艶姿を楽しめるような服にしたいんだよ!」
………無理だろ。言ってることが滅茶苦茶だ。それに俺の裸や無防備な姿なんて一緒にお風呂に入ったり寝たりしてる嫁達ならいつでも見れるし今までだって見てきたはずだ。
クシナ「それよりもっと肌の露出の少ない姿にしましょう!脚が出ています!それに腕も!」
ちょっと待てクシナ。手足ですら出すなってお前は俺に宇宙服でも着せるつもりか?
フラン「それよりもこれを!」
フランはさっきからやたらと帽子とマントを薦めてくる。それはフランが身に付けている魔女っぽい装いのものだ。ペアルックか?
アキラ「とにかくもうこの服装で決まり!」
これ以上着せ替え人形にされたら堪らない俺はこれで決まりだと宣言しておく。俺がそう言うとブーブー言いながらもそれ以上無理には着せ替えさせられることはない。何だかんだ言ってもよく出来た嫁達だ。
キュウ「それでぇ~、これからぁ~、どうされるのでしょうかぁ~?」
アキラ「それだが………、このままここに居たら危ない。今俺が力を出せない以上はシホミが戻ってきたら勝ち目がない。それにパルと聖教皇国から出て来た奴らの強さも桁違いだ。まずは身を隠してせめて俺の力を出せるようにしないとどうにもならないと思う。」
狐神「そうだね。このままじゃ私らも危ないね。」
師匠もさっきまでのふざけた感じと違って真剣な表情で頷いている。
シルヴェストル「それでどこかあてはあるのかの?」
シルヴェストルの質問と同時に全員の視線が俺に集まる。それはそうだろう。あてもなくただ逃げ回っていても先がない。
それに俺の記憶のルートはすでに終わっている。この神山に来る前に手前の森と平原の境目の辺りで終わりだったのだ。
そう…。俺がこの世界に転生して最初に目覚めたあの森だ。つまり俺は目覚める前までの記憶に追いついた。ただし思い出したのは世界を回った記憶だけだ。それより前のことや俺自身のことなどはまだ思い出せていない。
記憶のルートを辿るという目印を失い、俺の力も封じられ、俺達も含めた全世界が協力しても勝てないような敵が現れた。
皆複雑な表情で俺を見つめている。ここで俺が迷ったり不安そうにしたら皆にも不安が伝播して混乱するだろうか?それとも母性本能が刺激されて俺を甘やかしてくれるだろうか?
だが残念ながら俺にはそんな感性はない。オロオロと迷うような奴でも、決断出来ない優柔不断でもない。
アキラ「明確な根拠はない。だけどここから北西に向かいたい。」
神山から北西方向、ブレーフェンの方向だろうか?何故かそちらへ向かった方が良い気がする。もちろんさっき言った通り明確な理由も根拠もない。ただの勘だと言えばその通りだ。だが俺はそちらへ向かいたい。
ティア「それでは向かいましょう!」
何故かや、何があるかなど一切聞くことなくティアはまるで当たり前のようにすぐ移動しようとし始める。他の嫁達は流石にティアほど何も考えていないということはないだろうが、それでも俺に何か聞くこともなく移動の準備を始めている。
皆それだけ俺を信用して信頼してくれているのだとはっきりとわかる。だから俺は皆の信頼に応えよう。
アキラ「それじゃ準備が出来次第移動するぞ。」
こうして俺達は神山から移動を開始したのだった。
=======
今回はのんびりしてる暇はない。かなりの急ぎ足で移動していく。街道なんて通らずに山や森の中を一直線に進んでいくとブレーフェンの町が見えてきた。
ブレーフェンの町にはフリード達がいて、人間族の神と思しき奴らに襲撃されたのを撃退したのは気配でわかっていた。
ちょうどフリード達が屋敷に入って行こうとするところで追いついた。フリードの後ろに立って声を掛けようとしたら急に振り返って何か抱き締めようとしてる仕草をした。
フリード「アキラお帰り!」
けど、俺の身長が低くなっていたためにその腕は空振りしていた。
フリード「………ん?」
空振った手をワキワキと動かしていたフリードは視線を下げて俺と目が合う。
アキラ「いきなり抱きつこうとするな変質者め。」
フリード「………え?気配も声も言葉も………。まさかアキラ?」
フリードは俺を見て目を丸くしていた。
アキラ「そうだよ。」
フリード「その姿は何だ?」
何だとか言いながらちょっと目尻がいやらしい感じに下がってる気がするぞ。まさかこいつロリコンじゃないだろうな?いや…、前の俺の状態を好きなだけでも十分ロリコンに入るとは思ってたがもっと重度のロリコンじゃないかという疑惑がわいてくる。
アキラ「うるせぇ…。俺だってなりたくてこうなったんじゃない。」
フリード・パックス・ロディ「「「………。」」」
何か三人にじっと見られてる気がする。
タマ「………アキラちゃん?」
ミィ「えぇ?アキラちゃん?アキラちゃんはもっと大きかったよ?でもそっくりだね~。」
アキラ「タマとミィか。何故お前達までここにいる?」
タマ「やっぱりアキラちゃんなんだ!」
ミィ「え~?ミィとあまり変わらないね~?どうして~?」
何故かタマとミィがいる。フリード達と一緒に屋敷に入ろうとしていたようだ。
フリード「とにかく話は中でしようぜ。」
アキラ「………そうだな。でもあまり時間はないぞ。手短にな。あとここを脱出する準備も進めておけ。」
パックス「どういう意味だ?」
パックスが突っ込みを入れてくる。こいつこういう時だけ俺に声をかけてくるな。
アキラ「言葉通りだ。詳しいことは後で話すが非常にまずいことになった。お前達が撃退した人間族の神なんか比べ物にならない脅威が迫ってる。どこかへ逃げたほうがいいだろう。」
フリード「………そうか。まずは情報交換からだな。」
こうして俺達は屋敷の中へと入って話をしたのだった。
=======
アキラ「ミィの両親が………。それにタマは独り身になっていたのか。」
俺はタマやミィのあの後の話やフリード達の話を聞いて溜息を吐く。
タマ「アキラちゃんごめんっ!」
アキラ「???何の話だ?」
タマがいきなり謝ってくる。何かタマに謝ってもらうようなことがあっただろうか?
タマ「助けてくれたのに俺あの時怖がったりして……。助けてくれてありがとうってずっと言いたかったんだ!」
アキラ「………そうか。ふっ。」
俺がタマの謝罪と感謝を受け取るとタマも表情を緩めた。俺は別に気にしていなかったがタマにとってはあの時から残っていたしこりのようになっていたのだろう。
フリード「俺達の方なんてどうでもいい話だろ!それよりアキラのことと、そのパルと聖教皇国から出て来たらしい奴らのほうが大問題じゃねぇか!」
アキラ「まぁな。こっちの問題もファルクリア存亡の危機みたいなもんだし大変ではある。けど世界の危機ですとか言われてもピンとこないだろ?身内が亡くなったっていう話の方が本人には大変なことだ。」
世界経済や会社が破綻しますとか言われても『はぁ?』としか思わない。その後に自分の周りに影響が出て初めて実感するものだ。それよりも今目の前で自分やその周りに何かあることの方が大変だ。
狐神「それでここからどうするんだい?」
アキラ「敵が出てきて最初に俺達のところへ現れたことからもわかる通り俺達が狙われていると思います。敵は遥か昔から人神を操って人間族を支配しようとしていた。だから大人しくしていれば人間族は殺されないんじゃないかと思われます。俺達だけ立ち去れば他の者は安全じゃないでしょうか?」
フリード「俺達はその人神の手下を殺してる。俺達だって見つかったらただじゃすまないだろう。」
ロベール「それにその予測は甘いんじゃないか?今、表に出て来たってことはこれまでのやり方じゃ駄目だと思ったとかそういうことだと思うぜ。それなら今まで通りで大丈夫とは言えねぇんじゃねぇかな?」
ロベールにしては鋭いところを突いてくる。確かにこれまで通り人間族なら見逃してもらえるとは限らない。敵の本隊が出て来たということは大掛かりなことをする前兆だとも考えられる。
狐神「とにかくアキラのその状態を何とかしないとこっちも迂闊に動けないね。」
師匠は別に俺をあてにしてるわけじゃない。でも今の力の出せない俺は親衛隊やシュリやオルカにすら劣るほどの力しかない。俺が足手まといになっているから嫁達も本気を出せないだろう。
アキラ「まずはどこか安全な場所に隠れて俺の力を取り戻すことからですね。」
ミコ「その安全な場所っていうのがね………。」
ミコの言いたいことはわかる。仮に俺達がここから北回廊でも南回廊でも通って別の大陸に逃げられたとしても、どこの大陸のどの国へ逃げ込んでもこの敵には対処できない。
それにシホミの能力からして、どこか遠い大陸に逃げたからと言って距離で時間を稼ぐことは出来ない。あれだけの能力ならば西大陸から東大陸まででもあっという間に移動してくるだろう。
俺達を匿えるだけの力を持つ国もなく、世界中のどこへ逃げても距離で時間を稼ぐことは出来ない。このままじゃ気配を消して隠れるくらいしか出来そうにない。それでもすぐに見つかってしまいそうだ。
クシナ「私が皆さんを乗せて飛びましょう!」
アキラ「………気持ちはありがたいけどそれじゃすぐに敵に見つかるぞ。」
クシナ「………。」
手を握り締めて立ち上がったクシナは俺の言葉を受けて固まった。
最古の竜『敵が月人種と太陽人種だと言うのならば我らは海人種を味方に付ければ良いのではないか?』
一同「「「「「………。」」」」」
今度は急にしゃべりだした最古の竜の言葉に全員が固まる。
アキラ「海人種は太古の大戦で滅ぼされたんじゃないのか?」
最古の竜『あの娘も言っていただろう?海人種を滅ぼすことは出来ずに封じることが精一杯だったのだ。尤も封じられたように見せかけて自分達からすすんで隠れたのだがな。』
アキラ「………お前妙に詳しいな?まだ俺達に話してないことがあるだろう?」
最古の竜『それは生き証人だからな。もちろんよ~く知っておる。』
待てよ…。ドラゴン族は五族同盟側だ。そして恐らく五族同盟を裏で操っていたのは人神であり、その人神を操っているのは月人種と太陽人種だ。もしかしてこいつ………。
最古の竜『恐らくアキラは勘違いしてそうだから先に言っておく。ドラゴン族は確かに五族同盟だが全員が賛同していたわけではない。最初に言った通りアキラとクシナの婚約を決めたのはアキラの両親とだ。つまりこの最古の竜はドラゴン族を裏切り古代族、いや、海人種に付いていたのだ。』
ふむ………。確かに言ってることはおかしくはない。国が勝手に決めた方針だからといって国民全てが賛同しているわけじゃないだろう。中には反発したりする者がいてもおかしくはない。
アキラ「だったら何故俺達にまで秘密にしていることがある?」
最古の竜『本当は全て話してやりたいところだがな………。これはアキラが自力で乗り越えなければならないことだ。そのためには何でもかんでも話せば良いというわけではない。』
………まぁいいか。どうせこれ以上最古の竜を疑おうと本当のことはわからない。それに確かに最古の竜からは悪意や敵意は感じない。
これまで俺達のために色々助言してくれたことも事実だ。もし最古の竜が敵であったのなら必ず殺す。その覚悟だけ決めてあとは信用することにした。
何かあればその時に対処すればいい。もちろん備えてはおくが仲間まで疑っていては話が進まない。
アキラ「それでその海人種はどこにいるんだ?仲間にしようにもどこにいるのか連絡すらつかないんじゃ話しのしようもない。」
最古の竜『八咫鏡を持って港へ行ってみるがいい。』
もちろん三種の神器はいつも持ち歩いてる。最古の竜の言葉に従ってブレーフェンの港へと向かってみたのだった。
=======
最初は新しい方の港へ向かった。だが最古の竜に違うと言われて旧市街の方の港へとやって来た。
最古の竜『ここだ。鏡を海に向けて掲げてみよ。』
言われた通りに鏡を海に向けて掲げてみる。すると鏡から虹色の光が伸びたかと思うと南西方向に虹の橋がかかった。
最古の竜『成功だ。この橋を渡れば海人種達の隠れている都市へと辿り着けるだろう。』
タマ「アキラちゃん。俺よくわかってないんだけど皆も連れて行ったほうがいいんじゃないかな?」
アキラ「皆…。ブレーフェンの町の住人全てという意味か?」
タマ「うん…。このままここにいたら危ないんでしょ?だったら皆連れていったほうが………。」
ロベール「そこまで甘くねぇんだよ。この先だって安全とは限らねぇ。それにそんな大人数を連れていけば進んだ先にいる相手にも迷惑をかけるかもしれねぇ。確かに出来るだけ救いたいってのはわかる。でも現実はそう甘くねぇんだよ。理想と現実は違うってことを知っておきな。」
ロベールがタマに説教をする。
アキラ「………。」
ロベール「何だよお嬢ちゃん?」
アキラ「ロベールがまともなことを言ってると思ってな………。」
ロベール「ひでぇ!ひでぇなおい!俺だって四十年ほども生きてきて色々考えてきたぞ?!」
確かにロベールの言っていることは正しい。この先が安全とは限らない。ブレーフェンの町の住人全てを避難させようと思ったら俺達の方の手が足りない。
別にわざわざ見捨てようとか殺してやろうとまでは思わないが、今は自分達のことですら精一杯なのにブレーフェンの全ての住人まで救ってやることなど出来ない。
アキラ「まぁ希望的観測ではあるが本当に町の住人は殺されたりしない可能性もある。ある程度見せしめに殺されたり圧政を強いられることはあるかもしれないが、皆殺しにすることじゃなくて支配することが目的だろうと思う。それなら奴隷のようにはされても殺される者は少ないだろう。」
タマ「………。」
タマはただ黙って頷いた。理屈ではわかるけど感情としては納得出来ないってところか。子供の頃は万能感が強く自分は何でも出来ると思いがちだ。
大人になるにつれて現実との折り合いをつけていくものだが、その万能感も全て肯定すればいいわけでも否定すればいいわけでもない。
実際に何になりたい、何をしたい、というのはその万能感から出てくることだ。プロスポーツ選手になりたい、なんて言うのはつまり万能感から出てくるものだ。
ほとんどの人間は成長するにつれて自分の実力を思い知り諦める。だがその思いを持ち続けて練習に励みプロになる者もいるのだ。
だから万能感だって全てを否定したり馬鹿にしてはいけない。過ぎた万能感は問題だが何かを目指したりなりたいと思う気持ちはこういうところから出ていることもあるのだから…。
アキラ「今の俺達にはブレーフェンの住人全てを救うだけの力がない。それはタマもだ。だからもしタマがこれから先こういうことがあった時に皆を救いたいと思うのならこれから力をつけろ。今のその納得出来ない気持ちも、敗北感も、無力感も、全ては今力を持っていないからだ。それが嫌ならばそれを糧にして力をつけろ。」
タマ「………うん。」
タマは瞳に力強い光を宿して頷いた。これからタマがどう成長していくのかは俺には関係ない。ただこの真っ直ぐな瞳を見ていたら報われる人生を送ってもらいたいと思わずにはいられないのだった。
アキラ「それじゃこの虹の橋を渡ってみようか。」
狐神「こんな不思議な物を渡るなんて初めてだよ。」
ミコ「そうですね~。虹の上を渡るなんて何だかロマンチックだね。」
フラン「これを魔法で再現するにはぶつぶつ………。」
皆がそれぞれ思い思いの感想を述べながら虹の上を歩き始める。不思議な踏み応えだ。柔らかくはない。滑りもしない。何と説明すればいいかよくわからないが少し硬くて滑らないとしか言えない。
前の俺がこの旧市街の港から見ていたのはこの先にあると言う海人種達の都市なのだろうか?ホームシックで…、というわけじゃないだろうな。前の俺はそんなことを感じるような奴じゃなかっただろう。
いずれ俺がここを渡ることになるから見ていたのか?今は俺でありながら俺自身ですらよくわからないアキラ=クコサト。
これまで取り戻してきた記憶は本当にただの映像記録という感じだった。そこにアキラ=クコサトの主観や感情は一切込められていない。
この先、アキラ=クコサトの出生に関わる地へと向かえば何かわかるだろうか………。
そろそろ俺の旅も終わりが見えてきた気がする。俺がこれから先の未来を決めるためにはアキラ=クコサトの過去がわからなければ決められない。
この先に行けば何かわかりそうな予感がする。逸る気持ちを抑えつつ俺は虹の橋を渡っていったのだった。




