第百三話「最後の封印」
昨日この庵に到着した時にはもう夕方になっていたから、ガウがここの封印を解き試練を与える役目の者ではないかという話だけして休むことにした。
明けて今日は朝食を食べてから皆で集まってどうすればいいか話し合っていた。
ミコ「ガウちゃんがここの封印を監視してた人達の一人だっていうのは間違いないのかな?」
アキラ「まぁ絶対とは言い切れない。ただ大神種は誰かにこの神山を守るように言われていたとガウは言っている。今までの封印の地のことも考えると大神種がその役を担っていたものと考えられる。」
これまでの封印の地にも妖怪族が誰かに言われたと言ってその地の監視と継承者への試練を与える役を担っていた。
同じ妖怪族で、誰かにここを守るように言われていた、ということを考えれば大神種がこの地の封印の監視者であったと考えるのが自然だろう。
狐神「それじゃガウに封印を解いてもらえばいいんじゃないかい?」
ガウ「がうぅ…。わかんないの。」
フラン「どうやらガウさんはわからないようですね。」
ガウにわからないのなら俺達にはどうすることも出来ない。
ティア「それではガウの故郷に行ってみてはどうでしょうか?」
シルヴェストル「前回お墓参りをしたのじゃ。それで何もなかったのにまた行って何かあるのかの?」
確かにその通りだ。前回立ち寄ってお墓参りをした時には何もなかった。集落と言っても人間のように家を建てているわけでもない。ただ一定の広さのスペース内に皆が暮らしていたというだけだ。
当然生存者もいないし住処も残ってない。他に何も手がないのなら藁にも縋る気で行ってみるのもいいかもしれないが、何か新しいものが見つかる可能性は低いように思う。
前回と違い俺達はすでに残り四つの封印を解いて四人の龍神を連れているが、ゲームじゃあるまいし特定の条件を満たしたりアイテムを持っていたら先に進めるというものでもない。
ルリ「………人神が必ず潰せって言ってた。」
アキラ「そうだろうな………。」
おそらく人神は龍神の封印を解くのを妨害するために大神種を滅ぼそうとしたんだろう。だったら何故今まで何千年も放置していたのに急に滅ぼそうとしたのか?という理由はわからない。
クシナ「ガウさんが封印を解けるように特訓をすれば良いのです!」
アキラ「特訓で何とかなることならそれでもいいけど………。例えば何らかの封印を解く力を継承していてそれを持つ者しか解除出来ないのだとすれば、ガウが解く力を継承していない以上は特訓しても無意味じゃないか?」
クシナ「うぅ…。」
クシナは結構脳筋タイプだな。何でも力ずくで解決するタイプだ………。
キュウ「まずはぁ~、その封印というのを~、調べてみては~、いかがでしょうかぁ?もしかしたらぁ~、色んな力を持ってるぅ、アキラさんがぁ~、解けたりしないでしょうかぁ?」
アキラ「………そうだな。一先ず調べるだけ調べてみるか。」
ただし俺が解除出来るとは思っていない。今まで四つの封印を見てきて俺はそれを解除出来るとは思わなかったのだ。
俺なら出来ることは一度見たり体験すればすぐに出来るようになる。それがないということは、この龍神の封印は俺では解けないということだろう。
だが現時点で俺に解けないからと言って調べる価値はないかと言えばそんなことはない。調べてみた結果俺が出来るようになるかもしれないし、ガウが何か思い出したり出来るようになったりするかもしれない。
あるいは可能性は低いと思うが、実は監視者は大神種ではなく別の妖怪族が監視者で俺達が封印を探していればひょっこり出てくるという可能性も絶対にないとは言えない。
ミコ「それじゃ封印を調べに行こう?………ところでその封印ってどこにあるのかな?」
アキラ「………まずは封印を見つけるところからだな。」
こうして俺達は神山にある天龍神の封印を探すことから始めたのだった。
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俺は一人で神山を隈無く歩いてみた。だが何も見つからない。
まず狂った元素を辿ろうにもここではそれが出来なかった。シルフィードの時は狂った元素の中心、発生源を感じることが出来た。
だがこの神山では狂った元素は薄く全体に満遍なく広がってる。中心も発生源もわからないからそれを辿ることは出来なかったのだ。
そして山中を歩いても誰もいないし何もない。妖怪族どころか魔獣すらいない。何らかの人工物さえ見つからないのだから何も調べようがなかった。
俺が庵に戻ると皆も戻ってきていた。それぞれ分かれて調べたが全員何も見つけられなかったようだ。
狐神「駄目だね。山中調べたけど何も見つからなかったよ。」
ミコ「そうですねぇ…。」
フラン「これだけ探して見つからないとなると…。」
アキラ「後はこの庵くらいですかね…。」
全員「「「「「………え?」」」」」
全員の視線が俺に集まる。その顔は驚きに彩られていた。
アキラ「ん?何か変なこと言ったか?」
ミコ「えっと…。このキツネさんの家に何かあると?」
アキラ「皆だって聞いたから知ってるだろ?ここは師匠が住みつく前からあったんだから、この神山で昔からある唯一の人工物じゃないのか?」
全員「「「「「………。」」」」」
フラン「それでは今日の調査は何だったんでしょうか………。」
アキラ「まぁ他にも何かあるかもしれないし………。調べてみるのは基本かなと?」
全員「「「「「………はぁ。」」」」」
皆の疲れた溜息が聞こえた。
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というわけで気を取り直して今度は庵を調べる。だが師匠とガウと三人で最初に旅立った時に家中をすでに調べた後だ。今回また調べたからと言って何か新しい発見があるとは思えない。
ただ闇雲に調べるだけじゃ駄目だろう。何か新しい方法なり視点なりで調べなければ何も見つからない。
アキラ「そういうわけで何か新しい発想や着眼点を考えてくれ。普通に探しても見つからないだろうからな。」
俺のその言葉を聞いて皆ウンウン唸りながら考え始めた。だけど急にそんなことを言われて何か思いつくわけもない。
俺も頭を捻りながら庵の中や周りをウロウロと歩き回る。
………
……
…
駄目だな。そんな簡単に思いつくはずもない。歩き回ってるうちに俺は玄関の外に立っていた。ふと扉の上を見る。そこには中央から九つの渦が出ている板が掛けてある。
これは九尾なのか?何故忌み嫌われているはずの九尾をわざわざ掲げている?いや、そもそも何故九尾は『災いを呼ぶ者』として忌み嫌われている?
ここで一つの仮説が浮かぶ。遥か昔は九尾も忌み嫌われる存在ではなかった。それどころか敬われていたのではないか?だからこうして祀られている。
しかし昔に何かあった。九尾が妖狐に災いを齎すような出来事が?あるいは妖怪族全てに災いを齎した?
それ以来九尾は妖狐達の中で忌み嫌われる存在になった。だから西大陸の山の上にあった祠やこの庵のように昔の施設がそのまま残っている場合には九尾は祀られたままになっている。しかし生きている者のいる妖狐の里や村では九尾は忌み嫌われることになった。
ふむ………。ここまで一応の筋は通っている気がするな。もちろん確証も証拠もない。ただの状況証拠だけの推論だ。
ではその九尾が忌み嫌われることになった理由は何なのか。それは太古の大戦ではないのか?
俺の姿は混じっているとは言え妖狐なのだから母は妖狐だろう。そして父は今までの情報が正しければ古代族だ。つまり俺の父と母が結びつくことによって古代族と妖怪族は良い関係だったと思われる。
しかし両者の蜜月関係は永遠には続かず太古の大戦の勃発によって変化が訪れる。
もしこの推論通りなら本来は妖怪族は古代族側に立って参戦していてもおかしくはなかった。だが実際には妖怪族は中立不戦となっている。
誰かに誑かされたからなのか。それともあるいは最初から勝ち目はないと思った古代族が妖怪族に参戦しないように言ったのか。逆に妖怪族が勝ち目がなさそうだと思ってどちらにも加担しなかった可能性もある。
いずれにしろ妖怪族は太古の大戦で参戦することなく日和見を貫いた。その結果古代族…、いや、次男派は絶滅することになった。
そして日和見を貫いた妖怪族も結局は表舞台から去ることになった。日和見を貫いても他族から何か圧力を受けて去らざるを得なかったのか、別の理由があったのかはわからない。
つまり…、俺の母も九尾だったのではないか?そして古代族の次男と結婚し妖怪族も次男派寄りとなった。しかし太古の大戦で妖怪族は次男派に協力することはなく次男派は滅亡する。
しかし結局妖怪族も他種族達から迫害を受けたのか、何かしら立場が悪くなったのか、世界に表立って居られなくなった。
その事態を招いた俺の母、九尾の狐が妖怪族、あるいは妖狐に災いを齎したのだとして『災いを呼ぶ者』として忌み嫌われることになった。
うん。辻褄は合っている気がする。たった一つのことを除いて………。
一つだけある矛盾。それは俺の年齢だ。太古の大戦は遥か昔にあった。師匠ですら知らない頃だ。何故か太古の大戦の情報は徹底して隠されている。それがどれくらい昔であったのかすらわからないほどに………。
とにかくわかってる限りでは師匠が生まれた三千数百年前にはすでに太古の大戦は遥か昔にあった出来事ということになっていた。
俺が太古の大戦の頃に生まれていたのならもう遥かな年になっているはずだ。しかしクズノハに拾われて育てられ、師匠のもとへと訪れて修行をした年齢を考えれば俺はあまりに若すぎる。
俺が千五百年少々前にクズノハに拾われた時に赤ん坊だった。この事実だけ辻褄が合わない。
………だがその辻褄が合わないからこの推論が間違いだとも言い切れない。そうだ。この世界には次元を越えて異世界から人を召喚する術がある。
つまり…、空間を越える方法があるのなら時間を越える方法もあるのではないか?
それが可能ならば俺の年齢の問題は解決する。そしてそれらが可能なのではないかと思える根拠がある。これは今までの証拠もない状況証拠だけの話じゃない。それは………。
俺のボックスだ。ボックス内は時間も空間も歪んでる。だから入れた物が温かいままだったり新鮮なままだったりで保存されている。
さらに好きな所に繋げることが出来るのだろうと思う。ただ俺はボックスの能力を完全には把握出来ていないから『どこかその物を入れておくのに都合の良い場所』へ繋げて物を放り込んでいるだけだ。
そしてこのボックスは師匠ですら見たことがない誰も知らない能力。つまり滅んだとされる古代族の能力なのではないか?だから誰も知らない。そう考えると色々と辻褄が合ってくる。
ただそうなってくるとまた別の矛盾が出てくる。すなわち、時間や空間を越えられる者が滅ぼされるなどありえるのか?ということだ。
都合が悪ければ時間でも空間でも越えて逃げればいい。それをしなかったのはなぜか。あるいは出来なかった?古代族だからと言って誰でも出来るわけではなく俺を逃がすだけでも精一杯だった?それなら辻褄が合うか?
しかし都合の良いようにばかり想定してようやく辻褄が合う程度だ。これで間違いないなんて胸を張って言えるほどの根拠はない。
最古の竜『うむ。懐かしいな。』
アキラ「うぉっ!びっくりさせるな。」
俺が考え事をしていると龍魂が急に話し始めて驚いた。たぶん扉の上に掛けてある九尾を模った板のことを言っているんだろう。
最古の竜『アキラは鍵を持っているだろう?鍵を使えばここの封印を解けるだろう。』
アキラ「………鍵?」
最古の竜『そうだ。こう…。小さな黒い箱のようなものだ。』
小さな黒い箱………。もしかしてゲーノモスでグノムから受け取ったあれか?
アキラ「もしかしてこれか?」
俺はボックスから例の黒い箱を取り出して龍魂の前にかざして最古の竜に見せてみる。
最古の竜『おお。それだそれだ。』
アキラ「それでこれでどうやって封印を解くんだ?」
最古の竜『さぁなぁ…?そこまでは知らん。』
アキラ「おい…。期待させといてそれか…。」
結局わからないままか…。そう思った瞬間この黒い箱が光って飛び上がった。
最古の竜『おお!なるほど。こういうことであったか。また一つ知識が増えたわ。』
飛び上がった黒い箱は形を変えて薄い膜のように拡がった。そしてペタリと九尾を模った板に張り付く。その張り付いた物が俺の手元へと戻ってくる。
アキラ「何だこれは?」
最古の竜『八咫鏡だな。』
アキラ「八咫鏡?」
黒い箱が張り付いた面は確かに鏡のように俺の姿を反射している。裏面には色々な形を象った図柄があった。
剣、玉、鏡………。三種の神器が俺の手に入ったことになるな………。
アキラ「それで…、これで封印が解けたのか?」
最古の竜『さぁなぁ?』
アキラ「おい…。結局知らないのかよ………。―――ッ!」
その時地震が起こった。かなり激しい揺れだ。
狐神「一体何事だい?」
庵の中から皆が出てくる。
ミコ「すごい揺れだね。こんな地震は日本でも体験したことがないよ。」
その割にミコは余裕っぽい。今の俺達の身体能力なら十分に対処可能だからだろう。
アキラ「………これはただの地震じゃないぞ。」
フラン「え?どういうことですか?」
アキラ「………中央大陸が移動している。」
今の俺の知覚能力にははっきりとわかっている。他の大陸との位置関係から中央大陸が北東方向に移動している。
シルフィードと水龍湖を結んだ直線と、ヴァルカン火山と大樹を結んだ直線がぴったり十字に交わる交点に中央大陸の神山が移動したところで止まった。
これで配置はぴったりだ………。この八咫鏡が何らかの働きをして中央大陸の位置が南西にズレていた?それを俺が解除したから北東に移動して元の位置に戻ったのか?
ガウ「がうぅぅ………。」
その時ガウが苦しみ出した。
アキラ「おいガウ?大丈夫か?」
ガウ「がうぅ…。だい…じょぶ…なの。………がうっ!」
ガウの胸から神山の山頂方面へと一条の光が伸びた。いや…、胸じゃないな。あれはガウがいつも首にさげている両親の牙で作ったネックレスだ。そのネックレスから光が出ている。
その光が当たると山頂からいつもの光る球体が出て来た。
タイラ「ようやく我の出番のようです。」
まぁ予想通りだな。ここまで五龍王が選ばれていたのにここでジェイドとかが試練の対象に選ばれていたらそっちの方が驚く。
アキラ「タイラ。お前には苦戦すら許さない。俺に一切心配をかけることなく勝って帰ってこい。」
タイラ「ははっ!必ずや!」
俺達の言葉を待っていたかのように、俺達の会話が終わるとタイラは光る球体へと吸い込まれていった。
天龍神『我は天龍神。そなたが我が力を受け継ぐに相応しいか確かめてやろう。』
タイラ「ふん…。確かめるまでもない。すでに我の方が強い。」
天龍神『多少力が強かろうと力の使い方も知らぬ小僧に遅れをとるような我ではない。』
タイラ「………話し方まで似ておる。貴様は気に食わぬ。」
天龍神『それはこちらの台詞。我の方が古き存在だ。』
タイラ「古いか新しいかなど関係ない。どちらがより強いかのみが真理。」
天龍神『よかろう…。ならば最早言葉は必要なし。ゆくぞ!』
天龍神が先に動いた。三十メートルを超えそうな巨体でありながら地球での物理法則を無視した動きをしてタイラへと迫る。
タイラ「笑止…。我らは常に主様より力を注がれ成長しておる。何千年か何万年かは知らぬが遥か昔より時の止まった者など我らの敵ではない。」
タイラは正面から天龍神の巨体を受け止めた。………絵面的には滅茶苦茶だ。人間並の大きさのタイラが三十メートルほどもある竜が物凄い速さで突っ込んできたのを受け止めたんだ。
タイラ「このまま捻りつぶしてやろう。」
天龍神『そこまで甘くはないぞ。』
タイラ「―ッ!」
天龍神の体から雷のようになった神力がタイラへと伝いダメージを与える。いや…、体から出た神力じゃない。体そのものが雷のようになっている。
天龍神は一瞬痺れたタイラの腕から抜け出し高く飛び上がる。
天龍神『日輪光!!!』
タイラ「くっ!」
飛び上がった天龍神は口からレーザーのような光を撃ち出した。タイラは文字通り光速で迫るレーザーのようなものをかわそうと身を捩るが、外骨格の肩の部分に掠って焼ききられてしまった。
最初に雷のようになったから天龍神は雷を司るのかと思ったがどうやら違ったようだ。天龍神が司るものは光か?
この世界では雷も光の一種として分類されているのか、天龍神が光を雷に見えるように操っただけなのかはわからない。
天龍神『よくぞ今の一撃をかわした。』
タイラ「………主様は我に苦戦も許さぬと言われた。これ以上の苦戦は許されぬ………。最早手加減している余裕はない。」
天龍神『………我を相手に手加減していたと申すのか?』
タイラ「これ以上主様の言葉に逆らうことは我自身が我を許せぬ。」
天龍神『我の言葉を聞いておるのか?………何っ!何だこれは!』
タイラの体から今まで抑えていた神力が溢れ出る。その力はいつかクロと戦った時の師匠に迫るほどの力だ。こいついつの間にこんなに力をつけていたんだ?
タイラ「この一撃で決着をつけてやろう。光流破!」
タイラが翳した掌から光の奔流が溢れ出る。
天龍神『かっ…。』
タイラはその光線をうまく動かし天龍神をバラバラに切り刻んだ。その切断面は一見鋭利な刃物で切ったように見えるが、よく見れば僅かに切断面が焼けておりレーザーで焼き切ったことが窺える。
天龍神『見事だ………。受け取れ。』
タイラ「我をこれほど苦戦させた貴様こそ見事だ。」
いやいや…。全然苦戦してませんやん………。リップサービスか?それとも『俺に本気を出させるとは』的なやつか?
ともかくいつも通り光の球体から出されたタイラの中に小さくなった光の球体が吸い込まれる。するとタイラの力が大きく上がっていた。
タイラ「申し訳ありません主様。苦戦してしまいました。」
アキラ「………どこら辺が苦戦したんだ?」
タイラ「はっ!傷を負ってしまいました。」
タイラはちょっとだけ掠った肩を示しながら頭を垂れた。
アキラ「………そうか。まぁ次は頑張れ………。」
タイラ「はっ!次こそは必ずや主様のご期待に添えてご覧に入れます!」
こうしてあっさり最後の龍神を倒し力を手に入れたのだった。
ちなみにガウは光の球体が出てくるとすぐに苦しんでいたのが治まりケロッとしていた。
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五龍王が五龍神へと進化を果たしたその時、またしても地震が起こった。
ティア「また地震ですか。」
アキラ「………この地震はさっきの地震とはまた違う。これは………。」
バルチア王国王都のパル、そして聖教皇国の都があった場所で大きな変化が起こっている。まるで地面が盛り上がって下から何か出てくるような?
それに何だこの神力は…。地面から出てきている場所に物凄い神力を持った者達が滅茶苦茶いる。俺の能力でも全てを把握することが出来ない。密度が濃すぎるし力も強すぎる。隠している奴もいるから完全に全てを感知出来ない。
ただわかる範囲でざっと数えて数百万以上というところだろうか。そしてその全ての者が神格を得ているか神になっている。
その力は最低クラスでも第六階位以上だ。中には第三階位や第二階位と思われるほどの力を持った奴もいる。そんな奴らが数百万だ………。
もしこいつらが敵だった場合この世界の全ての国が協力して対抗したとしても勝ち目などないだろう。俺達ですら危ない。俺一人なら逃げるなり敵を倒すなり方法はいくらでもあるが、嫁や仲間達はとてもじゃないがこの相手に対抗するだけの力はない。
そしてこいつらが何者かぼんやりとだが俺は気付いている。こいつらの神力はコーテンやアクリルに似ている。
聖教皇国の方から出て来ている奴らはアクリルと同種だ。つまり古代族の長男派だと思う。バルチア王国のパルから出て来ている奴らは少し違う。こんな神力は感知したことがない。
ただ基本はやっぱり古代族の神力だとわかる。そこに何か混ざってる。恐らく長男派が古代族の神力に『死』の力が混ざっているようにこいつらも何かの力を持っているんだろう。こいつらが恐らく長女派だ。
………俺の背中に嫌な汗が伝う。
アキラ「………ここに居たらまずい。移動しよう。」
狐神「………どうやらもう逃げられないみたいだよ?」
師匠の言葉と同時に空から誰かが降ってきた。
シホミ「御機嫌ようアキラ御従姉様。わらわはアマテラスの娘シホミと申しますわ。」
白、赤、金の神御衣を着た少女が降り立った。まるで人形のように整った顔をしている。背や顔立ちからして今の俺の肉体年齢より少し年下という感じだろうか。
しかしそんなことはどうでもいい。こいつの力は第二階位以上だ。俺以外の者が戦えば一瞬で殺されてしまう。俺でも嫁達や仲間達を庇いながらでは苦戦する。いや…、全員は守りきれないかもしれない………。
アキラ「………従姉だと?」
シホミ「あら…?御存知ないのかしら?アキラ御従姉様の父君スサノオとわらわの母アマテラスは姉弟。つまりわらわたちは従姉妹ですわ。」
スサノオ…。アマテラス…。やはり…。つまり長男はツクヨミだろう。聖教皇国とパルから出て来たのは八百万というわけだ。
アキラ「何故急に出て来た?」
シホミ「アキラ御従姉様がせっかく封じた海人種の封印を解いてしまったからですわ。」
アキラ「海人種?」
シホミ「ほほほっ!本当に何も御存知ないのですわね。スサノオ率いる海人種、アマテラス率いる太陽人種、ツクヨミ率いる月人種。この三種を海人族と呼ぶのですわ。アキラ御従姉様にわかりやすく言えば古代族かしら?」
アキラ「古代族の本当の呼び名は海人族だと?」
シホミ「そうですわ。スサノオが族長となったことでスサノオが率いる海人種から名を取り海人族となったのですわ。」
次男が族長となり纏めた。ヨモツオオカミに聞いた話と一致する。どうやら謎は解けたようだな。
アキラ「それで封印というのは?」
シホミ「海人種を逃がさないために五龍神の命を使って封じていたというのに、アキラ御従姉様が龍神達の封印を解いたために海人種の封印も解かれたのですわ。ですから………。」
そこで一度言葉を切ったシホミは暫く目を瞑って間を取った。
シホミ「ですからわらわ達太陽人種と月人種が今度こそ海人種を皆殺しにするために出て来たのですわっ!!!」
アキラ「―ッ!!!」
全員「「「「「―――ッ!!!」」」」」
シホミはいきなり力を解き放ったのだった。




