第百二話「クシナを口説く」
昨日のうちにヒデオ=セカイの件も片付いたし、シュリもこれからはちゃんと働くって言って戻ってきた。人神が本当に死んだかどうかはわからないけどわからないことを心配しても意味はない。もし生きていて俺達に敵対すれば次は俺達が直接殺せばいいだけだ。
そう考えると順調に進んでるような気がしてくる。油断するのも良くないが緊張ばかりしていても疲れるだけだ。適度にリラックスとリフレッシュしておく方がいい。
旅の方に問題がないのなら私生活の方の問題を片付けておこう。明日は朝からバンブルクを出発することになってる。ゆっくり出来るのは今日だけだ。だったら今日のうちに済ませた方がいいだろう。
そう思い立った俺はすぐに立ち上がり目的の者が休む部屋へと向かって行ったのだった。
=======
目的の部屋の前に辿り着いた俺はノックをしてから声をかける。
アキラ「クシナ。ちょっといいか?」
クシナ「………一体どうされたのですか?」
扉は開けずに扉の裏に立っているクシナが返事をしてくる。ドアの前まで来たんなら開けてくれればいいのに…。それとも俺と直接顔も合わせたくないってことか?
アキラ「クシナをデートに誘いに来た。よかったら今からデートしないか?」
クシナ「デッ、デッ、デッ、デート!?デートって愛し合う二人が一緒にお出かけしたり遊んだりしてお互いの愛を確かめ合うあれですよね!?」
アキラ「………そうなのか?俺の感覚としては付き合う前にお互いを知り合うために一緒に出かけるのもデートだと思ってたけど、クシナの解釈とは違うのかもしれないな。」
現代日本に住んでた俺の感覚からすると、付き合う前にだってデートしてお互いの相性を確かめたりするものだと思ってた。
この世界ではデートと言えば、それはもう愛し合ってるカップルがそういうことをすることを指すのかもしれない。
クシナ「そうなのですか?………それで私と出かけて私のことを知りたいと…?」
アキラ「ああ。俺はクシナのことが知りたい。クシナに俺のことを知ってもらいたい。その上でクシナが俺と付き合えないのならそれはそれでいい。俺はクシナを嫁にしたいと思ってる。だからクシナも俺を見てから考えてくれ。」
………。返事がない。
………
……
…
まだ返事がない。そこにいるのは気配でわかってる。別にどこかへ行ったとか、返事をするのを忘れて部屋に戻ったということはない。
クシナ「………わかりました。それでは一緒に出かけてあげます。………でも!でもそれで私が手に入ったなんて勘違いしないでくださいね!ただ一緒に出かけてあげるだけです!」
アキラ「………ふっ。くくくっ。あははっ。」
クシナ「なっ!何がおかしいのですか!」
アキラ「ああ、ごめんごめん。ふふっ。クシナらしいと思ってね。それじゃ一緒に出かけよう。」
クシナ「わかりました。それでは三時間ほどお待ちください。」
………ん?今何て?
アキラ「何て?」
クシナ「ですから三時間お待ちください。」
アキラ「………何で?」
クシナ「何でって…。それはもちろん色々と準備があるからに決まっているではないですか!」
アキラ「三時間もかかる準備ってどんだけ準備するんだよ………。」
現代日本で風呂に入って化粧したってそこまでかからないだろ………。
折角今から出かけたら朝から夜まで遊べるのに三時間も待ってたら昼を過ぎてしまう。ここは強引にでもすぐに出発するように促すべきだな。
アキラ「俺だって普段着で行くしお洒落する必要はない。」
クシナ「そう言われて『はいそうですか』といくわけないでしょう!女性には色々とあるのです!」
アキラ「俺だって一応女性だぞ。お互いを知り合うために行くんだ。無理に着飾っても意味はないだろう?ありのままのクシナが見たい。」
お?別に考えてたわけじゃないけど何かそれっぽいことを言った気がするぞ。これなら納得するんじゃないか?
クシナ「―ッ!………わかりました。それでは着替えてから行くので少し待っていてください。」
クシナが息を呑む音が聞こえたかと思うとそう答えた。どうやら説得は成功したようだな。
アキラ「わかった。それじゃリビングで待ってる。」
そう告げてから俺はリビングで時間を潰そうと移動したのだった。
=======
結論から言う。すでに一時間だ。一時間経ってる。着替えるのに一時間もかかるか?かかるわけない。
気配でわかってる。クシナはまず風呂に入った。昨晩も入ったんだから気にすることないと思うところだけど、出かける前に入るのはまぁ一応わからなくもない。それはいいだろう。
それから部屋に戻ってずっとウロウロしてる。何をしてるかまではわからない。ただ部屋の中をウロウロ歩き回ったり、何かを漁ってるような音が聞こえたりしている。
これ以上待ってたら結局三時間待てと言われたのと変わらないことになってしまう。俺はもう一度クシナの部屋へと向かったのだった。
アキラ「お~いクシナ。着替えるだけでどれだけ時間がかかってるんだ?」
クシナ「ちょっ、ちょっと待ちなさい。もうすぐ行きます。」
さっきもそう言って一時間だ。信用出来ない。
アキラ「何でそんなに時間がかかるんだよ?早く出てこないと扉を開けるぞ?」
クシナ「なっ!何を言っているのですか!私は今着替えているのですよ!それを知った上で扉を開けるなんてなんてひどいんですか!」
アキラ「いや…。まだ開けてないだろ…。早く着替えないと開けるって言っただけだ。クシナが早く着替えて出てくれば解決する。それに風呂で何度もお互い裸を見てるだろ?」
クシナ「………本当にすぐ行きますからもうちょっとだけ待ってください。」
仕方ないな…。もう少しだけ待つことにしてまたリビングへと戻った。
………
……
…
うん…。こうなる予感はしてたよ。さらに三十分だ。これ以上待てないからもう一度クシナの部屋の前へとやってきた。
アキラ「クシナ…。一体どれだけかかるんだ?」
クシナ「もうちょっと…。もうちょっとです!」
アキラ「なぁ…。もしかして俺と出かけたくないのか?だったらこんな時間稼ぎをしなくてもそう言えばいいんだぞ?」
クシナ「行きたくないわけないでしょう!何を言ってるんですか!貴女と初めてのデートなのですから恥ずかしくない格好でと思って準備しているのではないですか!………あっ。いっ、今のはなしです!聞かなかったことにしてください!」
………うん。ほっこりするな。クシナはどこか抜けてる。クール美人なのにちょっと抜けてて天然なところが可愛い。
俺と行きたくないわけじゃないようだし、そんなに準備することもないだろう。もう強行突破で行こう。
アキラ「それはわかったけどこれ以上遅くなったら折角のデートの時間が減ってしまう。もう扉を開けるぞ。」
クシナ「ちょっ!まっ、待って。それは今日急に言い出した貴女が悪いのでしょう?だから待って!今は駄目!」
俺はクシナの言葉を無視してガチャッと扉を開けた。
アキラ「おぉ………。」
クシナ「なっ、何で開けるのですか!開けては駄目って言ったでしょう!エッチ!こっちを見ないでください!」
クシナは下着姿のまま何着も服を持って姿見の前に立っていた。部屋中に衣服が散乱してる。どれにしようか選んでいたんだろう。
アキラ「やっぱりクシナは綺麗な体をしてるな。」
クシナ「えっ?あの…、そうですか…?」
俺に体を褒められたクシナは急に大人しくなってモジモジしながら問い返してくる。
アキラ「ああ。スタイルも良いし全体のバランスも良い。何よりエッチな体だな?」
クシナ「エッチって…。………あっ!そうじゃないでしょう!見ないでって言ってるじゃないですか!」
また慌てて怒り出したクシナが周囲の物を放り投げてくる。もちろん俺には当たらない。
アキラ「なぁクシナ。着ていく服がまだ決まってないなら俺のお薦めのやつを着ていかないか?」
クシナ「………え?」
=======
俺とクシナは今二人並んでバンブルクの町を歩いている。
クシナ「この服は恥ずかしいです。」
アキラ「そうか?別に肌の露出があるわけでもないし普通だと思うけど?」
クシナ「誰もこんな格好をしていないではないですか…。目立ちすぎます。全員私に注目しています………。」
それはそうだろうな。この世界でこんな格好をする可能性があるのはほとんど俺の仲間だけだろう。
クシナが今着ているのは浴衣だ。赤い浴衣に花柄があしらってある。俺が沐浴の時に着る湯帷子や寝る時に着ている地味な浴衣とは違う。
少し洋風な顔立ちのクシナだが何故か不思議と和風が似合う。この浴衣の話だけじゃない。所作もどことなく和を感じさせる。
アキラ「よく似合ってるよ。綺麗だ。」
クシナ「―ッ!!!知りません!」
一気に真っ赤になったクシナはプイッと顔を背けてしまった。でもそっと俺の手を握ってくる。本当に素直じゃないな。
クシナと手を繋いだままバンブルクを見て回る。昨日も皆で見て回ったけど昨日のは珍しい物や新しい物を見るのが目的だった。
今日はデートが目的だから、もちろん買い物もしたりあちこち見て回ったりもするけど、公園なんかでゆっくりしたりしようと思う。
アキラ「次はあっちへ行ってみよう。」
クシナ「はい。」
アキラ「………可愛い。」
素直に返事をしたクシナは柔らかく微笑んでいた。それがとても可愛い。
クシナ「…え?」
アキラ「そうやって素直で柔らかく微笑んでいたらクシナはとっても可愛いよ。普段もあんなにツンツンせずにもっと普通にしてたら良いのに。もったいないよ。」
クシナ「………。」
………ん?クシナが止まってしまった。ちょっと変な顔になって完全に停止してる。
アキラ「どうした?」
クシナ「………しっ。」
アキラ「し?」
クシナ「知りません!!!」
アキラ「うおっ!」
クシナは走り去ろうとした。ただし俺の手を握ったままだ。俺は引っ張られて宙に浮く。どんな力と速度で走ってるんだよ………。
クシナは俺を凧のように引っ張って浮かせながら走り続ける。たぶんクシナが発生させてる衝撃波で露店とか滅茶苦茶になってるだろうな。ごめんな露店の店主達。でも面倒だから後で謝りにいったりする気はないぞ。
そのまま走り続けたクシナはバンブルクの港までやってきた。予定とは順番が違うけど一緒に海は見ようと思ってたからいいだろう。
クシナ「………はぁ。」
街中を衝撃波で破壊しながら走り抜けたクシナはようやく一息ついたようだ。
アキラ「かなり街中を破壊してしまったな。」
クシナ「ひぅっ!どっ、どっ、どっ、どうしてここにいるのですか!?」
俺が声を掛けるとクシナは飛び上がって驚いていた。かなり慌ててたようだな。
アキラ「未だに手を繋いだままなんだからクシナが俺を引っ張って走れば当然俺も付いてくると思うけど?」
クシナ「………。」
アキラ「………。」
クシナがじっと俺を見つめるから俺も見つめ返す。ただ無言の時間だけが過ぎていった。
クシナ「ぷっ!くくっ。あははっ!ふふふっ。」
クシナは急に笑い出した。何かおかしかったのか?
アキラ「急にどうした?」
クシナ「………いえ。ふふっ。何だか馬鹿らしくなってしまって…。」
アキラ「馬鹿らしく?」
クシナ「ええ。私だけが意地を張って…、本当に馬鹿みたいです…。私はお爺様に聞いて本当に許婚様が私を迎えに来てくださるのを楽しみに待っていたのです。それなのにその許婚様ときたら私より先に大勢のお嫁さんを連れてこられたのですよ?ひどいと思いませんか?」
クシナはちょっとムッとした顔で俺に同意を求めてくる。
アキラ「………そうだな。」
クシナ「でしょう?ですから私拗ねてしまいました。それなのに許婚様ときたら拗ねた私を宥めるどころかますます冷たい態度になったんです。ひどいと思いませんか?」
アキラ「………そうだな。」
クシナ「そうして一度ボタンを掛け違えるとあとはますますずれるばかり…。本当は謝りたいのに…。他の方のように甘えたいのに…。本当に私…、馬鹿みたいでしょう?」
アキラ「だったらこれから、これまでの分も取り返すだけ甘えればいい。」
クシナ「………。はい。」
クシナは一瞬キョトンとした顔をしてから柔らかく微笑み俺に抱き付いてきた。
クシナ「それではいっぱい甘えます。」
アキラ「―ッ!」
クシナ「―ッ!!」
その時俺とクシナの魂が繋がった。
クシナ「これが皆さんの言っていた例の………。なるほど…。」
アキラ「今日一日デートしてからクシナを口説いて繋げるつもりだったのにデートが始まって一番最初に繋がるなんて予定外だったな。」
クシナ「あら?お互いに想いが通じ合ってからデートするほうがより楽しめるのではないですか?」
アキラ「ふふっ。そうだな。それじゃ行こうか。」
クシナ「はいっ。」
クシナは良い笑顔で頷いた。
=======
その後心の通じ合ったクシナと一緒にデートを堪能した。そこまではよかった。クシナも素直になってとても楽しいデートだった。問題は宿に戻った後だ。
アキラ「クシナと結ばれました。」
狐神「ようやくかい。」
ミコ「おめでとうクシナ。」
クシナ「ありがとうミコ。」
クシナはミコににっこり笑顔で応える。二人はいつの間にか名前で呼び合う仲になっていたらしい。ミコは結構誰とでもすぐに打ち解けるな。
フラン「今日はお祝いですね。」
クシナ「そんなに気を使わなくても良いのよ?」
ティア「いえ!繋がった日はアキラ様を独占しても良い日なのです!今日独占しておかないと後悔しますよ?」
ティアは何か妙なことを力説してるな。
ガウ「がうがう!」
シルヴェストル「うむうむ。」
ガウの言葉にシルヴェストルが大仰に頷く。………俺には『がうがう』としかわからないがあれで意味が通じてるのか?
ルリ「………今日だけなら譲る。でも今日甘える気がないならもう譲らない。」
キュウ「クシナさぁん、おめでとうございますぅ~。」
嫁達がワイワイとクシナを祝ってる。ハゼリとブリレも一緒だ。この後言った俺の一言がまずかった。
アキラ「それでオルカもずっと放ったらかしだし正式に愛妾にしようと思うんだけどどうかな?」
全員「「「「「………。」」」」」
全員の冷たい視線が俺に突き刺さる。これはいつもの錯覚じゃない。完全に冷たい眼で見られてる。
クシナ「だっ、旦那様のばかぁぁぁぁぁ~~~!」
クシナは俺に顔面パンチをお見舞いしてから走り去って行った。避けようと思えば避けられたけど何か雰囲気的に避けたらまずそうだったので食らっておいた。ダメージはないけどな…。
ミコ「アキラ君………。」
フラン「さすがにそれはないかと…。」
狐神「だねぇ…。さすがにこれは私でも庇えないよ…。」
ティア「クシナが可哀想です!アキラ様の馬鹿っ!」
皆に散々に言われる。
アキラ「何かまずかったか?」
そっとシルヴェストルに尋ねてみた。
シルヴェストル「はぁ…。アキラは女心がわからなすぎなのじゃ。結婚したその日に新たに愛人を作ると言われたら花嫁はどういう気持ちになるかの?」
なるほど…。それはそうか。結婚したというのかどうかはともかく、今日お互いの気持ちが通じ合ったその日にオルカを愛妾に加えるとか言われたら怒って当然だな。
ルリ「………クシナがいらないなら今日はルリが甘えていい?」
キュウ「ルリさぁん、それならぁ~、本来今日の~、順番である~、私が甘えるべきではぁ~、ないでしょうかぁ~?」
ルリとキュウはマイペースだな………。
アキラ「………追いかけてくる。」
ガウ「がう。いってらっしゃいなの。」
こうして嫁達に追い立てられて…、いや…、見送られてクシナを追いかけて行ったのだった。
=======
クシナは今日の朝俺と魂が繋がった海岸にいた。
アキラ「クシナ…。ごめん。俺が無神経だった。」
クシナ「………。」
クシナは俺の方を振り返ることなく夜の海を見つめていた。俺もクシナの横に立って海を眺める。
クシナ「もういいです…。旦那様がそういう方だというのは前からわかっていましたし…。」
アキラ「え?」
クシナ「………え?もしかして自覚してなかったのですか?」
俺ってそんなに無神経かな?………そう言われたらそうかもしれないな。うん…。そうなんだろう。
アキラ「どうやら自覚してなかったらしい。」
クシナ「何ですかそれは………。それはもういいです。旦那様…、一体何を焦っているのですか?旦那様らしくもないですよ?」
………焦っている?俺が?………そう言われたらそうかもしれない。
アキラ「そうかもしれないな。………もうすぐ大変なことが起こる…、気がする。だからそれまでにと思って焦っていたのかもしれない。」
クシナ「大変なこと…、ですか。」
アキラ「ああ…。」
もちろん確証なんてない。ただの予感とかそんなものだと言われたら否定出来ない。だけどここ最近の様々な動きはおかしい。
何かある。その前兆だとしか思えない。もうゆっくりしていられる時間も、馬鹿をやっていられる時間も、嫁達と愛を語らう時間もほとんど残されてはいない。
クシナ「旦那様がそう言われるのならばそうなのでしょうね。ですが旦那様ならば簡単に片付けてしまわれるのでしょう?」
アキラ「………そうだな。」
クシナ「ええ。そうです。」
クシナはニッコリと笑顔を向けてくる。………。俺は本当はそうは思っていない。確かに今まではどんなことがあっても簡単に片付けてきた。だがこの予感はそんなヌルいものじゃない。
ここ最近出会ったデスサイズ、コーテン、アクリルを見ていればよくわかる。あの三人は俺以外で相手に出来る者がいないほどの強さだった。
これまでは第五階位の実力者ですら黒の魔神と大獣神しかいないと言われていたんだ。それが俺の周りには第五階位以上の強さの者が溢れている。
そしてその第五階位や第四階位の者ですら敵わないと思うような奴まで急激に出始めた。
今この世界で急激に何か起こりつつある。もちろん俺が知らなかっただけで昔から起こっていたのかもしれない。あるいは俺が動いたせいで起ころうとしているのかもしれない。
ただ一つ言えることはこの先起こるであろう大事件で多くの者が死ぬことになるだろう。この世界は大きく変わるだろう。その時果たして俺は俺の愛しい嫁達や仲間達を守れるだろうか………。
クシナ「大丈夫…。旦那様ならきっと大丈夫ですよ。」
俺はクシナにそっと抱き締められた。俺はそんなに不安そうな顔をしていたのだろうか。クシナにまで心配をかけるなんて情けないな。
アキラ「………それじゃ帰ろう。皆が待ってる。」
クシナ「はい。」
こうしてクシナを連れて宿へと戻ったのだった。
………
……
…
そして宿の部屋へと帰って扉を開けた瞬間………。
オルカ「ピィィ!!!ご主人様っ!孕ませてくださいいぃぃぃっ!!!」
いきなりオルカが飛び掛ってきた。
アキラ「何なんだ急に?どうした?」
俺はオルカを抱きとめながら問いかける。
ミコ「アキラ君がオルカちゃんを愛妾にするって決めたから…。それをオルカちゃんに伝えたらこんな風になっちゃったんだよ。」
ミコが説明してくれる。なるほど。そういうことか。
アキラ「最近はこういう所が直ったと思ったから愛妾にしてもいいかと思ったけど、まだ直ってないならやっぱりやめようかな?」
もちろん本気でそんなつもりはない。こういう所も含めてオルカなのだ。ただどこでもかしこでもこうして迫ってきて孕ませてだの犯してだの叫ばれたら色々と困る。多少の自制はしてもらわないとな。
オルカ「ピィィッ!!!やめます!直します!だから捨てないで下さいぃぃ!!!」
俺の一言でオルカは泣きながら俺に縋り付いてきた。
アキラ「わかったわかった。捨てないからもう泣くな。な?」
オルカ「本当ですかぁ?」
オルカが涙と鼻水を垂らしながら必死に俺にしがみ付く。ちょっと可愛い。綺麗とか可愛いっていうか…、あれだ。小動物的な可愛さだ。
アキラ「本当だから…。俺のドレスで鼻水を拭くな………。」
オルカ「ピィィッ!!!」
クシナ「旦那様が女たらしなのはよーく存じております。仲睦まじいのも大変結構です。ですが今日は私の日ですからね!それは忘れないでください。」
後ろで待ってたクシナに突っ込まれた。とりあえずオルカが離れそうにないから抱きかかえたまま部屋へと入る。
アキラ「わかってるよ。俺は嫁や愛妾達を分け隔てなく愛するからな。」
クシナ「まぁ…。女たらしだと否定もしないのですね。」
アキラ「まぁ…。事実だから…。」
ミコ「おかえりクシナ。……アキラ君。どうやって説得したの?」
狐神「そうだよねぇ…。新婚初夜に今から愛人を増やすなんて宣言されたら怒って当然だもんねぇ。」
師匠の言葉に嫁達がウンウンと頷いている。今回ばかりは完全に俺が悪者だな。
アキラ「別に何も…。」
フラン「なるほど…。結局クシナさんが我慢することで決着としたのですね。」
アキラ「うぐっ!確かにその通りなんだが何か言葉に棘を感じるな…。」
確かに今回は全面的に俺が悪いかもしれないけどこれは辛い。針の筵だ。嫁達は基本的にクシナの味方で俺の味方はいない。
オルカ「ピィ!ご主人様!ささっ、こちらへ!」
一人だけ空気を読まないオルカが俺の手を引いてソファに座り、俺を膝枕しようとしてくる。
この場で唯一と言っても過言ではないかもしれない味方だけど、今回の発端となった人物でもあるので嫁達に余計に火に油を注ぐことになるからもうちょっと考えて欲しいところだ。
とはいえクシナ自身はそんなに怒っていないようだ。それどころか皆のやりとりをうっすら笑みを浮かべて見ている。
夜も今日はクシナが俺の隣に来て眠っていた。そっと抱き寄せる。
クシナ「うぅん…。」
完全に眠っているようで俺が抱き寄せても目を覚まさない。俺はクシナを起こさないようにそっと頬にキスをする。
アキラ「お休みクシナ。」
クシナ「………。」
ん?顔が真っ赤になってる。どうやら抱き寄せた時に起こしてしまってたみたいだな。それなのに狸寝入りしているなんてクシナらしい。
その後もクシナを抱き締めたまま眠ったのだった。
=======
翌朝朝食を済ませると朝一番にバンブルクを出発した。徐々に嫌な予感が強くなる。俺は少し移動速度を上げて神山へと急いだ。
ベル村へ到着しても特に何の異変もなく、ベル達は農作業に励んでいた。神山を登って庵に着いても特に異変はない。
………俺の気のせいだったか?それならそれでいい。用心するに越したことはないが何もなければない方がいい。
狐神「今度はゆっくりしていくのかい?」
アキラ「………そうですね。ゆっくり出来るのならゆっくりしたいところです。」
ミコ「ところでいつも出てくる封印を監視してる人はまだ出てこないね?」
そりゃそうだろう。だって神山の封印を監視しているのは大神種だろ………。
アキラ「あっ!」
ミコ「え?どうしたの?」
アキラ「そうだよ…。たぶんここの封印の監視は大神種だったはずだ。」
ミコ「大神種ってガウちゃんの?」
アキラ「ああ。ガウの種だ。そして………、もうガウしかいない。」
ガウはまだ幼くて自分達の種のことや封印のことなんて何も知らなかった。ただ神山を守る種だと聞かされていただけだ。
………もしかしてここの封印を解く方法は失われたんじゃないのか?俺達は詰んだかもしれない………。




