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転生無双  作者: 平朝臣
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第百一話「ヒデオの最後」


 ミコが俺の肩に手を置いて声をかけた瞬間ヒデオ=セカイの表情が一変した。その顔は憤怒と嫉妬だ。


アキラ「………ミコ。」


 俺がミコを呼んでから視線を動かすとミコも俺の視線を追っていった。そして………。


ミコ「あっ…。ヒデオ君?ヒデオ君だ。久しぶりだね。大丈夫だった?」


 軽っ!いやいや…。えぇ…?


アキラ「………俺が言うのも何だけど軽すぎやしないか?」


ミコ「えっ?そうかな?」


 ミコは小首を傾げて本当にわからないという顔をしてる。そんなのでいいのか?まぁ本人がいいならいいんだけどな。


 片方の幼馴染はあんな最後を遂げて、ミコがいなくなったことでおかしくなってたもう片方の幼馴染と再会したのに、さすがにこれは軽すぎるだろう。


ヒデオ「何が久しぶりだ!ふざけるなよミコ!どうして俺のもとからいなくなった?!お前は俺のものだろうが!俺の許可もなく勝手にいなくなるなんてことが許されると思ってるのか!」


 うわぁ…。


ミコ「私は別にヒデオ君のものじゃないよ?どうして私がどこで何をするのかヒデオ君に許可を取らないといけないのかな?」


 うわぁ…。ヒデオ=セカイの言葉を聞いた時はこいつも大概だなと思ったけどミコは容赦なかった。ミコの性格からすると大事な幼馴染にこんな扱いは出来ないかと思ったけどバッサリだな。


ヒデオ「黙れっ!黙れ黙れ黙れぇぇぇぇ!ミコは俺のものだ!九狐里!ミコの前でお前をボコボコにしてやる。その次は九狐里が見てる目の前でミコを滅茶苦茶に犯してやる!その後で九狐里も犯してやる!二人とも俺の肉便器に調教してやるから覚悟しておけ!」


 ………こいつ死んだわ。何で自分から見えてる地雷を踏みに行くかね?


 例えミコが殺さないでと頼もうとも俺はもうこいつを許さない。ミコを犯すだと?その言葉を口にしただけでもう万死に値する。


ミコ「………ない。」


ヒデオ「あ?何だと?今更許しを請うてるのか?げひゃひゃひゃ!でももうゆるさねぇよ!二人共肉べん………。ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」


 ………おいミコ。


ミコ「それ以上アキラ君を貶めるようなことを言えば許さない。って言ったんだよ。」


ヒデオ「腕がっ!俺の腕があぁぁぁっ!」


 ミコの顔は完全に怒ってる。まるでゴミでも見るような冷たい目でヒデオ=セカイを見つめていた。


 ヒデオ=セカイが二度目の言葉を口にしそうになった瞬間に、ヒデオ=セカイの目の前まで移動して腕を掴んで思いっきり捻った。


 いくら能力制限をしているとは言ってもここ最近の敵の強さからして、俺達はかなり緩めの制限にしていたのだ。


 そのミコが思いっきり捻ったら人間族の神になってる程度の者が耐えられるはずはない。ヒデオ=セカイの腕はバキバキに折れて歪に曲がっていた。


ミコ「ヒデオ君。私が黙って二人の前からいなくなったことは申し訳ないと思ってるよ。でも私には私の人生があるの。私は二人のために生きてたんじゃないんだよ?だから私は私のために行動した。黙っていなくなったことを謝れと言われたら謝るけれど、出て行ったことは間違ったことをしたとも思わないし謝りもしないよ?」


 俺がそうさせたのだろうがミコも随分変わったものだ。最初の頃のミコならヒロミ=ハカナを斬ることも出来なかっただろうし、ヒデオ=セカイにこんな風に接することも出来なかっただろう。


ミコ「アキラ君。アキラ君は勘違いしてそうだから先に言っておくよ?私がヒデオ君にこれだけ怒ってるのはヒデオ君がアキラ君に………、口に出すのもおぞましいようなことをするって言ったからだよ?」


 さすがにミコの口から肉便器と言うのは憚られたのか言葉を濁したが、俺がヒデオ=セカイに怒ったのと同じ理由でミコも怒ったのだとは伝わった。


 ミコもヒデオ=セカイが俺をボコボコにして犯して調教して肉便器にすると言ったからここまで切れているのだ。


 っていうか今まで流してきたけど俺を犯すとか調教するとか肉便器とか何だよ………。ヒデオ=セカイは頭がクレイジーになったか?


 俺が九狐里晶だってわかった上でそんなこと言えるなんて頭がクレイジーとしか思えない。一体どんな神経をしてたらそんな発想が出てくるのか………。


ヒデオ「図に乗るなよゴミ共がぁぁぁ!俺は最強の神なんだ!超進学校の学園でもトップクラスの成績だった。スポーツ万能でどんなスポーツでも引っ張りだこだった。異世界にも勇者として召喚された!人神を殺したのも俺だ!最強の力を手に入れた!俺こそが主役なんだ!全ての中心なんだ!」


アキラ・ミコ「「………。」」


 俺とミコは呆れた顔で顔を見合わせた。何て言えばいいのか…。まぁ…、色々とあれだ。詳しくは言わないがあれだ。


ミコ「ヒデオ君がそう思うならヒデオ君の中ではそうなんだと思うのだけれど、私達にまでそれを強要して欲しくないかな。」


 ミコはあくまで突っ込むらしい。もう何度もバッサリすぎてヒデオ=セカイは粉々だろう。


ヒデオ「うるさい!お前らに思い知らせてやる!さっきは偶々不意打ちでうまくいっただけだ。本当の力の差を見せてやる!」


 不意打ちもクソもない。ミコにとってはゆっくり近づいて腕を捻っただけだ。それが見えずに不意打ちのように感じたのも腕が滅茶苦茶に破壊されたのもヒデオ=セカイが雑魚だからにすぎない。


 もうこいつの底は見えてるけど、せめて元同じ世界の住人で同じ学園に通ってた誼だ。どんなお笑いを披露してくれるのか最後まで付き合ってやろう。


ヒデオ「うおおぉぉっ!〝神技 神力糖衣A〟!!!」


 ………え?今なんつった?俺の聞き間違いか?


 まぁそれはいいだろう。何か技を使う気らしい。一応どんな技を使うのか観察してみる。相手が弱くても技次第では思わぬ事態になることもあるからな。


 ヒデオ=セカイは神力を纏ってるな。これが溜めか?このあと一体どんな技が………。


アキラ・ミコ「「………。」」


ヒデオ「………。」


 俺とミコはいつでも対応できるようにしながらヒデオ=セカイの技がいつくるのかと身構える。が、いつまで経っても攻撃はこない。


アキラ「………で?その技はいつになったらくるんだ?」


ヒデオ「くくくっ。はははっ。は~っはっはっはっ!やっぱりお前らは俺とはレベルが違うようだな!もうすでに俺の技は完成してる!お前らにはわからないのだろうが俺は今神力という物を纏っているんだ!これで俺の能力は数倍に跳ね上がる。これを習得するのに俺でも一年近くかかった。だけどたった一年でこれを習得出来たのは俺だけだ!俺がどれだけ優れているかわかったか?はっはっはっ!!!」


 神力を纏う技?………それは技って言っていいのか?誰でも出来ると思うんだが………。


ヒデオ「俺のすごさを見せてやる!」


 ヒデオ=セカイがフェイント?っぽいものを混ぜたつもりで?俺達に近づいてくる。俺達にとっては普通に遅すぎて丸見えだ。


ミコ「えいっ。」


ヒデオ「ぎゃぁぁぁっ!!!」


 ミコが近寄ってきたヒデオ=セカイの腕を掴んでゆっくり捻る。無事だった方の腕までぐちゃぐちゃに破壊されたヒデオ=セカイは蹲ってのた打ち回る。


ヒデオ「何でだよ!何でこの状態の俺の腕をこんなに簡単に折れるんだよ!おかしいだろう!」


アキラ「………そもそもで言えば、お前が技だと思ってるその神力を纏う方法をミコはほんの数日のうちに習得したぞ?むしろお前が一年近くもかかったという話の方が信じられない。」


ヒデオ「………。」


 ヒデオ=セカイはただ固まった。何も言わない。表情も変化しない。ただ時が止まったかのようにじっと止まってる。


ヒデオ「はっ…、はははっ…、はははははっ!!!面白い冗談だな!この世界の中心で最高にして最強の俺ですら一年もかかったんだ。お前らなら一生かかっても習得すら出来ないようなことだ!ははははっ!」


 うん…。もうヒデオ=セカイもうっすら気付いてるよな。ただの虚勢だ。いくら馬鹿でも両腕をあっさり破壊された現状でもまだ自分の方が優れてるなんて本気で思ってるはずはない。


ミコ「じゃあ見せてあげるね。」


 ミコが軽く神力を開放して魔力を纏う。ヒデオ=セカイの方は人神仕込みなのか神力をそのまま纏っている。魔力を纏うミコとは纏うものこそ違うが技の性能に違いはない。


 魔力を纏った者と精霊力を纏った者でも量が同じなら効果は同じだ。差が出るのはあくまで纏う力の差があるからにすぎない。


 そして現時点でミコとヒデオ=セカイの神力量の差は千倍ってところか。ヒデオ=セカイが第十階位の下の方としてミコが第九階位の上の方ってところだろう。


 まだミコは全力を出していないのにこれだけの差なんだから、普通に考えてもうどうやってもヒデオ=セカイに勝ち目はない。


ヒデオ「ふんっ。何だそれは?俺の技の真似のつもりか?全然出来てないぞ!はははっ!」


 …どうやらヒデオ=セカイは魔力を纏ってる状態は自分の技を失敗してるからと思ってるようだな。


 もうどうでもいいか。どうせこいつはここで死ぬ。俺もミコももうこいつを許す気はないんだから助かる方法はない。


ミコ「ヒデオ君。最後の警告をしておくね?これ以上アキラ君に手出ししたりひどいことを言わないでどこか私達と関係のない所に行くのなら見逃してあげる。だけどこれ以上絡んでくるのなら次は容赦しないよ?」


ヒデオ「………なんでだよ?俺とミコは愛し合ってたんじゃなかったのかよ?何で彼氏の俺にそんなこと言うんだよ!」


ミコ「彼氏って?」


ヒデオ「学園に居た頃までは俺達付き合ってただろ?!」


ミコ「付き合ってなんてないよ?何度も断ったよ?」


 うわぁ………。ヒデオ=セカイってとことん悲惨な奴だな。まぁ自業自得だし勝手な思い込みや思い上がりが原因だから同情の余地はないけどな。


ヒデオ「なっ、何を…。え?いや…、違うだろ?俺達付き合ってただろ?」


ミコ「中学生の時にヒデオ君に告白された時に好きな人がいるから付き合えないって断ったでしょ?」


ヒデオ「その好きな人って俺のことだろ?あの時は部活や進学があったから今は付き合うのはやめようって意味だったんだろ?」


ミコ「違うよ。私が好きなのは昔からずっとアキラ君だもん。それに学園に進学してから告白された時もきちんとはっきり断ったよ?」


ヒデオ「あれは俺とミコが付き合ったらヒロミが可哀想だからヒロミに遠慮したんだろ?」


ミコ「どうして私がヒロミちゃんに遠慮して好きな人と付き合うのをやめなければいけないの?ヒデオ君の告白を何度も断って付き合ってないのは別にヒデオ君のことを異性として好きじゃないからだよ?」


ヒデオ「そっ、そんなわけない…。そうだ!そうだよ!周りの皆だって俺達が付き合ってるって言ってたじゃないか!な?俺達は付き合ってたんだよ!」


ミコ「どうして周りの人が勝手に作った嘘の噂通りにしないといけないのかな?私すごく迷惑だったよ。アキラ君があの噂を聞いて本気にしちゃったらどうしようっていつも困ってたんだよ?」


 あぁ…。もう駄目だ。やめとけヒデオ=セカイ。これ以上自分で自分の傷を拡げるな。もう俺が笑いを堪えられない。


 それにしても今回のミコは一切容赦がないな。一応ここでヒデオ=セカイが手を引くなら逃がしてやると言ってるのはやっぱり相変わらず甘い所だと思うがそれくらいならいいだろう。


 ミコはもうヒデオ=セカイを殺す覚悟が出来ている。ここで見逃してから後でまた襲ってきたら次は確実に殺すだろう。自分の行動の責任を自分で取るつもりならここで見逃しても俺はとやかく言う気はない。


 ミコがこれだけ幼馴染にも容赦がないのは俺にあんな暴言を吐いたヒデオ=セカイに怒っているからだ。それが少しうれしく思う。


ヒデオ「………黙れ。黙れ黙れ黙れえぇぇぇっ!!!俺が世界で最高で最強なんだ!俺が世界の中心なんだ!女は皆俺を好きになって男は皆俺の言うことを聞くんだ!聞けばいいんだ!俺の思い通りにならないお前達なんか手足を切り落として達磨にしてから犯してや………、えっ?」


ミコ「次に言ったら許さないって言ったよね?さようならヒデオ君。」


 またヒデオ=セカイが下品な言葉を言おうとした瞬間にミコは剣でヒデオ=セカイの首を切り落とした。ピュンと飛び上がった首はドスンと地面に落ちてゴロゴロと転がりちょうど立った向きで止まった。


 ヒデオ=セカイはキョトンとした顔をしている。何が起こったかわかってないんだろう。


ヒデオ「え?え?何だ?何で急にこんなに低く……?」


アキラ「あっちを見てみろ。あれがお前の体だ。」


 自分がどうなったのかまだ理解出来ていないヒデオ=セカイに声をかけて、頭がなくなり倒れた体を指差して教えてやる。


 ゆっくりそっちを見たヒデオ=セカイの表情が徐々に歪む。っていうかまだ生きてるんだな。しぶとい。


ヒデオ「何だっ…。何なんだよ?!あれは俺の体?じゃあこっちの俺は?……うっ。うわぁぁぁぁ!俺の!俺の体が!」


ミコ「ところで首を切り落とされて肺と繋がってないのにどうして声が出るのかな?」


 随分冷静だなミコ………。ヒロミ=ハカナを斬った時はあんなに泣いて落ち込んでたのに大違いだ。


アキラ「神力で傷口を覆い出血を抑えるのと声帯を振動させて声を出してるみたいだな。とは言えどの道もう長くない。」


ミコ「そっか。こういうことがあるなら切り落とすより頭を潰した方がいいのかな?」


アキラ「それはそうだが…。ヒロミ=ハカナの時と違って随分冷静だな?」


ミコ「それはそうだよ!だってアキラ君の手足を切り落とすとか、アキラ君をおか……とか、絶対許せないよ。」


アキラ「そうか…。俺のためにそこまで怒ってくれるなんてありがとう。」


 俺はそっとミコを抱き締めた。


ミコ「うっ、うん。アキラ君に抱き締めてもらえるなんて…。すごいご褒美だよ。」


アキラ「ミコの日の時にいつも抱き締めてるだろう?」


 ミコが優先の日はいつも手を握るし抱き締めるし添い寝もする。これくらいいつものことだ。


ミコ「んもう!してもらえるって決まってる時にしてもらうのとこうしてご褒美でしてもらえるのは違うんだよ?」


アキラ「そういうもんか?」


ミコ「そういうもんだよ。」


 ミコにとっては何か大きな違いがあるらしい。それならそれでいいだろう。俺がとやかく言うことじゃない。


ヒデオ「おいっ!俺を放置して何を二人で盛り上がってるんだ!」


アキラ「お前まだ意識あったの?」


ヒデオ「うるさい!くらぇ……ぐべっ…。」


 ヒデオ=セカイが口から何か神力の塊のようなものを発射しようとした所を後ろから踏まえれて完全に潰れてしまった。


 頭蓋骨は割れて脳みそがはみ出し、目玉も飛び出し顎も外れてるからもう死んでるだろう。仮に生きてても何も出来ない。


???「うふふっ。これで私が人間族の神を纏める最高の地位を得たということですわね。」


 ヒデオ=セカイの頭を踏み潰したのは露出の激しい服を着た女だ。格好はそこそこエロいけど顔はケバいし特に綺麗でも可愛くもない。


ミコ「ヒデオ君らしい最後だったね。」


アキラ「えっ!そこまで言う?ミコ変わりすぎだろ!?」


 俺の影響なんだろうけど俺の方が驚くわ。ミコも昔はこんな娘じゃなかったのに…。まぁどうでもいいけどな。


 それにしてもミコもこういう最後がヒデオ=セカイらしいと思っていたのか。さすがにミコでもあの勘違いっぷりには呆れていたんだろうな。


ミコ「アキラ君のせいで悪い娘になっちゃった。責任取ってね?」


アキラ「ああ…。うん。取るよ。………ん?っていうかもう取ってないか?」


 もう責任を取って嫁にしてる気がするぞ?


ミコ「くすっ。それじゃ私が悪い娘になっても嫌いにならないって約束してね?」


アキラ「ああ。それはもちろん。俺がミコを嫌いになるわけないだろう?」


ミコ「アキラ君。」


アキラ「ミコ…。」


 二人でギュッと抱き締めあい………。


???「いつまでやってんのよ!私を無視して良いと思っているのかしら?」


 ケバいババァが何か言ってくる。折角良い所だったのに邪魔をするんじゃない。


色神「私の名前は色神。人神に仕え、ヒデオ=セカイに仕え、ずっとこの時を待っていたわ。人神を殺して最高位になったヒデオ=セカイを殺したんだから私が最高位よね!あははははっ!」


 こいつらの権力争いや地位や序列についてなんて知ったことじゃない。でもそれよりさっきからこいつもヒデオ=セカイも気になることを言っている。


アキラ「さっきから人神を殺したって言ってるが本当なのか?」


 これは結構重要な事っぽいぞ。クロですら中々捕まえられなかった人神をこんな奴らが始末したのか?


色神「ええ。ヒデオ=セカイに殺されましたよ。そして私達はヒデオ=セカイの軍門に降った。ですがこうして私がヒデオ=セカイに勝ったのですから次は私が最高位です。おほほほっ!」


 あれで勝ったことになるのか?まぁこいつらがそれでいいならいいけど…。


 それよりもヒデオ=セカイが人神を殺したというのは中々信じ難い。けど案外現実なんてそんなものかもしれないな。死なないと思ってた奴でもあっさり死んだりするのが現実だ。


 まぁ俺達の方で確認が取れてない以上は完全に信用したりしないがな。もしかしたら死んだと思わせるための情報撹乱の可能性もある。


 『ヒデオ=セカイとその一派がそんなことを言っていた』という程度に記憶に留めておけばいいだろう。


アキラ「それで?お前らも俺の敵か?」


色神「当然です!我らは………、えっ?………ピュー。」


 俺に敵対の意思を示した瞬間ガウがここに居た神格を持つものか神になっている者を全員バラバラに切り刻んでしまった。色神と名乗った者も切られた喉から変な音を漏らしながら倒れてピクリとも動かない。


アキラ「おい…。ガウ…。」


ガウ「がう。」


 どうやらガウはさっきの露店の串焼きを食べられなかったから機嫌が悪かったらしい。表情が明らかに不機嫌だ。


アキラ「あのなガウ…。」


狐神「まぁまぁいいじゃないかい。こいつらに聞きたいことなんてなかったんだろう?」


 師匠が止めに入る。


アキラ「それはそうですけど、今回たまたま敵に用がなかっただけで次もすぐに殺してもいいとは限りません。甘やかして勝手なことをするようになったら困ります。」


狐神「う~ん…。それもそうだね。だけどガウだって機嫌が悪い時もあるさ。あまり頭ごなしに叱っちゃだめだよ?」


アキラ「わかってますよ。………それでガウ。どうしてまだ俺が話してたのにこいつらを殺した?」


ガウ「がうぅ…。こいつらはご主人の敵なの。」


アキラ「それはそうだ。そこは否定しない。だけどまだ話してたのに殺した理由にはならない。」


ガウ「がうぅ…。ごめんなさいなの。むしゃくしゃしてやったの。後悔はしてるけど反省はしてないの。」


アキラ「………おい。誰に聞いてそんな言葉を覚えたのか知らないが間違えてるぞ…。」


 後悔はしてるけど反省はしてなかったら駄目だろ。


アキラ「とにかく俺が話してる間に勝手に敵を殺しちゃ駄目だぞ。次にまたやったら今度は怒るからな?」


ガウ「がうぅ…。」


アキラ「返事は?それとも今回も怒られたいか?」


ガウ「がうっ!はいなの!」


アキラ「よろしい。それなら今回だけは許してやろう。」


 師匠が言うようにこいつらに聞きたいこともなかったし今回はこれでいいだろう。ただし同じことを何度も繰り返すなら俺は怒るけどな。


アキラ「それじゃ帰りましょうか。」


 俺達は何事もなかったかのように宿へと戻って行ったのだった。


 ………俺は最後に一瞬だけ振り返る。身から出た錆だがヒデオ=セカイは哀れな最後だった。心優しいミコにですら見捨てられるほどの自分勝手が招いた結果だが、もし万が一生まれ変われることがあったなら次はもっとまともに育って普通の人生を送れよ。


 それだけ心で考えると俺はもう瀬甲斐英雄のことを考えるのはやめた。




  ~~~~~ジェイド~~~~~




ムルキベル「………というわけです。」


 俺とシュラだけ呼び出されてムルキベル殿に話を聞かせてもらった。


シュラ「何やってんだあいつは………。」


 シュラは呆れた顔で額を抑えて頭を振っていた。それはそうだろう。俺も同じ心境だ。


ジェイド「とにかく俺とシュラで追いかけます。アキラにはそう伝えて下さい。」


ムルキベル「その必要はない。アキラ様はこれ以上この件に関わる気はないと仰せだ。この後この件がどうなろうとアキラ様は一切関知しない。」


 それだけ言うとムルキベル殿は部屋から出て行った。俺がシュラの方を見るとシュラも俺を見ていた。


シュラ「どうしやす?」


ジェイド「そう心配そうな顔をするな。アキラはシュリが態度を改めて頭を下げれば戻ってくることを許してくれるさ。」


シュラ「アキラ様の方は心配してませんがうちの馬鹿娘の方がね…。隊長にまでご迷惑をおかけしやす。」


ジェイド「気にするな。俺達もシュリの世話になってるからな。それじゃ後を追うぞ。」


シュラ「へい。」


 こうして俺はシュラと一緒にシュリを追いかけたのだった。



  =======



 気配も隠さず遠くにも行っていなかったシュリにすぐに追いついた。あるいは最初から見つけて欲しくてわざと近くでウロウロしてたのかもしれない。


ジェイド「シュリ。」


シュリ「ジェイドさん………。」


 シュリは目を真っ赤にして俯いて歩いていた。泣いていたんだろう。


ジェイド「どうしてこんなことをしたんだ?今からアキラに謝りにいこう。なっ?」


シュリ「もう無理ですよぉ~~~!!アキラさん本気で怒ってましたよおぉぉ~~!!!アキラさんが怒ったらどれだけ怖いかジェイドさんだってご存知でしょぅぅぅ~~!うわぁぁ~~ん!!!」


 シュリは大声で泣き始めた。シュリが悪いはずなんだけどこれだけ素直にわ~わ~泣かれると可哀想な気がしてくるから不思議だ。


ジェイド「とにかくここじゃ目立つからちょっと移動するぞ。」


 街中でわ~わ~泣くシュリに注目が集まってるからシュラと二人でシュリを連れて移動したのだった。



  =======



 まずは落ち着かせてから話を聞こう。


ジェイド「何ですぐにアキラに謝らなかったんだ?」


シュリ「だって…。売り言葉に買い言葉で…。勢いです…。」


ジェイド「それで?勢いで飛び出してどうなんだ?後悔してるのか?戻りたいか?」


シュリ「………それは、戻りたいですよ。」


ジェイド「本当に戻りたいならどうすればいいかわかってるだろう?」


シュリ「………アキラさんに謝って、許してもらえたら今度からは頑張って仕事をすることです………。」


ジェイド「わかってるじゃないか。それじゃ戻って謝ろう?」


シュリ「無理っ!無理無理です!アキラさんあんなに怒ってたんですよ!?ジェイドさんは見てなかったからそんなことが言えるんです!怖くてアキラさんの前にすら行けません!!」


 う~ん…。アキラがそんなに怒ってるとは思えないけどな。今までシュリはアキラに怒られたことがないから、ちょっと注意されただけでも怖くなってしまったんだろう。


ジェイド「わかった。それじゃ俺も一緒に謝るから。な?一緒に行こう?」


シュリ「ジェ…、ジェイドさぁ~ん!!!大好きです~!」


 顔を上げたシュリが飛びついてくる。いつもなら避けるところだけど今日は避けたら可哀想かな…。俺はそのままシュリを抱きとめた。


シュラ「隊長。うちの娘をよろしく頼みますぜ。」


 シュラはもう何か俺とシュリが結ばれたみたいなことを言い出した。………もしかして俺嵌められた!?そんな気がするほどの見事なコンビネーションだった。


 宿に戻ってアキラの所に行って頭を下げた。だけどシュリの心配を他所にこれからは頑張って働くって言ったらアキラはあっさり許してくれたのだった。



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