閑話⑲「アキラにまつわるetc.1」
私は落ち込んだ気分のまま森を歩いていた。この任務に出される前のことを思い出すとますます気分が悪くなる。
………
……
…
私は妖狐の里に七尾として生まれた。妖狐は尻尾の数が多いほど強い力を持ち偉大だと言われ慕われる。ただし最高の本数である九尾だけは『災いを呼ぶ者』として忌み嫌われる。
この里には最高でも七尾までしか生まれたことはなかった。私が産まれるよりも前に一度だけ九尾が産まれて大変な騒ぎになったことがあるそうだけど、九尾だからってそんなに大変なことなのかしら?
里では二種類の方法で階級分けがされている。一つは尾の数。未だかつてこの里では生まれたことのない八尾が最も上で本数が減るほど下になる。九尾は最下位どころか里から追放される。
そしてもう一つが生まれ。この里ではヤコの者、テンコの者、クウコの者と言われる三つの出自によって決まってしまう。ヤコの者は一番下で汚い仕事などをやらされる。テンコの者は真ん中で良くも悪くもない。クウコの者は最も上で里のことを決定するのはクウコの者達だけだった。
そしてこの出自は何があっても覆せないほど大きく重い。テンコの七尾である私でもクウコの一尾よりも下に置かれている。結局は尾の数じゃなくて出自で決まってるとも言えるのね…。
ただそれは発言権の問題であって能力の差じゃないのが救い。今妖狐の里には里が出来て以来初めて七尾が二人も同時に存在してる。
そしてその七尾は二人ともテンコの者。私クズノハと親友のコリだけ。もし万が一だけど争いになったら七尾が二人もいるテンコの者が勝つ。もちろんだからって私達が好き勝手に出来るってわけでもないけどね。
私達二人は七尾ということで里が始まって以来待望の八尾の子を産むかもしれないとして期待されていた。………そう。されて『いた』。
私は少し前に生まれて初めて子供を産んだ。相手は里からそう遠くない場所に住んでいた魔人族の男。尻尾さえうまく誤魔化せばほとんど変化の術を使わなくても良いワーフォックスの男を誑かした。
最初は別に愛していないはずだった。ただ子が欲しいから誑かしただけ…。皆が『最初の夫や子供は特別だと勘違いしやすいから気をつけなさい』と言ってくれても大丈夫だって答えて気にしてなかった。
それなのに私は皆が警告してくれていた通りになってしまった。彼を愛していると勘違いしてしまった。だから彼に自分も赤ん坊も妖狐だと教えた。
その瞬間から彼は豹変した。あれほど愛していると言ってくれていた彼は次の瞬間には私と赤ん坊を殺そうと襲い掛かってきた。結局皆の言っていた通りになってしまった私は赤ん坊を連れて里へと逃げ帰ってきた。
そしてクウコの者達は私の赤ん坊を見て愕然としていた。それはそう。何せ私は八尾を産めるかもしれないと期待されていたのに赤ん坊は二尾だったのだから…。
一人前と認められるのは三尾以上から。二尾以下は出来損ないと言われて里でもひどい扱いを受ける。尤もヤコの者は七尾でもテンコの者の一尾以下の扱いでしかないのだけど…。そしてテンコの者もまたクウコの者に対して同じ扱いを受ける。
ともかく八尾を期待されていたにも関わらず出来損ないの二尾であったとあっては里にとっても一大事になってしまう。
だから私の赤ん坊はクウコの者が選んだ者の監視付きで私共々里の外の小屋で暫く暮らすことになった。いつもオドオドして気の弱いヤコの者の一尾、トコと私と赤ん坊の三人の生活が始まった。
その生活に不自由はなかった。私の足なら里まで移動に時間はかからないから距離は問題ない。不在の間はトコが赤ん坊の面倒を見てくれるから赤ん坊も気にならなかった。
ただ里の人達に私の赤ん坊を隠すだけでそれ以外は何も変わらないと思っていた………。
だけどそうじゃなかった!私は赤ん坊から離れてはいけなかった!ううん。それとも里の人に隠さないで二尾でも堂々と里で育てればよかった。
そうすれば少なくともあんなことにはならなかったのに………。
私がある任務で家を空けている間に何者かに襲われたらしい。トコは川まで洗濯に出ていて近くまで戻ってきてから血の臭いに気付いて慌てて家の中を確認したって言ってた。
そこには無残に変わり果てた私の赤ん坊の姿があった………。私は直接その亡骸を見ていない。トコの報せを聞いて駆けつけたクウコの者があまりに損傷がひどいために私には見せないようにと先に荼毘に付したらしい…。
じゃあ本当は生きているかもしれない?ううん…。そんなことは絶対にないって言い切れる。なぜなら荒らされた家の中には明らかに致死量を超えている赤ん坊の血痕が残っていたから…。臭いでわかる。あの時の血は全て私の赤ん坊の血だった。
それに殺さずに連れ去る理由がない…。何故ならそれは………。
大まかに犯人は三つの可能性がある。一つは元夫。彼は私と赤ん坊が妖狐だと聞いてから殺そうと躍起になっていた。逃げ出した後も探していて偶然赤ん坊を見つけた可能性はある。彼はワーフォックスで鼻はそこそこ良い方だから………。
二つ目は本当にただの偶然。野盗とか野生の魔獣とかまったく私に関係のない者がたまたまあそこで赤ん坊だけが寝ている時にやってきた可能性もないとは言えない。
そして三つ目………。これは出来れば考えたくない。だけど一番可能性が高い気がしてしまう。それは妖狐の里の者が私の赤ん坊を殺した可能性………。
クウコの者達は私の赤ん坊の存在自体を隠したがっていた。だったら殺してしまえば一番確実だと思うかもしれない。それもその亡骸まで処分してしまえば私の赤ん坊だったかどうか、どんな赤ん坊だったかは証明しようがない。
八尾を期待されていた赤ん坊が出来損ないと言われる二尾だったのなら里に大きな動揺が出てしまう。クウコの者だけが知っていたということは………、クウコの者が私の赤ん坊をっ!!!
ううん…。トコはそのクウコの者に言われて私と赤ん坊に付いていた。だったら実行犯はっ………!
………駄目よ。そんなこと考えては駄目。何の証拠もないのにただ感情だけでそんなことを考えては駄目。でもだったら誰が?どうして?
わからない…。ただ一つだけ言えるのはどの可能性であっても赤ん坊を連れ去る理由はない。その場で殺してしまうのが一番確実だしそれが目的だったとしか思えない。
そんなことがあってまだ間もないというのに私はこうして任務で中央大陸までやってきている。それはまるで私を遠ざけている間に証拠を隠滅しているのではないかと思われるようなタイミングだった。
ううん…。駄目って言ったばかりでしょ。一人でいるとどんどん考えが悪い方へ進んでしまう。
クズノハ「―ッ!」
今生物の気配が一度に五つも消えた!この先に六つの生物が居たはずなのに一つを除いて残りの五つは消えた。おそらく残った一つが殺したのだとは思うけどどうやって戦ったのかも感じられなかった。
消えた気配の方はそれほど強い気配じゃなかったから多分この辺りに生息する魔獣だと思うけど、その魔獣をどうやって倒したのかでさえ私に悟らせないなんて只者じゃない。
私はこの先に用がある。迂回することも出来なくはないけど、私でも相手を感知している以上はこれほどの手練れだったら私の存在にも気付いているはず。
下手に迂回しようとして後ろや横から襲われる方が危険が大きい。それに敵をまいたつもりで私の向かっている先にまでついてこられたら大変なことになってしまう。
ここは敵の気配を見失わないうちに接近して確かめた方がいい。もし万が一だけど敵がこちらに気付いていなければそれから逃げる手もある。
そう決めた私は出来る限り気配を殺して敵へと接近してみた………のだけど、予想外の事態に遭遇した。
クズノハ「まさかさっきのもこの子が?」
残った一つの気配のところへと向かってみると籠に赤ん坊が寝ていた。この籠は確か…くーふぁん?って彼が言っていたかしら?とにかく赤ん坊を入れて持ち運ぶ籠に赤ん坊が一人で眠っている。
そうだ…。この子眠ってる…。周囲には何の死骸も血痕も争った形跡すらない。確かにここで五つの気配が消え去ったはずなのに…。
その赤ん坊には金の毛並の耳がついてる。獣人族の子供かな?中央大陸には獣人族もいるからここに獣人族の赤ん坊がいてもおかしくはない。
だけど周囲には親もいない。赤ん坊を忘れていくはずはない。親が襲われたにしては親の死体もない。捨てて行ったにしてもおかしい。私の気配感知に引っかからないほど前に置いて行った?だったら何故この赤ん坊はまだ無事なの?
………まさかこの赤ん坊がさっき気配が消えた原因?まさかという思いとそれしかないという考えがぶつかる。答えを出せない私は赤ん坊を覗き込んでみた。その瞬間………。
………目が合った。この赤ん坊は泣きもせずにただじっと私を見つめていた。
クズノハ「さっき魔獣を殺したのはあなたなの?」
???「………。」
赤ん坊は答えてくれない。ただじっと金色の瞳で私を見つめ続けている。
クズノハ「あなたはどこの子供なのかしら?ご両親は?」
私は話かけながら恐る恐るその赤ん坊を抱き上げてみた。その赤ん坊は愚図りも嫌がりもせずただじっと私を見つめたままされるがままになっている。
やっぱり気配が消えたのはこの赤ん坊のせいじゃない?でなければ私も何かされているはず………。
クズノハ「………ぇ?うそっ!これって………。」
赤ん坊を抱き上げるとお尻の辺りがやけにモコモコしていた。もしかして粗相をしているのかと思ったけど違った。
この赤ん坊には尻尾がある。それは別におかしくない。だって獣耳が付いているから…。だけど抱き上げてみてわかった。この赤ん坊の尻尾は一本どころじゃない。たくさん生えている。
獣耳が生えている者は色んな種族がいるけど尻尾が複数あるなんて妖怪族しか知らない。妖怪族には何種類かいるけどこんな見た目だとすれば猫又か妖狐くらいかもしれない。もちろん私の知らない妖怪族でこんな姿の者もいるのかもしれないけど…。
この赤ん坊の瞳は縦に細い。耳も薄い…。じゃあ猫又?そう思って尻尾を確かめてみた。嘘………。猫又は尻尾が二本よ…。この子尻尾が九本もある!
………九本?九尾?………九尾の狐?
嘘よ…。何でこんなところに九尾の狐が?ううん。何尾であってもそもそもなぜ妖狐がこんなところに?駄目だわ。頭が回らない。とにかくどうすれば………。
???「う~。」
クズノハ「え?」
抱いていた赤ん坊は悩んでいる私の頭を撫でてくれた。首の上の方だけどきっとこれは頭を撫でてくれようとしたんだと思う。
じっと赤ん坊を見つめると赤ん坊もまた私を見つめていた。
クズノハ「ふっ…。あはっ!あははっ!そうよね。何を悩むことがあるのかしら?あなたは妖狐で私の仲間。そして私はほんの少し前に赤ん坊を失ったばかりの妖狐。だったら答えは一つしかないわよね。」
???「あ~。」
この赤ん坊も答えるように声を出した。
そうだわ。この子を私の子として育てる。それがいいわ。そうしましょう。里の者達は私が里に子供を連れて来ないことを多少なりとも不審に思っていた。だったらこの子を私が産んだ子として連れていけばいい。
前の子の時はクウコの者達にしか見せなかった。もちろん呼ばれて案内されたから素直に従っただけだけど里で誰にも会わないように気をつけていたのがおかしかった。
だからあんなところへ追いやられることになって暗殺されてしまった…。ううん。それは証拠はなかったわね。だけどとにかくあんな場所に隠されていたせいで何者かに襲われて死んでしまった。
里で皆の前で暮らしていれば暗殺者もおいそれとは手が出せなかったはずよ。もし本当に外部の者が殺したのだとすれば妖狐の里で暮らしていれば襲われることはなかった。
内部の者だったとしても皆の前で暮らしている子供が里の中で殺されたとあっては大騒ぎになる。だから簡単には殺せない。
クウコの手の者が殺したかどうかはともかく隠されていればそれだけ危険が増してしまう。人目につく場所なら誰もそう簡単には手を出せない。
クズノハ「さぁ…。それじゃいい?これから私があなたのお母さんよ。」
???「うぅ。」
まるで頷くように返事をしてくれた。もしかしてこの子本当にこっちの言っていることがわかっているのかしら?
クズノハ「とにかくあなたのことが何かわかるものはないかしら?ちょっとこの籠漁るわね。」
赤ん坊を片腕で抱いてこの子が寝かされていた籠を調べる。布が敷いてあるだけで特にこれと言って特別な物はなかった。
結局今着ている服と籠と敷いてある布しかない。だけど一つだけわかった。この子が入っていた籠には名前を彫った木の板が貼り付けてあったから…。
クズノハ「共通文字?珍しいわね…。アキラ=クコサト?あなたの名前はアキラ=クコサトなのかしら?」
アキラ「あ~。」
どうやらこの子はアキラ=クコサトっていう名前のようだった。私はアキラを連れたまま中央大陸での任務を終えて妖狐の里へと帰ったのだった。
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連れて帰ることにしたのはいい。だけど一つだけ問題がある。この子の出自は問題ない。クウコの者達は本当の私の赤ん坊のことは他の者達に知られたくないはずだ。
だからこの子を皆の前で私の子として披露すれば『お前の本当の子供は二尾だったし殺されたじゃないか』とは口が裂けても言えない。
問題なのはこの子が私の子であろうとなかろうと尻尾を確かめられるということだ。里の者達は必ず子供の尻尾を確かめる。だからこの子が九尾だとすぐにバレてしまう。
今から千八百年以上昔に一度だけこの里で九尾の子供が産まれたことがあるらしい。その子供は最低限生きていけるかもしれない五十歳までは里で生活させてもらえたけど、五十歳になると里から追放されたらしい。
普通に考えたら五十歳で一人里を放り出されたら生きていけるはずなんてない。百五十歳の子でも里を追放されたらそう遠くないうちに死んでしまうだろう。
狩りをすることは確かに問題ない。だけどたった一人じゃいつ襲われるかわからない。四六時中何かが自分の命を狙っていてゆっくり休める暇もない。そんな生活じゃ成人でも中々苦しい生活をすることになる。
だけど里も決して楽園じゃなかったと思う。今の私達でもひどい階級と扱いに苦しんでいる。それがもしヤコの者の一尾よりさらに下の者なんていればきっと生きていくのが辛かっただろうと思う。
出来れば一番良いのが九尾でも仲間として迎え入れてもらえるように説得すること。それなら堂々と暮らしていける。だけどそんな方法なんて思いつかない。
だったらその次の策は九尾であることを隠すしかない。だけど隠すって言ってもどうやって隠せばいいのかわからない。
尻尾の数で色々と重要なことが決まるこの里ではどんなことがあっても絶対に尻尾を確かめる。例え変化の術で誤魔化そうとしたって調べられたらすぐにバレてしまう。
どうしよう…。どうしたら………。ここに来るまでずっと考えていたけど結局未だに良い案は浮かばない。
あまり里に帰るのが遅くなってもまずい。何とか方法を考えないと………。
クズノハ「どうしよう?」
アキラ「う~。」
アキラはまるでそのまま里へ向かえと言ってるような気がした。
クズノハ「いいの?もし九尾だとバレたら五十歳で里を追放されちゃうのよ?それにきっと生きているのが辛くなるほどの苦しい思いをすることになるわ。それでもいいの?」
アキラ「う~。」
この子は…。……嘘をついて誤魔化すよりありのままであれ。まるでそう言われたような気がした。
それは私の赤ん坊を死なせてしまったことを言われている気がした。あの時私がクウコの者に言われるままに子供を里の者から隠すような真似をしていなければ、あの子は死ぬことはなかったかもしれない。
クズノハ「わかったわ。それじゃ行きましょう。」
覚悟を決めた私はアキラを抱いたまま里へと帰っていった。
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赤ん坊を抱いている私を見て里の皆が寄ってきた。クウコの者で事情を知っている者以外は皆私の子供だと思ってる。
ノコ「ハクゾウス様がお待ちだ。お社へ。」
皆が私の子供を見たいと囲んでいたけどハクゾウス様付きのクウコの者であるノコがお社へ来るように催促してくる。
ハクゾウス様はクウコの者の中で最も高位の方が代々その名を引き継いでいる。そしてそのハクゾウス様に付いている者は実質的にクウコの者の中で第二位の立場だ。
この二人は最高位の権力者で当然私の本当の子供のこともわかってる。だから私が抱いてるアキラを苦々しい顔で見つめていた。
この子をどうやって処分しようかと考えてるのが見え見えだった。だけどお生憎様。もう皆の前でお披露目してしまった以上はそう簡単には処分できなくなってしまった。
………そう。この子が九尾でさえなければ………。
そんなことを考えているとお社に着いてしまった。もうここまで来たらなるようになるしかない。覚悟を決めた私はお社へと入っていく。
ハクゾウス「そなたの子は死んだ。その子はどこから連れてきた?誰の子だ?」
ハクゾウス様のしわがれた声が聞こえる。妖狐がここまで老化していてはもうそれほど長くないと思う。
クズノハ「この子は私の子ですよ?」
ノコ「ふざけるな!お前の子供は我々が荼毘に付したのだ!それにそんな姿ではなかった。」
クズノハ「こういう可能性はありませんか?前の子こそ偽者であったのだと…。あなた方の対応を見るために前の子こそ偽者でそれを連れてきてあなた方の本心を確かめた。そしてそれがわかってから本当の子供であるこの子を連れて来た。どうです?」
ノコ「なっ!………そんなはずはない!」
ノコが動揺してる。もしかしてこのまま私の子で押し通せるかしら?と思っていたけどさすがにそんなに甘くはなかった。
ハクゾウス「その子はそなたの子供ではない。匂いが違う。血が違う。姿が違う。どんな混ざり方をしようと妖狐とワーフォックスの間に猫など産まれまい。」
さすがはハクゾウス様。そう簡単には騙せない……か…。
クズノハ「ええ。この子は私がお腹を痛めて産んだわけじゃありません。ですがこの子は私の子として育てます。もう里の皆もこの子が私の子だと思っていますよ。この子が私の子じゃないとどうやって説明なさるおつもりですか?前の私の子供は暗殺されてもう死んだのだと言いますか?」
私は二人を睨みつけながらそう言い切った。
ハクゾウス「………。」
ノコ「なんだと!」
ノコは声を荒げたけどハクゾウス様はまるで動揺がない。ただ静かに私を見つめていた。
ハクゾウス「それではその子をそなたの子としよう。さぁ。それでは尻尾を見せよ。」
ノコ「そんなっ!」
ハクゾウス「他に方法があろうか?はやくいたせ。」
ノコ「はっ…、ははっ!」
ノコはまだまだ納得していないようだったけどハクゾウス様は思ったよりもあっさり引き下がった。どうして?
ノコ「………ん?やけに尻尾が短いな…。それに何か多い?………あっ!ああっ!こっ、この子は九尾です!ハクゾウス様九尾です!」
ハクゾウス「………五十歳まではこの里に滞在することを許す。これより五十年後に里から追放する。良いな?」
またしてもハクゾウス様は動揺することなく淡々と進めていく。まさかこの子が九尾だと気付いていた?いいえ、そんなはずはないわ。尻尾の数を確かめる方法は直接見るしかない。妖力や血を見てもわかるはずない。
クズノハ「………ありがとうございます。これから五十年間はこの子を私の子として育てます。それでは…、失礼いたします。」
私はそれだけ言うとお社を出ようとした。ノコはまだ何か言いたそうにしていたけどハクゾウス様が止めた。
ハクゾウス「クズノハ…。九尾を里に招き入れた罪によりそなたはこれからヤコの者とする。」
クズノハ「………ありがとうございます。」
ハクゾウス「………。」
私は振り返らずに一言だけ礼を述べてこの場から立ち去った。位が落ちたことなんてどうでもいい。そんなことで私の価値は変わらない。私はこの子を立派に育てる。
皆のもとに戻るとまた囲まれた。その時は気付かなかった。ある者が物凄い目で私とアキラを見ていたことを………。
そして子供と言えば避けて通れない話題へと進んだ。
コリ「これがクズノハの赤ん坊?可愛いわね。………それでこの子は何尾なのかしら?これだけ秘密にされていたんだからもしかして…八尾?」
親友のコリがアキラを覗き込みながら聞いて来る。これは極当たり前のこと。妖狐は生まれと尻尾の数でほとんど全てが決まってしまう。
だからどんな子供でも必ず尻尾が確認されて里に住む者全員に周知される。避けては通れない。
クズノハ「コリが確かめていいわよ。」
アキラを抱いているコリに許可を出す。
コリ「本当?それじゃ確かめるわね。………尻尾が多いわね。まさか本当に八尾なんじゃ………。」
コリは真剣な表情でアキラの尻尾を確かめる。
コリ「………ぇ。ちょっと、ちょっと待って!この子尻尾が九本ある!九尾よ!」
その瞬間周囲にいた里の人達は『きゃー』とか『いやー』と悲鳴を上げながら逃げて離れていった。
この日から五十年間続くアキラの地獄の日々が始まった。




