第九十三話「キュウにプロポーズ」
アキラ「さぁ帰りましょう。」
もうこの場の収拾を諦めた俺はさっさとこの場から離脱することにした。
ロリベア「おっ嬢っさんっ、おっ待ちっなさい。」
巨大な黒いマリモがいやらしい感じに目尻を下げつつ近づいてくる。碌でもない予感しかしないが一応聞くだけ聞いてみることにした。
アキラ「何か用か?」
ロリベア「封印を解く協力をしたんだからパンツを見せてください!」
ロリベアは真面目な顔でそう言い放った。よし、殺そう。
狐神「ちょっとお待ちよ。ぱんつくらい見せてやったらどうだい?」
師匠がロリベアを殺すことに決めた俺の肩を掴んで止める。
狐神「う~ん…。それじゃはいどうぞ!」
クロ「うわっ!何すんだよ!」
師匠はクロのズボンを下ろした。クロの子供用のパンツが顕わになってしまった。
アキラ「………なるほど。確かに誰のとは言ってませんもんね………。でもそれはさすがにクロが可哀想じゃないですか?」
狐神「いいじゃないかい。クロなんてこんなもんだろう?」
いいのか?まぁいいか。
クラマ「ふぅむ………。これはこれでありか………。」
おいっ!クラマ!そっちへ行くな!ショタの扉まで開くんじゃない!
ロリベア「このショタっ娘共がっ!」
ロリベアは赤い色に染まっていやらしい感じに目尻が下がってる。…うん。お前ならなんでもいけそうな気もしたよ。だけどお前仮にもロリベアなんて名前なんだからアイデンティティは失くすなよ……。
アキラ「もう見せたからいいな?それじゃ帰るぞ。」
これ以上この変態共と一緒にいたくない俺はさっさと切り上げてこの場から逃げ出したのだった。
=======
シルフィードへと戻ってきた俺はまず〝飯綱構え太刀の術〟を解除した。もう狂った元素が溢れてくることはないのでこの術で元素の流れを変えておく必要はないだろう。
先代シルフィ「………本当に収めちゃったんだ。」
先代シルフィはこっそり俺の肩に乗りながら狂った元素が収まった禁忌の地を感慨深そうに眺めていた。
アキラ「っていうかそんな軽い感じでいいのか?普通もっと色々思う所があるはずじゃないのか?」
歴代風の精霊王達はほとんどの時間をこの中で狂った元素を鎮めるためだけに過ごしていたはずだ。実際この場にいるほとんどの風の精達は複雑な表情をしている。
それなのに先代シルフィだけ妙に軽いというか明るいというか…。少々他の者とは感性が違うようだ。
先代シルフィ「私は別にここのことも嫌いじゃなかったからね~。もちろん色々大変なこともあったし怖い思いもしたけど今となってはそれも思い出だしね。」
ニコッと笑いながら先代シルフィはそう言った。強がりで言ってるわけじゃない。本当に過去のことは過去のこととして吹っ切っている顔だ。
アキラ「ポジティブなんだな。」
先代シルフィ「でっしょ~?どう?こんな良い娘なかなかいないよ?お嫁さんにしない?」
アキラ「しない。」
先代シルフィ「即答!?」
何でそこまで俺の嫁になりたがるのか…。何でも風の精…、というかほとんどの精霊族は恋愛結婚などしないのでそういうことに憧れがあるらしい。
シルフィードを救った救国の英雄と元女王。そういうシチュエーションもかなり先代シルフィの琴線に触れるらしい。
アキラ「好きでもない相手にシチュエーションだけで惚れた気になっても幸せにはなれないぞ。」
地球でもその場の雰囲気や勢いだけで大して好きでもない相手を好きと勘違いしたまま結婚してすぐに離婚する奴が最近は多い。
就職や結婚にある程度勢いなども必要なのはわかるが、ただ見た目がいいからとか周りにモテている相手だからとかそんな理由で安易に結婚してすぐ離婚する奴は知能が足りなさすぎるだろう。
そしてそういう者ほどすぐに違う相手とまた結婚して連れ子が邪魔になり殺したりする。安易で短絡な思考しか出来ない者はどこまでいっても短絡なままだ。
先代シルフィ「別にシチュエーションに酔ってるわけじゃないってば。ただあなたのことが好きかもしれないからそれを確かめるためにも付き合ってみてって言ってるだけよ?」
エアリエル「まぁ!それならば私も加えていただけますでしょうか?」
エアリエルまで混ざりだした。
シルフィ「何を言っておられるのですかエアリエル様!……フーッ!フーッ!エアリエル様を誑かすなんて許しませんよ!」
シルフィがふーふーと猫のように俺を威嚇しながらエアリエルの前で両手を広げている。
アキラ「だから誰も加えないって言ってるだろ………。」
狐神「全員愛妾にすればいいじゃないかい。」
アキラ「師匠…。これ以上ややこしくしないでください………。」
何とかその場をやりすごして今日もシルフィードに泊まることになった。禁忌の地が鎮まったということで風の精霊総出で宴会が催されたのは言うまでもない。
=======
翌日俺達はすぐに旅立つ。
エアリエル「もう行かれるのですか?」
アキラ「ああ。他にもすることがあるんでな。ここの問題は解決した以上ここでゆっくりしているわけにもいかない。」
エアリエル「そうですか………。それでは………。」
エアリエルが神妙な顔で近づいてくる。俺はただ黙ってそれを見届けた。
チュッ
………。
アキラ「おい………。急に何をする………。」
エアリエルは俺の頬にキスをした。まさかそんなことをするつもりとは思ってなかったのでされるまで俺は黙って見過ごしてしまった。
先代シルフィ「ああっ!ずるいわよエアリエル!私も!私も!」
先代シルフィまで俺にキスしようと飛び掛ってくる。まさかエアリエルがそんなことをするとは思ってなかったから止めることなくあっさりキスされてしまったが、キスしようと迫ってきている相手にただ黙ってされるような俺ではない。
先代シルフィ「何で私のは避けるのよ!」
アキラ「エアリエルにされたのは、まさかエアリエルがそんなことをするとは思ってなかったからだ。キスされるとわかっていたならエアリエルにだってさせていない。」
シルフィ「エアリエル様っ!なんということを!火の精霊王様どういうことですか!」
シルフィまで俺に突っかかってくる。もう駄目だ。収拾がつかない。
狐神「だから皆愛妾にしたらいいじゃないかい。」
アキラ「しません。今俺が欲しいのはキュウとクシナだけです。それ以上増やす気はありません。」
キュウ「きゅうきゅうっ!アキラさぁん!」
クシナ「わっ、私は別に…、貴女のお嫁さんになるなんて……。」
狐神「それは嫁の話だろう?愛妾なら好きなだけ増やせばいいんだよ。」
エアリエル「ふふふっ。火の精霊王様にキスしてしまいました。」
エアリエルは一人トリップしている………。駄目だな。収拾をつけられる者がいない。そのあと何とか二人のシルフィをかわしてシルフィードから旅立ったのだった。
=======
シルフィードから出発した俺達は一度ザラマンデルンへと寄る。
ポイニクス「ママおかえりなさい。」
空中でペコリとお辞儀して俺を迎えてくれたポイニクスが可愛い。
アキラ「ポイニクスおいで。」
ポイニクス「はいっ!」
満面の笑顔になってポイニクスは俺の胸に飛び込んできた。
ムルキベル「また私は女型になっているのですが………。」
ムルキベルがおずおずとそう言ってきた。シルフィードを出発する時には男型に戻っていたはずなのにまた女型になっている。
シルフィードを出発する時に俺は男としてキュウとクシナが欲しいという気持ちになっていた。だからムルキベルが男型に戻った?では今はポイニクスを見て母性本能に引っ張られて女寄りになったからムルキベルも女型になった?
そう考えればタイミングや辻褄は合うが断定するほどの根拠はない。………なんてな。俺が認めたくないと思っているだけで実際そうなのかもしれない。
アキラ「………数日だけここで滞在しよう。その後はまた旅に出る。ムルキベルも連れていくぞ。」
イフリル「かしこまりました。」
イフリルにそう告げて俺は自分の部屋へと向かった。
=======
すでにザラマンデルンに滞在するようになって二日が経過している。その間に特に変わったことは何も起こっていない。強いて言えばムルキベルの体型がたびたび変化していることくらいだがそれはいつものことなのでわざわざ言うほどのことでもない。
今は俺達専用のリビングで寛いでいる。部屋にはキュウしかいない。他の皆は色々とすることがあると言って出かけている。
折角の機会なので俺はキュウを口説くことにした。………ただこんなに誰もいないなんて師匠がわざとこうなるように仕向けた気がしないでもない。でもそれは俺にとっても好都合なので師匠の策に乗っておくことにする。
まず俺はキュウが座るソファの隣に腰掛ける。そしてキュウの手を握り締める。
アキラ「キュウ…。」
そうしてからキュウを見つめてその名を呼ぶ。
キュウ「きゅう?どうかされましたかぁ?」
キュウが小首を傾げて不思議そうに俺を見つめ返す。ああもう!可愛いなぁ!
アキラ「俺はキュウのことを愛している。あんなにたくさんの妻がいる俺でもよかったら俺の妻になってくれ。」
キュウ「………。」
あれ?何も返事をしてくれない。キュウはただじっと俺を見つめたまま止まっている。
キュウ「きゅうきゅうきゅうっ!アキラさぁん!私も~、アキラさんのことを~、愛していますぅ~~~!!」
しばらく呆然としていたキュウは意味が理解できると俺に抱き付いて来た。俺もキュウを抱きとめる。
アキラ「―ッ!」
キュウ「きゅうっ!」
その時俺とキュウの心が繋がった。こんなにあっさりと…。今までの苦労は何だったのかと思うほどあっさりだ。
だが本当はそんな簡単なことだったわけでもない。俺が自分の気持ちに素直になってキュウに想いを伝えたというのは簡単なことだが、あっさり魂が繋がったのはキュウがずっと本気で俺を愛してくれていたからだ。
そのキュウの想いが流れ込んでくる。キュウはこんなにも俺のことを愛してくれていたんだ。それは決して他の嫁達に劣るものではない。
アキラ「キュウ。好きだ。愛してる。もう離さない。」
感極まった俺はキュウをぎゅっと抱き締める。
キュウ「きゅうきゅう!アキラさぁん!」
その時ガチャリと扉が開いて師匠が部屋へと入ってくる。他の嫁達も扉の前で遠慮がちに立っている。戻ってきた嫁達が扉の前で聞き耳を立てていたのは知っていた。だけど俺はそのままキュウに告白した。
アキラ「皆も入っておいで。」
まだ少し遠慮がちに入ってくる嫁達も順番に抱き締めて耳元で愛を囁いたのだった。
=======
俺がようやくキュウと結ばれてからムルキベルも男型に戻っている。今日はキュウが俺と魂が繋がったお祝いとして二人っきりでデートするようにと他の嫁達に言われた。
火の国は活火山の中でデートするような場所もないので俺はキュウをお姫様抱っこして二人っきりでアクアシャトーの湖までやってきた。
キュウの先祖と昔の俺の思い出の地も兎人種の村の近くの湖だった。キュウの先祖とは結ばれなかったが子孫であるキュウと結ばれたので俺はあえて綺麗な湖へとやってきたのだ。
キュウ「ここはぁ~、村の湖より~、綺麗ですねぇ~。」
キュウは胸元で両手を組んでアクアシャトーの湖を見て感動していた。
アキラ「ここは水の精霊達が管理しているからな。他の湖より汚かったら水の精霊の沽券に関わるだろう?」
キュウ「そうですねぇ~。」
キュウはクスクスと笑っている。水面に反射した光がキラキラとキュウを輝かせてより一層キュウの美しさを際立たせている。
キュウ「えぇ~い!」
少し間延びしてあまり気合が入っているとは思えない声を上げながらキュウは俺に湖の水をばしゃばしゃと飛ばしてきた。
避けるとか、神力でガードするとか、魔法や精霊魔法で飛んできた水を操ってかからないようにするとか濡れないようにする方法はいくらでもあるがそんな無粋な真似はしない。俺は無防備にキュウが飛ばした水滴に濡れる。
アキラ「お返しだ。」
俺も軽く手を湖につけてバシャバシャとキュウに水を飛ばす。
キュウ「きゅうきゅう!」
こうしてしばらくキュウと水の掛け合いをして遊んだのだった。
=======
しばらくバカップルよろしく水辺でパチャパチャと遊んでいたが、そろそろ昼ご飯の時間なので魔法で水分だけ動かして体を乾かしてから湖の畔でご飯を食べることにした。
二人で昼ご飯を食べているとある者が俺達に近づいてきていた。
ウンディーネ「………婿殿。ティアというものがありながらこれは一体どういうことでしょう?」
ここは水の精霊の本拠地だからな。恐らく周囲を見回っていた水の精から報告でも入って見に来たのだろう。まさかウンディーネが直々に来るとは思っていなかったが………。
アキラ「ティアが嫁いで来る前から俺は大勢の嫁を持っていた。それがわかっていながら俺に嫁いで来たのだろう?」
ウンディーネ「………。」
ウンディーネはじっと俺を見つめる。
ウンディーネ「ふふっ。どうやらティアは大事にされているようですね。安心しました。」
真剣な表情で俺を見つめていたウンディーネは表情を崩してそう言った。どうやら俺は試されていたようだ。
アキラ「今ので俺がティアを大事にしていると言えるのか?」
ウンディーネ「それはそうでしょう?婿殿はそちらの女性を大事にされている。つまり妻を大事にする者ということです。そしてティアのことも嫁いで来たと言いました。ティアが勝手に言っているだけではなく婿殿もティアを妻と認めているということです。」
ウンディーネは穏やかな笑みを浮かべたまま続ける。
ウンディーネ「ティアは良い夫に恵まれましたね。わらわも昔を思い出します。婿殿達がここで戯れる姿を見て懐かしい気持ちになりました。」
本当に穏やかになった。最初に会った時のウンディーネはただのヒステリックババァだと思っていた。しかしこうして話していると穏やかな女性だと感じる。
なぜこうも変わったのか。それは俺の力に恐れをなして軍門に降ったからでは決してない。ティアの夫になったからでもない。
ウンディーネとて本当はこういう人物だったのだ。ならばなぜ俺達と最初に会った時はあれほどヒステリックだったのか。
もちろん初対面の相手と何度も会って打ち解けた相手とで対応が違うのも当たり前ではある。だがそれだけじゃない。
初対面の時にあんな対応だったのは戦争の真っ只中にあったこの世界において自国と自国の民を守るためだ。他国の、それも他種族の者になど弱味は見せられない。
もし弱味を見せようものならばたちまち他国に占領されてしまう。そんな時代に生きてきたからこそあんな態度だったのだ。
だが戦争が終わってすぐ目の前の脅威がなくなればこれほど穏やかな淑女に変わる。いや、こちらこそが本性なのだろう。
アキラ「ティアの母親だけあって美しい。普段からその穏やかな性格ならばさぞモテるだろうに…。」
ウンディーネ「なっ、なっ、なっ、なんということをぉぉ~~~!!!」
ウンディーネは真っ赤になって飛んで逃げていった。………ティアもこんなことがあったな。ティアの場合は俺の胸の中に逃げ込んだが………。やはり母娘は似るらしい。
=======
その後もアクアシャトー周辺でキュウと散々イチャイチャしてきた俺達は夕飯に間に合うようにザラマンデルンへと帰って来た。
狐神「楽しかったかい?もっとゆっくりしてきてもよかったんだよ?」
キュウ「とぉぉっっっってもぉ~、楽しかったですぅ~。」
ミコ「お話聞かせてほしいな。」
フラン「私も興味があります。」
女性陣はワイワイとキュウの周りに集まりどこへ行ったとか何をしたとか根掘り葉掘りと聞いていた。ただ野次馬根性で聞いているわけではなく女性にはそういう話を聞きたがるところがある。
ブリレ「それより主様。ボク達とのデートもちゃんと考えておいてね。」
ブリレが俺の腕に抱きつきながらおねだりしてくる。人によっては『家来で愛妾の分際で主に向かって何を偉そうに!』なんて思う人もいるのかもしれない。でも俺は違う。一言で言おう。可愛い。俺に甘えてきて可愛くて仕方がない。
アキラ「わかってるよ。ちゃんと考えておくから。」
こうして新しい嫁を加えて嫁達と愛妾達とイチャイチャしながら数日間をザラマンデルンで過ごしたのだった。
=======
そして翌日、俺の出立の式典が催されて俺達は旅立った。ポイニクスと別れの挨拶をしたが今では空間移動でいつでも会いに来れるし止める理由もないので会いたければいつでも来るようにと伝えてある。だからそんな湿っぽい雰囲気にもならずお互いに笑顔で手を振って別れたのだった。
早々に西回廊を渡って北大陸へと戻ってきた俺達は少し記憶のルートから外れてパンデモニウムへと寄ることにした。
もちろんマンモンに会うためなんかじゃない。別に言わなくても問題はないだろうがヴァルカン火山の龍神の封印を俺達が解いてしまうのでそのことを言っておこうというわけだ。
それ以外にも小さくなったクロを見せて反応を見てみたいとか、一応はマンモンもいれば会ってやろうとかいくつか理由があってのことではある。
パンデモニウムの門の前へと辿り着いた。しかし何やら騒がしい。門番に話を聞こうと近寄ってみたら槍を向けられた。
門番A「止まれ!それ以上近寄るな!一体何の用でここへやってきた?」
随分物々しい雰囲気だ。何か問題があったとしか思えない。
アキラ「サタンに会いに来ただけだ。この物々しい雰囲気は何だ?何か問題があったのか?」
門番A「サタン様を呼び捨てにするとは怪しい奴め!皆出て来い!怪しい奴が来たぞ!」
門番Aの声を聞いて屯所からぞろぞろと兵達が出てきた。誰も俺達に気付かない。どうやら俺達のことを知らない者ばかりのようだな。
アキラ「こいつは黒の魔神だ。」
そう言って俺はクロを抱き上げてそいつらに見えるようにした。他の者達でもわかっていた通り例え姿形が変わっていようとも神はその名を言われた状態でそいつを見ればそれがその神だとすぐに認識出来る。
クロを見た門番達はすぐに黒の魔神だと認識したようだ。
門番B「こっ、こっ、これは黒の魔神様!ははぁっ。」
門番達は一斉にひれ伏した。
クロ「おう。よくわかってるみたいだな。感心感心。」
子供になっているクロは少し頭も残念な感じになる。門番達がひれ伏したのを見て良い気になって胸を逸らしてふんぞり返っている。
門番C「こんな時に黒の魔神様が来られたのは天の配剤に違いありません!さぁ城へご案内いたします。」
クロ「うむうむ。苦しゅうない。」
何かクロは変な感じになってるな。意味はわからずそれっぽい言葉を言いたがる子供のような状態だろうか。
クロのことはいいか。ともかく俺達は門番に連れられてパンデモニウムの中にある城へと案内されたのだった。
=======
城に入った俺達はすぐに謁見の間へと通された。しかし謁見の間に入ると玉座に座ったサタンは少しポカンとした顔をしていた。
サタン「アキラ殿…。黒の魔神様も一緒に参られたと聞いておるが…?」
どうやらサタンはクロを見ても黒の魔神とは気付かないようだ。それは何もおかしなことじゃない。名前を言われてその対象を見ればそれがその神であるとわかるが、今クロは名乗っていないのでただの子供にしか見えない。
門番達も俺が黒の魔神だと言ってから見せたからわかったのであって、それまでまるで気付いていなかったことと同じだ。
アキラ「こいつが黒の魔神だ。」
俺はまたしてもクロを抱き上げてサタンによく見えるようにしながら教えてやった。
サタン「………。そちらが黒の魔神様であることはわかったがなぜそのような姿に?」
サタンの疑問は尤もだろう。俺が何か吸い取って取り込んでしまったからこんな姿になってしまいましたと言ってしまいたいところだが、それを言っても大丈夫だろうか?
『よくも黒の魔神様をこんな目に!』とか言って襲われたりはしないだろうか…。もちろんこいつらに襲われようが敵対しようが俺達には何の問題もないが、実際クロをこんな目に遭わせてしまったのは俺の責任なので、それが原因でこいつらと争ってこいつらを皆殺しにするのは忍びない。
俺がそんなことを考えていると俺に抱っこされたクロが口を開いた。
クロ「アキラと繋がったらこんなことになっちまった。でもお陰でアキラと繋がってるからいい!」
サタン「はぁ?黒の魔神様がそう言われるのでしたら………。」
サタンはいまいちよくわかっていないようだがクロがこれで良いと言っているのでこれ以上追求しないことにしたようだ。尤もクロのあの拙い言葉でわかったらそれはそれで驚きではあるのでサタンは何も悪くはない。
アキラ「そんなことより何かあったのか?門番達も俺達の話も聞かずに武器を向けてきたぞ。」
サタン「それは…、よくアキラ殿が堪えてくれたものだ…。」
サタンは申し訳なさそうな顔と驚いた顔を器用に混ぜつつ驚いていた。
アキラ「どういう意味だ………。」
サタン「アキラ殿は邪魔する者は容赦なく始末するであろう?」
そんなことは………、ないとも言えないな。確かに邪魔する者は容赦なく始末してきた。だがもう敵じゃない大ヴァーラント魔帝国の者で、俺達のことを知らずに何か緊急事態があったから警戒していただけの者まで問答無用で皆殺しにするほどでもない………、はずだ。
アキラ「………それはいいから何か問題があったのか?なぜこんなに警戒している?」
サタン「う…む…。それなのだがな………。」
ちょっと顔を見せる程度のつもりで立ち寄ったパンデモニウムで俺達は想定外の面倒事に巻き込まれることになったのだった。




