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転生無双  作者: 平朝臣
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第九十一話「ゴーレムを造ろう」


 火炎クリムゾン機人アリストクラットへと進化した直後は確かに俺を男にして成長させたかのような姿だったはずだ。


 それなのに今ベッドの中で丸まって体を隠そうとしているムルキベルはどこからどう見ても女性の体型をしている。胸は俺よりも大きく腰は細くくびれお尻は丸い。師匠ばりのナイスバディだ。


 ………そしてその姿はまるで大人になった俺のような雰囲気だった。元々ゴーレムで無性なので性器などはなくマネキンのようなものだがまるで俺が裸でベッドに寝ているような錯覚を覚える。


アキラ「どうしてこんなことになったんだ?」


ムルキベル「わかりません………。何か病気なのかもしれませんのでアキラ様は私に近づいてはいけません。」


 病気………。待て待て。性別が変わる病気なんてあるはずはない。…いや、この世界にはあるのかもしれないがそもそもゴーレムのムルキベルは病気になんて罹らない。


 ………だがゴーレムなら体を作り変えることは可能か?しかし俺以外にムルキベルの体を作り変えることが出来る存在などそうそういないように思う。


 そもそも敵ならばそんなことをする必要はないしムルキベルだって黙って体を作り変えられるはずもない。抵抗するだろうしもしそれでも作り変えられたとすればそいつにやられたと言うはずだ。原因不明で病気かもしれないなどと言うはずはない。


アキラ「まずはいつ頃からこんなことになったのか。何か前兆はなかったか。その辺りを話してくれ。」


 とにかくどうしてこうなったのか。どうすれば直せるのか。何かヒントはないかと思ってムルキベルに詳しい話を聞いてみることにした。


ムルキベル「………はい。実は………。」


 ムルキベルの話を要約してみる。


 まず前兆のようなものは一切なかったらしい。事の始まりはパンデモニウムで五カ国同盟を結んでから暫くしてからだったそうだ。


 体調不良のようなことや能力が弱まるというようなことは一切なかった。ただ突然体が変化して女性のような体型になったらしい。………その時期は俺が中央大陸を旅していたくらいの間だ。


 元々ゴーレムであるムルキベルは体型が変化しても能力が弱ったわけでもないのでさして気にしていなかったそうだ。女性型になったまま過ごしていたそうだがまたしても変化が起こった。突然男型に戻ったらしい。………そしてその時期は俺が南大陸にいた頃くらいの話だ。


 その後も度々体型が変化することが続いたらしい。そして最後に変化したのがほんの数日前。男から女に変化したらしい。それは俺がウィッチの村で男達とデートの真似事をさせられた頃の話だ………。


 とにかくこう何度も男性型と女性型に変化するのでこれはおかしいと思い床に臥すことになったらしい。俺がやってきたのに出てこなかったのは病気だった場合に俺にうつしてしまわないためだったそうだ。


狐神「ふぅ~ん。なるほどね。」


 師匠はニヤニヤしながら俺とムルキベルを見ている………。恐らく師匠も俺と同じことを考えたのだろう。


ミコ「何かわかったんですか?」


狐神「ああ。私は想像がついたよ。でもそれを言ってもいいのかい?」


 師匠はさらにニヤニヤ顔で俺にそう聞いてくる。


アキラ「………いいでしょう。師匠の想像を聞いてみましょう?」


 俺は精一杯の虚勢を張ってそう応えたのだった。



  =======



狐神「まずね。ポイニクスが急激に成長したこととアキラが成長し始めたのが同期してるんだよ。」


フラン「アキラさんが成長?神格を得てから成長は止まってしまったのではなかったですか?」


 フランの疑問は尤もだ。普通なら神格を得た時点で『老化』が止まる。ただ能力は成長し続けるということは肉体的にも老化ではなく成長ならばする可能性があるかもしれない。神格については不明な点も多いためにそのようなことがあったとしても不思議ではない。


 そして俺は恐らく師匠が言うように第二次性徴がきている。俺が第二次性徴を始めたことと同期しているのかどうか確証はないが俺がそうなり始めてから突然ポイニクスも急成長を始めた。


狐神「老いはしなくなっても成長はするのかもしれないねぇ。それでアキラが女としての意識に目覚めるとムルキベルが女型になってる。そしてアキラの男の意識が強くなるとムルキベルは男型になってるんだよ。つまりムルキベルの変化はアキラの心の変化を表しているのさ。ポイニクスにしろムルキベルにしろアキラの力の影響を強く受けている二人はアキラに連動するかのように変化しているのさ。」


ミコ「アキラ君の心………?」


 全員の視線が俺に突き刺さる。認めたくはない………。ただ師匠が言う通りタイミング的には一致している。


 あまり認めたくはない。本当に認めたくはない。だけど俺は中央大陸で腕を失ったフリードを見た時に胸が苦しくなったと同時にまるで母性本能のようなもので俺がフリードの面倒をみてあげなくちゃ…、というような感情が芽生えていた。


 もちろんだからってフリードのことを異性として好きだとか嫁になりたいだとかそんな感情は一切ない。男とキスをするなんて想像しただけで鳥肌が立つ。


 ただ気持ちとしては母性本能というか女性的というかそういう思考に引っ張られていたのは確かだと思う。


 そして次にムルキベルが男型になったのが俺が南大陸へ渡ってからだ。それは俺がキュウと出会った時のことを示している。俺は男として女のキュウが欲しくなった。だから俺の心は男寄りになりムルキベルも男型へと戻った。


 その後も旅の間で俺の感情というか心というかそういうものが女性寄りになった時にムルキベルも女性型に変化している。当然逆に俺の心が男性寄りになるとムルキベルも男性型になっている。


 止めがこの前のウィッチの村でのデートの真似事だ。俺は男だ何だと言いながら本当は少しあれも楽しかったのだ。もちろんデートした奴らと男女の仲になる気など毛頭ない。だけどやっぱり女性ならば嫌いじゃない相手とデートに行けば多少なりともウキウキするものだ。


 師匠が言う通り俺から強い影響を受けているポイニクスとムルキベルは俺の状態の変化によって二人の方にも変化が起きているのだろう。そう考えれば色々と辻褄が合う。


ムルキベル「それでは私は病ではないと?」


 ムルキベルが恐る恐る布団から顔の上側だけを出して聞いてくる。仕草といい表情といい何か可愛い…。自分とよく似た顔のはずなのにそんなことを考えるなんて俺はナルキッソスか………。


アキラ「ああ。そもそもゴーレムのお前が病気に罹るはずないだろう?お前の体が変化しているのは俺が原因のようだ。余計な苦労をかけてすまんな。」


ムルキベル「いいえ!いいえ!苦労などとんでもございません!それでは私はまたアキラ様のお傍に居ても良いのですね!」


 ベッドから飛び起きたムルキベルは俺に抱きついてきた。


アキラ「それはいいがお前性別が変わったらキャラまで変わってるんじゃないのか?」


 前に見たムルキベルはもっと寡黙で武人然としたタイプだった。今のムルキベルは普通の女の子みたいだ。


 ともかくこうしてムルキベルの無事も確認できたので良しとする。色々問題がありそうな気がするが良しとするといったら良しとするのだ。


 一段落ついた俺達はムルキベルの部屋を出て俺の部屋へ行き休むことにしたのだった。



  =======



 部屋についても当然俺は落ち着かない。何しろムルキベルの変化という目に見える形での俺の心境の変化をまざまざと見せ付けられたのだ。


 俺は普段男だ!とか散々言っている。もちろん今でも男とあんなことやこんなことをするなんて気持ち悪いと思う。俺は女が好きだ。


 だけどそれでも俺の心が女性寄りに変化しているということを思い知らされて複雑な心境になるのは当然だろう。


狐神「男も女も気に入った者は全て侍らせたらいいじゃないかい。」


 俺が悩んでいると師匠がそんなことを言い出した。


アキラ「………男なんていりませんよ。俺は男なんです。」


狐神「はぁ…。アキラも頑固だねぇ…。別に前世が男だったからって今は女の体なんだから女として生きたって自然なことだろう?」


アキラ「じゃあ俺が女として生きて嫁達全員と別れて男と付き合うって言ったら師匠は納得するんですか?」


狐神「そんなの納得するわけないだろう!何で男と付き合うために私らと別れないといけないんだい!そんなことになるくらいならアキラに男なんていらないよ!」


アキラ「………色々と言ってることが矛盾してませんか?女として自然に生きろって言ったじゃないですか………。女として生きるなら男と結ばれるのが自然でしょう?」


 もちろん俺にそんなつもりはない。師匠の言うことがあまりに滅茶苦茶だから突っ込んだだけだ。


狐神「私らとは結婚したままで夫も持ったらどうだいって言っただけだよ!」


アキラ「………どうして師匠はそんなに俺に男を勧めるんですか?」


 それが疑問だ。師匠は別に俺を女の道に引き摺り込みたいわけじゃない………はずだ。実際俺が女として自覚して嫁達と別れて男と結ばれると言ったらあれほど取り乱した。


 つまり俺を女として生きていかせたいわけではないのに男を勧めてくる理由がさっぱりわからないのだ。


狐神「そりゃぁ…、ねぇ?今のままだとアキラを孕ませられるのは私だけじゃないかい?それだとアキラは私の子供しか産めないことになるから他の種もあった方が良いだろう?」


アキラ「………はい?」


狐神「より良い子孫を残すためには色んな組み合わせの子供がいた方が良いと思うんだよ。私らは皆アキラの子を産むけどアキラが産む子は色んな種があった方がいいのさ。」


 ………。師匠はそんなことを考えていたらしい。つまり俺に男共に抱かれて子を産めと………。想像しただけで鳥肌が立つ!!!


 そんなの拒否だ!断固反対だ!絶対に認められない!


アキラ「お断りします。でも師匠の子供なら産んでも………。」


狐神「えっ!」


アキラ「あっ…。何でもないです!」


 あぶねぇ………。これが女の気持ちってやつか?愛する人の子供なら産みたいって思ってしまった………。


 師匠がチラチラと俺の方を見て袖を掴んで時々引っ張ってるけど気付かない振りをして師匠が落ち着くまでやりすごしたのだった。



  =======



 翌日から俺は火の精霊王の仕事をこなす。代理としてポイニクスに任せられる案件は全てポイニクスの名で処理させていたのでそれほど溜まってはいなかった。何より緊急のことならば伝令がすぐに俺に伝えに来ていたので緊急のことや重大な案件は処理が終わっている。


 ちなみに当然ではあるがポイニクスの名の下に処理させていても実際に行っているのはイフリルなので問題はない。いくら成長しているとは言ってもまだポイニクスに難しいことはさせられない。


イフリル「これで書類は全て終わりでございます。」


アキラ「そうか…。それじゃ少し席を外すぞ。」


イフリル「はい。お疲れ様でございました。」


 書類も全て終わりイフリルにも外出することを伝えたので俺は部屋を出る。外出とは言ってもここは活火山の中で何も楽しみはないので部屋から出て行くという意味であって城の外には行かない。


 嫁達が寛いでいるリビングに入ると俺はソファに腰掛けていたキュウの膝の上に寝転がり頭を乗せた。


キュウ「きゅう?アキラさぁ~ん。どうかされたのですかぁ~?」


 キュウは俺の頭を撫でながらそんなことを聞いてくる。


アキラ「何か理由がないとキュウに膝枕してもらったら駄目なのか?」


 俺はスリスリとスベスベのキュウの太ももを撫でる。


キュウ「そんなことはないですよぉ~。でもぉ~、あまり撫でられるとくすぐったいですぅ~。」


 キュウは顔が赤くなりビクビクと体を震わせて反応していた。何かやらしいことをしているみたいで俺の方が興奮してくる。


シルヴェストル「アキラぁ~!わしもなのじゃぁ~。」


 シルヴェストルは寝転がっている俺の上に乗ってきて体をスリスリし始めた。


クシナ「―――ッ!」


 こちらをじっと見つめているクシナと目が合った。すると途端にクシナの顔は真っ赤になってそっぽを向いてしまった。でもいつもと違って怒鳴ってこない。ただチラチラと赤い顔をしながらこっそりこちらを見ているようだった。


アキラ「クシナも混ざりたければこっちへ来ればいいんだぞ?」


クシナ「わっ、私は別に………。」


 俺がそう言うとクシナは真っ赤な顔になって俯いてしまった。何か段々可愛く思えてきたぞ。


ティア「混ざりたくないと言う方は放っておきましょう。」


 ティアがクシナを挑発しながら俺の上に乗ってくる。他の五人は残念ながら練兵場で修行中だからイチャイチャできない。


最古の竜『クシナも意地っ張りだな………。』


 急に最古の竜の龍魂が声を上げた。確かに鈍い鈍いと言われている俺でもわかるくらいクシナは俺にそれなり以上の好意を抱いているのだろうとわかる。それなのに意地を張ってあんな態度を取っているのが何だか可笑しくて可愛い。


 ただこれはクシナの叫びを聞いたから俺でもわかるようになったそうだ…。ミコに言わせると俺はそれでも気づかない鈍感らしいからな………。


 それはともかく俺の心を男寄りに戻すためにも俺はもっと肉食系にならなければならない。キュウとクシナは俺の方からアプローチして魂を繋げて嫁にしてしまうか?それくらいガツガツ行けば心も男寄りに戻せるかもしれない。


 そうは思うがではどうすればいいのかということがわからない。今までだって嫁達と色々とスキンシップを取ってきたはずだ。それなのにムルキベルの状態から考えれば今の俺の心は女性寄りになっているらしい。これ以上男寄りにするには一体どうすれば良いのか見当もつかない。


狐神「ただいまぁ~。っと、うんうん。良い感じだね。」


 俺の部屋に帰ってきた師匠達は俺がキュウに悪戯しているのを見てすぐに頷いていた。


ミコ「アキラ君…。私も………。」


フラン「アキラさん………。」


 ミコとフランもソファに寝そべる俺の周りに寄ってきて抱きついてくる。はっきり言って今俺はかなりムラムラしている。これはどう考えても男の感情だろう。それなのにまだムルキベルは女型のままなのだろうか?


 性欲みたいなものじゃ駄目なのか?もっと内面的な?………でもそれこそどうすれば男寄りに変えられるのかわからない。


アキラ「俺はキュウが欲しい。」


キュウ「きゅう?………きゅうきゅう!!!アキラさぁん!!!」


 一瞬何を言われたのか理解出来なかったキュウは次第にその意味を理解してウルウルと潤んだ瞳で俺を見つめながら膝の上にある俺の頭を両手でぎゅっと抱いた。


 とりあえずどうすればいいのかわからない俺は男としての決意を口にしてみたのだ。ただ不思議なことに一度口に出してそれを伝えると心構えも自然とそうなってくる。


 そうだ。俺は今の嫁達が愛おしい。キュウもこの中に加えたい。キュウが欲しい。クシナも本人が俺や嫁達のことを認めるのなら加えたい。本人が納得していないのなら無理に嫁にする気はないが本人が了承するのなら俺はクシナも欲しい。


アキラ「クシナも俺がたくさんの嫁を持っていることを納得出来るのなら欲しい。」


クシナ「―――ッ!!!」


 俺がクシナを真っ直ぐ見つめながらそう言うとクシナはへなへなとその場に座り込んでしまった。どうやら腰が抜けたらしい。真っ直ぐ見つめるって言ってもキュウに膝枕されて抱きかかえられたままだけどな………。


ミコ「アキラ君…、私は?」


アキラ「もちろんミコもフランもルリも玉藻も皆だよ。………俺は変わりつつある。それは女性寄りに心が変わってるとかいうことだけじゃない。闇の意識の干渉がなくなって感情が蘇りつつある。この世界に来て色々な人と接して俺の心も変わったんだ。」


 皆が俺の言葉に耳を傾け頷いてくれている。


ガウ「がうが入ってないの!」


アキラ「もちろんガウだって入ってるよ。ただ女性としてはもっと成長してからな?」


ガウ「がぅ~…。わかんないの。」


 ガウにはまだ男女のことは早すぎるのだろう。ただ大事な愛娘であることに変わりはない。ガウを俺の上に乗せて抱きかかえる。


ガウ「がうがう。」


 俺の言ったことの意味はあまりわかっていないようだが俺の上に乗せられるとニコニコと笑いながら寝そべった。


 ………。確かに俺は変わった。多少は甘くもなっただろう。だが俺は今でも敵に容赦はしない。いや、大事なものが出来たからこそより一層敵には容赦しなくなったと言えるだろう。


 自分勝手な敵に情けをかけて自分の大事な者達が危険な目に遭うなど愚か者の極みだ。人を殺すのを躊躇うだとか敵に情けをかけるだとか馬鹿なことを考えて敵を見逃す奴は綺麗事を言う自分に酔っているだけの無能にすぎない。


 敵に情報を持ち帰られるのは即座に自分の不利に繋がる。それが原因で敵に対抗策を考えられたり仲間が危機に陥るなど想像力が足りなさ過ぎるとしか思えない。


 情報は何よりも重要だ。敵には一切の情報を与えずに自分は敵の情報をよく掴んでおく。こんなことは常識だろう。敵の動向も把握せず敵は逃がして情報を持ち帰られる馬鹿のなんと多いことだろう。


 俺はこれからもヌルいことは言わない。敵は全て殺す。殺さない者は手駒にする者だけだ。迂闊に情報を持ち帰らせずにこちらは敵の情報を掴んでおく。


 敵に見せる能力は見られても良い物だけに抑えておく。こちらの本当の能力や限界は相手には見せない。情報撹乱のために偽の情報を流すことはあってもこちらの本当の能力など敵に知られたまま見逃すなどありえない。


 もうこの世界でわかってる存在の中では俺の敵などほとんどいないだろう。精々人神とその部下。あとは大樹の民とファングの王とその周辺くらいだろうか。もちろん大樹やファングは人神と違って今のところ明確な敵ではないが動向が怪しい。監視しておく必要はあるだろう。そしてもちろん俺は対策をとっている。何かあればすぐに俺の耳に入ることになるだろう。


ポイニクス「ママ。入ってもいいですか?」


 その時部屋の扉がノックされてポイニクスが声をかけてきた。気配で察している通りムルキベルもポイニクスについているようだ。


アキラ「ああ。いいぞ。」


 前までのポイニクスなら何も言わずに入ってきていたのにちゃんとノックするようになるなんて成長したものだ。


ポイニクス「ママ!」


アキラ「おお?まだまだ甘えん坊か?」


 扉を開けて入ってきたポイニクスは一目散に俺の胸に飛び込んできた。公務の時や人前ではきちんとした態度を取るがやはりプライベートではまだまだ甘えたい年頃のようだ。


ムルキベル「失礼致します。」


 そしてムルキベルは一言だけ断りを入れて部屋に入り扉を閉めるとその隣に置物のようにじっと直立して周囲を警戒しだした。


 ………っていうか男型に戻ってるな。何故だろう?ムルキベルが男型に戻るようなことが何かあっただろうか?


アキラ「おいムルキベル。お前いつから男型に戻った?」


ムルキベル「はっ!つい今しがたのことでございます。」


 今…?キュウやクシナを男として欲しいと口に出して心構えが出来たからか?それとも敵には容赦しないと無慈悲な感情が前面に出たからか?


アキラ「ふむ………。イフリルを呼べ。」


ムルキベル「はっ!」


 俺の命令を受けて男型のムルキベルがイフリルを呼びに出て行った。イフリルがやってくるまでの間俺はソファで嫁達とイチャイチャしていたのだった。



  =======



 イフリルが俺の部屋にやってきてから重要な話をした。とは言え精霊族は種を超えた協力関係が出来上がり魔人族との戦争も終わったのでそれほど大変なことでもないはずだ。


 俺がイフリルに話したこととは………。


イフリル「ふぅ~む…。ムルキベル殿を連れて行かれても問題はございません。」


アキラ「そうか…。」


 そう。俺がイフリルに相談したのは俺の旅にムルキベルを同行させたいというものだった。元々は魔人族との戦争中にザラマンデルンが攻め落とされないようにムルキベルを造り出し守護者として置いていったのだ。


 その戦争が終わっている以上はどうしてもムルキベルがザラマンデルンに留まっておかなければならない理由はない。もちろんまた魔人族と戦争が再開したり他の敵から攻撃される可能性はないとは言えない。だが火の国にもそれなりに戦力はある。ムルキベルがここを離れたからといって即座に陥落するほど弱くもないし何より火の精霊は火の精霊で自立できるだけの力をつけなければならない。


 ポイニクスもかなり成長している。また暴走を起こしたら大変だがあれ以来暴走も起こしていないのでそれほど心配はいらないのかもしれない。


イフリル「しかしなぜ今回急にムルキベル殿を?」


 イフリルがそう思うのも無理はない。前回戦争が終わった後でもムルキベルは火の国に残したのだ。戦争が終わっても火の国に残したムルキベルを今回連れて行こうとする理由はわからないだろう。


アキラ「どうやらムルキベルの体型と性格の変化は俺の心が影響しているようでな………。俺がどういう心の時にムルキベルが変化しているのか確かめておきたい。そのためにはすぐ近くに置いておいてその時の心境を確かめるしかないだろう?」


イフリル「なるほど。左様でございましたか。それではポイニクス様と火の国のことはお任せください。」


 イフリルは大仰に頷いた。


 これで問題はなくなった。ここからはムルキベルも連れて旅をすることになった。だが本当に何の心配もないかと言えば嘘になるのでその対策だけはしておこうと思う。



  =======



 俺は火の精霊達が森の守護者と森の賢人を作っている場所に向かった。目的はもちろん俺もゴーレムを造るためだ。


 ムルキベルのように自我があるとこちらも情が沸いてしまう。つい手元に置いておきたくなってしまうのだ。だから今度はあえて自我を持たせずに量産型としてただの道具としての兵を造り出す。


 もちろん消耗品として造り出すので命のようなものも与えずにただエネルギー分だけ動く機械のように無機質なものとして造る。でないとまた俺の方が情に負けてしまうからな。


 ………完成したのは量産型ゴーレム三百体だ。


狐神「アキラ………。」


 師匠は微妙な表情で俺を見ている。言いたいことはわかる。俺も自分で想定外だった。


ムルキベル「これはやりすぎではないでしょうか。」


 ムルキベルの指摘が俺の心に突き刺さる。俺だってこんなことになるとは思ってなかったんだよ!


 性能はムルキベルには及ばないがそれでもそこらの低位の神よりも圧倒的に強い力を持ったゴーレム部隊が三百体だ。はっきり言って俺達を除けばこれだけで世界征服に乗り出せるくらいの戦力だ。俺が知る限りでは太刀の獣神より上位の獣神達か赤の魔神でもなければこいつらを止められないだろう。


アキラ「とにかくこんな危険なものが指揮官もなく置いておかれて暴走でもしたら大変だ………。やむを得ないのでもう一段階上の指揮官ゴーレムを造っておこう………。」


 何か全員の冷たい視線が突き刺さってる気がするが気のせいだ。誰も俺をそんな目で見るはずはない。俺の心にやましいことがあるからそう感じるだけだ………。


 ともかく俺はこの三百体を指揮するための能力と知能を持った指揮官ゴーレムを造った。


アキラ「お前にウゥルカヌスという名を授ける。」


ウゥルカヌス「ハッ!」


 ………ん?心や感情は与えなかったはずだ。でも少し自我がありそうな気がする。三百体を指揮する知能と命令違反をしないように様々なものを刻み込んだからかもしれないな。


アキラ「よし。ウゥルカヌス。お前はこれからこの三百体のゴーレムを指揮しこのポイニクスとここ火の国を守れ。」


ウゥルカヌス「カシコマリマシタ。」


 ポイニクスの暴走についてはいいだろう…。ムルキベルと違って応用力の低そうなこいつらに複雑な命令をしようとしてこいつらの方が余計なことをしたり暴走しても大変だ。


 ………なにしろこの三百一体だけで神とドラゴン族を除いた全世界と戦争できそうだからな。


 これで憂いのなくなった俺達はシルフィードへ向けて移動を再開することにしたのだった。



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