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転生無双  作者: 平朝臣
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第八十八話「食い物の力」


 初めて少しだけ逆十字騎士団の者達の話を聞いてみたがあれは駄目だ。完全に洗脳されていると言っても過言ではない。


 一人か二人ずつくらいで順番に面会してみたが俺が何者か知らないからだろうが横で俺が聞いているというのにルリを担ぎ上げてもう一度聖教を復興しようだとか反乱を起こそうだとか馬鹿げたことばかり言っていた。


 とてもではないが現実が見えているとは思えない。フリード達に聞いたがこいつらが捕まった時の状況は圧倒的だったらしい。万全の状態で待ち伏せしていたにも関わらずフリード、ロベール、バックスの三人にあっさりと全員気絶させられて捕まったと聞いている。


 たかがその程度の実力の者が二十人や三十人いたところでどうにもならない。仮に俺の周りの桁違いの強さの者達が関わらなかったとしてもガルハラ帝国ですら転覆することは出来ないと断言できる。


 にも関わらずそれが出来ると盲目的に信じて馬鹿な行動をしようとするこいつらはもうどうしようもない。俺はこいつらに期待することは一切やめることにした。そして最後の一人との面会が始まった。


ユイ「ルリ隊長。」


 最後の一人はシロー=ムサシの副官をしていた女だった。確かユイ=アマノと言ったか。ユイはルリの顔を見るとうれしそうに顔を綻ばせた。


ルリ「………ん。」


 ルリはさっき思いっきり覚えてないと言ったくせにまるで顔見知りのように自然な動作でユイに頷いて応えた。


ユイ「相変わらずですねルリ隊長。そっちの貴女はそんなにルリ隊長に近づいても大丈夫なの?」


 ユイは俺にも話を振ってくる。ルリに近づきすぎると神力の刃が飛んでくることは逆十字騎士団では常識だったらしい。


アキラ「問題ない。」


 そう答えて俺はルリの肩を抱いた。ルリは素直に俺に抱き寄せられて肩に頭を乗せてきた。


ルリ「………あっくん。」


 俺とルリが甘い空気を醸し出してイチャイチャしているとユイが信じられないものを見たという顔で声をかけてきた。


ユイ「あり得ません………。ルリ隊長に触れることが出来るなんて…。貴女は一体?」


アキラ「折角の面会時間をそんな質問のために使いたいのか?だったら教えてやる。俺はルリの夫だ。」


ユイ「………。」


 ユイは目が点になって固まった。


ルリ「………ん。ルリはあっくんのお嫁さん。」


 まるでグルグル、ゴロゴロ言いながら擦り寄ってくる猫のようにルリは俺の肩に頭をこすり付けていた。


ユイ「まっ、まぁそれはいいでしょう…。貴女が実際にルリ隊長に触れるというのはこの目で今も見ている事実なのですから…。それよりも、他の逆十字騎士団の方達の言葉には驚かれたことでしょう。どうか彼らを許してあげてください。」


 当然ながらユイは俺達と他の逆十字騎士団の者達との面会がどのようなものであったのか知るはずはない。それなのにそこでどんな会話がなされていたのかわかっているというのは伊達に仲間として一緒に居たわけではないということだろう。


アキラ「お前はあいつらとは違うのか?」


ユイ「私は………。」


 そこからユイの身の上話のようなものを聞かされることになった。


 ユイもシローと同じく非公式に召喚された者だったらしい。聖教の者達に従わなければ自分の命が危ないとわかったユイは黙って従う道を選んだ。


 それからはたくさん汚い仕事もさせられたし他の召喚されてきた者で従わない者を始末したこともあった。そしていつしかユイは召喚された者達の教育係りのようなものをよく任されるようになったそうだ。


 そこでシロー=ムサシと出会った。ユイから見てもシローはそれほど才能もなく聖教にも従わないとして廃棄処分されることに決まった。しかしそれを聞きつけたフリードが聖教からシローを金で買い取ったのはフリードに聞いた通りだ。


 それから先のバルチア戦争でユイが捕虜になるまではシローと会ったことはなかった。しかしガルハラ帝国で捕虜生活を送っている時にシローがやってきた。


 シローは捕虜達に反乱に加わるように説得を行ったようだ。元々聖教に染まりきっている逆十字騎士団の者達は多少の揉め事はあったとはいえシローの傘下に加わり反乱に参加。見事返り討ちにあい今ここにいるということだった。


 俺が聞いていた話と大筋は合っている。知らなかった情報も一部含まれていたがどうでも良いようなことばかりで特にこの話を聞いて何か得たものがあるかと言われれば何もない。


アキラ「で?自分は命令されて従っていただけだから罪を軽くして欲しいとでも言うつもりか?」


 俺はユイを見据えて告げた。


ユイ「ううん…。確かに命令されて仕方なく従ってたけど私がしてきたことが大罪なのはわかってるわ。その罪を今ここで償っているのは当然の報いだと思う。………でもそうね。誰かに…聞いてもらいたかったからかな…。貴女なら私の話も真剣に聞いてくれそうだったから…。どうもありがとう。死ぬ前にすっきりしたわ。」


 ユイは諦めの笑顔を浮かべてそう言った。


アキラ「チッ!イライラする奴だな。ここで死ぬ覚悟があるのならなぜもっと前に逆らう覚悟を持たなかった?死ぬ覚悟があるのなら聖教に従わず抗えばよかっただろう。誰かに聞いて欲しかった?お前は人に話すことで許された気になりたかっただけだろう?」


 本当にイライラする。そこまでわかっているのならなぜ今更命を賭ける?それならばもっと前に自分の手を汚す前に命を賭けて行動すればよかった。


アキラ「今まで都合の良いように流されてきておいてもう助からないという時になって今更偽善ぶるな。」


ユイ「そう…ね……。本当今更よね。」


ルリ「………。」


 本当にどうしようもない奴らばかりだ。逆十字騎士団の者達は未だにここから脱出して国家転覆を成し遂げて自分達の国を興し聖教を復興できると信じているようだが、このユイ=アマノも違う意味でどうしようもない奴だ。


 もうここでいずれ魔獣に殺される気になっている奴にそんな希望通りの最後など与えてやる気にはなれない。俺は面会室を出てすぐに行動に移ったのだった。



  =======



 まずは火の精の伝令を使ってフリードにシローの研究時間を増やすように要請した。返書はすぐに届き即手配すると書かれていた。師匠もかなりチョロインだがフリードも師匠に負けず劣らずだ。


 そしてもう一つの案件への返答もきていた。それはここの死刑囚達が死なないようにもっと魔人族に守らせるという提案だ。


 それだけ聞くとまるでこいつらを救ってやるかのように聞こえるかもしれないがそうじゃない。今までのガルハラ帝国や大ヴァーラント魔帝国の方針はこの死刑囚達は死んだら死んだで良いという程度の扱いだった。


 最低限即死するような無理ゲーにはならないように配慮されていたがそれでもすでにそれなりの数の犠牲が出ている。こいつらは死刑囚なのだから『いずれ死ぬ』ことが前提でここに収監されているのだ。


 だが俺の提案は少し違う。こいつらを限界ぎりぎりで生かし続けるというのが俺の提案だ。そうだ。死は救いだ。こいつらは死ねば苦しみから解放される。


 そしてこいつらの教義の中には聖教のために働き、その身を捧げて解脱することによりその魂は救われると教えられている。聖教の奴らにとって殉教とは名誉なことであり救いでありそれを目指して命を惜しまず活動しているのだ。


 だからその通りになどしてやらない。生かさず殺さずその身に自らの罪を思い知らせて償いをさせる。簡単な死などくれてやらない。己の愚かさを悟るまで現世で苦しみ続けるがいい。


アキラ「ということで軽く奴らに苦しみを与えようと思う。」


 俺の言葉に嫁達は呆れた顔になっていた。


ミコ「アキラ君………、本当にそれでいいの?」


アキラ「ああ。」


 ミコは心配そうな顔で俺を見つめている。


狐神「アキラの思う通りにすればいいとは思うけど………。これはねぇ。」


 師匠も珍しく表情が優れない。


フラン「アキラさん………。」


 フランも何か言いたそうな顔だ。


ティア「アキラ様はなんと恐ろしいことを………。」


シルヴェストル「そうかの?」


ガウ「がうがう!これはとってもつらいの。こんなことを考えるなんてご主人を怒らせたら怖いの。」


 皆色々と思うところがあるのだろう。だが俺の決意は変わらない。


アキラ「この作戦で最も重要なのはオルカだ。任せたぞ!」


オルカ「ピィ!お任せくださいご主人様!」


 オルカの気合も十分なようだ。これならきっとうまくいくだろう。俺は黒い笑みを浮かべたのだった。



  =======



 安全地帯の建物内で魔人族の看守達や逆十字騎士団の者達も集まって晩御飯を食べている。そして俺の計画通り逆十字騎士団の者達は苦しんでいた。


アキラ「さぁ飯にしようか。」


オルカ「ピィ!」


 オルカが俺達や囚人達の前で料理をしている。逆十字騎士団の奴らは苦しんでいるようだ。


アキラ「くっくっくっ。もっと苦しめ愚か者どもめ!」


 俺はもがき苦しみながらこちらを凝視している逆十字騎士団の者達を見て満足していた。


ミコ「………アキラ君。やっぱりアキラ君って悪いこと出来ない人だよね………。」


アキラ「どういう意味だ?奴らの顔を見てみろ。苦しそうにもがいているぞ。はっはっはっ。」


フラン「アキラさんは食べ物にこだわりが強いみたいですからね………。」


 俺が奴らを苦しめるために考えた方法。それはオルカにおいしそうな匂いがする地球の料理を作らせることだ。


 今まさに鉄板の上でお好み焼きと焼きそばが焼かれている。ソースの焼ける香ばしい匂いが充満している。その匂いにつられた逆十字騎士団の者達は鉄板を凝視しているのだ。


アキラ「残念だったなぁ?囚人になどなっていなければ今頃こんな料理も食えたかもしれないのに。馬鹿な真似をしたせいで食えないなぁ?くっくっくっ。」


 魔人族の看守達まで俺達の料理をガン見している。あとでお裾分けしてやろう。オルカの料理はまだまだ出てくるから俺達だけでは食べきれないだろう。余って捨ててしまうくらいなら看守達にお裾分けでもしたほうが良いし自分達は食えないのに看守達は食えるということがさらに逆十字騎士団の者達を苦しめることだろう。


アキラ「さぁオルカ。次だ。」


オルカ「ピィピィ!」


 続いて炭火で焼き鳥と鰻の蒲焼が焼かれる。こちらもタレの焼ける良い匂いがしている。囚人達だけでなく看守達まで涎を垂らしている。


アキラ「おい看守達。お前達にも少し分けてやろう。」


看守A「えっ!いいんですか?!」


アキラ「ああ。お前達もこんなところでこんな仕事をさせられて苦労しているだろう。これは俺からの差し入れだ。」


 そう言って俺が焼きそばやお好み焼き。今焼けたばかりの焼き鳥や蒲焼を看守達のテーブルの上に置くとわっと全員が飛びついていた。


看守A「うめぇぇぇぇ!」


看守B「あっ!それは俺が!」


看守C「うるせぇ!早いもの勝ちだ!」


 全員分あったはずなのに看守達のテーブルは料理の奪い合いで修羅場と化していた。俺はチラリと囚人達の方のテーブルを見る。


 その上に並んでいる料理は硬いパン一つに薄い塩味にほとんど具の入っていない野菜スープ。そして自分達が狩った魔獣の肉だった。ただ魔獣の肉は一人当たりの量が少ない。こいつらは魔砲を使っているとは言え北大陸の魔獣なんてそうそう狩れないので僅かに狩った魔獣を全員で分けたらほとんどないのだ。


 俺が囚人達の方を見たことで自分達ももらえると思ったのか期待した目で俺を見つめている。


アキラ「ふん。」


 だが俺がそのまま自分の席へと帰っていく。後ろからは『あああぁぁ!』とか『こちらにも慈悲を~~!!』なんて声も聞こえるが知るか。お前達は大罪人だ。自分達の愚かさを思い知れ。


 俺が席に戻って俺達も焼きたての料理を食べ始めたことで自分達にはもらえないのだと理解した囚人達はシローとユイのもとに集まって何やら話し合いを始めた。もちろん俺の耳には聞こえているがあまりに愚かすぎる。


 暫くすると話が纏まりユイがこちらへと近づいてきた。本来なら囚人達が俺達の方へ簡単に近づいてくるなどあり得ないのだが本来ならそれを止めるはずの看守達は今修羅と化して料理を奪い合っているので誰にも止められることなく俺の前までやってきたのだった。


ユイ「あの………。図々しいお願いだというのはわかっていますけど…、その地球の料理を私達にも分けてもらえないかしら?………ほんの、ほんの少しでもいいから。」


 ユイは涙目になりながら頭を下げて懇願する。俺はユイを連れて囚人達のテーブルまで行く。


アキラ「何を勘違いしているのか知らないがお前達は罪人だ。その上反省もしていない。そんなお前達に恵んでやるようなものはない。自分達の愚かさを思い知るがいい。」


 俺はそれだけ言って席へと戻ったのだった。囚人達は血の涙を流しながら怨嗟の声を上げていた。


ミコ「………思ったよりも効いてるみたいだね。」


 ミコは微妙な顔をしながら席に戻った俺に声をかけてきた。


アキラ「当たり前だ。ミコだって思い出してみろ。この世界に来てから俺に出会うまでの一ヶ月かそこらの時間だけでも日本の料理が恋しくなっていたはずだろう?それが何年も食べられなかった者達の目の前にありながら食べることが出来ないんだ。どれほど辛いかわかるだろう。」


 ミコは少しだけ考える素振りをしてから何度か頷いていた。


ミコ「うん…。そうだね。そう言われればそうだったよ。私はすぐにアキラ君と出会えてまた日本の料理が食べられるようになったからあまり実感がなかったけど他の人はきっと日本の料理が恋しいよね。」


ガウ「がうがう!おいしい匂いのする料理が目の前にあるのに食べられないのは一番つらいの!」


 ガウは食いしん坊だからこういうお仕置きをされたら一番堪えるだろう。だから囚人達の気持ちがよくわかるはずだ。するとユイがもう一度やってきた。


ユイ「お願い!どうか…、どうか一口分だけでも分けてください!」


 DOGEZAだ………。恥も外聞も捨てていい年した女が食べ物のために俺に土下座している………。


 何か段々俺がひどいことをしている気分になってきたぞ………。いや、お仕置きをするつもりだったんだからこれでいいはずなんだが目の前でおいしそうな料理を食べている奴の前でおあずけされ続けるのはさぞ辛いだろう………。俺なら耐えられない。


アキラ「………。お前達が本当に心から反省して悔い改めこれから真っ当に生きるというのなら考えてやらんでもない。」


 俺の言葉を聞いてユイはガバッと頭を上げた。


ユイ「何でも言う通りにするわ!改宗でも反省でも!だから一口でいいからそのお好み焼きをください!」


 ユイは本当に恥も外聞も捨てて俺にすがり付いて来た。………食い物の力は恐ろしい。だが本当にこんなので反省しているのか?料理が食いたいから今だけ言ってるんじゃないだろうな?


アキラ「今だけ殊勝な態度で反省したふりをしてもだめだぞ?」


ユイ「わかってる!私が間違ってたわ!やっぱり私は日本の料理が食べたいの!生きて帰って地球の料理が食べたい!」


 必死すぎる………。何か憐れになってくるな…。俺が追い詰めたはずなのに俺が同情してどうするよ…。だが本当に反省するのなら良いだろう。そういう気持ちを促すためにやったことだ。


アキラ「………いいだろう。その言葉が本当ならば分けてやる。」


ユイ「ほっ、本当に?!」


アキラ「ああ。ただし………。」


 こうして俺は逆十字騎士団の者達とある約束を交わした。こいつらが約束を守る限りは月に一度だけ地球の料理を食わせてやるという約束だ。


 俺が逆十字騎士団の者達にさせた約束は自分で考えるということ。これだけ聞くと少し意味がわからないと思うが宗教に嵌る者というのは基本的に思考停止しているのだ。


 宗教の教えだけをただ盲目的に信じて自ら考えることを放棄する。もちろん宗教側もそうすることが目的で信者達を自分達の都合の良いように洗脳したいのだからそういう風に誘導するのが宗教の教えでもある。


 聖教に感化されているこいつらも自分達の耳に聞こえの良い言葉だけを聞かされて洗脳され思考停止している。ただ従順に聖教の教えだけを守っていればいいのだと信じている。


 だから果たしてその教えが本当に正しいのか。それを自ら考えさせるために自分でものを考えるようにという約束を交わしたのだ。


 もちろん地球の宗教にも良いことを言っている部分もある。だが全てが正しいわけじゃない。他の宗教から見ればなんと勝手なことをと思うようなことを言っている部分もある。自分達だけが絶対正しく他の宗教は悪だ、などと言う過激な思想がある場合もあるのだ。


 だから一つの視点に捉われず自ら考えて判断していくようにさせる。それがこいつらの洗脳を解く第一歩だ。そのために色々やらせる。それを守れば一ヶ月に一度だけ日本の料理を差し入れてもらえる。


 もので釣っているようだがそれでもいいだろう。それが切っ掛けになってこいつらが本当の意味での反省をすればいい。何も俺はこいつらが更生して社会復帰すればいいと思ってるわけじゃない。


 ただ自らの罪もわからない者を死刑にしても何の意味もない。それでは次の犠牲者を出さないと言う意味しかなくすでに犠牲になった者は救われない。自らの罪を理解し悔い改めさせなければ犠牲者も浮かばれないだろう。


 この約束が成されたことで今回だけは特別にオルカの料理を食わせてやったのだった。これでこの味の虜になればこれから先こいつらは真剣に俺の課題に取り組むだろう。


 こうして俺達は逆十字騎士団の者達が収監されている監獄でするべきことをして旅を再開したのだった。



  =======



 監獄に向かったために記憶のルートから外れていたので一度北回廊付近まで戻ってから記憶の通りに進む。やはりヴァルカン火山へは向かっていない。先にシルフィードへと向かえということだろう。ある程度進んでから俺はフランに声をかけた。


アキラ「記憶ではウィッチの森には向かっていないが寄っていくか?」


フラン「…ですが余計な寄り道をしてはアキラさんにご迷惑をかけてしまいます。」


 フランは自分のせいで俺の旅が遅れることを気にしているようだ。


アキラ「フランは馬鹿だな。妻の実家に寄っていくのが迷惑なわけないだろう?」


 俺はそっとフランを抱き寄せながら顔を覗きこむ。


フラン「あっ……。妻…。………アキラさん。」


 フランもギュッと俺を抱き締め返してきた。顔を赤くしてかわいいな。


アキラ「ドロテーの様子も見ていきたいしお義母さんのヘラにも会っていかないとな?」


フラン「はいっ!それでは寄っていきましょう。………大お婆様の様子は私も気になります。」


 俺の気配察知ではすでにウィッチの森の気配を捉えているのでドロテーがまだ生きていることはわかっている。だがこの距離でそれがわかるのはせいぜい師匠かクロくらいだろう。フランにはまだこの距離ではわからないのでドロテーがまだ生きているかすら知らないはずだ。それに俺も生きていることはわかっているがどんな状態かまではわからない。生きてはいても元気でなければ意味はない。俺達は少し足早にウィッチの村へと向かったのだった。



  =======



 ウィッチの村に入ると俺達は大歓迎を受けた。


ドロテー「おかえりフラン。玄孫はどこだい?」


 元気な姿のドロテーが迎えてくれた。そのセリフは前に聞いたこととよく似ている。


フラン「大お婆様!そんなすぐには産まれません。アキラさんはこんなにお嫁さんがいるのですから私が一番最初に産むわけにもいかないでしょう?」


 フランも言うようになった。前までなら自分がそんな大それたことなんて、というようなことを言っていたはずだ。それが今では産む気は満々だけど第一夫人や第二夫人が産んでからでないと自分が先では色々まずいと言っている。


 俺としては誰が一番とか二番とか分けるつもりはないが嫁達の間では多少はそういうことがあるようだ。もちろんどちらが上の嫁で下の嫁は言うことを聞けとかそういうことはない。ただ色々な順番を決める上で俺の嫁になった順番か何か知らないが嫁達内で決まっている嫁の序列というのが考慮されるようだ。


アキラ「ドロテー。元気そうで何よりだな。」


 俺もドロテーに声をかける。フランもドロテーの元気そうな姿を見て安心したようだ。久しぶりの再会で二人でゆっくり話をさせてやりたい気もするが俺もドロテーに挨拶しておく。


ドロテー「アキラ様のお陰です。今の楽しみは玄孫を見ることですからそれまではしぶとく生き延びますよ。」


 ドロテーはそう言って笑っていた。本当に若々しい。最初に見た頃のような死にそうな様子はまるで見られない。


フラン「本当にお元気そうで…。前までの様子が嘘のようです。」


アキラ「そうだな………。」


 色々な歓迎を受けてから俺達は前に泊まっていたのと同じ村役場のような場所で泊めてもらうことになった。


フラン「大お婆様があれほど元気になられたのはやはりアキラさんのお陰なのでしょうか?」


アキラ「………ああ。ただ寿命が延びるわけじゃないだろう。失ったはずの寿命がいくらか戻ったということだと思う。」


 ドロテーの寿命は確実に前よりも長くなっている。それは俺の料理の影響だろう。ただし無理をしてきて縮めてしまった寿命がいくらか戻っただけのことであって俺の料理を与えたからといって寿命が延びているわけじゃない。


 元々高齢のドロテーの命がそう長くないことに変わりはない。もし生き長らえる気ならば神格を得て神にでもなるしかないだろう。しかしドロテーはそれを望んではいないしこのまま自然のままに命を終えることを望んでいる。


アキラ「少し別れるまでの時間が延びただけだ。元々ウィッチ種の中でも高齢なドロテーに残された時間はそう長くはない。」


フラン「それでは………。」


アキラ「ん?」


 フランが俺に圧し掛かってくる。


フラン「それでは大お婆様の命が残っている間に玄孫をお見せしなければなりませんね?」


 普段のフランとは違う妖艶な笑みを浮かべながら俺の胸にしがみ付いてくる。いつもならこういうことはどちらかと言えば恥ずかしがるフランが随分積極的だ。


アキラ「どうした?フランにしては珍しいな?」


フラン「いつまでも恥ずかしがっていてはアキラさんは中々先へは進んでくれませんから…。私だってアキラさんの赤ちゃんが欲しいんですよ?」


 やっぱり赤い顔をしながらも必死に俺にしがみ付いてアピールしてくる。恥ずかしいのを我慢して精一杯アピールしているのだろう。ほんとに可愛いな。俺の我慢の限界を超えてこのまま襲ってしまいそうだ。


アキラ「フラン…。」


フラン「アキラさん…。」


 二人の顔がそっと近づき………。


クシナ「貴女は一体何をしているのですか!!!」


 クシナの怒声がウィッチの村中に響き渡った。俺はまたしてもクシナに怒られたのだった。



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