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転生無双  作者: 平朝臣
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第八十七話「いいからはよ作れ」


 フリードの腕の調子を見に来ただけなので俺達は数日だけデルリンに滞在してすぐに旅を再開することにした。


フリード「もう行くのか?」


アキラ「どうせまたすぐ会えるだろ?」


 見送りに出てきた奴らが泣きそうな顔をしている。


マンモン「………ジェイド、俺と代われ。」


ジェイド「嫌ですよ。っていうか千人隊隊長はマンモン将軍でしょ?俺はもう大ヴァーラント魔帝国から独立した別の所属の者です。」


マンモン「………お前はまだ大ヴァーラント魔帝国にも所属しているし千人隊の隊長も名目上はお前のままだ。」


ジェイド「え?そうなんですか?でも俺は親衛隊長としてアキラに同行します。」


 マンモンとジェイドが不毛なやり取りをしている。………でもジェイドは…、いや、親衛隊は皆国を捨てて俺達に付いてきているのか。俺がそうするように強要したわけじゃないがそれでも彼らの身分を保証するのが俺の役目か?


 日本人は当たり前のように日本国籍であることの恩恵を受けていながらその多大な恩恵に気付いていない者がほとんどだ。国籍とはつまりその国がその者の身分を保証するということであり国民の信用が国の信用となり国の信用が国民の信用となる。


 日本人は日本人というだけで世界中のほとんどの国と地域に自由に行くことができる。これは日本人の身元を日本国が保証しているからだ。信用も保証もないような国籍の者は他国へ入るだけでも大変な審査や検査がある場合もある。


 日本国は先達が築き上げてきた信用のお陰で世界でもトップレベルに信用されている国でありその国籍を持つ者もほとんどの国と地域で信用される。現在の日本人はそれを当たり前のように受け取っているがそうなれるまでには大きな苦労があったのだ。


 少し話が逸れたので本題に戻る。親衛隊の者達は現在その国籍というか所属国の後ろ盾がない状態だ。今のマンモンの話では一応大ヴァーラント魔帝国の所属は抹消されてはいないようだが魔帝国も自国を捨てたような者をどこまで信じられるかわからないし親衛隊の方も魔帝国を捨てる覚悟で出てきたはずだ。


 つまり国を持たない者になってしまった。それは大変なことだ。何かあっても個人で全て対応しなければならないことを意味する。


 ミコとルリは最初からこの世界の住人ではないので国など最初から持たない。フランはウィッチの村が元々魔帝国から独立しているも同然の状態で先の件で完全な独立を勝ち取ったために村に帰ればウィッチの村という後ろ盾は得られる。


 師匠とガウは最初から国など持たずその上一人でも国と渡り合えるだけの力を持っている。シルヴェストルとティアは国の許可のもと俺と行動を共にしているとも言えるので問題ないだろう。


 キュウも兎人種は大樹の民から独立している状態であり村との関係は今も良好なので村に帰れば良い。クシナはどうだろう…。ドラゴニアとクシナの関係についてはよくわからないがドラゴニアが俺に服従しているような状態なので問題はないのかもしれない。


 つまり俺の嫁達や五龍王、バフォーメのような者達は何の問題もない。ただ普通の魔人族であった親衛隊達が国の後ろ盾も失った今の立場というのは果たしてそのままで良いのだろうか?


 だがだったら火の国の国民にしましょうというわけにはいかない。俺は火の精霊王ではあるが俺に付いて来ている者達は別に火の国の民になりたいわけでもなく忠誠を誓っているわけでもない。あくまで俺との個人的な繋がりで付いて来ている者達だ。


 ………だったらどうする?俺が国を建てるか?正直現時点ではそれはお断りしたい。俺は国を治めたいとは思っていない。余計な面倒事が増えるだけだ。ならば今ある国家に俺の仲間達の身分を保証させればいい。


アキラ「おいフリード。」


フリード「どうした?」


 俺が呼ぶとすぐに笑顔で纏わり付いて来る。まるで犬のようだ。フリードのお尻に幻の尻尾が全力で振られているのが見える気がする。


アキラ「一先ずガルハラ帝国で俺達の身分を保証しろ。」


フリード「………言っている意味がわからんが?」


 フリードは暫く考えたあとそう答えた。


アキラ「つまりな…。」


 俺は先ほど考えていたことを皆の前で説明したのだった。



  =======



フリード「それなら別にそんなことしなくてもいいんじゃないのか?」


 フリードの意見に皆もウンウンと頷いている。この世界じゃ国を捨てた流民みたいな者が普通にいるのかもしれないし戸籍や身元、身分の保証などという概念が薄いのかもしれない。だがこれから先こいつらだって国際舞台に立つ可能性は高い。それなのに身元不明では話にならないだろう。


アキラ「そうはいかないだろう?何らかの身分証明が必要だと思うが?」


 その言葉を聞いたフリードやパックスやロベール、マンモンなどに何か呆れられたような顔をされてしまった。


フリード「あのなアキラ………。アキラ親衛隊としてアキラが認知していればそれが何よりの保証と証明だろう?」


アキラ「だがこいつらは火の国の民じゃないだろう?」


フリード「はぁ………。アキラもわかってないことがあるんだな。」


 何かちょっと可哀想な子を見るような目で見られてる気がするぞ………。ちょっとイラッとするけど黙って続きを促す。


フリード「いいか?現時点で世界で最も影響力のあるアキラがその仲間達の身分を保証しているんだ。それはもう全世界でその身分が保証されているのも同然なんだよ。仮にどこかの国がそれを現時点で認めていなかったとしてもアキラが一言『この者達の身分を認めろ』って言えば従わない国なんて実質ないんだよ。わかったか?」


アキラ「………。」


フリード「………。」


 俺は無言でフリードと見つめ合う………。


アキラ「俺は火の精霊王であることを除けばどこの誰とも知れないただの流民だ………。」


フリード「あのな…。本気で言ってるのか?もうこの世界の主要国家でアキラの存在を知らない国なんてないんだぞ?どこかの小さな隠れ里のようなものなら知らないけど現存する主要国家でアキラの意見に耳を貸さない国なんてない。」


 フリードにピシャリと言い切られてしまった。確かに世界のどこかにあるかもしれない外界との交流を一切絶っている隠れ里でもない限りはほとんどの国の上層部と顔を通している。


 あえて言えば俺との繋がりがまったくない国などすでに国が無くなっているバルチア王国か実質的に国が崩壊しているアルクド王国くらいだろう。ファングも王とは直接会っていないが赤の魔神と将軍達とは面識がある。


 こう考えると確かにフリードの言う通り俺はほぼ全世界の主要国家の上層部と繋がりがあり影響力を行使できる状態と言える。まったくそんなつもりもなかったがいつの間にか俺は世界の主要人物の一人になりつつあるようだ。


アキラ「………さぁ出発するか。」


フリード「おい…。さらっと誤魔化すなよ…。」


 フリードに突っ込まれたが聞かなかったことにして俺は出発することにした。


マンモン「………やはり俺も付いて行く。」


 いざ出発という所で急にマンモンがそんなことを言い出した。


アキラ「それはお前の好きにすればいいと思うが千人隊を放置して勝手に旅に出ていいのか?」


 マンモンは仮にも将軍で隊長という責任のある立場だ。勝手にその責任を放棄して旅になど出て良い立場ではないはずだ。とはいえそれは俺には関係ないのでマンモンや魔帝国がそれで良いのなら好きにすれば良いとは思うが…。


マンモン「………千人隊はジェームズに任せる。俺もパンデモニウムまでは同行させてもらう。」


アキラ「ふむ………。俺達がパンデモニウムに寄っていくとは限らないぞ?」


 むしろ魔人族の伝承で黒き獣がパンデモニウムに現れたのは一回ということになっているのでこの先俺がパンデモニウムに寄ってはいないのだろうと思う。ただし今回デルリンに寄ったようにルートを外れてでも今の俺の意思で寄って行く可能性はないとは言えない。


マンモン「………近くまで行けば後は俺は別れてパンデモニウムに向かう。」


アキラ「そうか…。なら好きにすればいい。」


 何か伝令などがあるのかもしれないし用事があるのかもしれない。俺は大ヴァーラント魔帝国の内部事情など知らないしマンモンがなぜパンデモニウムに向かわなければならないのか詮索する気もない。


 付いて来るというのなら勝手にすればいい。付いて来ることを拒否したりはしないがだからと言ってその結果起こることに対する責任も負うつもりはない。


マンモン「………それではパンデモニウムまで同行させてもらう。」


 こうしてマンモンの同行が決まった。


フリード「おい!ずるいぞ!それじゃ俺だけアキラと離れ離れか?!」


 フリードまでゴネだした。


アキラ「お前にはこの国での重要な役目があるだろう?」


フリード「ぐっ…。じゃ、じゃあ我慢するから今度帰ってきたら俺とデートしてくれ!」


アキラ「………。」


フリード「………。」


 俺が無言で見つめてもフリードは俺を真っ直ぐに見つめ返していた。ふざけてや冗談で言ってるわけじゃないようだな…。


アキラ「お前、俺が男だって知っててそれでも俺とデートしたいのか?そういう趣味の人か?」


フリード「俺は男とどうこうする趣味はない。だけどアキラとはデートしたい。この条件を飲んでもらえないなら今度こそ俺は力ずくでも付いていくぞ!」


 どうやらフリードは折れそうにない。付いて来られるだけの力はもうあるから付いてきても命の心配はまずないだろう。ただ皇太子がこんな状況の中央大陸からいなくなれば国民から次期皇帝として見てもらえなくなる可能性が高い。


 俺としてはフリードにガルハラ帝国皇帝になってもらいたい。………ならばもう答えは一つしかないな。


アキラ「わかった。」


フリード「えっ!マジで!?」


 フリードは俺が認めるとは思っていなかったのか逆に驚いていた。自分で提案しておいて認められたら驚くって失礼な奴だな。


アキラ「ただし!ただのデルリンの町の案内をしてもらうだけだ。デートじゃない。ただの観光の案内だ。それでいいなら今度ガルハラ帝国に立ち寄った時に一緒に町を歩いてやろう。」


 そうだ。男女が一緒に歩いているから全てデートかというとそうじゃない。観光客と道案内だって一緒に歩くことはある。それが異性の場合も当然あるだろう。だからといってそれがデートかと言えば当然違う。


フリード「いい!それでいい!あっ!でも二人っきりだぞ?そこは譲れないからな。」


アキラ「………いいだろう。それじゃ今度二人っきりで町の案内をしてもらおう。」


 別に二人っきりであることに問題はない。俺がフリードに襲われることはあり得ないしただの町の観光だ。これでフリードが大人しくガルハラ帝国に留まるのなら良い取引だろう。


フリード「それじゃ約束だからな!絶対だからな!」


アキラ「わかったって言ってるだろ。」


 フリードは俺達が出発しても大声を張り上げてしつこく確認してきたのだった。



  =======



 俺達は久しぶりにバンブルクと北回廊へとやってきた。シロー=ムサシが反乱を起こしたせいかバンブルクの周囲には運河は建設されていなかった。まだ設計や必要な物の開発が完了する前に事が起こったのだろう。ちょっとガレオン船で運河を渡ってみたいと思っていた俺にとっては少し残念なことだった。


アキラ「運河が出来るのはいつになるんでしょうね…。」


狐神「アキラが掘りゃ今すぐ出来るんじゃないかい?」


アキラ「………運河を通すだけならそうですね。」


狐神「だろう?」


 師匠は満足気に頷いていた。………う~ん。師匠は色々と知っているし頭も良いのにこういうところは少しズレているな…。


 ただ運河を通すだけならそれほど難しくはない。ガルハラ帝国が本気で動員をかけて公共事業として運河の掘削を開始すればそう時間をかけずに開通自体は出来るだろう。


 問題なのは回廊の上ですら歩いているだけで襲い掛かってくる海の魔獣への対策だ。何もしていなければ運河まで入ってきた魔獣が運河の周辺にまで飛び上がって襲い掛かってくるだろう。


 それに加えてバンブルクをぐるっと囲うように運河を作ることになるのでバンブルクへの移動手段も必要になる。小船で渡ろうと思うのならそれこそ海の魔獣をなんとかしないと一般人には殺してくれと言っているようなものだ。狭い小船の上で海の魔獣に襲われて対処できる一般人はそうはいない。


 さらに船で渡ろうと思うと運河を通る大型船との事故も考えなければならない。そのため通れる時間や量に限りが出来てしまうだろう。現時点ではそれほど多くの船が運河を通る予定はないだろうが今後色々と発展すればすぐに通過できる数の上限に達してしまう。


 やはり渡し舟ではなく橋のようなものが必要になってくる。そして橋もかけて船も通れるという条件を満たすには色々とクリアしなければならない課題がある。高い橋をかける建築技術や可動橋のようなものを作る技術や動力が必要になるからだ。


 シロー=ムサシが抜けたのは痛い…。運河の件だけではないが現代の知識がある開発者がいなければ実現が難しい問題がたくさんある。


アキラ「北大陸に渡ったらシロー=ムサシ達を捕らえているところへ寄りたい。」


 俺は皆に今後の予定を話してみた。


マンモン「………俺が案内しよう。」


 どうやらマンモンは場所まで知っているようだ。火の精の伝令を使えばフリード達から聞くことも出来たが直接知っている者がいるのなら案内してもらえば一番確実だろう。早速マンモンが役に立った。


 他の者からも特に反対はなかったので俺達は北回廊を渡り北大陸へと上陸したのだった。



  =======



 マンモンの案内で北大陸に上陸するとすぐに北東へと向かって進む。こちらへは今まで一度も来たことがない。暫く進むと簡単な柵で囲われた場所が見えてきた。


 その場所は三つの気候が交じり合う地点を囲んでいるようだった。北側は猛吹雪が吹き荒れる極寒の気候。南西は森の茂る温暖な気候。南東は蒸し暑い熱帯雨林のような気候のようだった。


アキラ「砂漠気候じゃなくて温暖な森があるなんて随分優しい監獄だな?」


 シロー=ムサシ達はガルハラ帝国に反旗を翻した反逆者だ。普通なら極寒の地や灼熱の地に放り出されてもおかしくはない。それなのにこの場所では温暖なところに居ることも出来て快適に過ごせそうだと思ったのだ。


マンモン「………その温暖な森にこそ魔獣が数多く生息している。気候的に一番よくとも外敵は一番多い。どこに居ようと奴らには地獄だ。」


 なるほど。俺達にとっては魔獣などただの食料くらいにしか感じないが普通の人間族から見れば北大陸の魔獣というだけでも脅威となる。


 そして餌も多い温暖な森の中など魔獣の宝庫というわけだ。いくら過ごしやすい気候でも魔獣に襲われ続けるのならそんな場所にはいられない。


 かと言って極寒の地にいるような魔獣は獰猛な者が多い。恐らくだが過酷な環境を生き抜くために必死だからだろうと思う。絶対数こそ少ないものの獰猛な魔獣がいる極寒の気候も過ごすには厳しい。


 そして熱帯雨林はもっと悪い。生い茂り見通しの悪い視界に様々な生態を持った多種多様な動植物たち。毒を持った虫や蛇もたくさんいるだろう。


 地球で考えてもホッキョクグマに襲われるのも大変ではあるが目に見えないか見えても気付かないような蚊やダニに噛まれただけで毒や病気で死ぬのも防ぐのは難しい。


 結局のところこの北大陸の監獄に入れられているだけでシロー=ムサシ達にとっては地獄も同然というわけだ。


 そして逃げ出すことも出来ない。簡単な柵で囲われているだけでそこから出ること自体は難しくはない。だが一歩でも柵の外へと出たならば監視として周囲にいる魔人族達の助けが一切なくなる。


 そうだ。彼らは監視しながらもシロー=ムサシ達を助けている。この簡単な柵の監獄の中にあまりに危険な魔獣や多すぎる数が入り込まないように調整してシロー達を助けている。


 もしその間引きがなく魔獣達が自由に入り込んでいればシロー達はすでに生きてはいなかっただろう。脱走するのは容易いが脱走すれば確実な死が待っている。誰が考えたのか知らないがえげつない監獄だ。


アキラ「俺はシロー=ムサシと会ってくるが皆はどうする?」


 俺の問いかけに皆が顔を見合わせた。


狐神「皆で行けばいいんじゃないかね?」


 師匠の言葉に皆同意して頷く。結局全員で監獄の中にある建物へと向かったのだった。



  =======



 監獄、と言っても簡単な柵で囲んであるだけだが、の中にある建物に入った。ここは所謂安全地帯だ。シロー達も二十四時間三百六十五日外で戦っていてはすぐに疲れて死んでしまう。


 休憩や食事、装備の点検や補充などを行う場所として魔人族が守るこの建物で休むことが出来るようになっているらしい。


 なぜこんな施設を用意してやっているのか。それはシローがただの囚人や死刑囚というわけではないからだ。シローには未だに新兵器開発の役目が与えられている。その新兵器を自分達の身をもって実戦テストさせられているのだ。


 だから新兵器開発や調整などは安全な場所で行わなければいつまで経っても出来上がらない。そのためならば一時的にこの安全地帯で休むことが出来る。


 有用な新兵器を開発しなければ自分達の身も守れない。だから必死になって兵器を開発するだろうという極めて非人道的刑罰だ。地球でならば認められないような罰ではあるだろうがこの世界ではそんなことに異を唱える者はいない。むしろ本来なら即座に処刑されていてもおかしくない大罪人達なので生かしてもらえているだけ温情的だと受け取られているだろう。


シロー「よう。まさかあんたらがわざわざ俺を訪ねてくるとはな。」


 俺達が面会室のような場所で待っているとシローが逆の扉から入ってきた。その雰囲気は前に会った時とまるで違う。


 こんな場所で命を賭けて戦い続けているから変わったというわけではないだろう。むしろこちらが本性だったと考えるのが自然だ。


アキラ「そっちがお前の本性か。まさかお前がこんな馬鹿な真似をするとはな。もう少し賢いかと思っていたぞ。」


 俺の言葉を聞いてシローは肩を竦める。


シロー「俺の行動が馬鹿か?ただどこかの国に飼われて過ごすだけの方がよほど馬鹿だと思うがな。」


 くっくっくっとくぐもった笑い声を上げながらシローは愉快そうに笑っていた。やはり常人には理解出来ない人種のようだな。


???「…え?ルリ隊長?」


 シローの後ろから入ってきた女がそんな声を上げた。


ルリ「………誰?」


 ………全員ずっこけそうになる。


ユイ「ユイ=アマノです。ルリ隊長ほどの方に覚えていただけるような者でもなかったですが………。」


 どうやらシロー=ムサシと一緒にここに収監されている元逆十字騎士団の者のようだ。まるでシローの副官のように後ろに控えている。


アキラ「ルリと話がしたかったら後でするがいい。まずは俺の用件を済ませたい。」


ユイ「………えっと?貴女は?」


 ユイは偉そうにふんぞり返っている俺が何者かわからずに困惑しているようだ。そりゃそうだな。俺は見た目はただの少女だからな。


アキラ「別にお前に俺のことを説明してやる理由はない。あとでシローにでも聞け。」


シロー「俺も君のことはよくわからないけど?ガルハラ帝国で出会った同郷の人ってくらいしか知らないぞ。」


ユイ「………同郷?えっ?地球人?」


 ユイは俺の姿を見て驚いている。それはそうだろう。地球人に猫耳の生えた者はいない。


アキラ「だからそれはいい。俺の用件は簡単だ。お前がこんなところにぶち込まれたせいで色々と開発が遅れてる。さっさと開発しろ。それから開発した物に妙な仕掛けはするなよ?」


シロー「………君…本気で言ってんの?俺は今こんな状態だし反逆を起こすくらいなんだから俺が何か開発してもそこに何か仕掛けると思うのが普通だろう?」


 確かに大半の者はそう考えている。だからシローが新兵器を開発してもそれをそのまま鵜呑みにはせず帝国技術班が検証し新しく組み立てて作るという手間をかけている。罷り間違ってもシローが作った物をそのまま使うようなことはしていない。


アキラ「そんなこと知るか。さっさと運河建設をなんとかしろ。それから蒸気船もだ。車の開発はどうなってる?町全体に電気と電化製品を流通させる計画は?街灯の設置も進んでないぞ。」


 俺はガルハラ帝国でシローとフリードを交えて話していた開発計画について問い詰めた。


シロー「あはっ!あははははっ!面白い!面白いよ君!あはははっ!」


ユイ「………。」


 シローは爆笑しだした。ユイは半分呆れたような顔でシローを後ろから見つめている。どうやらこいつはシローの副官のようなのでシローの奇行に相当手を焼いているのだろう。


シロー「………ああ、いいぜ。君が口添えして俺達がこの安全地帯で休める時間を延ばしてくれるなら他の開発も進めよう。尤も君にそんなことが出来ればだけどね!あはははっ!」


 今のところシロー達はほとんど外に放り出されている。現在この安全地帯に入って休めるのは武器弾薬の補充か武器の調整の時だけだ。それ以外に三日に一度だけ数時間安全地帯に入る許可が下りてその間に新兵器の開発を行っているらしい。そんな程度の時間じゃはっきり言ってほとんど新しい物なんて作れない。


アキラ「確かに聞いたぞ?約束は守れよ?」


 俺はシローに念を押す。確かにこいつはもっと研究の時間を増やしてくれたらやると言った。


シロー「………。まさか本当に君にそんなことが出来ると?」


アキラ「お前は研究時間を増やしてくれたら開発を進めると言った。いくらお前が反逆者でもその程度の約束くらいはきちんと守れよ?」


シロー「ふっ…。はははっ!あははははっ!いいよ!いいとも!あはははっ!」


 シローとの約束は取り付けた。あとはフリードにでも言えばすぐに済むだろう。………そこで俺はシローの後ろに控える女を見た。


アキラ「お前…、ユイ=アマノだったか。お前シローの女なのか?」


 俺の言葉にユイは目をむいて怒り出した。


ユイ「誰がこんなやつの女ですか!貴女一体何なんですか!」


 照れて怒っている………というわけでもなさそうだな。少なくとも今のところはそういう関係ではないようだ。


アキラ「まぁどうでもいいがな。こんな偏屈野郎のことを好きになったら色々と大変だろうな。…ルリと話したければこの後で話すがいい。」


 俺はそれだけ言うと立ち上がった。仲間達も全員俺に付いて出てくる。………ってルリは残ってやれよ。


アキラ「ルリ。逆十字騎士団の者達が話をしたいようだぞ?」


ルリ「………ルリには話はない。」


 ………それはそうかもしれないけどちょっとくらい聞いてやったらどうだろうか。俺も大概だとは思うがルリは俺に輪をかけてそういう気遣いや遠慮がない。


 ともかくルリをちょっと説得して俺と二人ならということで少しだけ二人で残って逆十字騎士団の者達の話を聞いてやった。


 それからフリードに連絡してシローの安全地帯での研究時間を増やしてやるように言ったのだった。



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