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転生無双  作者: 平朝臣
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閑話⑱「殴りあってこそ男の友情は芽生える」


 十ヶ月ぶりくらいにようやくアキラが帰って来たのに変な男が増えてる。アキラの嫁は増えて帰ってくるだろうとは思ってたし実際に女は増えてるけど男は俺だけだって約束したじゃないか!


 とまぁそうは言っても今目の前で増えた奴らがいる以上は仕方がない。つまるところ俺がアキラの唯一無二の夫になれば済む話だ。


フリード「誰がアキラに相応しいか勝負しようじゃないか。」


 俺の言葉に応えるのは前から知っているマンモンとジェイド。それから小さいガキと巨大な大剣を背負った獣人族だった。


キツネ「ちょっとお待ちよ。エンは良いのかい?」


エン「なっ、なんで俺がこんなことに参加しないといけないんだよ!」


キツネ「ふぅん?後悔しないなら別に良いけど?」


エン「だから俺は関係ないって言ってるだろ…。」


 アキラの肩にいつも乗ってる精霊族の片割れか。キツネの姉ちゃんは焚き付けようとしたみたいだけどうまくいかなかったようだな。


 俺としてはライバルが増えることになったとしてもここで後腐れなく全員が納得できる結末を望んでる。こいつが後で文句を言わないのならここで参加しなくてもいいが参加もせずに後で何か言うのはやめてもらいたい。


キツネ「それじゃ五龍王達はいいのかい?バフォーメは?アキラ親衛隊の者は?」


 キツネの姉ちゃんは他の者達も焚き付けようとしてる。けど他の者達もここで名乗りを上げることはなかった。アキラ親衛隊の中の一人は何か言ってたけど結局は参加しなかった。ここで名乗りを上げる度胸もないような奴は俺とアキラを取り合う資格もないってことだ。


 俺はこの四人を破ってアキラの夫の座を手に入れる!その決意を込めてアキラを見つめるとアキラも熱い瞳で俺を見つめ返していた。


 あぁ、アキラ可愛すぎる!金色の瞳が熱を帯びて俺を見つめている。


アキラ「おい。俺は別に熱い瞳で見つめ返してないからな。」


フリード「え?何で俺の考えてることがわかったんだ?」


アキラ「………さぁな。」


 アキラは顔を逸らした。何か隠してるのか?何だ?わからない。だけどそんなことはどうでもいい。とにかくまずはアキラの夫の座を勝ち取ることが先決だ。こうして俺達五人はアキラ争奪戦を繰り広げることになったのだった。



  =======



 まず俺達は五人で集まって話し合いから始めた。


フリード「まず確認しておきたい。この争いに勝ったらアキラの夫の座が手に入る。負けた者は後で文句を言わない。そういうつもりでいいんだな?」


 俺は集まった他の四人を見渡しながら確認する。


ジェイド「だからそれを決めるのはアキラだろう?」


マンモン「………何人もに言い寄られたらアキラが迷惑だろう。その相手を我々で絞っておくことに異議はない。」


クロ「へっ。アキラは俺の女だ。お前ら全員叩きのめしてやる。」


太刀の獣神「………。」


 最後の奴何か言えよ…。どうやらこの小さいガキが黒の魔神のクロで大剣を背負った獣人が太刀の獣神らしい。だが相手が誰だろうが俺はアキラを譲るつもりはない。俺こそがアキラに相応しいと思い知らせてやる。


フリード「それじゃ最初の勝負はこれだっ!」


全員「「「「おおっ!」」」」


 俺の案に全員が声を上げた。さぁ、誰がアキラに相応しいか勝負だっ!



  =======



 俺は今厨房で料理を作っている。それは何故か?もちろんアキラ争奪戦のためだ。俺が提示した最初の勝負。それはアキラに料理を食べてもらって一番を選んでもらうというものだった。


 何故手料理なのか?もちろん参加者達にも問い詰められた。だがそこにはきちんと説明出来るだけの明確な理由がちゃんとある。


 アキラは料理が好きだ。自分でもマメに作ってるし味にもこだわりがある。だからアキラの伴侶になる者にはアキラの満足する料理を作れる腕が必要ではないのか!?


 俺がそう力説すると皆納得してそれぞれ料理を作り始めたというわけだ。


フリード「さぁ出来たぞ。お前達はどうだ?」


ジェイド「ああ。いつでもいいぞ。」


マンモン「………俺に死角はない。」


クロ「アキラ抱っこぉぉぉ~~~!」


 アキラに抱っこしてもらうだと!けしからん!でもアキラはいないし一人で愚図ってるだけだから放っておこう。


太刀の獣神「………。」


 お前はとにかく何か言えよ………。


 もういいのか?ジェイドとマンモンは何かちゃんと作ったみたいだけど残りの二人は何やらやばそうだ………。


 とは言え待っていてもこちらの料理が冷めてまずくなる可能性もある。俺達はアキラを食堂へと呼び出したのだった。


アキラ「…で?今度は何の悪巧みだ?」


 ちょっと食堂まで来てくれと言ったらあっさりついてきてくれたけど何か俺達が悪巧みしてると思ってるみたいだな。


フリード「おいおい。悪巧みなんてひどい誤解だぞ?ただ俺達はアキラに日頃の感謝を込めて手料理をご馳走したいだけだ。だから料理を食べてどれが一番おいしかったかだけ教えてくれ。どれが誰の作った物かは伏せておくから誰の物かじゃなくてアキラが食べて気に入った物を選んでくれよ?」


 俺が作った料理だって言ったらアキラは絶対に俺の作った料理を選んでしまうので他の四人のために誰が作った物かは伏せて判定してもらうことにした。


アキラ「………。お前らが料理をか?いくら俺に毒は効かないとしても味はちゃんとわかるからな?まずい物でも我慢できる能力じゃないからな?」


フリード「どういう意味だよ………。ちゃんと食える物だって。」


アキラ「………。」


 アキラは熱い視線で俺を見つめる。あの目はきっと『例え誰が作った物か伏せていてもフリードが作ったものならすぐにわかるよ』って言ってるに違いない。あぁ、アキラ可愛すぎる。


アキラ「言っておくが別に熱い視線でお前のこと見つめてないからな。こういうのは疑いの眼差しっていうんだよ………。」


フリード「何で俺の考えてることわかんの?」


アキラ「………。」


 何かアキラは疲れた顔をしてるな。よし!俺の手料理でアキラのその疲れを癒してあげよう。こうして料理対決が始まったのだった。



  =======



 誰の物から出すかは事前にくじ引きで決めてある。最初にテーブルに座るアキラの前に出てきたものは………。


アキラ「おい…。これを料理と言っていいのか?」


 それはただ獣の毛を毟って焼いただけの脚だ。味付けすらしてない。ただ直火で焼いただけだ。アキラがこれは料理か?と聞いたのも頷ける。


フリード「まっ、まぁ一応料理じゃないかな………。」


アキラ「ほう?じゃあ料理というなら名前があるよな?何て名前の料理だ?」


 うぐっ…。アキラは鋭い。そんなの俺が答えられるわけがない。


フリード「え~っとぉ…、それはぁ~…。」


太刀の獣神「………肉だ。」


アキラ・フリード「「…あ?」」


 今何か言ったか?


太刀の獣神「………肉、だ。」


 …聞き間違いじゃなかったようだ。これは『肉』という料理のつもりらしい………。っていうかこれで完全にこれが誰の料理?かわかったよな………。


アキラ「そうか…。まぁいい。味見してみよう。」


 そう言うとアキラは脚の骨を掴んで豪快に齧り付いた。おっ?おっ?結構むしゃむしゃ食べてるな?そんなにおいしかったのか?


フリード「どうだ?」


アキラ「ただの獣を焼いた肉だからな。まずくはないけどうまくもない。ただの焼いた肉だ。」


 ですよね~…。俺もそうだろうと思ったよ…。だがそれを聞いた太刀の獣神は満足そうに頷き得意気な顔をしてる。


 何かちょっとイラッとするな。何もう俺が一番で決まりだな、みたいな顔してんだ?こんなの料理じゃねぇよ!それにアキラの評価もいまいちだ。お前なんか選ばれるわけねぇ。


フリード「じゃ、じゃあ次に行こうか。次はこれだ。」


 そうしてアキラの前に出てきたのは………。


アキラ「おい………。これは食い物か?」


 何か黒い塊だ。まるで炭みたいだ。


フリード「じゃないかなぁ?かもしれないなぁ?だったらいいなぁ?」


 俺だってこんなものフォローのしようがない。


クロ「俺が丹精込めて作ったんだ。食え!」


 おいぃぃ!誰が作ったか内緒だっつってんだろ!自白してんじゃねぇよ!


アキラ「………ふぅ。」


 アキラは一つ息を吐いてからそっとその真っ黒な炭を口に運ぼうとする。


フリード「あまり無茶するなよ?」


アキラ「ああ。でも折角俺のために作ってくれたんだろう?食べないわけにはいかないだろ?」


 アキラは微笑みながらそう答えた。なんてええ娘なんや………。こんな毒か炭かみたいなものまでキチンと食べようだなんて…。アキラのプルンと柔らかそうな唇が開き真っ黒な炭がその中へと飲み込まれる。


フリード「………どうだ?」


アキラ「にがい………。ただの炭だ。何を焼いたんだ?」


 アキラの綺麗な顔が渋い顔になってる………。でもそんなアキラも可愛い…。


クロ「アキラがいつも食べてる白い粒だ。」


アキラ「………米か?」


クロ「おお!そうだ!それだ。コメだ。」


 米?米は俺もアキラに食べさせてもらったことがある。決してこんな炭ではないはずだ。


クロ「食い物なんてとりあえず焼いておけば食えるだろ!」


 クロの負けは確定だな。どう考えても太刀の獣神よりさらにひどい。暫定一位は太刀の獣神だ。


フリード「………次に行こうか。」


 次に出てきた物は………。


アキラ「おい………。これを俺に食えって言うのか?」


 生の獣だ………。仰向けに寝かされた死んだ獣の腹を割いて内臓をぐちゃぐちゃに混ぜてある…。


ジェイド「生の内臓が一番のご馳走だ。」


アキラ「あぁ…。肉食獣は獲物の内臓とか柔らかい部分を食べるもんな…。」


 さすがにアキラの顔は少し引き攣って…ないな。案外平気っぽいぞ。獣耳だしアキラもこれくらい平気で食べれるのか?!同じ獣っぽいジェイドの好みが一番アキラに合うのか?!くそっ!失敗した!っていうか誰の料理か伏せるっつってんだろ!自分からばらすんじゃねぇよ!


ジェイド「だろ?一番良い所を愛しい者に捧げる。これこそ愛ってものだ。」


アキラ「お前の感性じゃそうかもしれないけど俺は生の内臓を食うような嗜好じゃないんだけどな。お前は俺と一緒に旅をして俺がどんな物を好んで食べてるか知ってるはずだよな?相手のことを考えて選ぶことこそ大事じゃないのか?」


ジェイド「そっ、それは………。」


 ジェイドは崩れ落ちて両手両膝を床についている。何かロディの土下座に似てるな。尻が浮いてるのが土下座と違うところか。


アキラ「………ふむ。少し臭いがきついな。食感はまぁ食える。味は…ただの生肉より少し臭いくらいで普通かな。」


ジェイド「あ…、無理に食べなくてもいいよ?完全に俺の選択ミスだ。俺は自分のことしか考えてなかった。俺の負けだ。」


アキラ「勝ちとか負けとかあるのか?ジェイドは俺のためにこれを作ってくれたんだろう?その気持ちが大事だろ?今回は俺の好みを考える余裕はなかった。だから自分の好きな物を出してしまった。次はこの失敗から学んで相手のことも考えられるようになればいい。違うか?」


 アキラは獣の内臓を食べてから良い事を言った。そうだ。その通りだ。さすがはアキラだ。ちょっと口から血が滴ってるけどそれでも可愛い。っていうか結構バクバク食ってるな!案外気に入ったのか?


フリード「それじゃ次にいこうか。」


 次に出てきた料理は………。


マンモン「………アキラの好みは把握している。俺の勝ちだ。」


フリード「だから自分でバラすんじゃねぇっつってんだろ!誰の料理か伏せた上でどれがうまいか選んでもらうっつっただろ?お前ら馬鹿なの?死ぬの?」


 俺は怒りのあまり我を忘れてマンモンに詰め寄っていた。


アキラ「落ち着けよフリード。最初からほとんどどれが誰の料理かわかってたようなもんだ。もういいだろう?」


 ………。そうだな。そう言われたらそうだ。皆それぞれ特徴が出すぎで俺とマンモンくらいしかまともな調理をしてない。それならもう全員どれが誰のか教えた上で食ってもらった方が公平かもしれない。


マンモン「………では食べてみてくれ。」


 だけどそう言われたアキラの手は動かない。っていうか明らかに今までにないほど顔を顰めてるな。


フリード「どうした?嫌いなものだったか?」


 俺の問いにもアキラは動かずただじっとマンモンの料理を見つめている。


アキラ「お前達この臭いを何とも思わないのか………?」


フリード「臭い?………にんにくの匂いがするが?」


 マンモンの料理は何かの炒め物のようだ。ぱっと見てわかる範囲では何かの肉と野菜を炒めただけのように見える。にんにくの他に何種類かの少し匂いのきついものが入ってるようだ。ただ俺の鼻じゃ何の匂いか全てを判別することは出来ない。


アキラ「………俺だけか。鼻が良すぎるのも考え物だな…。」


 アキラは少し青い顔をしながらため息を吐いた。そんなにアキラの苦手な匂いがしてるのか?あとでマンモンに何を入れたか聞いておいた方がいいかもしれないな。


 覚悟を決めたアキラはマンモンの料理を口へと運ぶ………。


アキラ「うっ!………。」


 今までにないほど顔を歪めたアキラは口元を押さえた。よっぽどアキラには合わない物が入ってたんだろう。


マンモン「………ばかな。アキラの嫌いな食材が入っていたのか。」


 マンモンもジェイドと同じ格好で両手両膝を床に着いて項垂れていた。


フリード「そんなにまずいのか?俺も味見してみていいか?」


 一体どんな物が入っているのか気になってしまう。ここで匂いを感じる範囲では確かに少し匂いは強いけど食えないような匂いじゃない気がする。


アキラ「うぷっ………。マンモンに聞け。俺はもう食えない………。」


 我慢してたとしてもこれまでの料理は割と平然と食べていたアキラが明らかに拒絶反応が出てる。


フリード「マンモンいいか?」


マンモン「………俺の負けだ。」


 マンモンは床に崩れ落ちたままぶつぶつ言ってるだけだからもう了承したと受け取って俺も味見してみる。見た目はただの炒め物だ。匂いも少し強いだけで食えないような匂いとは思えない。


フリード「もぐもぐ………。なんだ別にふつ………う?うげっ!おぇぇぇっ!なんだこれ!」


 口の中が苦い!臭い!痛い!何だこれ!何が入ってたんだ?!


アキラ「発酵させた魚。ニシンか何かか?と唐辛子より辛い何か。ハバネロっぽいものかな。それに大量のにんにく。肉にも何かしてるな…。燻製か?ただ燻した材料の木か何かがすごく臭い。肉にもその臭いがうつって臭い。他には…これは臭豆腐か?」


 アキラの言った物は知らない物が多い。おそらくアキラの知識にある似たような物を言っているんだろう。


マンモン「………アキラの言っているものと名前は違うがおそらく当たっているだろう。発酵させた魚、野菜に燻製の肉だ。」


フリード「………食べたらこんなにひどい味と臭いがするのに何で皿に盛ってる時はそんなに臭いがしなかったんだ?」


 口に入れたらそりゃもうひどいものだった。俺の口自体が臭くなった気がする。だけどさっき口に入れるまではそんなにひどい臭いと思わなかった。


アキラ「濃い味付けと香辛料などの匂いで誤魔化されてるな。あと臭いやつは油揚げみたいなものに包まれてる。これのお陰で臭いが軽減されてたんだろう。口に入れてこの揚げを噛み潰すと中から出てくるもので一気に臭いが充満するんだ…。」


フリード「なるほどな…。」


 アキラはその臭いを食べる前から気付いていたんだ。俺は口に入れて噛むまでわからなかった。そして噛んだ瞬間に溢れ出たあの臭い………。うぷっ…。思い出すのはやめよう。


アキラ「マンモンはこれを食えるのか?こういうのが好きなのか?」


マンモン「………もちろん食える。」


 そう言うとマンモンはアキラの前に置かれている料理を口へと運んだ。


マンモン「………。」


 そしてそれを一口食べるとそのまま気を失って後ろにひっくり返ったのだった。


フリード「お前も食えねぇんじゃねぇか!ちゃんと味見して食える物を出せよ!」


アキラ「…その点だけはフリードに賛成だ。」


 アキラも俺に賛同してくれるようだ。こんな口の状態じゃ何を食っても味なんてわからないだろう。マンモンの料理で馬鹿になった口が戻るまで暫く時間を置いたのだった。



  =======



 暫く時間を置いてちょっとは味覚が戻ったと思われるので最後の料理を出す。もちろん俺が作った料理だ。


フリード「もう最後だから俺のだってばれてると思うから先に言っておく。これが俺の作った料理だ。」


 アキラのテーブルの前に並べられているのは俺が作った『にくじゃが』だ。これはアキラがたまに作っていてそれをこっそり俺が覚えた料理だ。何でもアキラ達の元いた世界ではこの料理を出すと恋人が喜ぶらしい。だから俺はこっそりアキラが調理してるのを覗き見たり、うちのコック達に味見させて再現させたりしていたのだ。


アキラ「ほう…。見た目も匂いも普通だな。どれ………。」


 アキラが俺の料理を口に運ぶ。ドキドキするな。好きな人に料理を食べてもらうってこういう気持ちなのか。俺もよく女達に手料理なんかを食べさせられてまずい素人の料理を食べるくらいなら一流レストランでおいしいものを食べたほうがいいのにとか思ってた。だけど好きな人に料理を食べてもらいたいと思う女達の気持ちがわかった。


アキラ「………具の大きさがばらばらだから火の通りが悪い。まだ火の通ってない物もあれば火が通りすぎている物もある。あと味付けが濃い。醤油を入れすぎだ。それから調味料を入れる順番が滅茶苦茶だな。調味料を入れる順番は非常に重要だ。」


 アキラからいっぱい駄目だしを食らう………。


フリード「………そうか。」


アキラ「………。」


 アキラがじっと俺を見つめている。………でもその顔が見れない。


アキラ「そんなに肩を落とすなよ。料理をしたこともなさそうな皇太子様が一生懸命作ったんだ。最初から上手に作れる者なんてそうそういない。素人が作った料理にしては良い出来だと思うぞ?それに他の奴に比べたらまだまともな料理だったよ。」


 僅かに微笑みながらそう慰めてくれた………。そのアキラの柔らかい笑顔を見ていると心が癒される。


フリード「アキラッ!」


 俺はアキラに抱きつこうとする…。が、横から何かが飛んできて俺は突き飛ばされて転ぶ。俺を突き飛ばした者はアキラの胸に抱かれてる………。


クロ「アキラ抱っこぉぉぉ~~。」


アキラ「………はいはい。」


 うぉぉぉ!許せん!いくらガキでもアキラの胸に抱かれるなんてうらやましい!じゃない。けしからん!


フリード「おいガキ!いくらガキでもアキラに抱きつくなんて許せん!勝負しろ!」


クロ「おい。あまり調子に乗るなよ?俺様は黒の魔神様だぞ?」


 ………アキラに抱っこされたガキが偉そうに言っても何の迫力もない。


クロ「アキラ力を返してくれ。こいつに思い知らせてやる。」


アキラ「………いいだろう。ちょっと手合わせしてみろ。」


 こうして俺達は練兵場へと向かったのだった。



  =======



 練兵場に着いた俺達は向かい合う。こんなガキに本気になるのは大人気ない。


アキラ「おいフリード。クロはこんなでも黒の魔神だからな。手加減なんて必要ないぞ。それじゃ元に戻すからな。」


 アキラが軽く光ったかと思うとクロがみるみる大きくなっていく。


クロ「ようやく戻れたぞ!アキラッ!」


 大人になったクロにも驚いたが大人になった瞬間にアキラに抱きつこうとしやがった!だけどアキラに思い切り殴り飛ばされて腹を押さえて蹲るはめになった。馬鹿め!ざまぁみろ。俺のアキラに抱きつこうとするからだ。


アキラ「手合わせはいいが相手に大怪我させたりましてや死なせたりするなよ。それ以外なら好きにしろ。結界は俺が張っておいてやる。」


 アキラはそう言うと練兵場の隅へと移動した。結界っていうのは前まではよくわからなかったけど今回アキラが何か張ったのはわかった。薄い膜みたいな物が俺とクロの周りを覆ってる。これが結界だったのか。


クロ「はっ。たかが人間風情が。子供の姿だった時に随分世話になったようだから今度は俺が可愛がってやるぜ!」


フリード「例え人間だろうと譲れない想いのためには神にだって噛み付くってことを思い知らせてやるよ!」


 俺はいきなりクロに飛びかかる。アキラが貸してくれた両刃の大剣を思いっきり振る。轟っと空気を切り裂く音が遅れて届く。俺の剣速は最早人間の域を超えてる。


クロ「ちょっ!お前本当に人間か?」


マンモン「………俺よりも強いだと?!」


ジェイド「確かに人間どころか低位の神より強いようだな。」


太刀の獣神「………。」


 皆驚いてるようだな。どうだアキラ?俺だって成長しただろう?もうアキラの旅にだって同行できるぞ?


アキラ「気を逸らしていたら死ぬぞ?」


 一瞬目が合ったアキラがそう言った瞬間俺の腹に強い衝撃が走った………。


フリード「ぐえぇっ!」


 吹き飛ばされた俺は練兵場の端の方まで飛ばされ目に見えない壁に叩きつけられた。


クロ「ほう…。あれでまだ生きてるとはな。お前本当に人間じゃないみたいだな。だったら手加減はいらないか。」


 そう言った瞬間クロの体から赤いモノが溢れ出る。あれが魔力か?まずい…。俺も魔力を…。


クロ「何っ!」


フリード「…あれ?」


 気がついたら俺は逆側の端の結界に衝突していた。クロはさっきまで俺が蹲ってた結界の端に立っている。どうやら俺は回避しようとして脚に力を入れたらそのまま一足飛びに反対側まで飛んだようだ。


クロ「ちっ!しゃらくさい!」


 クロが長く伸びた爪で俺に斬り掛かってくる。俺は剣でそれを受ける。その剣を見て俺は驚いた。


フリード「なんだこれ!?」


クロ「ちぃ!」


 俺の腕も握ってる剣も赤いモノに覆われてる。俺の体もクロと同じように魔力に覆われてるようだ。力が沸いてくる。今までの俺とは比べ物にならないほど速く強く動ける。アキラの剣の方が優れているからかクロの爪を斬りおとした。


クロ「馬鹿なっ!ただの人間の癖に…。」


 距離を取ったクロは驚愕の表情で自分の爪を見ている。勝てるぞ!これは勝てる!黒の魔神に俺が勝てる!


クロ「…まさか人間相手に本気になるとはな。来い!魔剣レーヴァテイン!」


 クロの手に剣が現れる。なんだあれは…。禍々しいまでの力を感じる。あれはやばい。


フリード「でも…、それでも俺は想いで負けるわけにはいかないんだ!うおおぉぉおっ!」


クロ「死ね!破滅の杖レーヴァーティーン!」


 火の鳥のようになったクロが剣を掲げて飛んでくる。


フリード「うおおぉぉぉ!負けるかぁぁぁ!」


 俺の体を覆ってた赤いモノがどんどんクロの炎に巻かれて蝕まれていく。このままじゃ俺は死ぬかもしれない。だけど俺は退く気はない。絶対に退かない!ここで俺が退いたら俺のアキラへの想いまで退いてしまう気がする。だから絶対に勝つ!


 俺とクロがぶつかる瞬間世界は真っ白になった………。


 ………

 ……

 …


 まるで水の中に浮かんでいるようにふわふわとした感覚がする。俺はどうなった?死んだのか?次第に心地良い浮遊感は失われて俺の意識は徐々に現実へと引き戻された。


アキラ「大怪我をさせるなって言っただろ?」


 アキラの顔がすぐ近くにある。俺は後ろからアキラに抱きとめられているようだ。アキラの片手は俺を抱きとめているけどもう片方の手でクロの剣を止めていた。背中にはアキラの大きな胸の感触がある。子供姿のクロはいつもこんな気持ち良い感触を味わってるのか。うらやましい奴め。


クロ「………俺の勝ちだろ。」


アキラ「今のフリードがお前に勝てるわけないだろ?何をムキになってるんだよ?」


クロ「うるせぇ…。ちっ。一応お前のこと認めておいてやるよ。これからは俺のことをクロと呼ぶことを許してやる。俺もお前のことをフリードって呼ぶからな。」


 それだけ言うとクロは離れて行った。アキラの視線がクロから俺に移る。アキラは青白いモノの包まれている。髪は青白いモノに巻き上げられ九本の尻尾は長く伸びていた。縦に細くなった金色の瞳が俺を見つめる。その目尻が柔らかく下がり口元にうっすらと笑みが浮かぶ。


アキラ「無茶するな馬鹿。黒の魔神に勝てるわけないだろ?…でも、強くなったな。」


 アキラが柔らかく微笑みながら優しく俺に語りかけてくれる。


フリード「アキラ!」


 俺はアキラに抱きついた。だけどアキラは嫌がらない。頑張ったご褒美かな?


フリード「…だけどこの力はアキラのお陰なんだろ?この腕に込められたアキラの力だよな…。」


 俺の言葉を聞いたアキラは一瞬驚いた顔をした。


アキラ「気付いたのか?」


フリード「当たり前だろ?アキラにこの腕をつけてもらってから急にこれだけ強くなったら誰でもわかる。」


アキラ「そうか。まぁそれでもその力を使えるのはお前自身の能力があるからだ。どれだけ強い力を俺が与えたとしてもお前が何の努力もせず能力もなければその力はお前自身を傷付ける。だからその力を使えるのはお前の努力のお陰だ。」


 途中まで聞こえていたアキラの声も徐々に聞こえなくなってくる。俺の意識はまた深い闇の奥へと沈んでいったのだった。



  =======



 はっと俺は目覚める。ここは俺の部屋だ。俺はベットに寝かされている。そのベットの脇に椅子を置いて座ってるアキラがいる。だけどアキラは上半身を俺の上に乗せて眠ってるようだ。可愛い寝顔を俺の方に向けていた。すーすーと規則正しい寝息が聞こえる。


 俺はそっとアキラの頭を撫でてみた。


アキラ「うぅん………。」


 アキラは一瞬反応したけどくすぐったそうにしただけで起きる気配はない。これは頑張って料理の練習をして黒の魔神とも戦った俺へのご褒美だと思ってアキラの寝顔を楽しみながらその髪を撫で続けたのだった。



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