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転生無双  作者: 平朝臣
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第八十五話「アキラ争奪戦」


 神山の庵へと戻ってきたのは良いがさすがに人数が増えすぎて全員庵に入るのは厳しい。五龍王や親衛隊達は今回も外でテント生活だ。


 だが何度も言うが俺達はテント生活が長いのでかなり快適なように工夫されているし、普段は俺達だってテントなのだから俺達だけが家の中で良い環境で外の者達に辛い環境を押し付けているというわけではない。


ガウ「がうがうっ!」


 ガウがはしゃいでいる。やはりガウにとってもここは自分の家のようなもので『帰って来た。』という感覚が強いのかもしれない。


最古の竜『おかしい。ここには天龍神が封じられているはずだ。なぜ封印が解かれない?』


 急にしゃべりだした最古の竜の言葉で納得がいった。予想はしていたがやはりそういうことだったのだ。まず精霊族の国のことを思い出せばよくわかる。東に水のアクアシャトー。南に土のゲーノモス。西に風のシルフィード。北に火のザラマンデルン。そしてこの四つを十字に繋いだ交点に神山によく似た高い山があり光と闇の精霊がいた。


 それを元素が狂っていた場所に当てはめればぴったり合う。東大陸に水の狂った水龍湖。南大陸に土の狂った大樹。西大陸に風の狂ったシルフィード。北大陸に火の狂ったヴァルカン火山。そしてその四つを十字に繋げた交点に神山があるのが本来の姿だったはずなのだ。それがなぜか中央大陸は南西にずれており神山もそれに伴って位置がずれている。


 神山にも狂った元素の気配は感じるがなぜか中和されている。中和されているから中央大陸の位置がおかしくなったのか。中央大陸の位置がおかしくなったから中和されているのかはわからない。ただ自然の地殻変動のようなものが原因だとすれば中央大陸だけがずれていて他の四つは綺麗に十字のままというのは少し不自然だ。何か人為的なものを感じる。


アキラ「やはり元素が狂っている場所には龍神が封印されていてここもその一つだったというわけだな。」


最古の竜『その元素が狂うというのはわからんがここに天龍神が封じられているのは確かだ。』


 ドラゴン族には元素は感じ取れないので元素が狂っていると言われてもわからないのだろう。


アキラ「まぁ何にしろここの封印はまだ解けないと思うぞ。」


最古の竜『ほう?根拠は?』


アキラ「精霊族にこれとよく似た封印の方法がある。それと同じ理論だと考えればこの封印を解くには相克順に解かなければならないと思う。つまり次は西大陸のシルフィード。その次が北大陸のヴァルカン火山。最後にこの神山。その順番でなければそもそも封印を解除することすらできない。」


最古の竜『ふむ…。わしもまだまだ知らぬことが多いようだな。』


アキラ「他種族のことまで全て知っているほうがおかしいだろう。」


最古の竜『それはそうだがそれは言い訳にはならん。』


 最古の竜は未だに知識欲旺盛なようだ。


シルヴェストル「………では次はシルフィードに行ってあの禁忌の地を鎮めるということかの?」


 シルヴェストルは複雑な表情をしている。それはそうか。シルヴェストルは何百年もあの中で苦しみ続けなければならなかった。もっと早くこの封印が解かれていれば自分はあんなに苦しむことはなかったのにと思ってるかもしれない。あるいはようやくあの地が鎮まることでこれ以上自分と同じような思いをする者が出なくて済むと思っているのかもしれない。


 シルヴェストルのその表情からは何を考えているか読み取れないが魂の繋がりから俺に流れてくる感情は期待、不安、喜び、悲しみ、様々な感情がない交ぜになっている。だから俺はそっと手を出してシルヴェストルを左手の乗せて抱き寄せると右手で撫でた。


シルヴェストル「くすぐったいのじゃ。」


 俺が撫でるとシルヴェストルはくすぐったそうに身を捩っている。俺に流れてくる感情も安心や喜びなどの感情ばかりになってくる。


シルヴェストル「アキラ………。ありがとうなのじゃ。でもわしはもう大丈夫なのじゃ。」


 シルヴェストルは微笑みながら俺にそう告げた。強がりでも無理でもない。本心からの言葉だ。


アキラ「………シルヴェストルのためだけじゃないぞ。シルヴェストルが可愛すぎて俺が我慢できなかっただけだ。」


 これは嘘じゃない。くすぐったそうに身を捩るシルヴェストルが可愛い。ずっとこうしていたくなってくる。


シルヴェストル「アキラぁ………。」


 シルヴェストルは瞳をウルウルさせてハァハァしながら俺の胸に自分の体を擦りつけ始めた。スイッチを入れてしまったようだ。


クシナ「ごほんっ!まだこんな明るい時間に皆さんの前で一体何をしているのですか?!」


 クシナに怒られた………。


クシナ「いいですか!だいたい貴女はですね。常識というものが足りません!いくらシルヴェストルさんと夫婦だから良いとは言っても時と場合を考えてください。そもそも………。」


 皆はすすすっと俺とクシナを置いてその場から離れだした。ひどいぞ皆………。俺はクシナが満足するまで一人正座させられて怒られ続けたのだった。



  =======



 ようやくクシナの説教から解放された俺は露天風呂に入ろうと思ったのだがここで問題が起こった。それはいくらここの露天風呂が広いとは言っても全員で入るには狭いということだ。


 風呂も二つあるし洗い場もそれなりの広さで入ろうと思えばなんとか全員一緒にでも入れなくはないと思うがそこまでして全員で無理に一緒に入ろうとは思わない。


 そこで別々に入るということになると当然誰が俺と一緒に入るかで揉める。まずシュリ、リカ、ダザー達は俺のメイドと家臣で恋愛関係もないので除外だ。逆に嫁達八人は誰も譲らず基本的に俺と一緒に入ろうとしている。キュウが少し遠慮しているくらいだが嫁達八人だけなら一緒に入れるので問題はない。


 ハゼリとブリレも一緒に入りたいようだが嫁達を押しのけてまでは入ろうとしてこないので人数に余裕があればというところだろう。そして残りの女性陣がスイ、クシナ、オルカだ。


 さっきも言った通り全員入って入れないことはない。ただそれは狭い。俺としてはある程度余裕がある人数で入りたい。スイはあんな口調で性格だがあれで結構寂しがり屋だ。皆でわいわい一緒にお風呂に入るのが結構好きなようでそれとなく一緒に入りたいアピールをしている。もちろんあんな性格だからはっきり認めて一緒に入りたいとは言わないけどな。


 クシナもそれと似ている。俺に裸を見られたくないだとか一緒になんて入りたくないだとか言いながら『貴女がお風呂で女性達に妙なことをしないか監視します。』とか言って一緒に入ろうとしてくる。オルカもピィピィとか孕ませてくださいとか言いながら一緒に入ろうとしてくる。


 嫁達の他にこの五人が一緒に入るとさすがにかなり狭い。俺を入れて十四人のうちそれなりにゆったりお風呂に入ろうと思ったら十人か十一人くらいが限度だろう。俺の本音を言えばもっと減らしてゆっくり入りたいのだがそうするとまた揉めるのだ。苦渋の決断で何人か減らさなければならない。


アキラ「一体どうすれば………。」


狐神「何を悩んでいるんだい?」


アキラ「全員でお風呂に入るには狭いでしょう?かと言って一緒に入るメンバーから誰を外すのかとなると………。」


狐神「それならお風呂を拡げたらいいんじゃないかい?」


アキラ「え?」


狐神「………え?」


 お風呂を拡げる?


アキラ「………そんなことしていいんですか?」


狐神「………なんでしちゃだめなんだい?あのお風呂は私が造った物だから拡げたきゃ拡げたらいいと思うよ?」


 どうやら俺は固定観念に囚われていたようだ。自分達でお風呂を造る場合は最初から自分達に足りるだけの広さで造る。だけど最初からすでにあるお風呂を拡張するということに考えが回らなかった。いや、考えてはいたのだ。ただ人の家のお風呂を勝手に改造していいのかという考えがそれを邪魔していた。


アキラ「そうだったんですか。師匠が住む前からこの庵があったと聞いていたのでその前からある物かと思ってました。」


 歴史的建造物とかだったらと思うと古い物を勝手に弄ってはいけない気がしてしまう。この辺りは歴史や遺産遺物を大事にする日本人の感性だろうか。


狐神「周囲を囲っている岩とこの庵は私が住む前からあったんだよ。ただこの岩の外にあるお風呂は私が後で造ったものさ。いつも外でお風呂を造る時にアキラに任せてるからここのお風呂の拡張は私がするよ。」


アキラ「え?いいんですか?」


 師匠は器用だしすでに今あるお風呂を造った経験があるようで出来もいいので仕上がりの心配はないだろう。ただ師匠にそんな雑用のような真似をさせてもいいのかと抵抗を感じてしまう。


狐神「ああ。ちょっと考えもあるからやってみたいんだよ。」


 そう言われて断る理由もないので師匠に任せることにした。作業は師匠に任せることにしたが暇なのでついていってどんな風にするのか見学しようと思ったら皆ついてきたのだった。



  =======



 まず師匠は露天風呂を囲んでいた岩を動かしてスペースを拡げる。出来たスペースを掘って湯船を一つ追加した。それから残りのスペースには洗い場を追加する。師匠がやりたかったことと言うのはお湯を各湯船を順番に流れるようにして後に流れる湯船ほどお湯の温度が下がって温度の違う湯船を楽しむことだったようだ。


 それから俺が考えたシャワーもどきから打たせ湯を思いついたのだろう。途中から分岐させた源泉掛け流しの打たせ湯が出来上がっていた。ついでに脱衣所も拡げて建て増したようだった。脱衣所はさすがに全員同時には無理だがそれでも前よりはかなりの余裕が出来ただろう。これなら全員が一緒に入ってもなんとかなる。


狐神「これでどうだい?」


アキラ「はい。良い出来だと思います。」


ミコ「前も素敵だったけど早くこのお風呂に入ってみたいね。」


 前にこの露天風呂に入ったことのある者は新しいお風呂に期待し、まだ入ったことのない者はこの露天風呂を楽しみにしてお湯が溜まるのを待っていた。


フラン「そろそろお湯も溜まったのではないでしょうか?」


狐神「そうだね。そろそろ見に行ってみようか。」


ガウ「がうがうっ!」


 暫く時間を置いてお湯が溜まってそうだったので様子を見に行ってみる。


キュウ「新しく掘った湯船にもお湯が溜まってますねぇ~。」


 キュウの言う通りお湯も溜まっていてもう入れる状態になっている。


狐神「もう良さそうだね。それじゃ皆で入ろうか。」


アキラ「はい。」


 俺も早く入りたい。あの打たせ湯が楽しみだ。



  =======



 脱衣所はさすがに全員で一度に利用できるほどは広くないので二手に別れる。俺は前の組だったので先に脱いでお風呂に入っていると後の組も脱ぎ終わって入ってきた。


クシナ「―ッ!何をジロジロと見ているのですか!いやらしい!」


 入ってきたクシナは俺と目が合うと開口一番にそう言った。ジロジロ見るも何も今入ってきて目が合った瞬間なのだが………。クシナが俺に妙な言いがかりや濡れ衣を着せてくるのはいつものことなのでもういちいち反論するのはやめた。代わりに本当にジロジロ見てやる。


 クシナはかなりスタイルが良い。カップサイズ自体は俺と同じくらいだと思うが体が俺より大きい分迫力がある。引き締まったウェストに丸いヒップラインが艶かしい。胸の大きさでは師匠には負けるがナイスバディで綺麗だ。


 俺が本当にジロジロ見ているので視線に気付いたクシナは真っ赤になって両手で自分の体を隠すように抱いている。だけど腕で胸を締めるので余計に胸が強調されて男心をくすぐるのだが本人には自覚はないようだ。何か言いたそうな恨めしい顔をしていたが結局口をパクパクさせて何か言おうとしながら何も言えず掛け湯をしてから乳白色に濁っている湯船に浸かって体を隠すことしか出来なかった。


 そんなに恥ずかしいとか俺に見られたくないのなら一緒に入らなければ良いのにと思う。実際に兎人種の村に居た時はツノウの家に造ったお風呂では一緒に入ってこなかった。何故今回急に一緒に入ろうと言い出したのかよくわからない。


オルカ「ピィ!ご主人様!私の処女を奪って孕ませてくださいぃぃぃ!」


 オルカはオルカでぶっ飛んでいる。俺に向けて体を開いて寝そべって誘っているようだ。こちらもスタイルは良い。胸は俺より少し小さいくらいで全体的にまだあどけなさを感じるほど細い。ただその細さのせいで幼い体つきに見えて色気よりもまだ子供っぽさの方が目に付く。単純に胸が大きければセクシーというわけでもないということがよくわかった。俺も傍から見ればこのタイプなのかもしれない。


アキラ「オルカ。時と場合を考えろ。誘われて悪い気はしないがどこでもかしこでもすぐに発情するような女は軽いように見えるぞ。」


オルカ「ピィ………。気をつけます………。」


 俺の言葉で一気に大人しくなったオルカはしょんぼりした顔でしずしずと湯船に浸かった。


狐神「ここはアキラのはーれむなんだから良いんじゃないかい?」


スイ「ちょっと!それって私まで含まれてるみたいに聞こえるんですけど!」


狐神「残念ながら旦那子持ちのあんたはアキラに相手にされないよ。」


スイ「どういう意味よ!私には魅力がないって言いたいわけ?!」


アキラ「相手にされたいのかされたくないのかどっちだよ………。」


 スイは思ったことをすぐに口にするタイプだから言ってることがすぐ滅茶苦茶になる。もちろん俺はスイに何かする気もないしそういう対象としては見ていないがつい突っ込みを入れてしまう。


スイ「もちろんあんたは私に欲情してそれを私が相手にしないで振ってあげるに決まってるじゃない!」


アキラ「アアソウデスカ………。」


 もう何も言えねぇ…。男に言い寄られてチヤホヤされたい。だけど自分はそんな相手を弄びながら本気では相手にしないでいたい。って何か嫌な女だな。オタサーの姫みたいな発想だ。


ガウ「がう。ご主人と一緒にあっちのお風呂に入りたいの。」


 いつも通り俺の前に陣取っていたガウが新しく追加した湯船に入りたいようだ。


アキラ「よし。じゃああっちに浸かるか。」


ガウ「がうがうっ!」


 俺はガウを抱えて隣の湯船に移動した。お湯の流れからして一番最後に流れてくるこの湯船は一番温い。温いおかげでゆっくりと長く入っていられる。体の芯まで温まれるのでこういうのも良いだろう。


ガウ「がうぅ…。」


 ガウもまったりしている。この湯船も気に入ったようだ。こうして皆でキャッキャでウフフな露天温泉を堪能したのだった。



  =======



 暫く神山の庵でまったり過ごした俺達は旅を再開することにした。山を下りて記憶のルートまで戻ると北上を続ける。旧バルチア王国を通ってこのまま北回廊に出ると思われるのでかなり北上したところでルートを逸れてデルリンに寄って行くことにした。


狐神「そんなにあのケダモノに会いたいのかい?」


 師匠がニヤニヤしながら聞いてくる。師匠の考えはよくわからない。フリードに俺は渡さないとか言いながらこうやってニヤニヤしながら焚きつけるようなことも言ってくる。からかっているだけのような気もするがそれで俺がその気になったらどう反応するのだろうか?


クロ「ケダモノって何のことだ?」


狐神「アキラの男さ。」


クロ「なんだと!おいアキラ!お前の男は俺だろ!」


 師匠が嘘を教えたからクロが騒ぎ出した。そもそもフリードもクロも俺はなんとも思ってない。精々そこそこ親しい男友達くらいの感覚だ。


アキラ「はぁ………。お前もフリードも何でもない。ただの顔見知りだ。」


クロ「なんだと!………アキラ抱っこ。」


アキラ「………はぁ。ほら。」


 クロは脈絡なく急に俺に抱っこをせがむことが多い。やはり大人の姿に戻しておいたほうがいいのだろうか………。


 そんなことをしている間にデルリンへと到着したのだった。



  =======



 魔人族を連れている俺達がデルリンの中を歩いていても誰も騒がない。少し前までは考えられないことだっただろう。だが今では戦争も終わり先の騒ぎでは魔人族の千人隊が大活躍でデルリンの住人に感謝されたそうだ。


 いきなり全ての蟠りが解けるわけはないが少しずつでもお互いを理解し合い打ち解けつつあるのだと実感できる。


住人A「おお!隊長さんだ。久しぶりだね隊長さん。」


住人B「本当だ。久しぶりだなぁ。元気だったかい?」


ジェイド「ああ。でも俺はもう隊長じゃないんだ。」


住人C「そうなのか?あんたが隊長をしてくれてた方が俺達としても頼りになるんだけどな。」


 デルリンの住人達がジェイドに向かって色々な声をかけていた。


アキラ「ジェイドは随分人気なようだな。」


ケンテン「隊長のお陰で魔獣に襲われてたデルリンが救われたからな。」


 その話は俺も聞いている。ジェイドが一度千人隊の隊長を降りた後で指揮を執った副官は聖教皇国の残党の手に嵌ってかなり苦戦したと聞いた。そしてデルリンも酷い被害を受けるかもしれないと覚悟した時に千人隊隊長に復帰したジェイドの指揮のお陰で見事に町を守りきったらしい。


 それを間近で見ていた町の住人達にとってはジェイドは町を救った英雄ということのようだ。だが俺は素直にこの光景を喜べない。ソドムでも恐らくジェイドが活躍している間はこんな光景が繰り広げられていたはずだ。それなのに後から来た司令官がちょっと情報操作しただけで長年町を守っていたジェイドをあんな目に遭わせた。


 人はいつでも簡単に裏切る。都合の良い時はこうして擦り寄ってくるくせに都合が悪くなれば散々世話になった相手でも簡単に貶める。仮にここに人神が現れてデルリンの町を襲ったのはジェイドの手の者で救ったのは自作自演だと言えば簡単にジェイドを裏切るのではないかと考えてしまう。


 では人は信じるに値しないのか?それはわからない。少なくとも俺と心を通わせている者達は俺を裏切ることはない。いや、裏切ろうとすれば心の繋がりが切れるから事前にわかると言うべきか。今はまだ俺から心が離れた者はいないがこれからもずっといないとは限らない。


 ただ一つ言えることは今まで俺と繋がった者で俺を裏切った者はいない。だから少なくとも信じられる者も確かに存在するのだろうということだ。大半の者は簡単に流される。心から信頼し合える関係になれる者などほとんどいない。しかしだからと言って全ての者が邪悪だとか信じられないとは言えない。


 ………少し前までの俺ならこんなことは考えなかっただろう。俺がこんなに甘くなったのは闇の意識が俺の心に靄をかけていたのがなくなったからだろうか?それとも闇の意識と相打ちで感情を失った前の俺の記憶が戻り感情が蘇りつつあるからだろうか?あるいは………、俺と心を通わせている者達の温かい心のお陰で俺は人を信じる気になれたのだろうか………?


住人A「そっちのお嬢さんは隊長さんのお嫁さんかい?」


住人B「種が似てそうだもんな。二人はお似合いだよ。」


シュリ「えぇ~?そうですかぁ?ありがとうございますぅ~。」


 ………シュリ。お前はそんなキャラじゃなかっただろ………。ジェイドと並んで歩いているシュリがぴったりくっついているので二人はお似合いの夫婦だとかカップルだとか持て囃されていた。シュリは既成事実化しようと全て肯定して住人達公認の仲になろうとしているようだ。


ジェイド「ちょっと待ってくれ。俺が好きなのはあの子なんだ。その気持ちに嘘はつけない。」


アキラ「………。」


 ジェイドは俺を指しながらきっぱりと言い放つ。住人達は『おぉ!』とか『三角関係か?』とか言ってる。こんな茶番に付き合いきれない俺はもうさっさと皇太子邸に向かったのだった。



  =======



フリード「会いたかったぞアキラ!」


 皇太子邸の者達は俺達を覚えているので『皇太子殿下の奥方様。』としてあっさり通してもらえた。が、奥方じゃないのでそこはきちんと否定しておいた。ただメイドさん達は『照れちゃって可愛い。』とか言うばかりで信じてはくれなかったようだ。もう面倒臭いから途中で説得は諦めた。


 そして皇太子邸に入るとすぐにこれだ。フリードに思い切り抱き締められる。


アキラ「こっのっ変質者がっ!」


フリード「おうふっ!」


 あれ?!俺今結構本気で殴ったぞ?それなのにフリードはちょっと息が詰まっただけでケロッとしてる。いつもなら手を離して蹲っていたのにまだ抱き締められたままだ。仕方ない………。


アキラ「………ふぅ。はっ!」


フリード「ぐぇぇっ!」


 発勁を打ち込むとフリードは吹き飛びながら蹲った。いくら今かなり能力制限をしているとはいえこの状態の本気の俺の一撃を耐えるとかもうこいつ人間じゃないぞ………。下位の神ですら今の発勁を食らえば即死して弾け飛ぶくらいの威力があったはずだ。もしかして太刀の獣神より強いかもしれない。


アキラ「ちょっとは懲りるとかものを考えるとかしたらどうだ?」


フリード「本当は俺に抱き締められてうれしいくせに………。嘘嘘。待って待って。冗談。ごめんなさい。」


 俺がもう一度勁を練りながら近づくとフリードはすぐに謝ってきた。何かロベールに似てきたな。ずっと一緒にいるから感化されてるんじゃないだろうな。


クロ「てめぇがケダモノか!俺のアキラに気安く触るんじゃねぇ!」


フリード「あ?なんだこのガキは?」


ジェイド「気安く触るなという部分は黒の魔神様に賛成だな。俺は手でさえ滅多に触れられないのに嫌がる相手を気安く抱き締めるなんてよくないぞ。」


マンモン「………俺も混ぜてもらおうか。」


 インビジブルアサシンで消えていたマンモンも姿を現して参加してきた。っていうかなぜ姿を消していたのかわからない。


太刀の獣神「………。」


 何も言わないが何故か太刀の獣神もその睨み合いの輪に入っていく。


ロベール「面白そうだな。それじゃ俺も混ぜてもらおうかな。」


アキラ「ロベールはやめとけ…。この面子に絡んだらお前死ぬぞ。」


ロベール「………そうだな。洒落じゃ済まなそうだ。」


狐神「ロベールはそんなに簡単にアキラを諦めてもいいのかい?」


ロベール「俺はお嬢ちゃんよりお姉ちゃんの方が好みだぞ。お姉ちゃんの相手を奪い合うっていうなら命懸けでも参加するかもな。」


 ロベールは師匠を見つめながらそう言う。………おかしいな?いつもはもっと軽い感じだったが今日は真面目な顔で言っている。真剣なのかもしれない。


狐神「私はアキラのものだから他を当たっておくれよ。」


ロベール「………。ははっ。振られちまったな。これでようやく気持ちに整理がつくってもんだ。」


 ロベールは軽い感じに笑っている。だけどそんな軽いものじゃなかったのだと何となくわかった。結構本気で師匠のことが好きだったのかもしれない。ただ大人なロベールはそれなりに気持ちの整理をつけるのも上手いのだろう。これまでだって振ったり振られたりそういう経験をしてきたはずだ。きっとまた新しい恋を見つけるだろう。


フリード「誰がアキラに相応しいか勝負しようじゃないか。」


クロ「ふんっ!俺に決まってる。」


ジェイド「それは俺達が決めることじゃなくてアキラが決めることだろう?」


マンモン「………望むところだ。」


太刀の獣神「………。」


 どうやら向こうは向こうで馬鹿なことで盛り上がってるようだった。



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