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転生無双  作者: 平朝臣
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第八十四話「料理の天才」


 オルカを愛妾に加えることになってから数日経っている。兎人種の村を出る予定だったがオルカが加わったことで暫く様子を見ることになってまだツノウの家に世話になっていた。


 それから愛妾に加えると言っても俺はまだ正式に認めていないし何も手出ししていない。抱きつきも添い寝も禁止だ。


 だけど何故か嫁達やハゼリやブリレはもうオルカを俺の愛妾として扱っている。色々教え込んだり俺が認めた後でのローテーションについてもすでに相談済みのようだった。


 愛妾に加えるかどうかはともかくオルカは奴隷商に捕まるくらいの能力しかなく戦闘向きじゃないのでシュリと同じくメイドということになった。家事はそれなりに出来るのでメイドとしては役に立っている。


アキラ「ほう…。この料理はおいしいな。オルカが作ったのか?」


オルカ「ピィッ!ご主人様に褒めていただけましたぁぁぁぁ!何人でも産みますぅ!孕ませてくださいぃぃぃぃ!!!」


アキラ「いや…、だから…、オルカが作ったってことでいいんだよな?」


シュリ「そうですよ。」


 給仕をしていたシュリが代わりに答える。


アキラ「そうか…。料理の腕はいいのにな………。なんていうか色々と残念な娘だ………。」


 オルカの作った料理はおいしかった。獣人族でも見たことが無い料理の数々らしい。何でも豚人種はグルメで料理の味にはうるさいそうだ。その豚人種が開発した数々の料理はこの世界に来て食べた中でも一番おいしかった。日本もかなり味にうるさい国でありそこで育った俺やミコでも納得するだけの料理なのだ。調味料も食材もあまり豊富とは言えないこの世界でこれだけのものを作り上げるということは相当な苦労があっただろうと思う。


 その人がいつも作る作り慣れた料理がおいしいからといって新しくおいしい料理を作り出す才能があるとは限らないがオルカに俺特産の地球の調味料や料理を教え込んだらもっとおいしい物を作れるかもしれない。ミコにも協力してもらって俺達が地球の料理を、キュウとシュリにはそれぞれの種族の料理をオルカに教えてみることにした。


アキラ「これが胡椒だ。これは醤油。これはケチャップ。」


オルカ「ピィ。ピィ。」


 ひとまず色々な調味料の味を教えてみる。オルカは調味料を舐めるたびにピィピィ啼いていた。


ミコ「出来たよ。これでどうかな?」


 ミコに頼んでおいた煮物が出来たようだ。


オルカ「ピィ。」


 オルカは俺達が作った料理をピィピィ啼きながら試食していた。他にもキュウが作った獣人族料理やシュリが作った魔人族料理も味見していく。一口ずつとは言えかなりの量を食べたと思うのだがオルカはケロッとしていた。体は細いのにどこにあれだけの量が入ったのだろうか?


オルカ「作り方と味は覚えました。似た味の物は作れると思いますけど新しい料理を作るとなればすぐには難しいです。」


アキラ「まぁそうだろうな。一度で覚えられなくてもいいと思っていたくらいだ。その先の新しい料理をすぐに作れるとは思ってないさ。これから色々工夫してみてくれ。一応調味料は渡しておくけど足りなくなったら遠慮なくまたいつでも言えばいい。」


オルカ「はい!きっとご主人様にご満足いただける料理を作ってみせます!」


 オルカは両手を握り締めそう宣言した。めでたしめでたし。とはいかなかった。


クシナ「お待ちなさい!」


オルカ「ピィ!」


 急にクシナが現れてオルカは驚いて飛び上がっていた。俺達は普通に気配でわかるがオルカはまだあまりそういうことが出来ないようだ。最初に会った時よりはそういう戦闘面でもすでに随分成長はしているはずなんだが………。


クシナ「ドラゴン族の料理も伝授してさしあげましょう!」


オルカ「ピィ!」


 クシナはオルカにドラゴン族の料理も仕込もうと思っていたようだ。………それから俺とオルカの間に体を滑り込ませて滅茶苦茶睨まれた。俺がオルカに妙なことをしないようにガードしているつもりらしい。


 こうしてオルカの特訓が続いたのだった。



  =======



 料理に関してはオルカは天才と呼べるほど素晴らしかった。一度食べた味を完璧に記憶してすぐに再現してしまう。それを元にもうちょっとああして欲しいこうして欲しいと要望を言えばその味にしてくれる。俺達が作ったら何か味が違うなと思っていた料理もオルカに味を伝えればほぼ完璧に再現してくれたのだ。


アキラ「素晴らしい………。完璧だ。」


 俺はオルカが作り上げた料理の味見をして感嘆の声が漏れた。俺達のような素人がそれっぽく作った偽物とは違う。地球でも高級な店でないと食べられないような味の料理の数々が並んでいた。


オルカ「ピィ!本当ですか!ではご褒美に孕ませてくださいぃぃぃ!………ぐぇっ!」


クシナ「何をしているのですか!」


 俺の言葉を聞いて足元に這い蹲ろうとしたオルカは間に割って入ってきたクシナに止められて変な声を漏らした。


アキラ「おいクシナ…。オルカの首が絞まってるぞ…。」


クシナ「え?………あっ!大丈夫ですか?」


 クシナは俺を睨みつけてオルカが俺に這い蹲らないように止めたつもりだろうが襟を掴んで止めたのでオルカの首が完全に締まっている。


オルカ「だっ、大丈夫れしゅ………。」


 ………全然大丈夫そうに見えない。完全に首が締まってヤバイ感じになってる。あれ?でもちょっと恍惚としてないか?……いや、………気のせいだな。


アキラ「ともかくオルカの料理は素晴らしい。」


クシナ「―ッ!だっ、だったらこれも食べてご覧なさい!」


 クシナはドンッ!と俺の前に皿を置いた。これはドラゴン族の料理だ。クシナが作ったのだろう。


アキラ「うむ………。それじゃいただきます………。」


 出されたのに手をつけないのは失礼だろう。どういうつもりで出したのかは知らないが出された以上は味見をしてみる。けどめっちゃ見られてるので食べ難い………。クシナがじっと俺を見ている…。


クシナ「どっ、どうですか?」


アキラ「うん。おいしい。ただちょっと味付けが濃いかな。俺としては素材の味とだしの風味をもう少し活かした味付けの方が好みだ。」


クシナ「そっ、そうですか………。」


 それはもう一目見て誰もがわかるくらいにクシナはがっかりして元気なく部屋から出て行った。


アキラ「そんなに自信作だったのかな?でも今の意見はあくまで俺の好みの話でこれが好きな奴もいると思うけどな。」


ルリ「………あっくん。それはさすがにクシナが可哀想。」


アキラ「え?どういう意味だ?」


 あまりクシナと話もしないルリがクシナを庇うようなことを言い出した。


ルリ「………クシナはあっくんにおいしく食べて欲しくて頑張って作った。だからあっくんの好みに合うかどうかが一番重要。自分には合わないけど他の人には合う人もいるなんて言ったら余計ひどい。」


アキラ「………そうか。それは訂正しておくよ。ただ俺の好みと違うならそこは言っておくべきだろ?」


ルリ「………ん。それは仕方ない。むしろそれはきちんと言ってあげるほうがいい。」


 ルリもなんだかんだ言いながらクシナのことも好きなんだな。クシナのために俺に怒ったルリが可愛くて俺は手招きをする。


ルリ「………?」


 手招きに誘い込まれて座っている俺の前に屈んだルリをギュッと抱き締めて頭を撫でる。


ルリ「………あっくん。」


 ルリは甘えた声を出して俺にされるがままになっている。


アキラ「ルリは素直で可愛いなぁ。」


狐神「じーっ………。」


 師匠がじーっと俺とルリを見ていた。


アキラ「どうしたんですか?」


狐神「今日は私の日だよ!他の子ばっかり可愛がるのは駄目だからね!」


 師匠がルリごと俺を抱き締めてきた。


アキラ「俺が師匠のことを放っておくはずないでしょう?」


 俺は師匠も抱き締める。


オルカ「あの…、私は一体どうすれば………?」


 試食した料理を片付けて戻ってきたオルカの呟きが空しく響いた。



  =======



 色々と準備も整ったので今度こそ兎人種の村を旅立つことにした。


アキラ「色々世話になったな。」


ツノウ「いえ。またいつでもお越しください。」


アキラ「ああ。キュウの里帰りもあるだろうからまた寄らせてもらう。」


ツノウ「はい。お待ちしております。」


 ツノウに見送られて俺達は村を出発したのだった。


 ………

 ……

 …


アキラ「おいサキム。お前はちゃんと村に帰れよ。」


 旅立った俺達のあとをサキムがつけてきていた。


サキム「私もお嫁さんにしてくださいぃ~。」


アキラ「却下。」


サキム「それならせめて一緒に連れて行ってくださいぃ~。」


アキラ「却下。」


サキム「そんな~。」


 村にいる間中サキムは自分も連れて行ってとうるさかった。もちろん却下したが実力行使でついてこようとしている。


サキム「私を連れていってくださればぁ、キュウと親子丼が楽しめますよぉ~?」


アキラ「ぶっ!………お前もうちょっと他に言い様はないのか。そんなことで俺が許可するわけないだろ。」


サキム「はぁ~い………。それでは今回は諦めますぅ。娘のこと…、よろしくお願いしますねぇ~。」


アキラ「ああ。当たり前だ。キュウは俺の嫁だからな。」


 俺はあえて『今回は』と言う部分をスルーしてそう返す。それを聞いたサキムはにっこりと微笑んで帰って行った。


キュウ「きゅうきゅう。アキラさぁん。」


 キュウは赤い顔になって俺にべったり抱きついていた。


狐神「ほらほら。早く行くよ。」


キュウ「はぁ~い。」


 こうして俺達は旅を再開する。まずは大樹へと向かい記憶のルートを繋げる。ルート通りに進むと予想通りそのまま南回廊へと出たのだった。



  =======



ガウ「がぅ~………。がぅ~………。」


 俺達は今南回廊を歩いている。そして寝息をたてるガウは俺の腕の中だ。


アキラ「はぁ…。天使の寝顔だな。」


ミコ「ふふっ。ほんとだね。」


アキラ「あぁ~。ガウ…。可愛い。」


 俺はガウに頬擦りする。


ミコ「アキラ君本当にガウちゃんに甘いね。」


アキラ「当たり前だろう?世のお父さんが娘に頬擦りして髭が痛いって言われてもまたする気持ちがよくわかる。」


ミコ「あははっ!そうだね。」


 今の俺には髭がないので娘に頬擦りして痛いと言われることはない。


ガウ「がうぅ…。ご主人くすぐったいの。」


アキラ「あぁ!ごめん。起こしちゃったか?」


 と思ったけどそりゃ寝てる顔にスリスリされたら気になって起きるよな。


ガウ「がうぅ…。いいの。自分で歩くの。」


アキラ「………駄目だ。もうちょっと抱っこさせて。」


ガウ「がう。」


 そう言うとガウは大人しく俺に抱っこされ続けた。


アキラ「はぁ…。本当にガウは可愛いなぁ。」


クシナ「貴女という人はどうしてそう幼い子ばかりに………。」


 クシナにジロリと睨まれてしまった。


アキラ「ガウは娘みたいなもんだからな。疾しい気持ちなんてないぞ。」


 たぶん………。


クシナ「どうだか………。貴女は幼い子供の方が好きな性癖のようですし?」


 クシナはフランやルリやオルカやシルヴェストルとティアなどを順番に見ていく。


アキラ「ちょっと待て。シルヴェストルとティアは精霊族だから体が小さいだけで幼いわけじゃないからな。フランも種族柄見た目が少し幼く見えるだけで中身はきちんと大人だ。ルリも神格を得てしまったから成長が止まっただけでこちらも中身は大人だ。」


 フランは確かに生きた年数は長いがウィッチ種からすればまだ若すぎるくらいではあるがそれはいいだろう。ルリも確かに年齢は高いが精神が幼いのだがそれもいいだろう。つまり俺は幼女趣味というほど幼女を囲ってなどいない。


クシナ「それではこの子達はどう説明されるつもりですか?」


 クシナはブリレとダザーの襟を掴んで俺の前に差し出す。


クシナ「それに兎人種の村にいたツノウという子といいこのオルカといい幼い子ばかりではないですか。」


アキラ「う~ん?ブリレは背は低いが胸は大きいぞ。」


クシナ「胸の大きさの話なんてしていませんっ!」


アキラ「実際ブリレはかなり年を取ってると思うぞ。俺のボックスに入っていたんだから千数百年くらいは生きてるんじゃないのか?」


 いつ頃ボックスに吸い込んだのかわからないが俺の神力を浴びて成長した力の量から考えても結構な時間をボックス内で過ごしたはずだ。


ブリレ「いくら主様でも女の子に年を聞くなんて失礼だよ!」


アキラ「ああ。まぁ何歳か言わなくてもいいよ。それからダザーも背は低いけど年がいくつか知らないしそもそもダザーに手を出したことはない。ツノウは幼いけどツノウにも手を出したことはない。」


クシナ「………それだけですか?この子は?」


 クシナは俺がオルカのことも言うと思って待っていたようだが俺がいつまで経ってもオルカについて語らないので痺れを切らしたようだ。


アキラ「オルカはまだ何とも言えないなぁ。最近会ったばっかりだしまだわからないだろ?」


クシナ「つまりこの子には何かする可能性があると?」


アキラ「可能性の話で言えば誰にだってあるだろうよ。俺は別にダザーだって嫌いじゃないしいつかお互い好きになる可能性ならあるよ。ただ今はそんな関係じゃないしそんな気持ちもない。オルカも今のところはそうだ。」


クシナ「そうやってどんどん女の子を増やしていくというのですね?」


アキラ「それは…、そう言われたら身も蓋もないけど実際そうだから反論は出来ないな。ただ俺の嫁達を見てもらえばわかると思うけど師匠とかキュウとか大人の色気を持った女性だって多いぞ。嫁ではないけどハゼリだって大人の女性寄りだし。」


クシナ「結局お嫁さんの中では二人だけではないですか!」


狐神「アキラの嫁が九人で私とキュウとクシナが大人の女性の魅力を持つものなら三分の一が大人ってことになるよ。おかしかないだろ?」


クシナ「―ッ!なっ、何を言っているのですか!どうして私がそこに含められなければならないのです!」


狐神「もういい加減素直になりなよ。」


クシナ「どういう意味ですか?!」


狐神「言葉通りだよ。早く素直にならないとオルカにも追い抜かれて自分がアキラに甘えられる機会をどんどん減らしていくだけだよ?」


クシナ「―ッ!知りませんっ!」


 クシナはそれだけいうとぷいっと顔を背けて俺達から少し離れた。


狐神「はぁ…。やれやれだね。…お?やっと陸が見えてきたよ。」


 師匠に言われて前を見る。そこにはようやく中央大陸が見え始めていたのだった。



  =======



 中央大陸には門があってそこに町があったはずだが門も町も廃墟のようになっており人っ子一人いなくなっていた。何があったのか知らないがアルクド王国はあまり好きじゃないのでどうでもいい。通れさえすれば俺達には関係ないのでそのまま素通りした。


 その後も記憶のルート通り進むと時々アルクド王国の村や町の近くを通ったがどこも荒廃しており人々にも活気がなかった。ただ街道は時々ガルハラ帝国の鎧を着た兵士の集団が巡回していたので治安はある程度保たれているようだった。


???「そこの一団の方!少し止まっていただきたい。」


 そのガルハラ帝国の集団の一つが俺達に声をかけてきた。これまでの兵士達は特に俺達に声をかけてこなかったので犯罪者と思われてのことではないと思う。声をかけてきた者の雰囲気も険しいものではなくどちらかと言えばこんな場にしては丁寧な方だ。


???「貴女方はもしかしてアキラ様御一行ではないでしょうか?」


 俺達に声をかけてきた者はそう訊ねてきた。立派な鎧を着ておりかなりの地位の者だと一目でわかる。


アキラ「そうだがお前は?」


カールハインツ「これは失礼致しました。私はカールハインツと申します。皇太子殿下の部下でアルクド王国派遣軍の総指揮を執っております。」


 馬から降りた男はカールハインツと名乗った。その名には聞き覚えがある。


アキラ「カールハインツ………。バルチアとの戦争の時に第二軍の指揮官だった者か。」


カールハインツ「おお。覚えていただけていましたか。そうです。バルチア王国戦争の際に遠くからお見かけしたことがありました。」


 俺達が魔人族の派遣軍と一緒にフリードのところへ向かった時に居た部隊の指揮官だった男だ。俺達が地上に居た時はフリードの怪我で動転していたしその後は俺達はガレオン船に乗ってこいつらはすぐに聖教皇国に向かったから直接会った覚えはない。遠くから見たことがある程度だ。


アキラ「それで俺達に何か用か?」


カールハインツ「用と言いますか…、少しお話があります。皇太子殿下の奥方様に何かあってはいけませんのでよければ我々の陣地までお越しください。」


アキラ「誰がフリードの奥方だ…。あいつとは何でもない。…それで皆どうする?」


 俺は皆にどうするか意見を聞いてみたが皆いつも通り俺に丸投げだったのでとりあえずカールハインツに付いて行って話を聞いてみることにした。


 少し移動したところに野営陣地がありその中のテントの一つに通されてカールハインツと向かい合う。


カールハインツ「それでは今のアルクド王国の状況をお話します。」


 どうも今アルクド王国は滅茶苦茶な状況にあるらしい。カールハインツに聞いた話を纏めてみる。


 まず俺達が南回廊を渡った後にフリード達はアルクド王国とある程度の条約が纏まると一先ず王国から退去したそうだ。ただし条約で決まった通り回廊と回廊へと続く街道の通行権を確保するために国境沿いに兵を残して暫く様子を窺っていた。


 表向きアルクド王国は条約を守って何事もなかったようなのだが国の上層部は一部の家臣を連れて持てるだけの財を持ってある島へと逃げ出したそうだ。まずなぜ上層部が逃げなければならなかったのかはよくわからない。ただアルクド王国の者達は疑心暗鬼になっておりガルハラ帝国に攻め滅ぼされると主張する者も大勢いたそうだし仲間内で暗殺も頻発していたそうだ。


 ガルハラ帝国から逃げるつもりだったのかアルクド王国内に氾濫する謀反や暗殺から逃げるつもりだったのかアルクド王国上層部は南東にある小さな島へと逃げ出した。その島の周囲はかなり複雑で荒い海流に囲まれており岸が見えるほど近い距離にありながら詳しい者の案内がなければ渡れないと言われているらしい。


 そこへ逃げ出した上層部が今どうなっているかはわからない。何の情報もないので無事に辿り着いたのか途中で難破したり上陸出来ても島で生活できずに死んでいるのかまだ生きているのかも不明だ。


 ともかく上層部が逃げ出しいなくなったことでこの国の支配体制が空白になった。それを知った者達が好き勝手に狼藉を働くようになった。各所でばらばらに暴れていた者達はやがて次第に集まりだして三つの盗賊集団が出来上がったそうだ。


 それを三抄と呼んでいるらしい。抄とは日本では書き写すなどの意味で使われることが多いが古い意味では抜き盗る、かすめ盗る、などの意味のある言葉で泥棒や盗賊を指す言葉にもなる。つまり三抄とは三つの盗賊団という意味だ。


カールハインツ「とにかくこの国の者達は強い者や上の者には媚び諂い、自分達より弱い者にはどんなことをしてもいいと思っているような者達なのです。国を支配していた権力がなくなったと知った途端に誰も彼もが捕まる心配もないので奪い放題だと叫びながら暴れる始末で…。」


アキラ「まぁそういう人間性の民族もいる。」


 地球でもそういう民族が大陸や半島に居たからな。俺にとっては珍しいとも思えない。


カールハインツ「それであまりに治安状況が悪いので我々が国境を越えて街道沿いだけでも巡回しているのです。」


アキラ「なるほどな。それでフリードは何か言っていたのか?」


カールハインツ「街道と回廊の確保だけでいいと。アルクド王国の国内問題なのでそっちは手を出されない限り放っておけと言われております。」


アキラ「賢い選択だな。余計な関わりは持たずにそのままでいいと思うぞ。」


カールハインツ「それは良いのですが皇太子殿下の奥方様に危険があってはならないと思いお声をかけたのです。よければ我々がアルクド王国を出るまで護衛いたしますが…。」


アキラ「必要ない。俺達の方がよほど戦力を持っている。お前達はお前達のやるべきことをすればいい。」


カールハインツ「………さすがは殿下の見初められたお方です。普通なら戦力が十分でも兵を連れたがるものですが奥方様はそんなことよりも実利をとられるお方だ。」


アキラ「だから誰がフリードの奥方だ。俺とあいつはなんでもない。ただの顔見知りだ。」


カールハインツ「はははっ!それではそういうことにしておきましょう。」


 もう何を言っても無駄そうだったのでこれ以上カールハインツに反論はせずに俺達は野戦陣地から出発した。ガルハラ帝国の兵士達が巡回していることもあって街道沿いは基本的に盗賊が出なかったので俺達は絡まれることなく国境を越えた。


 ウル連合王国に入ってから記憶のルートを外れて進路を変える。記憶のルートでは神山に向かわずに北上していたが神山に寄って行くことになったからだ。


 こうして俺達は十ヶ月ぶりくらいに神山の師匠の庵へと帰ってきたのだった。



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