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転生無双  作者: 平朝臣
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第一話「プロローグ」

 突然だが、まずは自己紹介しよう。俺の名前は「九狐里くこさと あきら」。そこそこの進学校に通う普通の学園生だ。両親と俺の三人家族だが学園に進学してから俺は一人暮らしをしている。


 俺は今まで、なぜか向こうの方に山の見える、森と草原の境目のようなところで木の根にもたれながら眠っていたようだ。


 はっきり言ってこんなところに来た覚えはない。俺の住んでいる地域はそこそこの都会でありこんな場所は存在しない。旅行にも遊びにも出かけていないし拉致されてここに放置された記憶もないし、自発的にここで一休みしていたかのような状態のような気がする。


 どうしてこんなところにいるのか思い当たることはないか。少々俺のことを思い出しながら考えてみよう。



  =======



 俺は昔から勉強も運動もそこそこ得意で小学生低学年頃までは所謂ガキ大将のような存在だった。ガキ大将とは言っても悪さをするということはなく単なる仲間内のリーダーのようなものだ。


 だがある事件が切っ掛けで俺は目立って表に立つようなことは一切しなくなった。


 それは小学校低学年の頃、友達七人と公園で遊んでいた時に年上の高学年たちが三人公園へとやってきた時に揉めたことだ。どちらが遊具で遊ぶかと言う些細な子供の喧嘩ではあったが友達の一人が殴られて泣かされてしまった。当時リーダーだった俺は一人で果敢に三人に挑み、見事に三人を泣かせて遊具を勝ち取った。高学年三人を相手に勝った俺は友達と遊具で遊んだ後、意気揚々と家に帰った時に父親に生まれて初めて殴られた。


父「晶!お前この子たちに怪我をさせたんだってな!この馬鹿息子が!」


 俺の話も一切聞かず帰って来た俺を見て即座に殴り飛ばし開口一番がこのセリフだ。


 公園で喧嘩になった三人組が親を連れて俺の家に怒鳴り込んできていたのだ。


 喧嘩した三人の親は所謂クレーマーやモンスターペアレントと言われる類の親馬鹿共だった。武器も使わない小学生低学年の喧嘩などよくあることで、せいぜい擦り傷切り傷打ち身程度の怪我しかしていない。そもそも先に友達を殴り飛ばしたのはこの高学年の三人組だ。しかしこの親共はあることないこと喚き散らし俺を悪者にしようと責め立てた。


 やれ低学年が勝てるはずないのだから集団で襲っただの、武器を使っただの、卑怯なことをしただの、怪我をみれば武器など使ったはずもないのは一目瞭然だが自分たちの子供の言い分しか聞かず、丸々鵜呑みにして警察に突き出すだの裁判を起こすだのまで言い出した。


 そして俺の父は万年平社員と呼ばれ窓際族で、いつリストラされてもおかしくないダメ社員だった。なにをやらせてもうまくいかず失敗ばかり。転職などもできるはずもなく勤めていた会社にすがりついて後輩たちにどんどん追い抜かれ顎で使われながらお情けで飼われている社畜だった。


 俺の話も聞かず殴り飛ばし頭を押さえつけて無理やり土下座させ、並んで頭を下げて謝るだけのダメ親父。


 自分の子供の言い分だけを都合の良いように解釈しヒステリックに叫ぶばかりの馬鹿親共。


 その後ろで親の力を使ってニヤニヤと勝ち誇った顔を浮かべているクソガキ共。


 俺はこの時誓った。こんなクズ共のようには絶対ならないと。以来俺は目立ったりリーダーのようなことはしなくなった。所詮子供では大人の権力には敵わない。俺が何を言おうと大人の都合の良いように処理されるのだ。いつかこんな自分勝手な大人共が好き勝手にできないようにしてやりたい。その思いを胸に秘めながらも今はまだその時期ではないと耐えた。


 その事件の後から俺は父と言葉を交わしたことはない。中学に上がってからは母に許可をもらい新聞配達のアルバイトを始め金を貯めた。そして今の学園へと進学する。実家から遠く誰も俺のことを知る人のいない学園をわざわざ選んだのだ。本当は実家から離れるためにあえて遠い学園を選んだのだが、遠いことを理由に一人暮らしを認めさせた。もちろん仕送り等で親の世話になどなっていない。ずっと貯めていた貯金と進学してから始めたアルバイトで生活費を賄っている。


 中学の頃から真面目に続けていた新聞配達の評判が伝わっていて、一人暮らしのアパートの近くにあった同系列の新聞配達の朝刊配りにすぐに雇ってもらえたのと、放課後からはトラック倉庫の集配積み降ろしの二つのアルバイトで生計を立てている。


 母は小学校の時の事件の真相を知っている。そして事ある毎に俺と父の仲を取り持とうとしてくれていたが、とうとう一人暮らしの引越しのその時まで俺は父と一言すらしゃべることはなかった。


 家から通える学校を薦める母、何も言わない父、頑として家を出ると言う俺。


晶「自分で稼いで生活すると言ってるんだ。とやかく言われる筋合いはない。」


 母に何か言われるたびに俺はそう突っぱねた。


 父も母から真相を聞いていたのかもしれない。引越し当日、俺に何か言いたそうにしていた父に冷ややかに一瞥をくれただけで、俺は何も言わずに出て行った。


 以来、俺から実家に連絡したことも帰ったこともなく、たまに母からの電話があってもさっさと用件だけ言わせてすぐに切った。


 学園生活は順調だった。元々運動神経も良く体力もあった俺にとってアルバイト二つは苦ではなかった。学業も本気でやれば上位の進学校であるこの学園で学年トップも簡単に取れる。だが目立つことを避けるため体育の授業も適度に目立たないように手を抜き、テストもある程度点数を抑えておいた。そして人とも必要最低限以外話さず極力誰とも接しない。成績もスポーツも目立たず友達もおらず空気のように徹した。


 この学園に進学する前からすでに俺の学力は過去問等で満点が取れるレベルで、飛び級でこの国の最高学府の最高偏差値の学校へ進級できることはわかっていた。しかし飛び級なんてそんな目立つことをしては全ては台無しになる。この学園で三年間我慢して生活費と学費を貯めてから受験する。そしてとうとう今年が受験だ。あと一年の我慢。


 全ては計画通り!


 そう。順風満帆だったはずだ…。


 そしてついさっき…。


 今日は倉庫のアルバイトはシフトの都合で休みになっていた。アルバイトの休みの日は放課後いつも図書室で本を読んでいた。今日もいつも通り図書室で本を読み、鞄からノートを出そうとして教室に忘れていることに気づいた。ノートを取りに行って今日はもう帰ろうと思い教室に向かって扉を開けると三人の人物がまだ教室に残っていた。三人は椅子に座り談笑していた。俺と同じクラスのいつも一緒にいる幼馴染の関係の三人組。男一人、女二人。



 「瀬甲斐せかい 英雄ひでお」学園一のモテ男。頭脳明晰、スポーツ万能、眉目秀麗。やや茶色掛かった黒髪にツンツン頭。彫りが深く鼻筋が通っており、キリっとした目元ながら優しげな茶色の瞳で学園中の女子を虜にする。成績も学年トップ付近をいつもキープしておりスポーツでは体育の授業から体育祭、クラブの助っ人まで引っ張りだこ。性格も温厚で誰とでも親しく接する紳士。一部の男子からは妬まれているがそれ以外は良好な人間関係を持っている。巫女・宏美と幼馴染。


 「大和やまと 巫女みこ」男子の人気を二分する二人の美少女の一人。成績はいつもトップ。濃紺色のようなストレートの黒髪が腰元まである。目尻のやや下がった大きく優しげな垂れ目に吸い込まれるような黒い瞳。小ぶりな鼻にうすい唇。優しく儚げな性格だが芯の通ったしっかりした部分もある。英雄・宏美と幼馴染。宏美と英雄を取り合っているという噂もあるが…。


 「葉香菜はかな 宏美ひろみ」男子の人気を二分する二人の美少女の一人。バカなヒロイン(晶命名)。成績はかなり下の方。茶色というよりは濃いオレンジ掛かった黒髪。ショートヘアーで肩にかかる首周りや耳の周りは外に跳ねている。ややきつそうな吊り目。整った鼻筋に厚めの唇。スポーツ万能の脳筋タイプで考えるより動くタイプ。明るく活発であまり裏表のない性格(駆け引きする脳がないと晶は思っている)のため男女問わず人気がある。英雄・巫女と幼馴染。明らかに英雄に好意を寄せているが普段は軽口を叩き英雄に突っかかっている。巫女に遠慮して三人の関係を壊さないように踏み出せないでいる。



 俺が三人を把握してデータを思い出している間に扉を開けて入ってきた俺に三者三様な視線を向けてくる。なぜ俺がここにいるのかとキョトンとした顔の英雄。邪魔をされたと明らかに不機嫌なジト目を向けてくる宏美。柔らかな微笑みを向けてくる巫女。


晶(チッ。テンプレ主人公共が残ってたか。)


 そう思っていると微笑みのまま巫女が声をかけてきた。


巫女「九狐里君どうしたの?」


晶「ノートを忘れたから取りに来ただけだ。」


 面倒だが無視すると英雄やバカなヒロインが何か言ってくるのは目に見えているので素直に答える。


巫女「そっか。九狐里君の席はここだよね。」


 そう。三人が座っているのは窓際の真ん中辺りとその隣。窓際の真ん中が俺の席だ。その前が英雄の席で俺の席に巫女が座っている。そして英雄の隣の席に宏美が座っている。英雄と宏美は自分自身の席だ。巫女は宏美から二つ前の席のはず。英雄か宏美の前の席を借りて座るのならわかるがなぜわざわざ英雄の後ろの俺の席に座っているのか…。そう思っていると俺の机の棚からノートを出そうと巫女が手を突っ込みかけた所で俺が制止した。


晶「他人の机を勝手に漁るな。」


巫女「あっ!そのっ…ごめんなさい…。」


 俺の声に巫女がシュンとなって謝る。


宏美「ちょっと!巫女はあんたの忘れ物を取ってあげようとしたんでしょ!そんな言い方はないんじゃない!」


 バカなヒロインこと葉香菜 宏美が突っかかってくる。俺はこういう自分勝手な善意の押し売りのような奴は嫌いだ。いちいち相手をしたくはないし目立ちたくもないがここでは言うべきことは言っておいたほうがいいだろう。


晶「例え善意であったとしても俺が頼んだわけでもないのに勝手に他人の物を漁る行為は正当なのか?」


宏美「何よ!小難しいこと並べてけむに巻こうっての?」


 ダメだな…。さすがバカなヒロイン。むしろ煙に巻くなんて言葉を知っていただけ大したものなのかもしれない。


晶「葉香菜の部屋が汚いからといって俺が勝手にお前の部屋に入り掃除して、善意から行ったことなので非難される謂れはない。と言ったらお前は納得するのか?」


宏美「ハァ?そんなの許されるわけないでしょ!って私の部屋は汚くなんてないわよ!」


英雄「まぁまぁ、宏美も落ち着けよ。九狐里も極端すぎるぞ。ちょっとここにある忘れ物を取るのと勝手に部屋に侵入するのではワケが違うだろ?」


晶「それはお前の価値観だな。お前の価値観が万人共通などと思うなよ。」


宏美「だいたいそこまでこだわるなんて何かやましいことでもあるんじゃないの?」


 もちろん俺にはやましいことは何一つない。勉強に使っているだけの極普通のノートが入っているだけだ。だがそういう問題ではない。ということがバカなヒロインには通じない。


巫女「待って。私が勝手に余計なことをしたからいけないの。ごめんなさい九狐里君。」


 伏し目がちに神妙な顔で巫女が再度謝ってくる。本当に面倒な奴らだ。これ以上関わるのも面倒なだけなのでさっさとノートを取って帰ろうと思ったその時…。


 英雄たち三人の足元に円形の光が溢れた。魔方陣…そう光る魔方陣だ。それ以外に形容しようがない。


英雄・巫女・宏美「「「え?」」」


 徐々に光が強くなり三人を飲み込んで一際強く輝いた瞬間三人が魔方陣に飲み込まれて消えたように見えた。その刹那の後、光が俺を貫いた気がした。いや「貫いた」…。全身に焼けるような熱が貫通していくのを感じて俺は「ああ、これは死んだな」と思った。



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