恩返し?
雪が振った日。酒を開けていると、扉を乱雑に叩く音がした。
どんながさつがきやがった。機嫌が悪いんだ。帰んな。
男は面倒になってちいさなおちょこを何杯も継ぎ足していましたが、その間も扉はどんどんと叩かれ、そこまで用事があるならドアなんて蹴破ればいいものを、と諦めた男は扉を開けました。
「はいはい。どなた」
「申し訳ありんす。行商のものなのですが、家が遠く、吹雪いてきたので困ってしまいました。一晩泊めてはいただけないでしょうか。お礼に機を織り、それを貴方にくれましょう」
もみ手でやってきた女は不可解この上なかったが、金のかからないどころか、金になる居候なら大歓迎だった。男はもらえるものはもらっておく主義だった。
「いいぞ。機は向こうの部屋だ」
「ええ、ええ。存じ上げていますとも。あ、織っている間はくれぐれもお開きにならないよう」
「なんだ。股を開くなら一役買うぞ」
男の下劣な言葉に耳を傾けることもなく、女の姿をした鶴は障子を閉めてしまった。
「つれねぇな」
ぼやいた男は再び酒に溺れ、やがて招き入れた鶴のことさえも忘れて寝こけてしまいました。
男の瞼に日の光が入ってきたのは曙をとうに過ぎ、雪も止んだ後でした。
「おい、女! これはなんだ」
「どれでしょうか? 椅子ですか。縄ですか。桑ですか?」
女が部屋の中で男を取ります全てを並べ立てていく。
それはにこやかに笑って。
「俺はなんで椅子に縛られているんだ!」
「私が恩を返すためです」
「お前はなんで桑を持っているんだ!」
「私が恩を返すためです」
男ははたと気付きました。
「お前は人違いをしている」
「いいえ、わたしはしかと見ました。あなたに間違いありません」
断言する鶴は桑の取っ手を持って振り回す。
「どんな恩だ! 俺の身に覚えはない!」
「私の足にとらばさみをかけたのはあなたです。そして、私を助けてくれた殿方を怒り狂って殺したのもあなたです。この御恩、全て返させていただきます」
「それは恩じゃねえ!」
「問答無用!」
鶴の恩返しの二次創作となります。
あとがきその1
これともう一つの『小心者』は、「鶴に罠をかけた人が被害を被ってるじゃないか!」という盲点に大学の講義に暇しているときに気付いて書いたものです。最近書いた中で一番に筆が早かったです。