31 決して揺るがなかった正義 ※挿絵あり
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本当は1週間前に、このお話が完成していたひとりぼっちの桜ですw
でも完成した時、「お前はベストを尽くしたのか!?」「もっとやれるだろ!?」という皆さんの叱咤激励の声が聞こえたですよ( ー`дー´)!←別にヤバいクスリとかやってないですよww
このままだと満足してもらえないと思いました。
もちろん私自身の力が至らなくて皆さんに満足していただけないという可能性はあると思うんです。
でもそれ以前に、私が全力を尽くしていないのに皆さんに満足してもらえるとは思えませんでした。
だから1週間かけてコトコト煮込んでやりました!そう、カレーのようにね!←上手いこと言ったつもりか(*゜д゜)ノ
そして煮込んだ結果、出来上がりました(^^♪ちょっと…長くなっちゃったんですけどね(>_<)
半分に切ろうか今の今まで悩みました、でもこれは切ってはいけないと思ったのでこのままアップします。
それでは皆さん、これが私が今持てる全てを詰め込んで出来た一品です。
歴代最長を更新してしまいましたが、どうぞおあがりよ!( ≧∇≦)ノ
押し潰されたようなガレキの山の上で交差する2つの視線
一方はふわりと揺れる髪をなびかせニヤニヤと見下ろす視線
一方は血だらけで強張った瞳で見上げる視線
ひっそりと静まり返るガレキの山でマリアンヌと元副官は黙って見つめあう
少し声のトーンを落とし、マリアンヌはこう切り出した。
「その顔は何が起こったかまったく理解していない顔だな」
それもそうか
我も逆の立場ならお前と同じ顔をしただろう
まぁ、その前提となるお前と同じ状況などありえないけど
「それとも優秀な君のことだ、ある程度の予想はついているのかな?」
その問い掛けにまだ放心状態から抜け出せていない元副官は呆然と見上げるだけ
それを尻目にマリアンヌは笑いを含んだ声で言った
「まさかこの状況が自然現象なんて思ってはおらぬのであろう?」
「…や、はり…」
腹を引き裂かれるような痛みに耐えてやっと出てきた声、それは恨みと困惑が織り交ざったような、まるで泥を吐くような声だった。
そこにはいつもの余裕たっぷりのクールな副官であり、軍師の面影は無い。
マリアンヌは微笑を浮かべる
「もちろん、狙って我がやった」
「何、を、した?」
「何を…か」
マリアンヌは「色々したからな~」ともったいぶるかのように呟く
そして
「何から説明したいいのやら。 そうだな、まず我が深刻な問題からダイアル城塞を攻略せねばならなくなってしまった。そしてダイアル城塞を攻略するのに必要な物を考えた。 必要な物、それはもちろん兵力だ。だが兵力はこれは更に深刻な諸事情があってね、今回、我は大兵力を率いることは出来なかったのだ。手札はお前が無傷で返したムンガルの軍のみ」
「っ!?」
てっきり大軍勢、少なくとも魔道具を持った将軍を数人連れてきていると踏んでいた元副官にとってこの発言は根底から崩れるものだった
「兵を大量投入せずにダイアル城塞を落とそうと思ったら魔道具使いを複数人、それも10以上はいるであろうな。しかし残念ながら我にはそれも無い、どれだけ上手く事を運んだとしてもダイアル城塞を所持している敵は戦いで劣勢になったら十中八九すぐに篭城策を取る、これは君への嫌みでもなく単純であり最良の策だからだ、もちろん我とてこの策を取られたらもう勝てない。 正直その時点で我は諦めようと思った。でもその時に我はダイアル城塞…いや、三日月峠に関してあることを思い出してな」
マリアンヌはあの時、自分の初陣を兄弟に目の前で奪われ、悔しみが心を満たしていた時に天恵とも思える一発逆転劇を思い出してクスクスと笑う
「そして我は1つの結論に行き着いた。 もしかしたらこれを使って意図的にある”自然現象”を起こせば鉄壁な城塞で立てこもっている敵を三日月峠ごと一網打尽に出来るのではないかと」
具体的な情報は何一つ言ってはいない
しかし元副官は血が行き渡らない脳を使い推察する、そして何かを察してハッと顔を上げる。
その表情は青ざめて心臓を掴まれたようなものだった
「ま、さか」
その声は「何て恐ろしいことを計画したんだこの女」という感嘆と恐怖が入り混じったものであった。
マリアンヌはその表情を満足そうに見るともったいぶる様な口ぶりで言った
「我がダイアル城塞を崩すのに使用したのは…地盤沈下という現象だ」
そして功績を誇るように自身の目の前に3本の指を突き立てた。
「地盤沈下と簡単に言ったが地盤沈下なんてそんなに都合よく起きる現象ではない。なら、我の望む状況下で都合よく地盤沈下を起こすためには何が必要か考えた。地盤沈下の原因は大きく分けて3つある。①液状化。 ②地下水をくみ上げすぎ。 ③軟らかい地層が構造物などの重みに耐え切れなくなる。 の3つ、それのどれかを利用できないかと我は考えた」
2本下ろされ、まず突き立てられる1本目の指
「1の液状化現象は地震の際に振動することで水を含んだ砂質の地盤が液体のようになってしまう現象。これは地震という自然現象が必要となる、当然だが地震を意図的に発生させることなど出来ない、出来たとしても液体化が起こる保障など何処にもない。つまりは不可だ」
2本目の指が上がる
「2の地下水を大量にくみ上げて出来た空洞によって地盤沈下を起こすというのも現実味に欠ける、と言うかそもそもくみ上げる手段が無いから不可。戦闘中に井戸を掘るなんて荒唐無稽な策なども出来ない、近くを川が流れているとはいえ、地下水があるかどうかも分からんしな」
そして死を宣告するように最後の指がゆっくりと上げられる
「残ったのは3だが、しかし、三日月峠は古くからこの地を守ってきた要所だ、地盤が軟らかいなんてことはありえない…と思うだろ?」
声を弾ませるマリアンヌ
地に伏す元副官にここからが大事だと釘をさす
「君は知っているかな?三日月峠の真下には大きな洞穴がある事を」
「えっ!?」
聞くまでもない、こいつが知っているわけがない。
これを知っているのは十数年前にダイアル城塞を建設した際に洞窟を発見した母上とその時に一緒にいた数名だけなのだから
情報は知識であり知識は力となる。
その一点においてお前はこの戦いで我よりも何歩を後ろにいた
「おや?知らなかったのか? フフ、勉強不足だな副官君♪」
あざ笑う黒く塗られた口元は勝利を形どり三日月のようにつり上がった。
「実はこの三日月峠は十数年前に発見された当時、ただの峠ではなかったのだ。 遥か下の岩盤には住宅が数個入るほどの大きな洞穴があり、そしてそこには大量の魔獣が住みついていた。当然だが発見者は多数の犠牲者を出しながらもこれを討伐、そして喜び高らかにした時、背後にあるとんでもない物の存在に気付いた」
マリアンヌは今いる場所の真下指差す
遥か下にあるのは這うように川から流れ込んだ水
「この三日月峠のすぐ側には両国を隔てるように川が流れていたのだ。当時の発見者は考えた”このままだと近い将来この洞穴の中に大量の水が流れ込んでくる”と」
決して母親の事は口にしない
全ては自分の手柄と言わんばかりに
自分だけの優位性を保つように
「普通ならこれで城塞を建てる計画は流れそうなものだが当時地盤沈下なんてそうそう起こる物でも無かったし、皆「水が洞穴に入ったらどうした?」ぐらいの事を言った。発見者は必死に最初三日月峠を放棄しようと説得した、しかし時は戦況が最悪化していた時代、プルートとアトラスのほぼ中心に位置するこの要所を取った国が戦況を有利に運べるのは目に見えていた。 そして発見者は苦渋の選択に迫られ、周囲の後押しもありダイアル城塞の建設に踏み切った。妥協案として発見者はアトラスの兵たちに看破されないように念入りに洞穴の穴を防いでな。 しかし発見者の言う通りそれは間違いだった」
マリアンヌは断言する
「中の空洞が水でいっぱいになると当然だが地盤が緩む、それだけならまだいい、しかし水が中の土を泥にして外に持っていってしまうことが一番の問題なのだ。地盤が減っていくのも同じだからな。空っぽになった地盤、そこに何かの衝撃が与えるとどうなると思う?」
マリアンヌは今自分達が立っているガレキをヒールでコン!コン!と二度ノックすると妖しく、目をうっとりとさせた。
そのマリアンヌの微笑みは、周囲にいた味方のはずのプルート軍の兵士すら背筋に寒気を覚えるほどであった。
「君は本当に優秀だ。 考えうる最善手を常に打ってくる、感情論では決して動かない、君という存在がいなければ我の計画は頓挫していたかもしれない…今考えると君の思考の本質は”損得勘定”という一言で言い表せるかもしれないな、どちらのほうが得かを機械的に天秤にかけ、そうやって出た結論に殉じ、慈悲無く行動に移せる。 君という存在がいたからこそ、そこにいるムンガルは将軍としての地位を獲得できたのだろう。だが、それだけに思考は読みやすかった」
マリアンヌは口に手を当てる
手の奥から聞こえるのはクスクスという笑い声
「君が必死になってムンガルの猛攻を食い止めていたあの夜、ダイアル城塞の真下では我の命によって岩盤に穴を開けて川の水引き入れていた。いや、開けるなんて大層なもの言いをするのもなんだ、洞穴のあった場所は分かっていたので少し掘るだけで十分なのだから」
マリアンヌは「水も少し引き入れれば呼び水となる」と嬉しそうに語る
「君が予想通りの人間でよかった。もし兵が1人でも出てきていたならこのことがバレてしまう、その場合はこちらは降り注ぐ矢の雨の中であろうが攻めるしかなかったのだから。君は私が思ったとおり、いや、それ以上に優秀であった。それだけに残念だよ」
マリアンヌは急に吹いてきた暖かい風になびく銀線の髪をそっと手で押さえながら冷徹に言い放つ。
「ここで君という存在が死ぬのは、生きていたならプルートの」
「なぜ…知っ…い」
割り込む声は小さくパズルのような言葉だった
マリアンヌはしばし間をおいて顔の向きを思考と共に巡らせると「ああなるほど」と頷いて、視線を戻した。
「なぜ三日月峠の下に空洞が有ることを知っていたのか、か?」
そして予め用意していたと言わんばかりに
「ここは様式美に則って、こう言っておこう。それは今から死にゆく君の知る必要の無い事だよ、とね」
と、まるで眠っている人間にそっと呼びかけるように横たわる元副官の肩に手をポンと置いた。
「フフ、ゴフッ!ッフ」
鼻先までやってきたその細い指先を見て元副官は小さく咳をするように笑う
マリアンヌの手に向かって吐血のように唾と交じり合った血が飛んだ
少しだが、マリアンヌの目が険しく変化する
「井の中、の…蛙…か」
「あぁ? 急に何の話をしているんだ?」
そこまで言い終わると元副官は最後の力を振り絞るように顔を上げる
そして精一杯の力を大岩の乗っている腹に込めた
「私の…こと…です…よ」
「それは我の策が看破出来なかったことか? それともプルートを裏切ったことを言っているのか?」
返答はない
しないんじゃない、きっともう出来ないのだ
焦点の合っていない虚ろな目をしたまま横たわり、ボーと前を見ている。
いや、すでに見えてもいないのかもしれない…
聞こえるのは虫の息となった元副官の吐息だけ
ガレキの山を吹き抜ける風音と燻ぶる炎の「パチパチ」という音だけが妙にはっきりと聞こえた。
マリアンヌは壊れたおもちゃを見るように、肩で長い吐息を残念そうに吐く
「お前が何を思って今それを口にしたかは知らんが、どちらにしてもお前は蛙とは違うと思うがね」
大した返答はもう無いと予想してか、淀みなく、そして一方的にマリアンヌは言葉を紡いでいく
「井の中の蛙、大海を知らず。とても有名なことわざだが…このことわざには先があるのをお前は知っているか? 【井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る。】 お前は知っているのか?いや、知ろうとしたのかな?自分の今いる空が本当は何色なのか」
そう尋ねると元副官はまばたきすら忘れて硬直する
一瞬だが生気が戻り驚いているようにも見えたが、すぐにまた力を失ってしまった
当初は感じていた強い視線も既に感じない
マリアンヌはそれを見下ろして悟った
これはそろそろ命の灯火が消えるな、と
「あ~あ、もう終わりだな。 それではお前もそろそろ三途の川が見えてきた頃であろうからメインディッシュといこうか。 ムンガル、お前がこいつの息の根を止めろ」
「恐れながらマリアンヌ皇女殿下、進言させてください」
1人の兵士がマリアンヌとムンガルの間に割り込んできた
それは爵位を持つ内の1人、シグレだった。
脱いだ兜から後ろで1つに縛った黒い髪が肩に触れる。
彼は血だらけで倒れている元上官を侮蔑の込められた切れ長の目で一瞥すると、副官を背にしてマリアンヌの前で膝を付いた。
マリアンヌはその一瞬だけ見せた瞳の色を見ていた。
だから発言を許した
「許す、申してみよ」
「今、この者をムンガル将軍が殺害しますとそれは虐殺と捉えられる可能性がございます」
「それに何の問題がある?」
声のトーンをマリアンヌとその近くだけに聞こえるほど落とすシグレ
「誇りの高さにおいてプルート軍の中でも一目置かれるムンガル隊が”虐殺”となると、今後マリアンヌ様の栄光にも傷が付く恐れがあります。最後の1撃を我らが手で行えないのは誠に無念ではありますが、こいつが死にさえすれば裏切りの露呈はありえません、ですのでこのまま死ぬのを待つのも一興かと」
裏切りの露呈…
その言葉を解釈するに、やはりこいつも我にバレないように独自でこの元副官の命を狙っていたわけか
まったく、そろいも揃って…お前らときたら面白いやつらだよ。とマリアンヌは愉しげに微笑む
「シグレ、君に聞こう”誰が”それを報告するのだ?」
「誰って、、、それはもちろんマリアンヌ様専属の両大臣が選び抜いた護衛隊の皆様が―」
「もうプルートに帰した」
「えっ!?」
声のトーンを戻して立ち上がり周りを確認する
「いな…い?」
「監視役兼護衛役である大臣の部下は既に帰している。現在ここにいるのは卑劣な手段で自分の部下を裏切った元副官とそいつに裏切られた部下、同僚、ムンガル、そして憎きアトラス兵のみ。 どうだシグレ、まだ心配事はあるかね?」
「いえ…私の勘違いでした、お話の腰を折ってしまい申し訳ありません」
「うん♪ 素直でよろしい」
手を「よし!」と叩くと、もう一度ムンガルを見る
そして感情を消したように言った
「ムンガル、まずお前からやってもらおうか。 この副官の顔、頭、身体、全ての原型を残さぬよう剣で突き刺し、殴打し、砕きされ。一片たりともこの世に残すな」
マリアンヌは兵士にわざわざここまで持ってこさせた、ムンガル専用の大きな盾から無理やり剣を引っこ抜く
そしてこれまた無理やりムンガルのゴツイ手に握らせた
「……」
「何を躊躇っている? お前のような身分からすればこれらはモグラと大差ないだろ?農作物を荒らす害虫だ、地中から顔を出したモグラの頭を潰すのに何を躊躇いがあるというか」
それでも一向に動こうとしないムンガル
マリアンヌは視線を鋭くする
「おい、ムンガル早くしろ」
高圧的な物言いにムンガルは一瞬たじろいたが、すぐに歯を食いしばってマリアンヌに対して凛と主張する。
「出来ません」
「なんだと?」
その瞬間、マリアンヌの傍らにいたカーナの目がぎろりと鈍く光る
そして手は素早く懐に忍ばせていたナイフへ
マリアンヌは目でそれを察知すると、カーナの行動を断ち切るように2人の間に手を伸ばして視線を遮った。
「カーナ、やめろ。指示をするまで動くな、これは命令だ」
「……」
「カーナ、返事は?」
マリアンヌの尖った声による問い掛け
カーナはゆっくりと、静かに首を縦に振った。
「はい。我が神、マリアンヌ様のお心のままに」
「ふぅ~まったく、血気盛んな人間の扱いというのは本当に困る。 それでムンガル卿、理由を聞いてもいいかな? 我の勅命を断わるだけの理由を」
その声に怒りは無い、それどころかマリアンヌは不気味に微笑んでみせた
それはまるで、予想通りと言わんばかりに
ムンガルはマリアンヌから発せられる圧迫感に負けじと言った
「私は騎士です、殺人者ではありません!敗者に鞭打つような真似はこのムンガルの騎士道に反します!」
マリアンヌは腕を組むと「なるほど、なるほど」と、わざとらしく口に出して頷いた。
「お前の考えはよ~く分かったよ。まさかお前がその程度の覚悟でこの戦いに参加していたとは驚いたよ」
「いえ、このムンガル、覚悟に不足など!」
「ではお前が大事にしている物は所詮その程度の物だったということか?」
深いため息をつき、肩から流れ落ちる銀線の髪をクルクルと指先で遊ばせながら大きく首を左右に振る。
「我今回の戦いで皇族としての全てを賭けているといっても過言ではなかった。しかしお前はというと、その恩に報いもせず蔑ろにするとは…」
「恩は感じております!しかし、これは―」
言い訳の言葉尻を断ち切るようにマリアンヌは口を挟む
「しかし何だ?自分は殺人者ではない?何を今さら誤魔化している?今回の戦いでお前は何人殺した?武勲と称して殺した数は何人だ?1人や2人ではあるまい?何十か?それとも何百いったか? それだけ殺しておいて自分は殺人者ではないではないだろ。 我から見たら今回の戦いに参加した全員人殺しでしかない。過程やそこに存在する気持ちの持ちようは重要じゃない、重要なのは結果だよ、ムンガル、いい加減現実から目を背けるのをやめろ」
「決して、そのような…つもりは」
いつの間にか小さくなるムンガルの声
そしてその巨体はまるで自分の影を針と糸で縫われた様に動きを止めた
呪術的とも思える言の葉は止まらない
「いつかの夜、お前にこう言ったな、『大切な物を見誤るな』と、お前にとって大事な物とはなんだ? 共に戦場を駆けた仲間か? それとも騎士道か?」
その澄み切るほど真っ直ぐな瞳は見開いたまま、ムンガルの瞳を見据えて離さない
心の奥底に直接問うように更に続けるマリアンヌ
「そろそろ選択のときだよムンガル卿、二と追う者は一兎も得られない。 今選べ、本当に大切な物は”人”か、”生き様”か」
逃げ場所を奪い取るような問い掛けにムンガルは押し黙る
そんなムンガルを見たマリアンヌ、気遣うように大げさに被りを振る
「ああ、すまない。今まで我がプルートの為に心骨を捧げて尽くしてくれた貴公に対して意地の悪い言い方だったな」
そしてムンガルの肩にそっと手を置くと、次に口にした言葉は今までで一番優しく言った。
「お前はどちらを裏切る? 『自分自身』か、それとも『我』か …さぁ好きなほうを”裏切れ”」
その残酷なまでの言葉はまるで動物が餌を貪るように、ムンガルから逃げ道という名の選択肢を喰い尽した
「グッ…」
マリアンヌは瞳の奥でせせら笑う。
今までは自分の目を、心を、偽ってこれたお前だが、これでそうはいかなくなった。お前の中には、今こんな葛藤があるんだろう?
既に部下を助けるために口封じとして副官を殺すという大義名分は失われた。
お前は完全に自覚した。 我が「部下を助けるため」という大儀を取り除いたため、ここから自分がするのはただの利己的な復讐でしかないと
残ったのは怒り、憎しみ、未練、情け、偽った正義、そして過去の自分の生き方全てを否定できない気持ち。
さぁ~どうする?
するとマリアンヌの予想通りにムンガルは自分自身と葛藤し始めた。
既に勇敢な瞳に映っているのは『勇気』の文字はなく『恐怖』だった
目に見えて曇る眉、それだけじゃない
自身の選択を迫られ、荒れる息遣い、強く握られる拳、食いしばる歯
鼻筋にシワを寄せ、苦痛に歪んだような顔
マリアンヌの頬は自然と緩んでいく
「……フフ」
あぁ~その表情ぉぉ
素晴らしい!!!!
白い感情が黒く妖しく染まっていく!
正義の名が刻まれた瞳が淀んでいく!
それこそ我の大好きな色だ!
もっとぉ…
もっとだ!!
もっと黒く染まっていく表情を我に見せろ!!
そしてもっと我を楽しませろ!!!
「フフッフッフフ…」
「マリアンヌ様、どうかなされましたか?まさか、ご体調が芳しく」
小声でそっと寄り添うカーナ
マリアンヌは恍惚な表情を浮かべ、熱っぽく、艶かしく身震いする身体を両腕で必死に押さえ込むようにしながら身体同様に震えた声で答えた。
「いや、気にするなカーナ。体調はすこぶる良い、ただ興奮しすぎて…脳内のドーパミン量が過剰分泌されて理性が吹き飛びそうになっているだけだ」
「は、はぁ?そう、ですか、、。…ん?それは危ないのでは?」
さてムンガルはどういう選択を選ぶのか…
我を取るなら今後も利用してやるし、取らなければ国に帰った後に裏切った副官の話が我が父である皇帝に露呈するようにして処刑台に送ってやるだけだ。
まぁ我にはだいたいの予想がついているのだが
「マリアンヌ様」
「あ?何だ?」
やっと決めたか
やれやれ、時間のかかるやつだ
「私は騎士です。それを誇りに今まで生きてきました」
「ああ」
「その目で見たら、死にゆく人間に剣を振り下ろすのは虐殺以外の何でもありません」
「ああ」
残念だ…
やはりそうなったっか、ムンガルよ
「このムンガルがそれを行うは、騎士としての死を意味します」
「ああ」
お前は…
死刑台送りだ
「しかし!ここであなた様の命に背くはムンガルという人間の死を意味しています!」
えっ!?
「私はこれよりあなた様の剣となり盾となり戦うことをここに誓いをたてる!!」
マリアンヌの予想に反して食いしばった歯から解き放たれた言葉は裏切りではなく忠誠の言葉だった。
「これから先、あなた様に対して様々なことを言う人間は出てくるでしょう。偏見、嫉妬、周囲を見渡せば敵ばかりになるかもしれない、時には足掻くことすら出来ない苦境に立たされるかもしれない。しかし、このムンガル、ここであなた様にお約束いたします!!」
そう言うとムンガルは横たわる元副官の鼻先に両膝をついて跪くと鈍い光を放つ短剣を大きく振り上げた。
「こ、ここで、私が、、私がぁぁ!!」
覚悟を決めて雄叫びと共に振り上げたはずだったのにピタリと動きを止める筋肉で武装された腕
力を入れようとしても動かない、それはまるでムンガルの巨体を遥かにこえる巨大な怪物に腕を押さえられたようだった。
いや、
ムンガル自体、この姿が見えない巨人の正体は薄々分かっていた
それは自分自身の心の弱さ
ただ…殺したくない
かつての仲間をこの手で
あとは振り下ろすだけ、それだけなのに動かない
初めて元副官が軍に入って来た時、まだ自分も入ったばかりの新兵で右も左も分からなかったのに元副官は恐れ多くも上官に作戦のほころびを指摘していた。
自分と変わらない新兵からの意見、何度も叱責され殴られたのに元副官は止めなかった。
若き日のやつは言った「失敗する策を見過ごすことは出来ない」
その姿勢に馬鹿だと思ってしまった、そして同時に頭が下がった、こいつには勝てないと、こいつのようになりたいと若き自分は憧れた。
しかし性格が真逆すぎたのだろう何度も対立した
でも不思議と戦場では馬が合った
それはいつしか横にいるのが当たり前になるほどに…
月日が経って自分が家の公爵を継ぎ、軍を任せられた時、副官の席に誰を選ぶかと問われた。
私は悩まなかった
「っ!」
頭は命令するのに心がそれを拒む
その冷静な顔がまだ瞼に焼きついている
その思考と自信に満ちた声が鼓膜に張り付いている
心の奥に栓をしたはずの思い出が勝手に溢れ出てくる
唾がうまく飲み込めなかった
それどころかムンガルは喉の奥が焼けるように熱かった
「ぐぐぐぅぅぐ」
威勢よく振り上げてからここまでの流れはおよそ2、3秒
周囲にいる誰もが、まだ止まった腕に疑問を持ってもいない秒数、しかしムンガルには長く、とても長く感じられた。
その時だった
「いいかげん覚悟を決めろ」
「っ!?」
その言葉を聞いたのはムンガルだけだった。
聞きなれたその声にムンガルは冷水を浴びせられたように目を丸くした。
まるで鼓膜に直接語りかけてきたようにはっきりと聞こえた言葉。
しかしその言葉は今のムンガルの置かれている状況を全て察しているような的確な言葉であった。
急いで視線を落とす、しかしやはり血だらけの元副官は地に伏したままピクリとも動かない。
「……気の…せいか…?」
ムンガルは思う
もしかしたら風音を聞き間違えただけかもしれない、と
もし、本当に聞こえたのだとしても
それは既に敵となった自分への侮辱の言葉だったのかもしれない
もしくは以前の仲間であった自分へ対しての最後の感謝の言葉だったのかもしれない
いずれにしても分かるのはこの言葉を言った当人のみ
ムンガルの声が僅かに震える
「ミシバ…お前は…」
視線を落とした元副官の横顔、その口元は昔の戦場を共に駆けた時のように薄っすらと微笑んでいるように見えた。
奇しくもこの一方的なやり取りが10数年共に歩んできた2人の最後のやり取りになってしまった。
覚悟を決めるように奥歯をギリッと噛み締めるムンガル
武器を持つ指に力を込めた
「この私がその全てからあなたをお守り申し上げると!!マリアンヌ様ぁぁ!万歳!!」
その雄叫びとも思える大声と同時に巨体から全体重をかけて振り下ろされた短剣は頭蓋骨をかち割る音すら許さず地面まで達した。
元副官の絶叫は無く、地震のような揺れだけがムンガルを中心として放射線状に広がった。
その後、2等分になった元副官の頭から短剣を引き抜く時の「グチャ」という気味の悪い音だけがガレキの山に響き渡る
そして虫が這いずるような嫌な感触、その余韻が消え去らないうちにムンガルは再度剣を振り上げた。
「マリアンヌ様!万歳!!」
もう死んでいる
そんなことは誰でも分かる
もちろん戦闘に関してズブの素人のマリアンヌですら
それでもムンガルは振り下ろす剣を止めようとはしない
マリアンヌの命令を忠実に守るため10回、20回、振り下ろされるたびに見るも無残になっていく、元副官の肉片
既に首から上は脳みそ・頭蓋骨・頭皮・眼球・その他諸々が混ざり合ってミンチ肉のようになってしまった。
「「我々もマリアンヌ様に誓います!この命はあなた様の剣になると!!」」
すると爵位を持つ3人の兵士、ヒナタ、アプリ、シグレの3名も近くに横たわるアトラス兵に剣を突き刺した。
そしてそれに呼応するように次々と、まるでマリアンヌに全員が操られているかのように「マリアンヌ様万歳!」と言って、近くにいるアトラス兵の死骸、または死にかけの体に剣を振り下ろした。
最後の抵抗がまだ出来るアトラスの兵はまだ動く四肢をジタバタさせて命を請う
「いっ!いやだぁぁ!!たすけでぇぇ!死にたくない!!」
しかしムンガルの部下達はまるでマリアンヌに操られているように必死に動く頭を掴んで押さえつける。
そして見開くアトラスの兵の瞳に向かって剣を振り下ろす。
「マリアンヌぁぁ様万歳ぃぃ!!」
生きている兵士はその掛け声と共にやってくる凶刃によって頭を串刺され、手足がビクッと痙攣した後に須らく他の骸同様ただの死体になってしまった。
そしてどんどん赤色に染まっていくガレキの山
正直それは狂気染みた風景だった
さすがにここまでのことは予想していなかったマリアンヌ
突然起こったその一部始終に目を丸くして開いた口も閉じなかった。
「……まさかな」
思わずマリアンヌは天を仰いだ。
少し、いや…だいぶ予想外だな
ここでムンガルはリタイアだと踏んでいたのだが
ムンガルは負けた理由を問いただしたあの夜
いや、我と出会ってから一度たりとも、自分を、自分達を裏切った元副官への恨み辛みを口にしなかった。
それは騎士としての矜持だったのか、はたまた軍を率いる人間の威厳を守るためだったのかは分からない。
結果としてこの軍は副官の裏切りという致命傷を負いながらも崩壊しなかった。だからムンガルの行動は正解なのかもしれない。
しかし、我から見たらこんな状況は歪で異常そのものだった。
自分の副官、もしかしたら1番信じていたかもしれない仲間に裏切られたのだ。
傷つき、憎しみ、怒りもしただろう。
でもムンガルはその人間らしい気持ちを蓋をした
自分で溜め込んで気付かないフリをした
もしかしたらもう一度、一緒に戦場を…なんて幻想に浸ったのかもしれない
その結果が今の歪な苦悩に繋がった。
こういった人間はもう生き方を変えられない
つまりムンガル
高い理想を掲げ、高潔な心を持ったお前は
同じ夢を追ったその副官に対して”絶対”に剣を振り下ろせない
だから我はお前という存在を諦めた、切り捨てた。
なのに…
「我のためか」
あくまで自分のためではないと言い張るのかムンガル?
まだお前は自分を偽るのか?
それとも本当に我のためで私怨ではないと思っているのか?
その言葉は嘘で、その行動は偽善かもしれない
でも、
それでも
目の前で、以前の仲間の顔に剣を振り下ろすその”覚悟”を我には笑うことが出来なかった。
「まったくもって興がそれたな」
せっかくお前の堕ちていくさまを楽しんでいたというのに
マリアンヌはもう木っ端微塵だというのにまだ険しい目で剣を振り下ろすムンガルに問いかけた。
「我と共に行くという事はもうお前のいた世界(騎士道)には戻れないということだが、本当にいいんだな?」
その問い掛けにムンガルは手を止めて、跪き頭をたれる
そしてはっきりと答えた。
「ハッ!勿論であります!!」
「…そうか」
その言葉は、眼差しは、覚悟という名になりマリアンヌの心の奥に染み込んで深く刻まれた。
「いいだろう、心から歓迎しようムンガル将軍に臣下の兵たちよ、これからの人生、私と共に…」
澄み切った青空の下、マリアンヌは全員に差し伸べるように手を前に
そしてその黒く塗られた口元に薄っすらと微笑を浮かべて凛とした声で言った。
「生きましょう」
今回長かったにも関わらず最後まで読んでいただきありがとうございます(m_ _m)
やりきった…そんな気分です(ーー;)
この章最後(裏話は除く)だったので妥協をせずに突っ切ってやりましたよ(笑)
少しでも皆様に楽しんでもらえたなら幸いです(^^)
では、またお会いしましょうヾ(ヾ(ヾ(ヾ (ヾ(ヾ(*´▽`)ツ.
チェインクロニクルV…やってしまいましたね。
ええ、炎上です(;´Д⊂)
みんなが運営にブチ切れてしまいました、普段からユーザーに寄り添わない運営方針でユーザーのヘイトゲージを貯めていた運営ですが今回は酷すぎた。
イベントを1つ丸々ぶち壊し、事後対応もお粗末の一言、これが天下のセガか。・゜・(ノД`)・゜・。
私はフレンドが引退しないことを願うばかりですよww




