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魔女と呼ばれた少女 -少女は死体の山で1人笑う-  作者: ひとりぼっちの桜
【第4章】 初陣!三日月峠の戦い
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06 日記の評価と分析

クリックありがとうございます(^.^)


今回は「第3章の09裏話 カーナの観察日記(下)」を読んだマリアンヌのお話になります。そしてマリアンヌの語りが主になるのですが、出来る限りコメディー要素を入れて読みやすくなるように工夫してみましたので、楽しんで頂けると嬉しいです(。>∀<。)


ではどうぞ、ごらんください(*^_^*)



 ――世の中には我慢できないことがあるのをご存知だろうか?



「ぐぬぅぅぅ、ぐぐぅぅぬぅうぅううぅぅ」


 もじもじとせわしなく動く足

 ユラユラと動く体

 荒い息遣い

 ひたいを伝う冷や汗

 それら全てが物語っていた…


 そう


 限界だ


「と、めろ」

「マリアンヌ様? 顔色がよろしくありませんが」

「もう…無理だ、、これ以上は…」

「は?」

「すぐに馬車を止めろ!」


 凄い勢いでドアノブを握り締めるマリアンヌにカーナは必死になって止めた。


「今、走行中ですよ!?危ないです!」

「じゃあすぐ止めろ!」

「現在我が軍は森と森の間にある街道を突っ切って進軍していますが、ムンガル将軍によると、どうやらこの辺りの森には魔獣が出るそうなので、出来る限り止らずに一気に進みたいとのことらしいので、もし止まるとしたらもう少し、最低でも森を抜けてからでないと」

「説明が長げーよ!!そんなこと知るか!すぐ止まれ!今止まれ!これは命令だ!!」

「わ、わかりました。では今すぐ御者ぎょしゃに言って急停車させます」

「いや!やっぱりダメだ、急停車はマズイ!」

「えっ!?」

「振動が体によくない、ゆっくり、しかし速やかに、、止まれ、分かった…な?」

「は、、、はい」


 命令どおり緩やかに止まる馬車と軍の隊列。

 一歩一歩確実に、そして振動を極力抑えるように馬車の階段を下りていく。

 そして馬車を降りたマリアンヌ、蒼白な表情のままムンガルに言った。


「ちょっと花を摘んでくる、お前達は人が来ぬように見張っておけ」

「花ですか?恐れながらマリアンヌ皇女殿下、なぜ今花なのですか? このムンガルにも分かるように説明していただきたい」


 なぜって、、、嘘だろ?

 なんでこれで通じぬのだ…


 マリアンヌは頭を抱え込むようにして言った。


「トイレだ」

「え?すいません、聞こえづらかったので、もう少し大きな声でお願いいたします!」

「トイレだよ!!!いいか!こっち来るなよ!!部下どもにもそう伝えておけ!!」

「…はい」



 少しして森から出てきたマリアンヌは力なく呟く。


「死にたい」


 少し躊躇ためらった表情で駆け寄ってきたカーナ

 マリアンヌはただジッと地面方向を見ていた。


「マリアンヌ様…あの、、、なんて言うか…顔色が、、」

「人として大切な物を失った気がする。 もう帰りたい」


 事切れる寸前の人間のような弱々しい声。

 全てを失った、そう言わんばかりの表情で馬車に戻っていくのであった。



              ×             ×



 その日の午前中は自己反省と忘却の繰り返しで消えていった。

 心が持ち直してきたのは午後のこと。

 ただし午後と言ってもすっかり空の色は茜色あかねいろだった。


「先ほどから何を読まれているのですか?」


 少し古い香りのする本を手にしているマリアンヌ

 そのままの姿勢で文字に視線を走らせながら答えた。


「これは母上の日記だよ。今回の城塞攻略に必要だから読み込んでいる」


 それに文字を読んでいると不思議と嫌な事を考えずにすむのだよ。


 そんなマリアンヌの惨めな気持ちを知ってか知らずか、胸を張るカーナ


「日記ですか!私の書いたのと同じですね!」


 その発言に読んでいたマリアンヌの手元が「お前の書いた物と同列に並べられるとやるせなくなるからやめてくれ」とピクリと反応した。


「そう言えば私のお渡しした報告書はいかがでしたか?」


 今、サラッとお前、自分の書いた物を日記から報告書に格上げしたな。

 我はアレを報告書とは認めないよ。


 カーナはマリアンヌの言葉を心待ちにするように笑顔だった。

 その自信が何処から来るのかは知らないが、そりゃもう餌を貰う前の犬のように


 どうせまだ続くこの道すがら、少しぐらい本を読むのを止めてもよいだろう。 


「少し、暇つぶしに興じようか」


 マリアンヌは本をパタリと閉じ、「仕方ないと」今まで伏せていた顔を上げた。


「出陣前にザッと読んだのだが…まぁ一応、読めはしたから及第点きゅうだいてんとしといてやる」


 マリアンヌのその言葉にカーナはこの上ないぐらい嬉しそうに答えた。


「本当ですか!ありがとうございます!」


 決して褒めてはいないよ?

 及第点の意味は分かっているかな?

 あの時、本当に日記を書いてこられてわれは困惑したんだよ。


「囚人達が強くなっていることに関してはわれとしてはおおむね満足しているよ。それで囚人がお前レベルまで追いつくのにどれぐらいかかりそうだ?」

「えっ!?私と同レベルですか!?」


 そこまでのレベルをお求めになってらっしゃったとは…


 カーナは囚人達の顔を思い出しながら無念そうに答えた。


「すいません、一生無理です」


 えっ!?まさかの一生!?


「私、基準で考えるとあいつらが私に追いつくことは一生かかっても不可能かと…」

「すまん聞き方が悪かったな。前にも詳細を話したが我が思い描く暗殺部隊、お前が率いる部隊に入る最低基準に達するのにはどれぐらいかかる?」

「ああ、なるほど。そういうことでしたか、それですと…」


 真剣な面持ちで考え込むカーナ。


「早い人間なら半年もあれば、成長が遅いやつでも1年あればいけるかと」


 それを聞いて目を輝かせながら手を合わせるマリアンヌ。

 そしてちょっと大きめの声で


「素晴らしい!お前は我が思っていた以上に優秀な指導者のようだ、これからもその調子で頑張れ」

「えっ、本当ですか!ありがとうございます! 実は最近”指導とは何か”というのが分かってきた所だったのです!」

「ほぅ、それは頼もしい」

「これは自慢ではないのですが、近頃ちかごろは私が近づいて行くだけで、ほとんどの囚人達は怯えて目を逸らします!」


 …うん、本当に自慢じゃないな


「では今後は一層厳しい訓練を奴らには課していきます!」


 えっ!厳しくするの!

 あれよりも?

 大丈夫?いなくならない?

 結構死んでるよね?

 部隊成立時に5人以下とかならない?


「別に厳しくしなくても…」

「ここ数日で私は気付きました、教育とは飴とムチなのだと」

「お前の文章を読んでいてムチの要素は多分に見受けられたが、飴の要素は無いように思えるのだけど」

「たまに殴った後、唾を吐き捨ててやりました」


 まさかの!?


「ま、まぁお前の能力に期待して一任するよ。 だが褒めてばかりもおれん、読んでいて気になったのだが、カーナこの文章はどういうことだ?」


 そう言うとマリアンヌは暇つぶしに持ってきた大量の本の山から1冊を手に取った。

 それはカーナが書いた日記だった。

 パラパラとめくるとある一文を指差す。


「誰が面白おかしく書けと言った?小説じゃないんだから本当にあったことだけを書け。これだと評価しようがないぞ」


 カーナは困惑した表情で「あった事だけ書いたんですけど~」と首を傾げる。

 マリアンヌはため息を漏らす。


「じゃあ何か?お前は本当に囚人にボウガンの矢を避けさせたとでも言うのか?」

「ああ、はい」


 えっ!?マジで!?


「え、本当にやったの?」

「はい」

「遠い距離から?」

「え~と、まぁ遠いと言えば遠いかと、5~6mありましたし」


 結構な至近距離だな、こんちくしょう。


「戦闘技術に関してはまったく分からんが、我が思うに、お前が思っている以上に囚人達は優秀だと思うぞ、潜在能力的な意味で」

「そうですか? まだまだ私に触れることすら出来ないグズどもですよ」


 お前のレベルでは測ってはいけないって、今さっき言ったのお前だよな。


「カーナ、伝え忘れていたのだが№2を作っておけ。今もそうだが、お前がいない時にお前の代わりを務めれるやつがいたほうが勝手がよい」

「№2ですか、実力ならカイルですかね」

「それは絶対ダメだ」


 言い切るマリアンヌ。


「やつはあのガタイの割に頭もキレるし、勘も鋭い、決断力もあるし、何より人を引っ張っていく強引さを持っている。しかし、日記を読む限り短気すぎる。№2をやつにするとふとした事で部隊の崩壊すらありえる」


 マリアンヌは更に付け加える


「やつのことは獰猛どうもうなペットぐらいに思っておけ、大した権限は与えるな。たまに褒美をくれてやる程度でよい。それよりも我が気になったのは、眼鏡のやつだ」

「えっ、眼鏡?」

「お前の日記にはそう書いてあった、丸眼鏡の押したら倒れそうなひょろひょろした男と」

「ああ、あいつですか! 確か名前は…」

「名前なんかどうでもよい、読んだ限りあいつが一番冷静で№2には持って来いではないか?」

「やつは止めておいた方がいいかと」

「なぜだ?」

「えっと…勘です。 何か企んでいるような気がしますので」

「勘かよ、しかしお前の勘は当たりそうな気がするな…」


 マリアンヌはそう言うと日記のページをパラパラとめくり、眼鏡の出てきた一文に目を走らせる。


「日記を読む限り、眼鏡がカイルを殺させなかった理由は2つ。 1つ目はカーナに、いや、その先にいる我にゴマをするため、自分の存在感を見せ付けるために取った行動。もしそうなら、眼鏡の思惑は見事にハマッているな、実際に我がそいつを№2にしてはどうだと言ったわけだから。 2つ目の理由はいつか我を裏切るためにカイルが使えると思ったから殺させなかった。カイルにも恩を売れるしな」

「あの野郎、帰ったらすぐに八つ裂きにしてミンチにしてやる」


 このままだとマジでこいつは帰ったらやりそうだな。


「いや、まだ分からん。実際会ってみないとこれ以上は判断できんよ。つまり、まだ殺すなよ」

「あ、はい、分かりました。 あとは気になるのは…シア」


 そう言うとハッと思い出したかのように


「マリアンヌ様、シアですが、やつは凄いですよ! 私には及ばないながらも、何か覚醒したら、囚人の誰よりも強くなります!」


 シア?ああ、日記にも度々出てきた大量殺人の少年か。


「さすがですマリアンヌ様! シアのことを見抜いてらっしゃったとは!」


 あの段階でそんなのを見抜けるわけが無いのだが、ここはあえてこう断言しておこう。


「まぁな」

「さすがです!マリアンヌ様! マリアンヌ様ほどの御方ならば、見ただけでその人物の全てが分かってしまわれるのですね!」


 そんなことができたら、我はアンジェラに引っかかってないよね?


「それでシアのあれは一体?」

「ああ、あれはたぶん多重人格性障害たじゅうじんかくしょうがいだ」

「えっ?た、たじゅう?」


 聞きなれない用語に困惑そうにハテナマークを頭に浮かべるカーナ


「医学用語だ、お前レベルでも分かるように言い換えるのなら二重人格」

「二重人格なら聞いたことがあります。しかし、あれは自作自演と言いますか、本当にあるのですか?」

「この国においてもいくつもの症例が報告されている。まぁ、まだそれほど多いわけではないが、おそらく100年続いているこの戦争という状況が1番の原因ではないかというのが今の医学者の主な考え方だそうだ」

「では彼は本当に」


 半信半疑のカーナにマリアンヌの黒く塗られた唇は、確信を突くように明瞭に言い放つ。


「お前の日記を見た限り、多重人格性障害の特徴となる症状が顕著に出ていた。 変化した雰囲気、急に向上した戦闘技術、喋り方、それにともなって一人称が僕から俺への変化、特にこの症状の1番の特徴は主の性格は作られた性格の存在を認識していない点にある」

「シアは二重人格について知らないんですか!?」

「お前の報告にもあったが、やつはお前に蹴られた後、急に痛みを思い出して「あれ?なんで僕は?」と言ったのだろう?これはシアの記憶が完全に飛んでいると考えられ、しかもそれを自覚していないと考えられる発言だ。 そもそも人格を作り出すというのは自我の防衛機制の1つだ、無自覚でもなんら不自然でも無い」

「防衛機制…ですか?」

「お前ならストレスを抱えたらどうする」

「えっと…我慢します」

「そうだろうな、それが普通だ。では我慢できなかったら?」


 その問いにカーナはう~んと眉間を押さえる。

 少し頭にチラつくのはメイド長

 カーナは断言した


「殺しま、ではなく、わら人形にメイド長の、いえ、気に入らないやつの髪の毛を入れて五寸釘で打ち付けます」

「恐っ!?そんなに嫌いなのかメイド長! まぁ、そういう方法がある人間はそれでよいのだが、それが無い人間が無意識に行うのが防衛機制だ。人間が発達していく途上で経験するストレスなどから自分を守る為の行動、だが本来はストレスを発散させたり、忘れたりすることで解消するのだが、まれにストレスから自分を守るために”別人格”を作り上げる人間がいる」


 小気味よく揺れる馬車の中でまだ敵か味方か分からない存在について説明される言葉の数々、カーナは質問される前に答えた。


「それがシアですか」

「そうなるな、普通はストレスから逃げたり目を背けたりするものだが、彼はそれをしなかった、いや出来なかったのかもしれないが、そして自分のストレスを全て受けてくれる別人格が生まれた。もちろん自覚して別人格なんか作れはしないから、人に指摘されるまでは無自覚なわけだが、まぁこんな時代だシアに何があったとしても不思議ではない、別人格を作らないとシアの心を保てなかったのだろうな」

「しかしっ!…そんな方法でストレスから逃れれるのですか?」


 思わず、叫びそうになったカーナ、しかしぐっと堪える。

 それを見てマリアンヌは「逃れれるさ」と鼻で笑う。


「考えても見ろ。メイド長に小言を言われる、しかし言われているのはお前では無い赤の他人、ならお前にストレスなんかそもそも無いだろ?」

「た、確かに」


 神妙に頷くカーナ

 マリアンヌは「ここからはわれの想像になるが」と前置きをして


「当然だが人間に備わっている防衛機制という機能はストレスを緩和するのが目的だ、つまり彼のもう1つの人格が取る行動もそれに随意ずいいする」


 カーナは身を乗り出すようにして言った。


「それがあの年齢で行った異常な量の大量殺人ですか」

「それが自分のストレス源だから殺したのか、ただのストレス発散だったかは謎だがな。ただ200人近くの人間がストレス源とは考えづらい、おそらく最初の犠牲者がシアの直接的なストレス源、その後がストレス発散ではないかな。 まぁ何にしてもその時の経験が、お前も驚くような動きをするシアの誕生に繋がったのだからよかったではないか」

「しかしあの時以降、1度も、もう1つの人格が現れていないのですが」

「それはもうお前に素直に従っていれば殺されないとシア自身が自覚したからだろうな。基本的に多重人格性障害の人間が別人格にスイッチするのはストレスに脅かされた状況、お前の日記を見る限り、シアのスイッチは”自分の命が危険に晒された時”、やつとってはそれが一番のストレス源なんだろうな。 カーナ、もし次に人格が入れ替わったなら、その時にこう質問しろ”お前は誰だ?”と」


 息を一度飲み込むカーナ


「名前はシアではないのですか?」

「たぶん違うな」


 マリアンヌはきっぱりと断言するようにその美しい銀線の髪を左右に揺らした。


「多重人格障害は性格だけではなく、名前、年齢、風貌、体質、記憶、全部が異なる。特に名前などはその人格が生まれた経緯なんかで付けられるからな」

「誰が名前を付けるんですか?」

「入れ替わった方のシアだろうな。本人がもう1人の人格を認識していない以上、入れ替わったシアが自分で名付けるしかない。さぁ彼はなんと答えるのであろうな?」


 そこまで言い終わると、今まで馬車と並走へいそうする形で走っていたムンガルが馬の手綱を引いてマリアンヌの横顔が見える位置まで近づいてきた。


「マリアンヌ皇女殿下、今日はこの辺りで野営にしたいと思うのですがよろしいでしょうか?」

「ああ、わかった」


 マリアンヌは窓から横顔だけをのぞかせる様に答える。

 そして立ち上がると部屋の隅に積み重ねられた本の山に、役目を終えた日記をポイっと投げ置いた。


「いい暇つぶしになったな。われも一度会ってみたいものだ、もう1人のシアに」

最後まで読んで頂きありがとうございます(*ゝω・)ノ


最近「シンフォギアライブ2013」というライブのブルーレイを買ったんですよ♪

これを作業用BGMとして聞きながら小説を書いているんですけど、あまりにライブが良すぎて、小説そっちのけで見てしまうこともしばしばです(笑)


次回はさらにマリアンヌの語りに力を入れているので、次もよろしければ読んで頂けるとうれしいです。

ではでは~ヾ( ´ー`)ノ


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