03 敗走の将
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今回は前回と同じでマリアンヌの言った言葉がどれほど嘘が入っていたかの第2弾にしていますので、間違え探し感覚で楽しんで頂ければうれしいです(。>∀<。)
ちなみに今回、プロローグで出たムンガルが初登場します…まぁ2話前の話でもう出てるんですけど…(*^.^*)テヘッ
マリアンヌ的には初めてのご対面なので、その出会いなんかも楽しんでもらえるとうれしいです。
それでは少し長いお話ですがどうぞ§^。^§
若い兵士が報告してからというもの、慌しく両大臣や名だたる騎士達が入れ替わり立ち代り王の間へやって来た。
次々と事細かに戦況を報告しては、それを左大臣と軍師数名が大きく広げた紙に記載していく。
「ではアトラスの勢力は現状ここまで広がったということか」
「いえ、左大臣、これはダイアル城塞を失った時点でということです。ここからどれほどの速度でアトラス軍が侵攻するかによって周辺の勢力は変化すると思われます」
「何!?こんなにか!?」
当然のことながらもはや皇族争い所ではなくなった今、兄弟達は蚊帳の外に置かれるように王の間の端に寄っていた。
一方マリアンヌはというと
”いかん、出て行くタイミングを逃した”
と、他の兄弟達と同じで、まだ王の間にいた。
何か出て行きづらいし、マリアンヌは暇つぶしがてら壁を背に聞き耳をたてていた。
どうやら目下一番のホットワードは城塞防衛において負け無しだった「ムンガル」という男がダイアル城塞から敗走したことらしい。
話を聞いて要約する限りムンガルという男は非常に強く、それが5千の兵をほぼ失うような大敗を決して負けるはずなどないということ。
そしてこのままだと大量の領土を失う可能性があると。
まぁ、正直まったく興味ないけどね!
あっ!今なら自然に出ていけそう…ちっ、また人が入ってきやがった。
もういっそのこと堂々と出て行くかな?
皆にこの皇族は国の一大事に無関心だと思われようが、このような場所にいても仕方ないし、、、。
それにそもそも我はこいつらによく思われておらぬのだから今さら評価など下がりようもないではないか。
しかし今後、我の手駒として活用するやつもこの騎士達の中にはいるかも…
そいつらに国に対して無関心だと思われるのは…
「何!?では…レイゾン城塞は落とされていないのか?」
「すいません!それは現在調査中です」
「不確定な情報を持ってくるな!今、このプルートの未来に関わる問題なのだぞ!」
お前らさっきから我が出ずらい言葉をわざと使っていないか?
「おい、左大臣」
急なマリアンヌの呼びかけにギョッとした表情で振り返る左大臣。
「は、はい、何でしょうか?」
「不確定な情報が錯綜しているほど混乱している状態で今後の策など描きようがないのではないか?」
「ですが緊急事態ですので」
「緊急事態だからこそ、信憑性の低い情報に踊らされるのを避けるべきではないかね? なぁ左大臣、それに軍師の諸君」
「た、確かにマリアンヌ様のおっしゃられるとおりですが…」
「なにもお前達のこの国を憂う気持ちを無駄とは言っておらん、ただ話はムンガル卿とやらが帰ってきてからでも遅くはないのではないか?」
マリアンヌのこの発言に皇帝を含め、誰も意を唱えなかった。
心の底で満足げに何度も頷くマリアンヌ。
そうだろう、そうだろう。
誰も反論できぬであろう。
当人がいなければ話は進まない、これは正論だ。
ではこいつらを言いくるめてやったことだし、足も痛いし、帰~えっろ♪
マリアンヌは兄弟たちに「我のおかげでお前らも帰れるのだから感謝しろよ」と言うように流し見て、すたすたと扉まで歩いていく。
そして扉を開けようと手を伸ばす。
あとは開くだけ、誰でも出来る簡単なお仕事です。
よいしょ♪
しかし扉は勝手に開いた
「………」
マリアンヌの目の前に分厚い鎧の胸板部分が現れた。
そこからゆっくりと顔を上げていく
そこにいたのは全身を鎧の塊で武装した男
男は図太い声で言った。
「御前を申し訳ございません」
「…いや、構わぬよ。ではな」
「ムンガル卿!」
マジかよ!!
お前がムンガルかよ!!
ドシドシと由緒正しい王の間に入ってくるムンガル。
マリアンヌも目に見えない波に押し戻されるようにさっきまでいた所定の位置へカムバック。
「ムンガル、どういうことか説明しろ」
ギロリと睨む皇帝
皆、息を飲む。ちなみに皆にマリアンヌはもちろん含まれていない
マリアンヌはいつになったらこの部屋から出て行けるのだとため息をついていた。
ムンガルは被っていた強固なフルフェイスの兜を取る。
そして皇帝へ対して跪くとこう言った。
「アトラス軍、3千の兵によって我が軍は敗退いたしました。」
「たった3千の兵に…、、、、貴様には我が騎士団の4千の兵を貸し与えたな」
「はい」
「そしてお前は自分の兵、千を持っていたな」
「はい」
「5千の兵を持っていて、篭城戦で負けたのか?」
徐々に苛立つ声は強くなっていく。
「…はい。敵の魔道具が強力だったために」
「ふざけるな!!たかが魔道具使い如きに遅れをとりおって!5千の兵を持っていて敗北した理由が魔道具だったとでも言うつもりか!!」
そう言って皇帝は持っていた皇帝の象徴たる王笏をムンガルの顔目掛けて振り下ろす。
それを微動だにすることなく、ただ黙って受けるムンガル。
「馬鹿者が!あの三日月峠がどれだけ貴重な物か分かっておるのか!それを負けるだけならまだしも生き恥を晒しておめおめと逃げ帰ってくるとは!貴様は我の顔に泥を塗ったのだぞ!!」
怒りのこもった王笏が1回、2回、3回、と何度も振り下ろされた。
ムンガルはそれらを瞬き1つするとなく、岩のように耐えた。
それはまるで贖罪を受けているように…
跪き見上げる頭からは、額を伝って無数の血が流れる。
「申し訳ございません」
「申し訳ないですむとでも思っているのか!!この役立たずが!!」
一方、マリアンヌは
「三日月峠、その名前どこかで…」
激しい叱責を受けているムンガル、それを興味無さ気に遠目で見ていたマリアンヌは「どこでだったかな?」と呟きつつ天井を仰ぎ見る。
そして暇つぶしがてら、自身の記憶の底から引っ張り上げるように目を瞑り眉根を揉みつつ、何度も「三日月峠」と脳内で自問するように繰り返す。
う~~む、気になるな。
我は三日月峠という文言を聞いた?
あ、そう言えばアンジェラが言っていた、、、、
いや、何か違う
確かに聞いたけども、そうだとしたら、未だにこの心のモヤモヤが晴れないのがおかしい
ということは「三日月峠」という文言は聞いたのではなく見たんだ
何かでその文字を、そしてそこで大切な何かを読んだ、だからこそ何か心の奥がムズムズするのだ。
う~~む
やはりアンジェラにどちらを初陣にするかと問われたときに、アンジェラから聞いて地図で見た記憶が鮮明に残っている。
しかし何となくそれでは無い気がする
では一体なんだろう?
そもそも我は本当に「三日月峠」という文字を見たのか?
「お前を信用してダイアル城塞を任せたにも関わらず半月も持たぬのか!!」
「申し訳ございません。自分の力、及びませんでした」
さっきから五月蝿いな
こっちは必死に思い出そうとしているのに、騒がしくて思い出せぬではないか。
騒ぐなら他でやれ、それに半月だろうが1年だろうが、あなたは戦いに負けたら怒り狂うだろうに…ん?半月
「あ、半月峠か」
そうか、そうだよ!
思い出したぞ!!
アンジェラが来たときに我が持っていた本、アンジェラに面白い物を見つけたと言った母上の日記の中に書いてあったのだ!
でもそこに書いてあったのは「半月峠」、「三日月ではない」だからモヤモヤしたのだ。
あ~~スッキリ♪
今日はいい夢が見れそうだ、あとは帰る準備をするだけ♪
屈伸運動でもしとこうかな~♪
そこでふと、マリアンヌの頭の中を母親の書いていた言葉が蘇った。
”マリアンヌ、もし未来のあなたがこれを読んでいたのならお願いがあるの”
ん?確かあそこには…母上の
「申し開きもできません。この罪はこのムンガル、1人の責任でございます。皇帝陛下にいただいた、この爵位お返しいたします」
「当たり前じゃ! 爵位の剥奪程度でこの取り返しのつかぬ罪は償えぬわ!」
頭の中にある真っ白な板に、あの時読んでいた日記を思い出すためのピースを1つ、また1つはめ込んでいく。
そして全てのピースがはまったマリアンヌ、同時に心臓の鼓動がドクドクと強く脈打つ。
マリアンヌは誰にも聞こえないぐらいの声で呟いた。
「この戦、我なら造作も無く勝てる」
皇帝陛下はゼェゼェと肩で息をして、その煌びやかな服は既に乱れきっていた。
「恐れながら皇帝陛下、私もムンガル卿にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか」
左大臣は皇帝の怒りがひと段落した頃を見計らったかのように言った。
皇帝は乾ききった喉をなだめるように
「ハァハァ、、、ゆ、許す」
そう言って皇帝は持っていた王笏を横に投げ捨て、力を入れていた肩の力を抜くと玉座に再び腰掛けた。
「ムンガル卿、詳細な情報をお聞きしたいのだが」
「ハッ!」
「奪われた城塞はいくつだ?」
「ダイアル城塞のみです」
「えっ!? で…ではダイアル城塞からプルート領へ続く道にあるレイゾン、スターリング、ミネバ、などの城塞は無傷なのか?」
「はい」
「ではアトラス軍は攻めてきていないのか?」
「はい、敵は敗走した我らを追いかけるような真似はしませんでした」
それを聞いてホッと胸を撫で下ろす左大臣に、軍師たち。
互いの顔を見合わせ頷いて安堵の表情を浮かべた。
「皇帝陛下、話の腰を折ってしまい申し訳ございませんでした」
「そうか、ならば左大臣。即刻、部隊を編成してダイアル城塞を何としても取り戻せ! 魔道具を持つ将を何人使ってもよい!」
左大臣は言う
「皇帝陛下、そう急ぐ必要は無いかと」
右大臣も続ける
「左大臣の言う通りでしょうな。確かにダイアル城塞は戦術的観点から考えれば重要な拠点ではありますが、ムンガル将軍の報告を考えれば治安などもそう急激に悪化するとは考えずらいですし、経済においてはあそこは重要ではないですからな」
「右大臣もこう言っております。皇帝陛下、ここは敵国のこれ以上の侵略を止めるために防衛線を張り、戦力を整えた後にダイアル城塞を取り返すのがよいかと」
「お前達!!それでも誇り高きプルート軍か!!!」
王の間、全体が地震の様にグラグラと揺れるような怒号。
先ほどまで疲れきっていた老人の姿はそこには無かった。
絶対的強者の瞳、そこから放たれる視線。
皇帝の後ろに仕えていたプルート軍最強の近衛兵たちすら息を飲むほどの威圧感
「最強のプルート軍において敗北など死と同じことじゃ!それを捨て置けと?馬鹿も休み休み言え!!お前達、今すぐ打ち首にされたいのか!!!」
その言葉に両大臣、マリアンヌと兄弟たち以外が全てその場にひれ伏した。
「「申し訳ございません!皇帝陛下!!」」
マリアンヌは父の怒号の瞬間、一瞬反応したが、すぐにまた考えを廻らす為に目を閉じて深く心に問いかけていた、、、
そう、最後の一歩を踏み出すために
「アトラスの人間にあの場所を占拠されるぐらいなら最悪、城塞ごと破壊しても構わぬ!」
「ハッ!ただちに軍を編成いたします! 右大臣、魔道具使いの将軍クラスを2名ほど選抜しておいてくれ」
「わかった、すぐに手配しよう」
待っていればいつか来ると信じた矢先、こんなにも早くチャンスがやってくるとは…
これは神がよほど我のことを好きだとしか思えぬ
いや、むしろ我が本当に神なのかもしれんな、うん。
なんにしても…ラッキー♪
あとはこれを実行に移すか否か
成功確率はおそらくかなり高い
書いてあった内容の信憑性は母を信じることしか出来ぬところがもどかしいが
どうしようか?
いや、そんな自問は時間の無駄だ
なぜなら答えなんて最初から決まっているのだから…
このチャンスをものにしなければ我は幽閉されて、今後チャンスにありつけない可能性もある。
目の前にあるチャンスは全て飛びついて、もぎ取るぐらいの覚悟がない者に、今後などありはしない。
”信じますよ、母上”
「ムンガル、お前は死罪じゃ!二度と我が眼前に姿をみせるな!」
「お待ちください皇帝陛下」
そう言ったマリアンヌ、足を一歩前へ踏み出した。
「此度のダイアル城塞の奪還、私目にお任せいただけませんか?」
「ロキに功を取られた腹いせのつもりか?」
もうロキが戦に勝ったような言い草ですね、父上
まぁ、順当にいけば負けることの無い戦ですがね
「私の力を皆さんにお見せするいい機会だと思ったのですよ」
「お前の力?」
「ええ、どうやら皆様は私の能力を過小評価されているようなので、ここはその誤解を払拭するいい機会かと思ったのですわ」
「お前の能力など対して何も無いだろうが」
黙れ、ロキ、マジで殺すぞ。
「まぁ待て、ロキ。 それで、お前はどれほどの兵を所望する? 1万か?2万か?それともお前の初陣じゃ、5万ほど請求するか?そして魔道具使いを何人希望するつもりじゃ?」
端からマリアンヌに任せるつもりなど無いのだろう、皇帝は子供をあやす様にそう言った。
だからこそその問いに鼻で笑うマリアンヌ
「確かに皇帝陛下がおっしゃられる通り、相手が篭城しているような城塞攻略する際には最低でも3倍、できれば5倍必要というのは常識。 しかし、私の前では、たかが3千の兵など紙切れと同義です。たとえ魔道具を持っていようが、アトラスからの援軍が来たとしても同じこと」
「偉そうに、初陣もまだのやつが」
「ロキ兄様、何ならクルヘルス地方の戦いと変わって差し上げましょうか?」
そう言ってひと睨みするとロキは「グヌヌ」と言って押し黙ってしまった。
マリアンヌは未だに皇帝の御前で跪いているムンガルの傍まで行くと、見下ろして言った。
「ムンガル卿、兵はどれほど残っているのだ?」
その問いに、ムンガルは自らの醜態を懺悔するかのように下に広がる長く赤いカーペットを見ながら答えた。
「千ほどです」
「千か…」
マリアンヌは母の日記を思い出しながら思考する
計画に必要な戦力を計算してシュミュレーション
そして再び口を開く
「此度の失態、もとを正せばムンガル将軍の落ち度、ならば汚名をそそぐのもムンガルの手によって行われるべき、つまり私が今回皇帝陛下に求める兵の数は…0です」
それはあまりにも非常識な発言だった。
発言者が王位継承権第一位マリアンヌでなければ、皆が揃って笑うほどに
「マリアンヌ、今は子供のお遊びに付き合っているほど事態に猶予は無いのだぞ」
呆れ口調の皇帝、しかしマリアンヌは強く言い切る。
「私とてこの切羽詰った状況で冗談を言うほど落ちぶれてはおりません、皇帝陛下。その証拠として私はこの戦いに赴く条件として…」
そう言ったマリアンヌは少し、間をとるように指を口元に近づける
「王位継承権をかけましょう」
その発言にこの場にいた兄弟達、両大臣、皇帝を守る騎士、そして当の皇帝までもが愕然として言葉を失った。
それもそうだろう、あれだけ皇帝の地位に固執していたマリアンヌが自分からその権利を放棄すると言い出したのだから、皆自分の耳を疑うのは自然。
皇帝はゆっくりと口を開く。
「お前は自分が何を言っているか分かっているのか?」
射殺すような鋭き視線
マリアンヌは無邪気に微笑んだ
「もちろんですわ、お父様」
「その言葉、真に受けてよいのだな?」
「女に二言はありません。もし負けた際には今後、私は皇帝陛下の言う通りの行動をとりましょう」
本来、皇帝はマリアンヌに戦に出陣させる気は毛の先ほども無かった
それは今だけではなく
今後、生涯に渡ってずっと…
しかし、マリアンヌの”王位継承権を放棄する”、”今後は自分の言う通りに行動する”という甘い蜜とも思える言葉に気持ちが変わった。
「いいだろう、マリアンヌ此度の戦はお前が出陣せよ。ただしプルート軍の一兵卒にいたるまで使うことは許さん、ムンガルと敗走した兵、1千のみでゆけ」
「ええ、もちろん。ただしこちらもそれ相応の物を賭けているのです。此度の戦は私に一任していただく」
「よかろう、ダイアル城塞の件はお前に一任しよう」
「それともう1つ約束していただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「私がこの兵力で勝利した際にはムンガル卿、そしてその部下全ての罪に問わないとお約束いただきたい」
その発言に今まで下ばかり見ていたムンガルが初めて顔を上げる。
血だらけの顔で見たのはマリアンヌの涼しい顔。
そして口は自然とこう呟いていた。
「マリアンヌ様」
皇帝は眉を顰めた。
「何を企んでいる?」
「私がムンガル卿を生かしたいと言った事がそんなに不思議な事ですか? 彼の功績を鑑みれば殺すには惜しい、ただそれだけのことですわ」
「アンジェラを殺したお前が他人の命を惜しむとは思えぬ」
「国に仇なす者への対応と、国に忠誠を尽くしている者への対応、違って当たり前ですわ」
しばしの沈黙
臣下たちも誰も声を出さない重々しい空気
皇帝はゆっくりとマリアンヌに顔を向ける。
「わかった、お前がもしその兵力で勝った暁にはムンガル、そして部下達の罪は問わぬ」
「ありがとうございます、皇帝陛下」
たしかカーナには1週間後に地下室に向かうと伝えていたな
「いろいろな準備もありますゆえ、5日後に出立いたします。それでは私はこれで。 ついて来い、ムンガル」
「は、ハイ!」
この時、この場にいた誰もが”勝てるわけがない”と思った。
そう…マリアンヌ以外は
閲覧ありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ
次回からは出陣した後の話しになりますので、よかったら次も読んでいただけるとうれしいです(^J^)




