15 裏話 すれ違う理想
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今回は「07 最初のプレゼント」の後、アンジェラとカーナが何をしていたかを裏話形式で書いてみました。( • ̀ω•́ )✧
前回と違ってほっこりする話を目指しました。
少しでもクスッとしてもらえたり、ほっこりしてもらえたならば嬉しいです。
それではどうぞ~(o゜ー゜)/
あぁ、マリアンヌ様の後姿が遠ざかっていくぅ~
名残惜しそうに手を伸ばしたくなる気持ちを押さえ込む…ことが出来そうもないので、横に立っている悪友に言った。
「で、御用は何ですか?アンジェラ様」
「そんなに迷惑そうにしなくてもいいじゃない、そんなにマリアンヌ様と一緒に帰りたかったのかしら?」
「はい」
「答えに迷いがないわね」
「はい、もう帰っていいですか?」
「まぁ! 悩みを聞いてあげようと言っている親友に酷い言い草ね」
「悩んでいませんし、頼んでもいません」
「アンジェラ様我々はどうしましょうか」
ハキハキとした物言いで尋ねてくる騎士たち。
「う~ん、場所を変えましょうか」
そう言ったアンジェラは周りにいた騎士たちに屋敷に戻るように命令したのだった。
森を突っ切って城の方向へと足を向ける。
朝日が顔を出してきそうとはいえ、まだ薄暗い。
カーナはアンジェラから渡されたランタンを手に持って歩く。
その道すがら、カーナはあることに気付いた。
「怪我しているのか?」
「なぜそう思うのかしら?」
「歩き方が以前と変わってる。何かを庇っている感じだ」
2人しかいないことですでに敬語ではなくなっているカーナ。
アンジェラはいつものカーナに戻ったことを喜ぶように「さすが、カーナよく見てるわね」と感心しながら、ふふっと笑った。
「妊娠3ヶ月よ。生まれるまでまだ少しかかるわ、無意識にお腹を庇って歩いていたのね」
「そうなのか…」
「おめでとうぐらい言ってくれてもいいんでなくて?」
テレを隠すように少し頭を掻く
「おめでとう」
「うふふ、ありがとう。 名前はカーナに決めてもらおうかしら」
「なんで私が」
「あら? 親友なのだからいいのでなくて?」
「親友の領分を超えている。 何よりも皇族の名前を平民が付けたと知られたら問題になる。それにそもそも皇族の直系は皇帝陛下がお認めになられた名前が採用される。どこの馬の骨か分からないメイドが付けましたとでも言うつもりか?」
「ふ~ん、少し見ない間にあなたも勉強したのね。感心したわ」
「そりゃどうも」
目的地はなんとなく気付いていた。
しかしカーナは何も言わなかった。
もしかしたら不安だったのかもしれない
「まだ残っていたのか…てっきり取り壊されたのだとばかり思っていた」
城で仕えているメイドたちが寝起きする大きな館のすぐ横に存在する物置小屋。
その前で感傷に浸るように建物全体を見上げるカーナ。
アンジェラはふふんと自慢げに鼻を鳴らす。
「あなたがここを出たら取り壊す予定だったらしいのだけれど、残して置くように私が言っておいたのよ、この場所は私とあなたを繋いでくれた大事な場所だもの」
私は父が死んで、母が後を追うように亡くなってからここに移り住んだ。
いや、実際は移り住むしかなかったわけだが、、、、
ここでの生活のほうが大変だったせいか、こちらのほうが実家のような気がする。
「やはり秘密の話をするには秘密基地と相場が決まっているものね」
「元、私の家を秘密基地扱いするな」
それを聞くとアンジェラは大げさに目をパチクリさせて手で大きく口を覆った。
「えっ!ここ、あなたの家だったの!? てっきり牛舎だと思ったわ」
「牛舎じゃない!物置小屋だ!元馬小屋だったから肥料はあったけど牛は断じていなかった!!」
「そんなに物置小屋を強調しなくても…それに牛も馬も、さして差があるとは思えないのだけれど」
今にも壊れてしまいそうな木製のドアがギィーと声を上げる。
すると久しぶりの来場者を喜ぶように部屋全体のホコリが舞い上がる。
「うわっ、すごいホコリね」
「長い間、完全に蛻の殻状態だったからな」
カーナは開けて足を踏み入れる。
そして過去を懐かしむようにカーナは室内を見回す。
山のように積まれた木材が馬が元いた空間を別けるための仕切り板として乱雑に置かれている。
何回も使われて底が黄ばんだガラス製の安物コップが無造作に捨てられ
どこかの廃材置き場から持ってきた椅子が無残に横たわり
さび付いたスコップなどが隅の方に追いやられている。
この少し見渡せば、部屋の全てが視界に入る。
歩幅10歩ほどの空間が私の全てだった。
昔を思い出すように大きく息を吸うと、吸い慣れた木の錆びた匂いと使い古された農作業用品の匂いが鼻孔を刺激した。
「あの朝からまったく変わらないな」
マリアンヌ様の専属メイドになることが決まった次の日の朝、大きなリュックサックを背負ってここを出たままの風景。
でも馴れしたしんだはずの場所でも、少し離れただけで今は不思議とよそよそしく感じた。
アンジェラが足元に落ちている本を手に取る。
「あれ?これ…本、”メイドの細道”小説?」
「それはメイド長に読むように言われて”買う金が無いので嫌”と遠まわしに読みたくないと言ったら”じゃあ貸してあげます”と言われて渡された物だ」
「読んだの?」
「いや、目次で止めた。 本なんかつまんねー、っという教訓をその本が私に教えてくれた」
「でもマリアンヌ様よく本読んでるでしょう。それもたぶんあの感じだと1日中じゃないかしら、辛くないの?」
「本を読んでいるマリアンヌ様を見るのは大好きなので何時間だろうが何十時間だろうが辛くなんてないんだ」
「もう完全に信者の境地ね」
「うるさいな」
「あらあら、さっきまでは殊勝な物言いだったのに、皇族の私に対して急に言い方が変わったわね」
からかうアンジェラに「言い方を戻してやろうか?」と意地の悪い返答をした後、更にカーナは続ける。
「お前と話していると、お前が皇族であることを忘れることがあるよ」
「あら、それは私が皇族としての品格が無いって言いたいのかしら?」
「まぁそれもあるけど」
「ひどっ!」
「マリアンヌ様の場合はこんな所に入ってこられない、ましてや木材の上に腰掛けるなんてありえないとおっしゃられるだろう。 でもそれはマリアンヌ様だけではなく、全ての皇族の方に言えることだと思う」
まぁそうでしょうねと、アンジェラは苦笑いしながら言った。
「そう考えるとお前は親しみのもてる皇族だよ」
カーナは自分が寝ていた部屋の隅まで行くと座った。
そして労わるように隙間風が入ってくる壁を指の腹でなでる。
「やっぱり懐かしいものかしら?」
「少し前までここで寝起きしていたからな、懐かしくないと言えば嘘になる、あっ!」
「あ~あ、こ~わした~。悪いんだ~」
「え!いや、ちょっと触れただけだぞ…というか改めて現実を見ると私はすごい所で生活していたんだな」
「いまさら? 私は最初ここの外観を見たときから思っていたわよ、しかも年頃の若い娘が」
「住めば都…みたいな」
「ならないわよ、こんな廃墟」
「言い過ぎだろ!私、ちょっと前まで住んでたんだぞ!」
でも少し触れただけで壊れるなんて
本当に老朽化していたんだと実感させられる。
アンジェが私をマリアンヌ様のメイドにするように言ってくれていなかったら、私はまだここにいただろう。
「私はお前に礼を言わないといけないな。…ん?なんだ、その顔は?」
「マリアンヌ様もそうだけど、あなたからお礼の言葉をもらえるとは思わなかったからビックリしわた」
「私だって礼ぐらい言う」
むず痒そうに眉を掻きながら言った。
それを見てアンジェラはふふっ、と軽やかに笑う。
「でもそうなると、もっとお礼を言ってもらわないと割りに合わないわね。 なんたって私の権力をフルに使っても、メイドの中でもビリのビリ、海の魚で例えるなら深海魚のあなたを人魚だといってメイド長に差し出した時の心労と言ったら、ストレスで胃に穴が開くかと思ったもの。 今でもたまに夢に見るのよ”マリアンヌ様の専属メイドにカーナをオススメするわ”って言った時のメイド長の顔」
「前言撤回だ、誰が深海魚だ!やはりお前に礼なんて言わない」
カーナは不満を隠すことなくこの上ないほどの剥れ顔をする。
そして怒ろうと喉元まで言葉がこみ上げてきたが、今はそれより…
チラッと空気と空気の隙間を盗み見るようにアンジェラを見て言った。
「そんなに酷かったのか?」
「何が?」
「メイド長の表情」
アンジェラは神妙そうに「…ええ」と頷いた後に、たとえ話を用いて説明し始めた。
「人間が魚を直に触れると、魚が死んでしまうこともあるのを知っているかしら?」
「お前、今日は魚の例え多いな。う~ん、よくは知らない、ビックリして死ぬって所?」
「それもあるかもしれないけど、一番は温度差よ。魚は3℃水温が変わると死ぬことすらあるの、だから人間の体温に触れて温度差で死んでしまうのよ、まぁ火傷みたいなものね。それで本題なのだけれど、、、その時のメイド長の表情は、水から出した魚を炎で熱せられた鉄板の上に置いた感じよ」
「それショック死するレベルだろ!」
その通り、と深く深く何度も頷くアンジェラ。
そして片手で軽く頭を抱える。
「しかも、聞き返してくるのよ ”えっ?今、何ですって?” って。さすがに2回目はキツかったわね、あなたの名前をあげるのは…、1回目より勇気が求められたわ」
「そこは親友として自信を持って言ってくれよ!」
「あなた自信を持って推薦出来る成績じゃないでしょ」
「そこは、、、伸びしろに期待してもらう感じで言えば…」
「私もそう言ったわよ ”彼女は本気になったら何でも出来るわ” って。そしたらメイド長 ”今まで出来なかった人間が?” みたいな顔するのよ、居た堪れなかったわ」
グゥの音も出ない
だがこれだけは言っておこう。
「お疲れ♪」
「まったくよ」
「それで、どう?」
「どう…とは?」
「マリアンヌ様の専属になりたいって言ってたじゃない。今、幸せ?」
カーナは最初ばつが悪そうにしていたが、真っ直ぐ見てくるアンジェラに観念したのか、満面の笑みで答えた。
「幸せだよ」
「そう、よかった」
仕切りなおすように手をパンと鳴らしたアンジェラ。
「まぁ、どれだけ大変でもカーナの頼みごとだから苦じゃなかったし、どちらかと言うと嬉しかったから気にしないでいいわよ」
カーナが「厄介ごとなんて嬉しくないだろ?」と尋ねるとアンジェラは含み笑いながら首を振る。
「あなたはあまり私に頼みごとをしないんだもの」
「それは誰でもそうだろう。皇族の1人においそれと頼みごとなんてしないさ」
「そんなことはないわよ。 私は皇室の言うところ俗世間に身をおいて隠居したような身の上だけれど、これでも皇族の1人ですもの、マリアンヌ様は別格としても普通は色々あるのよ。 だからこそ友達として、普通に頼みごとをされるのは嬉しいのよ」
少し痛ましそうに、そして哀れむような視線を向けるカーナ。
でも自分には分からない世界だ、何を言っても気休めにもならないと黙るしかなかった。
「別に同情なんてしなくていいわ。これはただのエゴ、自己満足よ」
「自己満足?」
「あなたにはマリアンヌ様と私は違うように見えるかもしれないけど、本質的なものは同じよ、欲しいものは是が非でも手に入れる。 もしかしら皇族に生まれた人間全てにかかっている呪いなのかもしれないわね」
そう寂しそうに言ったあと、アンジェラは更に続ける。
「私はその時、欲しかった、年頃が同じ友達、冗談を言い合える間柄、だからそれらを手に入れるために権力を使ったに過ぎないわ」
「私は…こういう時にどういう言葉をかけたらいいかわからない。でも、本当にお前には感謝している」
アンジェラはカーナに視線を送り、微笑む。
「私にとってこの場所は隔離された場所なのよ」
「隔離? 煌びやかな生活から離れてるみたいな感じか?」
ええ、と頷くアンジェラ。
「私はねカーナ、実を言うと皇族の生活は嫌いだったのよ、四六時中監視されているようなものだもの、息苦しいったらない。 そういう意味では私は皇族失格かもしれないわ」
自虐的に自分はなるべくして城から出たと苦笑いをする。
「私にとって皇族とは権威の象徴でありお飾り、観賞用の人形と変わらない。そこから出たかった、自由の無いかごの鳥よ、でもそれをこの場所だけは一時的に忘れさせてくれる、私が本当の自分になれる場所。だからこそ、お礼という意味を言うのなら、こちらこそこの安らげる場所を提供してくれたお礼よ」
そう言ったアンジェラはカーナの目からはとても寂しそうに見えた。
「で、悩みは何かしら?」
この頼もしい親友が聞いてあげましょう、と胸をドンと叩く。
カーナはマリアンヌに新たに作る部隊のメンバー集めをするように言われていることをアンジェラに伝えた。
ひとしきり黙って聞くとアンジェラは「ふ~ん、なるほど」と呟き、そして
「で、今どれぐらい人を集めたの?」と聞いてきた。
カーナは目を逸らして悔しそうに言った。
「0人」
「でしょうね」
「その反応は腹たつな」
アンジェラはフゥと小さなため息を吐く
そしてまだ自分自信というものを理解してない親友へ向かって発する。
「ついさっきもマリアンヌ様の前で言ったけど、あなたにそういったことは向かない。 野山を駆け回っている猛獣に交渉ごとをやらせたところで言葉を喋れないのだから交渉もなにもないでしょう」
「お前ほんとに少し見ない間に更にムカつく性格になったな」
アンジェラは人懐っこい笑みでからかう
カーナは苦々しくそれを恨みがましい台詞を足して返す
これが数年かけて2人がこの場所で築き上げた関係であることを物語っていた。
「まぁでも、難しいのは事実ね。 強いことが最低条件であるなら最低でも正騎士、ということは今ある現状の地位を捨てろと言っているようなものですもの、平民から自分の力だけで成り上がってきた人間ならばそんなふざけた話をまともに聞かない、ましてや貴族出身の正騎士ならなおのことね」
「やっぱり難しいよな」
「でもまぁ、私なら数人はいける自信があるわね」
「たった数人では…」
「忘れたの?」と指を上に立てるアンジェラ。
「さっき紹介した囚人たちを覚えてる? 彼らを使えばいいのよ、元よりそういう話に今はなっているのだから。 つまりあなたに求められている結果は現在変化していると考えるべきね、囚人たちを指揮できる腕利きが数人いれば事足りる、マリアンヌ様も結果が出れば文句はないでしょうし、あなた自身の評価も上がる」
アンジェラは用意周到と言わんばかりに話を続ける
「取り急ぎ、数日後にでも1人紹介しましょう。話は事前につけておくからあなたは会いに行きさえすればいい」
カーナはアンジェラの両手を勢いよく掴むとこれ以上嬉しさを表現できないほどブンブンと振る。
「やっぱりお前は頼りになるな!これでマリアンヌ様に喜んでいただける!」
「痛い痛い痛い! 最初は頼る気なんてなかったでしょ」
「そんなことないさ!お前しかいないと確信していたよ! 今後もし、何かあったら私に言え、親友として助けてやる」
激しく大回転をした手を労わるようにさするアンジェラ。
もぅ、調子がいいわねと口にした後
「ええ、その時はお願いするわ」
と言った。
カーナは自分のためにこれだけ考えてくれて、行動してくれる友人を持ったことが嬉しかった。
だからこそもう一度、手の平を差し出した。
そして言った。
「これから2人でマリアンヌ様を支えていこう。お前がいれば私も安心だ」
触れられた手の暖かさに安堵するようにアンジェラは静かに目を閉じて言った。
「ええ、2人で頑張っていきましょう」
すたびれた物置小屋の中、おだやかな朝日の青白い光が木目の隙間から入り込んでくる。
その中で2人はそれぞれ誓ったのだった。
閲覧ありがとうございました(*^^)/。・:*:
最後の2人の親友としての会話、楽しんでいただけましたか?
2人の最後の台詞は微妙に噛み合わないようにしたのですが、それがこの章の最後にはピッタリだと思ってこんな感じにしてみました。
次から違う章になるのですが、、、いや~この章、頑張った!特に序盤、ペンがまったく進まない(―‘`―;)そして最後、急にダークじゃなくなったらまたペンが進まないのなんのってww最後は気力の勝利です v(>w<*)
次の章はどうしようかな~?(´-ω-`)う~む




