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14 魔女が生まれた日 ※挿絵あり

クリックありがとうございますm(_ _ )m


いきなりですが、今回は残酷な表現が多いので、そういうのが苦手な方は無理しないでくださいね。

ただ、マリアンヌが最初にアップしたようなプロローグの性格になるのにあたって、どうしても必要な話になるので、できれば最後まで読んでもらえると嬉しいです(*ノωノ)

もちろん、読まれなかった方のために、次の章の最初にでも軽く流れを話の中に盛り込めたら、とは思っています。


それでは今回は歴代最長になりますが、どうぞご覧ください。

 まだ夕暮れには早い時刻じこく

 あれから数日が過ぎた。

 不気味なぐらい何も起こらなかった。


 アンジェラは御付おつきの兵たちと共に王の間の前までやってきた。

 今日は月に一度、皇族が全員集まる日。


 途中、兄弟の1人に会ったが何を喋ったかはよく覚えていない。

 唯一覚えていることは「大丈夫かい? 顔色がすこぶる悪いが」という言葉だけ。


 足が重い。

 嫌な予感が悪寒になって背筋を伝う。


 あれから姿を全く見ていないマリアンヌの顔が脳内をチラつく。

 それを振り払うように王の間の扉を押すのであった。



          ×              ×



われを殺せなくて残念でしたね。アンジェラ姉さま」

「何のことかしら?マリアンヌ皇女殿下」


 マリアンヌはいつものように黒いドレス。

 ただし、私へのあてつけのように、あの日のドレスと同じがらを選んで着ていた。


 私とマリアンヌは王の間にて言い合う。


 始まりはこうだ。


 すれ違った時に軽く肩が当たった。

 すると彼女は小声でこう言った。


「まだ時間があるな、時間つぶしにでもきょうじよう」

「?」


 それからマリアンヌは皆の前で声を荒げた、そして矢継やつばやに次から次へと言葉を紡ぎならが私を攻め立てた。


「王位継承権第一位に手を出すとどういうことになるかお分かりか?」

「ですから、私にはそれがどういう意味か分かりかねますわ」

「みなさ~ん! こいつはわれを殺そうとしました」


 集まっている兄弟達

 中央奥で両大臣と話している皇帝も何の騒ぎだと、言い争いをしている両名に目を向ける。


「面白くも無い冗談ですわね。いつものおふざけも度が過ぎると痛い目を見ますわよ」

「なるほど、あなたはわれを殺そうとしたことを、冗談の一言で片付けようというわけか、あつかましいにも程があるな」


「どうしたのだ?2人とも」と問いかけてくる皇帝

「いいえ!大した問題ではありませんわ、お父様」恐れ多いとアンジェラは首を振る


「そうそう、大したことではないですよ~。ただ単に、この反逆者がわれの命を狙っただけ、それだけのことですよ~」

「そんなことはしていないわ!」

「そういえば、誰かさんのせいで肩に矢を受けたんだった。お見せしましょうか?」

「最近起こった事故の傷を見せられてもそれが何の証拠になるのですか? それに人前でそのようなはしたないマネをマリアンヌ様がされると亡き母君も悲しまれますわ」

「劣悪種どもに見られたとてわれは一向に気にはせんがな。 それはそうとなぜ最近の事故だとお思いになったのですか?」

「…最近、命を狙われたと言ったからよ」

「時期を言った覚えは無いがな、あなたの中ではわれは言っていたのか~、不思議だなぁ」


 マリアンヌは心を見透かすようぬ話しかけてくる。

 私はマリアンヌの真意を探るように目を細めた。


 証拠など無く、ただ駄々っ子のようにわめくだけ。

 私の考えていた通りだった。


 でもなぜだ?


 マリアンヌからあせりの色が見えない。


 数日前のマリアンヌとは何かが違う。

 そう思いながらもアンジェラは反論する。


「そろそろ言いがかりは止めてもらえるかしら、証拠も無いのに無駄な時間を割くつもりはないのよ」


 そう私が言うと王の間にトントンというノック音が響いた。

 私を含め、皆が戸惑とまどう中、マリアンヌだけが口元をほころばせる。

 そして言った。


「よい暇つぶしになった」と



            ×             ×



 重々しい扉が開かれる。

 ペコリと礼儀正しくお辞儀をして入ってくるカーナ。

 そしてカーナの後ろにもう1つの人影


 カーナと一緒に入って来た人間は一歩、また一歩、血をポタポタと落としながら歩いて来る。


 今まではあやういながらも平穏だった雰囲気が、ワーナーの入場によって張り詰めた空気に変わる。


「このものわれを襲撃した人間の1人です」


 後ろ手で縛られて荒れた息を吐きながらフラフラと立ち尽くすワーナー。

 縛られた手は皮がめくれるほど、きつく、そして強く縛られていた。


 体にはまるで出血を止めるように無数のくいを打ち込まれている。

 それは引き抜くとそれだけで血がドバッと出て、ショック死するであろうほど深く打ち込まれていた。 


 手をよく見ると、爪が半分以上剥がされていた。


 青アザが可愛いと思えるほどに切り刻まれた体。


 目は暗幕あんまくのような黒い鉢巻はちまきおおわれている。

 よく見ると鉢巻はちまきの下から血がツーと流れていた。

 鉢巻の下がどうなっているかを想像するだけで皆、吐き気がした。


「このようなお見苦しい者をこの場に連れてきたことをお詫び申し上げますわ。なかなか口を割らなかったもので」

拷問ごうもん、したのか?」


 兄弟の1人は恐る恐る言った。

 マリアンヌはいやいやと首を振る。


拷問ごうもん? ただお話を聞いただけだよ、それも平和的に」

「マリアンヌ皇女殿下、なんてことをしてくれたの。 このような非人道的な行いは問題よ、しかも私の臣下に対して、私の断り無くこのような狼藉ろうぜき許されると思っているのですか?」


 お前が言うな!

 お前の行った狼藉ろうぜきも大して差が無いだろうが!


「そうだな~、たしかにこれで何も出なかったらわれも責任を取らねばならんな。 まぁ何も出なかったらだけどね」


 そう言って、おどけるように答えたマリアンヌ。

 

 タイミングをはかったかのようにカーナはワーナーの後ろをドン!と押して、マリアンヌの前にひざまずかせる。

 そしてカーナはまるで高熱で痙攣けいれんしているように震えているワーナーの耳元まで顔を近づけると何か耳打ちした。

 するとおびえて砂漠のようにかわききった口が開かれた


「私は…いえ、私たちは、アンジェラ様のめいにより、マリアンヌ様を、殺害する、計画を、、、たてて、実行しました」

「!?」

「なるほど、それはそれは、実に由々(ゆゆ)しき計画だ。 しかし、お前の言葉だけでは信用は出来んな、何か証拠はあるかね?ワーナー君」

「証拠は、手紙。 マリアンヌ様の遺書を偽造しました」


 よく出来ました~、とマリアンヌは顔面蒼白がんめんそうはくになったアンジェラに見せ付けるように手を叩く。

 そして胸元から一枚の紙を取り出す。

 紙は国で一般的に使われている安物ではなく、最上級の羊皮紙ようひしを使用した高級紙で、丁寧に二つ折りにされ、皇族の認印みとめいんも押されていた。


 アンジェラの表情が青ざめる。


「なぜ…」

「知っていたか、か?」


 わからいでか。


「いや~大変だったぞ。 こやつの両目は早々(そうそう)に潰してしまったから”手紙はアンジェラの息子の部屋にある”と聞いた時にはもうどうしようかと肝を冷やしたものだ」

「そんなことを聞いてるんじゃないわ!!」


 声を荒げるアンジェラ。


 それもそうだろう、拷問を受けたとはいえ、遺書の存在を知っていないとワーナーにそのことをえない。

 問えなければ暴露ばくろもしようがない。

 こいつは知っていたんだ。

 でもなぜ、遺書いしょの存在を知っていたのだ?


「ふ~、仕方ない、教えてやろうか? ヒントはお前が地下室で言った言葉だ」 

「地下室で言った、こと、ば?」


 あの時のことを思い出すのに苦労したと言わんばかりに、マリアンヌはひたいに手を当てて「やれやれ」と首を振る。


「あなたはわれにこう言った。 マリアンヌが死んだ後”カーナと私は亡きマリアンヌの意志を引き継ぎ共に手を取り合う”…なぜそうなるね?」


 全てを見透かすようなマリアンヌの瞳

 長いまつげを瞬かせ、この場の空気を操るように喋る。


「なぜわれが死んだらお前がわれの跡を継ぐのだ? そしてなぜカーナがそれを協力するのだ? それまでは基本的にお前の言葉というのは理路整然りろせいぜんとしていた印象が強かったが、その時だけは支離滅裂しりめつれつとしていた。 最初は感情的になっただけかと思ったがその後はまた冷静になったことを考えると、お前は何かを隠しているのではないかと思った」


 まったく言葉を詰まらせないマリアンヌ。

 まるでゴールが決まっているかのように言葉を紡いでいく。

 アンジェラは反論しようとしたが、今のマリアンヌから話の主導権を奪える気がしなかった。


「一晩考えたのだが分からなくてな、だからいっそのこと考え方を変えたのだ。 お前が何を隠しているかではなく、どうしたらカーナがお前の味方になるか…とね。すると色々なことが見えてきた」


 一呼吸置くようにマリアンヌは自分の髪を指でクルクルといじる。

 透き通った銀の髪が束になっては宙を舞った。


「確かにわれを殺した人間の息の根を止めるまではカーナとの協力関係は成立するだろう。が、その協力関係が恒久的こうきゅうてきに続くというのは楽観的過ぎる考えであろう? 元よりあなたはそんな楽観主義者ではない、カーナとは友人関係だからきっと仲間になる? そんな白馬に乗った皇子様を夢見る少女ではなかろう。 ”念には念を”あなたならそう考える。 だから逆にわれは考えたんだ。カーナがお前の片腕になるあと一押しとはなんだろうか…と。そして思いついた、遺書だ」


 しなやかな指でこめかみをこつきながら「いやぁ~頑張ったな~」と自分自身を褒めるように呟く。

 そして少し首をかしげて言った。


われが死んだ後、われの意志が反映されている文章があればカーナを自分の物にできるわな~」


 手に持っている偽造された遺書をまるで蝶か何かに見立てるように摘み上げてヒラヒラとなびかせた。


「今から読んでしんぜよう。 まったくわれの字までご丁寧に似せるとは、まぁそんなことよりも個人的に最初の書き出しから既に腹がたつ文言のオンパレードだから、ここに集まっている貴公きこうらがこのストレスに耐えられるかが不安だよ」


 そう言うと「こほん!」と咳払いを1つ

 マリアンヌは読み始めた。



「カーナ、お前がこの手紙を読んでいるということは、われは既にこの世にいないということだろう。生きとるわ!!」


 マリアンヌは「あっ、失礼、つい突っ込まないとやってられなくなるのでな」と言うと、今度こそは最後まで読むのだと心に決めてまた最初から読み始めた。


「カーナ、お前がこの手紙を読んでいるということは、われは既にこの世にいないということだろう。 先に言っておくが、われがどんな死に方をしたにせよ、お前に責任は一切無い、死んだのは我が至らなかった、ただそれだけのことだ。 決して我の後を追うなどとバカな真似をするな、お前にはやってもらいたいことが山ほどあるのだ、詳細はアンジェラ姉さまから聞け、もしものことを考えて我に何かがあったとき、その後のことはアンジェラ姉さまには伝えてある。 本来ならこのような形ではなく、言葉で伝えたかったが…仕方あるまい、お前を残し、先に逝くあるじをを許して欲しい。そして出来ることならアンジェラ姉さまのことを頼みたい、われが死んだとき全てをたくせるのは他におらぬ。 頼んだぞ、われの最も信頼する忠義に厚い騎士よ」


 ふぅ~と読み終わったマリアンヌは手紙を折りたたんだ。

 そして、うんうんとうなずいた後、全力で床に投げ捨てた。


「生きとるわ!! われが死んでカーナに責任が無いわけあるか!! なぜ詳細は書かない!?いちいち臣下に許しなんぞ乞うか!そしてなにより言い訳がましい!!忠義に厚い騎士なら跡を追って来いよ! 最後に…われが死んだ後のことなど、どうなろうが知ったことかぁぁぁーーー!!!」


 激しく上下に息をする肩を落ち着かせ、叩き付けた手紙を指差す。


「ちなみにあなたに”これはマリアンヌが偽造した”などと言い逃れされないように発見時、そこにいる右大臣はもちろん、名だたる公爵こうしゃくが数名、皇帝陛下のお抱え近衛騎士団の数人も一緒に連れて行ったので言い逃れは出来んし、われがさせんよ」


 ワーナーは震えで硬直する体を無理やり動かし、マリアンヌの声が聞こえるほうに顔を向ける。

 そして命乞いをするように顔を上げた。


「お願いです、マリアンヌ様。 わ、私の、命は構いません、だから家族だけ助」

「カーナ、そいつうるさい」

「はい」


 首の動脈をナイフでスパッと切り裂かれるワーナー。

 血を飛び散らせ、「ぁぁぁ」という断末魔だんまつまをうっとりとした表情で聞き入るマリアンヌ。


 そしてこの上ないほど嬉しそうに言った。


「お前の家族はもう殺したよ、あの世で会えるといいな」


 血を出し尽くし力なく倒れこむワーナー。

 マリアンヌは無言で横たわるワーナーのかたわらに立つと大きく足を上げて踏みつけた。

 そしてまだ体温が残っている亡骸なきがらにグリグリとヒールをめり込ませていく。


「バカめ、われに刃を向けた人間の望みなど誰が叶えてやるものか」

「止めて!!」


 アンジェラは事切こときれたワーナーに駆け寄った。


「ああ、そう言えば、あなたはこいつを忠誠心があるなど思っていたようだが、本当の忠誠心とは…」


 マリアンヌは言葉尻を切ってカーナがいるほうを向く

 そして威圧的いあつてきに、しかし意地いじの悪い猫のようにカーナにたずねた。


「カーナ、お前なら親を人質に取られたとして、われと親、どっちの命を取る?」

「マリアンヌ様です、悩む余地すらありません」


 ほらな、っと


「これが忠誠心ちゅうせいしんというものだ。 主君しゅくんと家族を天秤にかけた時点でそれは不敬ふけいというもの、罰せられて当然、あなたが罰する前にわれがやっておいたぞ、ゴミ掃除をな」


 平時と変わらぬ声でそう言った。

 皇帝は浅くため息をついた後、困りきった顔をする


「もうよいマリアンヌ、そちの言いたいことはよく分かった。今後の処分をどうするかはわれが決める、お前はもう下がってよいぞ」


 わざとらしく目をぱちぱちさせて驚いたフリをするマリアンヌ。


「何をおっしゃっておいでですか?皇帝陛下。 処分をどうするも何も、そんなものは決まっているではないですか、この国において皇族に手を出した人間は全て死刑以外は無い」


 ”そうでしょ?”と人を食ったような言い方をするマリアンヌ。


「それは…」


 煮え切らない皇帝の返答。

 マリアンヌは重いため息を吐く。

 そしてやれやれと首を振る。


「ところでカーナ、今日は暑いな。そこの窓を開けろ」


 マリアンヌがそう命令すると「はい!」と間髪いれず声を上げるカーナ。

 すぐに両開きの窓を勢いよく開けた。

挿絵(By みてみん)

 温かい夕焼けの光が窓から入ってくる


「いや~、この窓の位置はとてもいい。 城の奥、下々のクソ共が住む城下町もよく見える。おや?あれ~~~~? アレは何だろぉ~~??」


 城下町じょうかまちの中心に等間隔とうかんかくに置かれた3つの塔。

 そのモニュメントのような塔をマリアンヌを指差す。


 アンジェラの瞳孔どうこうが大きく開く。


「イヤァァァァァァァァァァァアアアアァアァァアア!!!!!!!!!」


 奇声きせいともとれる悲鳴をあげるアンジェラ。

 それもそうだろう

 いつもは皇族の権威けんいとみ象徴とうちょうとして君臨している塔が現在は真っ赤な血と死の色が交じり合った空間に染まりきっていたのだ。


 3つの塔の真ん中にある時計塔以外は気にしていない民衆達もあまりの光景に上を見上げている。


 その視線の先には3つの塔に橋をけるように頑丈なロープがピシッとたるみ無く繋がられている。

 そして等間隔に何かがブラーンと洗濯物のように吊るされていた。


 よく目を凝らすとそれは…

 首を吊られた無数の人間達だった。


 アンジェラの夫、親、兄弟そして年端も行かない男の子、アンジェラに付き従っていた騎士たち。


 悪夢のような光景にアンジェラはただただ、狂ったように叫ぶ。


 それを見てはしゃぐように手を叩いて笑うマリアンヌ。


「どうだ、美しい光景だろ?」


 そう言ったマリアンヌは「だが1つだけ足らない」と言い、中心にある時計塔を指差した。


「あの時計塔の上、見えますか?」


 硬い靴の音をたてて、近づいてくるマリアンヌ。

 そして細くなめらかな指をアンジェラの肩に置き、耳元でささやかれる声音せいおん


「あの上には特別なものを飾ろうと思っています。 何か分かりますか? うふふ…そなたの首だ。 よく似合うであろうな~お前の家族全員が周りを取り囲むように吊るされ、中心に貴様の首から上の部分をケーキのロウソクのように突き立てる、もはや芸術だ!タイトルは、う~む…家族の団欒だんらんでどうだろう? あーハッハッハ!完璧だぁ!」


 こいつは傑作けっさくだと言わんばかりに笑うマリアンヌ。

 それに一切反応せずに泣き叫ぶアンジェラ、あまりの事態に脳も処理が追いつかず、耳に入ってこないのだろう。


 兄弟の何人かがそれを見て言った。


「マリアンヌ、お前なんてことを…」


 マリアンヌはその全てをあざ笑うような素振りで窓から顔を出す。

 そしてたのしげに吐かれる言葉。


「あの3つの塔の下をご覧下さい。 これだけの民衆を集めて、主犯の人間を罰しない? そんなことありえないし、示しがつかない…そうだな!右大臣!」

「はい、その通りでございます。マリアンヌ様」

「お前は黙っていろ、右大臣! これは皇族の問題だ!」


 皇帝の剣幕けんまくに押されるようにその巨体を小さくする右大臣。

 マリアンヌは”口をつぐむな”と右大臣に目で威圧する。

 右大臣は重々(おもおも)しくうなずいた。


「恐れながら皇帝陛下、その皇族のお命が狙われたのです。しかも、王位継承権第一位、マリアンヌ・ディ・ファンデシベル様を。 これは由々しき事態です、我が国において皇族に手を出すなど神に対して唾を吐き捨てるのと同義どうぎ国家反逆罪こっかはんぎゃくざいでの死罪以外ありえぬかと思われます」

「そうだろう、そうだろう」


 示し合わせたようなマリアンヌと大臣のやり取り。

 皇帝は眉を細める。


右大臣うだいじん、貴様いつからマリアンヌの手下に成り下がった?」


 右大臣を睨み付ける皇帝

 速攻で視線を下にらす右大臣。

 マリアンヌは二人の視線の間を強引に割って入る


「私の手先? 皇帝陛下、何をとち狂ったことをおっしゃっているのです?」


 その前にわれの部下になったら”成り下がるとはどういう意味だ!”

 と、言いたいが、ここは我慢しよう。


「彼はこの国につかえる従順な臣下です。そのような言い方はお止めください」


 そんなことはつゆほども思っていないがな


「彼はそのような軽佻浮薄けいちょうふはくな人物ではありません。それを証拠にここに集められた誰からも異論は出ていない…左大臣」


 急に名前を呼ばれ、硬直する左大臣。

 自分には来ないだろうと気を抜いていたところを思いっきり殴りつけられたような顔をして


「えっ、あ、はい。なんでしょう、マリアンヌ様」

「この国を屋台骨やたいぼねを支えているのは右大臣と左大臣、お前達だ。その経験、知識をまえた上でお前はここまでの話を聞いてどう思った? われが間違っていると思うか?」

「えー、間違っている、間違っていないの問題ではなくこの国において皇族というものは」


 ”そんなことは誰も聞いていない”とマリアンヌは眼光を鋭く尖らせる。


「左大臣よ、お前ほどの人間なら分かるはずだ、この状況で両方の肩を持つことは不可能、自分の教示きょうじに従え。 そして答えろ。この女、アンジェラは反逆者か否か」


 左大臣は言葉尻ことばじりにごらせながらも答える。


「反逆者…かと」

「では、死罪が適当てきとうだな?」

「…はい」


 皇帝は憤慨ふんがいしている気持ちを隠す素振りを一切見せずに言う。


「この裏切り者どもが、われに娘を処刑しろと申すか」


 われの時は迷い無く牢獄に入れようとしたよな、お前!

 差別だ! これは皇族内差別だ!


 苦虫を噛み潰したようにな表情をする皇帝にすぐマリアンヌは反応して返す。


「裏切り者? それはこいつのことでしょう? それにあなたが出来ないとおっしゃられるなら私がしよう」


 アンジェラは真っ直ぐ前方、窓の外をながめている。


 涙はれはて

 瞳は色を無くし

 体は糸の切れた操り人形のようにひざをついていた。


「右大臣、関係諸国はこのことを知っているのか?」

「はい、すで関係諸国かんけいしょこくにはアンジェラ・ディ・ファンデシベルは裏切ったという文面で今朝には早馬はやうまを出しております」

「おやおや、仕事が速いなぁ、後から褒美をつかわしてやろう」

「ありがとうございます」


 マリアンヌは揚々(ようよう)とげる。


「ってことだ、カーナ~やれ♪」


 黙ってカーナはアンジェラの後ろに立つ。

 その手にはワーナーの血がベットリと付いたナイフ。

 背後からわしが獲物を掴み取るように髪をつかむ。


 命の危険が迫ったからなのか、アンジェラはそこでハッと我に返った。


「止めて!止めてカーナ!お願い、許して!」


 カーナに押さえ込まれて暴れることすら出来ないので叫ぶ。


「私はどうなってもいい! でもお腹の子供だけは! 子供に罪は無いわ!」


 必死に友人に懇願こんがんする。


「私たち…友達でしょ?」


 生きるためなら何でもする、そんな言葉だった。

 しかしそんな言葉はカーナの胸を締め付けた。


「なぜ…」


 今まで機械のような目をしていた瞳に薄っすらと色がともる。


「え?」


 カーナは、頭の中にいるかつての親友を振り払うように眉間のシワをけわしくする。


「なぜそう思っているならマリアンヌ様に剣を向けたんだ、アンジェ?」


 手に持っていたナイフの刃が苦しそうにカタカタと震える。

 そして行き場の無い気持ちを吐き出すように言った。


「私が、マリアンヌ様をどれだけおしたいしているか、私がどんな思いでマリアンヌ様に仕えているか…お前なら誰よりも知っていたはずだ」


 ナイフ同様どうよう、彼女自身の声も震えていた。

 カーナは最初、分をわきまえるように抑え目の声音でアンジェラに話しかけていたが最後の最後、耐えられなかったのだろう。

 親友への言葉を口にする。


 どれだけ苦しくても…


「最初、私はお前のことが大嫌いだった。偉そうだし、うっとうしいし、無駄に世話焼きだし、それに…私に無いものを全部持っていたから。仲良くなれるなんて思ってなかった。 お前を遠ざけたときもあった、でもお前はそれでも私の所に何度も来てくれた、そして身分を越えて私を友と呼んでくれた、私は…嬉しかった、なのに」


 苦しむように言葉をつむ


「なのになぜ…」


 カーナは締め付けられる胸を押さえるように、

 そして感情を爆発させるように声を荒げる。


「なぜ!マリアンヌ様に剣を向けた!!」


 胸の痛みに耐えるかのように唇を噛み締めるカーナ。


 アンジェラは押し黙るしかなかった。


「お前の言う通り、私にとってお前は唯一の友人だ、つらくて、不安で、それでもお前だけは私を助けてくれた。 それはあんな…あんなことをする為だったのか? 私が欲しいってなんだ? そんな下らない目的のために、、」


 カーナは私がどれだけつらいかお前に分かるか?と言わんばかりに肩を震わす。


「マリアンヌ様は私の全てなんだ! それなのに…それなのに! なぜ私から奪おうとしたんだ!友達なんだろ!?なんで!なんでだ!! 答えろ!アンジェ!!」


 ひざまずかされたままのアンジェラ。

 しばしの静寂せいじゃくのち

 真後ろから問われる友の言葉に黙って床を見詰めていた視線を上げて、しかし後ろを振り返らずに言った。


「ごめんね、カーナ」


 それは懺悔ざんげをの言葉だった。


「私って…夢を見ちゃったんだ、叶わないと思っていた夢、、、手が届くと思ったら…」


 決して視線が合うことの無い両者。

 最後を締めくくるようにアンジェラは言った。


「どこで間違っちゃったんだろうね、私たち」



「あの~~、もうよろしいですか~~?」


 お前達の会話はきたと言わんばかりに壁に背を預け、近くの窓をトントンと叩くマリアンヌ。


「お前は知らんだろうが、われは今日は朝早くから色々動き回ったんだ、まぁ主にお前の息子が逃げ回ったことが原因なのだがね。ほんと、周りの人間が助けようとするから次から次から殺して殺して、汗をかいて汗をかいて、いい加減気持ちが悪いのだよ。 だからくだらない友達ごっこをしている所悪いけど~、早く死んでもらえるかな?」


 それをくとアンジェラはにくしみを込めてマリアンヌに強い視線を向けた。


「その前に以前言った言葉、取り消すわ」

「以前…、う~む、いつのことだ?」


 分かりきった意地悪をするように返答する。

 アンジェラは気にせずに言う。


「昔、私の結婚式であなたに言った言葉よ」


 マリアンヌはわざとらしくとぼけてみせる。


「あ~何か馬鹿みたいな女が言ってな。 くだらなすぎてもう忘れてしまったが、それがどうしたね?」

「取り消したいのよ、いいかしら?」

「はぁ? お好きにどうぞ」


 アンジェラは「感謝するわ」と言って、マリアンヌを睨みつけた。


「お前には一生かかっても愛など分からない。この……魔女め! 地獄へ落ちろ!!」


 マリアンヌはわざと口元を隠さず、見せ付けるように笑う。

 それがまるで光栄なことを言われたかのように


 そして言った。


「お褒めの言葉、痛み入る。 しかし残念ながら地獄とやらに行くのはお前が先のようだ」


 ややかな目のマリアンヌ。

 遠目とおめから見下ろすその目に一切の慈悲じひは感じられない。


 マリアンヌは自分の首の辺りに親指を持っていく

 そして親指をツーと横に線を引いた


「やれ、カーナ」

「はい」


 躊躇ちゅうちょ無く引き抜かれるナイフはアンジェラの命を呆気あっけないほど簡単に奪った。


 飛び散る鮮血せんけつ

 勢いよく飛び上がりシャワーのように血の雨が降り注ぐ中、マリアンヌは上を見上げて恵みの雨を喜ぶように両手を広げるのだった。



              ×          ×



「カーナ、その女、身ごもっていたのか?」

「はい、妊娠3ヶ月だそうです」

「そういうことは早く言え」

「もっ、申し訳ありません」

「発情期の汚らわしいメス犬めが。 カーナ、念のために腹に何度かナイフを刺しておけ、われ楯突たてつく反逆者の芽を摘んでおく必要がある。 その後、首を切り落として時計塔に飾り、さらし者にしろ」

「はい、マリアンヌ様」



 カーナが死に絶えたアンジェラの腹を何度も突き刺す音が響く中、マリアンヌは皇帝と兄弟達に向かってドレスのスカート部分の両端をちょこんと持ってお辞儀をした。

 そしてゆっくりと皆の顔を見回してこう言った。


「皇帝陛下、それに我がいとしき兄弟達よ。 我らに仇名あだなすやからの粛清しゅくせい、無事完了いたしました。 どうぞ今宵こよいは枕を高くしてお眠りください♪」


 その日、集まった全員がその時のマリアンヌの表情を忘れないだろう。

 童女どうじょのような満面の笑みはその場にいた全員の心を凍りつかせた。

 それほどにマリアンヌの微笑みはどこまでも冷たく、恐ろしかった。

最後まで読んでいただき本当にありがとうございました∑d(´∀`)


1人でも読んでいただけたのなら、書いた意義もあったし、書いてよかったと私は思っています。


これでこの章は終わりになります(まぁ裏話は書こうと思ってるんですけど…)が、楽しんで、、、もらえたかな?それだけが不安ですヒィィィィィ(゜ロ゜;ノ)ノ

まぁ書いてる本人は超~楽しいんですけど(笑)

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