01 絶望
今回から本当に物語が始まる感じです。
時間軸的には前回のプロローグから2年ほど前になります。
どれぐらいのページが読みやすいのかわからなかったので、区切りのいいところで切ってみました。 よかったら読んでね。
(*改稿済み。2016.09/01)
この一言でマリアンヌの物語は始まった。
――第一皇女マリアンヌ。おまえに我があとの王座を譲るつもりはない
ぐらりと眩暈がして頭の中が真っ白になった。
キーンという耳鳴りに加え、グニャングニャンと揺れる視界。
平衡感覚が狂って立ってられない。
「なぜ、ですか?」
乾ききった唇を動かしてやっと声に出せた言葉がこれだった。
目の前の王の椅子に鎮座するは、プルート第6代皇帝グローリー。
幼少から戦場に出ては敵将を刈り取った豪腕の持ち主、今は痩せ細って見る影も無いが60才を超えた今でも、その野心に取り付かれた鋭い瞳によってこの大陸の半分を治める人物、そして我が敬愛する父。
しかし皇帝である父上は我に向かって冷酷なほどの物言いで言い放った。
「おまえが女だからだ」
その言葉の理解できるまでしばらくかかった。
× ×
思い返すと皇帝陛下である父上に王の座に呼び出されたとき、このような話を聞くことになるとは夢にも思わなかった。
年齢が16になり、歴代の皇帝たちがその座についたのも同じ16、父上の年齢が60を超えた事実、有名貴族たちにも召集がかかり、普段は我と接点がほどんどない腹違いの兄弟たちも集められ、王位継承権第一位である我が皇帝の座に。
王の間の絢爛豪華な飾りつけ。
いつもより多めに謙譲された富の象徴たる金装飾のオンパレード、これだけお膳立てされれば誰でも期待する。
しかし告げられたのはまるで我を不良品のように『女だから』と差別した辛辣な言葉。
何かの冗談なら誰か早く明かしてくれ
悪夢ならすぐ醒めてくれ
そんな気持ちだった。
× ×
高級な貴金属を身に纏い、綺麗に着飾った腹違いの兄弟たちは一同に驚きや戸惑う、しかしその瞳の奥にには一抹の喜びが隠されていた。
しばし流れる沈黙の間
その中、マリアンヌは唇を強く噛んだ。
相変わらず頭は半停止状態で、続く言葉など考えていたわけではないが、でも叫ばずにはいられなかった。
そして理不尽な状況を力づくで打ち壊すように再び口を開いた。
「納得出来かねます!!!!」
その声は本人ですら驚くほど大きな声であった。
喉が割れるのでは?と思うような声、しかし目の前にいる皇帝はその圧に気圧されることなく首を振る。
「お前が納得できるかは問題ではない。第6代皇帝である我、グローリー・ディ・ファンデシベルがそう決めたのだ」
これは既に決定事項だ、と言う父にマリアンヌはなおも食い下がる。
「女だからなんだと言うのです!要は人の上に立つだけの器を持っているかです!」
「器を示そうにも戦場は男の晴れ舞台、女が戦場に出た所で足手まといだ、あってはならん事態だ」
「戦場において力が全てではありません!知識・兵法がときに1000の軍勢を圧倒することすらあります。それを証拠に今は亡き我が母、リーシャ・ディ・ファンデシベルは高貴な貴族でありながら戦場で戦果を挙げて戦乙女とまで言われましました」
「だがアレも正室として迎えた後は戦場には出ていない。女であることを自覚して、ぶを弁えたということだ」
「それは父上の正室として迎えられた側だったからです。私は違う!王の器がある!父上と同じ皇帝の血筋がある!母から受け継いだこの銀の髪と知勇がある!それに正室の子は我をおいて他に誰もおらぬのです!」
「その血筋が今問題なって、我を悩ませておるのだ」
皇帝はため息1つ、うつろに天井を見上げる。
「お前の母であるアレも事故でこの世を去る前にもう1人、2人、子を生ませておけば、男も生まれてこのような事態はなかったものを」
「亡き母を道具のように言うのはお止めください!母は死にたくて死んだわけではありません!」
震えるこぶしを握り締めるマリアンヌ。
一方の皇帝、これ以上失敗作を見たくないと言わんばかりに目を閉じた。
そしてやれやれと首を左右に振る。
「歴代皇帝に女はおらん、ただの1人も。それはなぜだと思う?」
「知りませんし、知ろうとも思いません」
「女に皇帝など務まらんからだ。これ以上の議論は必要あるまい、もう下がってよい」
「歴代、歴代と言われますが、悪しき習慣です! そのような古き習慣を踏襲するからこそ、アトラスの蛮族どもとの100年続いた戦争が終わらないのです!」
そうマリアンヌが皇帝に詰め寄っていると、腹違いの兄弟の1人が一歩足を前に。
彼の名はアール。
本名アール・ディ・ファンデシベル、この大国プルートにおいてマリアンヌに次ぐ王位継承権を持った第一王子である。
彼は皮肉めいた言い方で言った。
「これこれマリアンヌ~、皇帝陛下にそのような物言い関心せんな。 それに悪しき習慣と言うのならば正室の子が無条件で皇帝になるというのも悪しき習慣ではないかな?」
癇に障る装飾品のジャラジャラという音に視線を尖らせるマリアンヌ。
「あなたと会話などするつもりは無い、でしゃばるのはやめて頂こう」
「兄様の言う通りだマリアンヌ」
言葉尻を切るようにアールとの間に割って入って来たのは第二皇子であった。
彼は自身の黒い長髪をかき上げながら、まるでマリアンヌの心を冷やかすような口元をして
「より優秀な者が父上の跡を継ぐというのが今このプルートという国に必要なのだよ」
と、言った。
そこでマリアンヌの怒りは沸点を越えた。
「黙れ!ロキ!!お前の出る幕などここには無い!それにおまえたちのような卑しい血筋が王座に座ろうなどと身の程をわきまえろ!」
「止めよマリアンヌ。お前たち兄弟がそのように争うところなど我は見とうない」
「兄弟!? 今、父上は兄弟とおっしゃいました!? こんなどこの馬の骨か分からぬ母体から生まれた子供と我を同じに扱うなど父上は正気ですか!?」
その発言は皇帝から大きな、とても大きな溜め息を吐かせた。
そして『もうよい』という言葉を溜め息に付け加え、1人の憲兵を指差した。
「そこの憲兵、マリアンヌを下がらせよ。今からお前の兄弟のうちから我の跡目を選定する、お前はおらんでよい」
あごをクイと扉を指して指示を出す。
指示を出された兵士の1人はマリアンヌの背後に近づいていく。
そして一言声をかけて手にそっと触れた。
するとマリアンヌはその鋭い視線を勢いに乗せて手を強く振り払う。
「触れるな下郎!この身はお前のような輩が触れてよい人間では無い!! 父上、これがあなたの答えですか!?」
父上に否定されたくなかった。
だから嘘であって欲しい願望で問うた。
しかしその問いに父上は悩まなかった
「ああそうだ」
ああ、これは決別の言葉だ。
マリアンヌはそう理解した
だから噛み締めるように言った。
「そうですか、分かりました。では自分で出て行きます、さようなら父上」
マリアンヌはくるりと漆黒のドレスを翻して扉に足を向ける。
扉に着くまでマリアンヌは誰とも視線が合わなかった。
いや、正確には誰も合わせる事が出来なかった。
明らかにニヤけ顔の兄弟が数人
他のマリアンヌよりも若い兄弟達も不安げにこの場の状況を見ているしかない
集められた公爵たちは絶句して固まっている者、視線で会話する者、己の欲望を心の奥に秘めている者、様々であった。
そんな中、大扉から出て行くマリアンヌ
もちろんそれを引き止める者は誰もいなかった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
高速スクロールだったとしても、、、、まぁありがとうございます。