08 後日準備
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それから、我とアンジェラ姉さまは頻繁に会うようになった。
密会に使っているのはアンジェラ姉さまの館。
館と言っても地下室ではなく、本館のほう
あれから何度か地下室に行ったが、やはりあの暗闇に飲まれた道が覚えられぬ。
それにあそこにいる連中はなんだか気味が悪い。
「マリアンヌ様が私と会う前に唾をつけていた正騎士ですが、私が念押ししておいたのでマリアンヌ様の初陣に最低でも15万の兵は参加すると考えていいものだと思いますわ」
「おおー、それは何より♪」
「そしてそれに私の軍5万を加えれば20万、初陣としてはこれ以上ないほどの規模になりますわね」
それを聞いたマリアンヌ、自分の考えていたプランと違うと首を傾げる。
「騎士団のほうはどうなっている? やつらも我に忠誠を誓うと言っていた」
「ん~~次回までにはしっかりと報告いたしますわ」
【後日】
「ごきげんよう、マリアンヌ様」
「ん、ああ、ごきげんよう」
「あら、わざわざ本を持ってきてまで読んでいるなんて珍しい」
「新しい本棚が後ろから出てきたのだ♪しかも著者はなんと」
「申し訳ないのだけれど、先に報告いいかしら?」
「ん、ああ~、そうだな」
マリアンヌは栞を挟むように本のページ数に目をやり、パタンと閉じる。
「ではさっそく報告ですが、相変わらず馬を主戦力とする騎士団のほうはマリアンヌ様の初陣に参加する事にかんして芳しくありません。 おそらくは…」
「第2皇子ロキか」
「ええ、どうやらロキ様がマリアンヌ様の初陣を邪魔するために動いているようです」
「母上の威光が届いてない不届き者がいようとは」
「確かに以前はマリアンヌ様の母君リーシャ様の威光は絶対的なものでした。しかし現在は騎士団内の世代交代もあり、当時を知らない人間も増えてきています、そこにロキ様が目をつけて自分の臣下を騎士団の上役に置いたことによって実質騎士団は皇帝陛下の次にロキ様の命令を聞く組織となっている模様です」
「あの泥棒ネコめ」
言葉尻に力が入るマリアンヌ。
アンジェラはなだめるように言った。
「ただ正騎士のほうは前も言ったとおり磐石です。正騎士と言えば第1皇子アール様のお抱えですが、アール様は交渉ごとや政治に強いタイプ。たとえアール様がマリアンヌ様の初陣に参加するなと言っても第1皇女マリアンヌ様の願いを無下に断れませんからね」
「では我の初陣に馬は無しか」
「うふふ、別に騎士団に所属していない兵は馬に乗れないというわけではありませんわ。確かにプルート最強の騎乗部隊を使えないのは心寂しいですが、歩兵である正騎士も十分強いですわ。それに前に言ったとおり20万の兵がいれば策など無くとも勝てます」
【後日】
「そういえば最近カーナが見えぬのだが」
「少し頼みごとをしたので、それで忙しいのでしょう」
「頼みごと?」
そんな話、我は聞いてないのだが。
「ええ、ちょっとね。 やはりカーナがいないと不安かしら?」
その問いにマリアンヌは「まさか」と鼻で笑う。
「確かにやつの力量には驚かされたが、カーナがいなかったら我を守る人間がいなくなる、そう思っただけだ。 別に代替品として正騎士に守らせてもなんら遜色は無い」
「…そう」
「まぁ確かにカーナと正騎士、あと騎士団がいれば…とは思うがな」
物欲しそうに口を尖がらせるマリアンヌ。
アンジェラは安心を与えるように微笑む。
「大丈夫です、直に任務を終えて帰ってきますわ、マリアンヌ様♪」
【後日】
「それで我の初陣はいつごろになるのだ?」
「う~ん、そうですね」
手に持った羊皮紙を広げるアンジェラ。
大陸全土を網羅するそれを指差す。
「現在計画されている戦は2つ」
アンジェラの指は地図の一点を指す。
「まずはクルヘルス地方の混戦地帯の実権を握るのを目的にした制圧戦。距離的には国境を挟んでだいぶアトラスの側になります」
「ずいぶん遠いな」
「もう1つはここ。 アトラスとプルート両国のちょうど中心に位置する三日月峠、そこから見下ろすように存在するダイアル城塞、今は我がプルートが押さえていますが、どうやら近いうちアトラスの軍が攻めてくるという情報があります。ですのでこちらの場合はダイアル城塞を守る、防衛戦となります」
「防衛戦などという地味な戦い、我の初陣には向かぬ」
「うふふ、そうですわね。 それにダイアル城塞は現在ムンガル将軍が守っています、防衛戦において無敗の豪傑です、私たちが馳せ参じた所で、大した戦功にはならないでしょう」
「では狙うのは」
「ええ、クルヘルス地方の制圧戦です」
【後日】
そうこうしているうちに我とアンジェラ姉さまが出会ってから一ヶ月が経過しようとしていた。
準備はどんどん進み後は出陣を待つだけ。
「いよいよ、来週だな」
「ええ、そうですわね。準備は万端、全て滞りなくクリアになりましたわ」
2人はいつものようにアンジェラの館にある密室部屋にて膝を付き合わせる。
鳴らされたグラスの音が未来を祝福してくれるものだと信じて。
「あらためて礼を言わせてくれ」
「え?」
「あなたが我の…いいえ、私の姉で本当によかった」
予期せぬマリアンヌから発せられた言葉。
アンジェラはそれを聞くと一時停止ボタンを押されたように動きを止めた。
マリアンヌは不思議そうにアンジェラの顔を覗き込む。
「アンジェラ姉さま?」
「え?ああ、ごめんなさい。少し感傷に浸ってしまいましたわ」
「感傷?」
「ええ、あの小さかったマリアンヌ様がこんなに大きくなるなんて」
「我は子供か」
「うふふ、私から見たらまだ子供ですわ」
「5つ、6つしか変わらぬだろ」
「ええ…そうね。 ああそうだ、忘れていましたわ。マリアンヌ様にお願いがあるのです」
「お願い?」
「正騎士はもちろん、地下にいる彼らにもぜひとも出陣前にマリアンヌ様から一声かけていただきたいのですわ」
「そんなことをしたら地下室の存在は元より、正騎士に地下室の人間たちがばれてしまうではないか」
「大丈夫です、そのあたりは私に考えがあります。 マリアンヌ様はその日に私の館に来てくれるだけでいいのです」
「なぜ我がそんな下々の者たちに声をかけてやらねばならんのだ」
「戦いにおいて士気というのは非常に重要」
「それは分かっているが…」
「うふふ、大丈夫。傍らには何があっても私がついているわ」
「その言い方だと我が怯えているように聞こえる」
マリアンヌは世話好きの姉を払いのけるように、まんざらでもないと言わんばかりに答えた。
「あ~分かった、分かった。 出席するよ」
「本当!ありがとう~マリアンヌ様♪」
そして時間は進み、決起集会の日にちになる。
最後まで読んでいただきありがとうございましたm(__)m




