07 最初のプレゼント ※挿絵あり
クリックありがとうございます(_ _)
頑張って書いたのでよかったら最後まで読んでいただけると嬉しいです(o^^o)
「では、どうぞこちらへ」
先ほどまでいた部屋を出る。
アンジェラについていくと直に窓1つ無い通路に入っていった。
暗闇での命綱である灯りはというと、まるであの世への滑走路のように両側の壁に備え付けられているランプのみ。
進めば進むほど、あの狭っ苦しい部屋が恋しくなるほどの窮屈感に苛まれる。
「今から案内するのはこの館に勤めている人間でもごく少数しか知らない場所ですので他言無用でお願いしますわ」
アンジェラはマリアンヌたちを先導して廊下を進んでいく。
途中こちらを振り向くことなく問いかけてきた。
「突然ですが、マリアンヌ様はこの館は何階建てに見えますか?」
「4階だろ」
マリアンヌは即答する。
外観を思い出せば明らかな答えだったからだ。
「うふふ、カーナは?」
「マリアンヌ様と同じく4階建てに見えました」
その答えを聞くとアンジェラは満足そうに首を振る。
「カーナを騙せるなんて思ってもいなかったわね」
その言い方だと我なら簡単に騙せると思っていた、ということか?
「大きくこの館は地上と地下の2層構造になっています。 まるでミルフィーユのようですね、うふふ」
今のどこが面白かった?
「そして今から行くのは地下の部分になります」
「何のためにそんな面倒くさい2層構造にしたのだ?」
「うふふ、女には見られたくないものが1つや2つあるものでしょう? マリアンヌ様にも見られては困るものがあるのではないかしら?」
「我には無い」
「あらら、それは困りましたわね」
何が困るのか具体的に説明してみろよ。
相槌に手抜き感をヒシヒシと感じる。
つまる所、我に対する扱いが適当だと言いたいわけだ。
そして突き当たりまで行くとアンジェラはその足を止めて言った。
「この先は階段になりますのでお気をつけください」
「階段?どこにそんな愉快な物があるのだ? 目の前にあるのは突き当りという名の壁ではないか」
アンジェラは「うふふ」と笑みを浮かべながら大きな獣の皮を切り取った絨毯を指差す。
「ここですわ」
「どこぉ?」
アンジェラは絨毯を捲りあげる。
するとそこには何の面白みも無い床がこんにちは♪
マリアンヌは目を凝らす。
凝らして凝らして凝らしきる。
そして眉間にできたシワが結論を物語る。
「床だな」
「空気が床の隙間から上に向かって流れてきています、おそらく床の一部が取り外せるようになっているものかと」
「うふふ、正解♪ さすがカーナ」
分かるか!!
小さな板を外すと落とし穴のような正方形の暗闇が現れた。
大人1人が何とか通れるような穴、前方に現れたのは一列並んで下りるだけの幅しかない下り階段。
アンジェラは今まで手に持っていたランタンに火を灯す。
「さぁ、こちらですわ」
そしてアンジェラ、マリアンヌ、カーナの順に足半分ほどの長さしかない段差の階段を下りていく。
一寸先は闇、自分の鼻先も見えない中、雲の上に足を乗せていくような感覚。
1段、また1段、階段下りるごとにひんやりとした暗闇の海に沈んでいくようだった。
「この先は迷路のような仕様になっていますので」
なんのためにさ~?と聞こうとしたマリアンヌよりも先にアンジェラは口を開く。
「私の…いえ、今後の私たちの身を守るためですわ」
「つまりこの先にはそれほどの何かがあるということか?」
「うふふ、それは見てからのお楽しみですわ」
暗闇から大きく口を開けているドア。
それは我には地獄の入り口のように見えた。
「決して逸れないでくださいね」
不気味な念押しだな。
だがそう念押ししたアンジェラの心意は直に分かった。
回りくねった蛇の内部を手探りで歩かないといけないような通路。
たしかにこれは迷路だ。
そして歩くこと5分。
ゴールという名の扉についた。
アンジェラは腕に力を入れる
古そうに見えた扉だが案外新しいのか音はしなった
そして開くと今までの暗闇が嘘のように明るかった。
「まぶしっ!」
マリアンヌは急な光から目を守るように手を上に掲げる、そしてそのまま一歩足を前へ。
地下室に入ると先ほどまでの閉塞感という名の霧が嘘のように晴れた。
「ここが…地下?」
「ええ、そうですわ」
「地下とは思えぬ広さだ」
足を踏み入れた先はだだっ広い空間が広がっていた。
間仕切りを全て取っ払い、館全体を1つの大きな部屋にしたような広さ。
造りは全てコンクリート製、まるで動物の見世物小屋のような牢屋が周りを取り囲み、牢屋以外は何も無い殺風景なコンクリートの先には2階に上がる階段、だが2階といっても目でここから一望できるようになってる。どうやら2階には監視小屋のような物がいくつかあるだけで、牢屋は無いようだ。
所々に剣を持った騎士たちが立っている。
おそらくアンジェラのお抱え騎士だろう。
「見晴らしがいいな」
そして1階の中心には人が集まって1列に並んでいた。
男女混合のその集団、より近づいてみると、そいつらはボロボロの布キレを上から被っているだけで、そして手足には鉛で出来た丸い錘をジャラジャラと鳴る鎖に垂らしていた。
そして全員が一斉にジトッとした視線を向けてきた。
2階にいた騎士たちが規律めいた動きで剣を胸の前に、そして声を荒げる。
「お前達! マリアンヌ様にご挨拶をしろ!!」
錘を付けた男女達
その重くなった両手を後ろに回して息を大きく吸う。
「マリアンヌさま!!お会いできて光栄です!!!」
目に活力は無いが、声だけは張っている、不気味な光景だ。
「こいつらは?」
アンジェラに問いかける。
「こいつらは元敵国の傭兵や大量殺人、そして国家転覆を目論んだ死刑囚、全員が死亡通知が出ている者ばかり、つまりこの世において存在していない人間。 どうですか? 老若男女関係なくいます、まぁ老人と子供はいませんが、マリアンヌ様の作ろうとしている部隊にはうってつけの人間達ではないかしら?」
そしてからかうような顔で更に続ける。
「ただし、素直に言うことを訊くかはわかりません。一応今は私の騎士たちに見張らせていますが、今後もしかしたらあなたにキバを向けるかも」
アンジェラが話し終える前にマリアンヌは快活に笑う。
「おもしろい! ほんとうにあなたはおもしろい! あなたならこれ以上ないほど、私の最高の右腕になるでしょう」
「そこまで気に入っていただけるなんて、右腕としてはこれ以上ないほど幸せですわ。 でも面白くなるのはまだまだ先、これは私からの最初のプレゼントにすぎません」
帰る前に地下室をグルッと一回りする、すると2階奥に鉄格子が見えた。
「あれ?2階にもあるのか、あの奥にある牢屋は何だ?」
アンジェラは少し視線を右上に外すと、ばつが悪そうに答えた。
「彼らは…う~ん、なんと言えば言いかしら、問題児というか」
「問題児って、ここにいる時点で既にこれ以上ないほど問題児だろ」
もごもごとお茶を濁すように口を伏せるアンジェラ。
「程度の問題と言いますか…あの牢屋に入っている彼らに関しては他より凶暴なのです、私の話を聞こうともしなかった連中ですので、もうちょっとしたら内々(ないない)で処分するつもりですので、それまでどうかご辛抱くださいませ」
処分、この意味が分からぬほど我も馬鹿ではない。
我は「そうか、残念だな」とだけ言った。
「ではそろそろ帰る、夜が明けてしまうと人に見られる可能性が上がる、あまりあなたと接触していることを知られたくないのでな」
「わかりましたわ。 あっ、そうそうカーナは何か悩みがあるのでしょう?」
出口に向かおうとするマリアンヌの後ろを付いていこうとするカーナは「えっ!?」と口を開けて石を投げられた魚のようにぱっと振り向いた。
「悩み…ですか?」
「うふふ、隠しても分かるわよ、長い付き合いだもの。マリアンヌ様、カーナを少しお借りてもいいかしら? もちろん、こちらで護衛は付けますわ」
「いや、それはでも」
カーナはどうしたものかと、うろたえてマリアンヌの顔に目をやる。
「あら、カーナもマリアンヌ様もまだ私が裏切ると思っているのかしら? たしかに昨日今日で急に信じてくれというのは虫がよすぎるわね。 仕方がない、お話はまたにしましょう」
「いいや、それでいい。 既にあなたを信頼しているのだからその疑いを持つことはあなたへの裏切りだ。 カーナ、お前は好きなだけ話してから城に帰ってこい」
その日、我はアンジェラが護衛につけた騎士と共に城に帰って、朝焼けを眺めながら床に就いた。
貴重な時間を割いて、最後まで読んでいただきありがとうございました(_ _)
最後まで読んでいただいた皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。
ヽ(;▽;)ノヒャッホ




