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魔女と呼ばれた少女 -少女は死体の山で1人笑う-  作者: ひとりぼっちの桜
【第6章】 3日物語(裏)

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35 裏話 生きている意味

クリックありがとうございます(^^)先日あったカーリング女子。日本対韓国、選手紹介の時に吉田選手が自分の前にカメラがきた瞬間、カメラに向かって「にっこにっこにー♪」ってフリ付きでやったのを見て、えっ∠( ゜д゜)/!?ってなったひとりぼっちの桜ですw吉田選手・・ラブライバーやったんやな(*^_^*)


今回のお話ですが・・すいません、実は1週間前にこのお話は出来ていたんです(>_<)

でもライオネルの最後のお話だと思うと納得できなくて、大幅に書き直していたのです(><)でもそのおかげで自分自身納得が出来る物に仕上がったと思います。まぁそのせいで17ページ、1万文字オーバーになってしまいましたがw

それではライオネルがたどり着いた「答え」どうぞお楽しみ下さいませ♪



「凄い」


 結局、あの後すぐアリーナの観客席に来たライオネル。

 崩れ落ち、倒れるラムゼスの傍らで勝者として喝采を浴びるカーナを見て、その口は凄いしか言えなくなっていた。


「本当に凄い、凄すぎるよ」


 そしてひとしきり言い終えると、周囲が立ち上がっている中、1人椅子に体重を戻し、ライオネルはホッと胸を撫で下ろした。


「よかったぁ」


 途中、カーナさんが吹き飛ばされた時は負けたかと思った。

 そしてもしもカーナさんが負けていたら、あの4人の影に怯える生活が始まるかと思って心臓が止まるような気がしたけど、蓋を開けてみたら、そこからの逆転劇は痛快だった。


「これで、とりあえずお姉ちゃんへ口止めしておけば、大丈夫のはず」


 あの4人だってこの状況からすぐにわたし達に接触なんてしてこない…よね?


 それにしても、姉とわたしを小馬鹿にしたラムゼスをボコボコにした絵というのは、放っておいても、自然と口元が緩んでしまう


「えへへ、ざまぁみろ」


 姉と同じようにわたしには届かない強さ。

 そういう意味での強さなら同じなのに、不思議とカーナさんにはねたむ気持ちや怒りというのは沸いては来ない。

 それどころか、まるでカーナという人間が正義の味方のようにすら思えてくる。


「なりたいなぁ、ああいう風に。あっ、お姉ちゃんの医務室に行かなきゃ」


 そして思い出したかのようにライオネルは姉の治療を行っている医務室へと足を走らせた。

 すると大量の兵士たちが廊下に。


「えっ、こんなに人いたっけ?なんで…?とりあえず、ささっと通り抜けちゃえば」

「そこの君、ちょっと待ちなさい、ここは関係者以外は立ち入り禁止だ!」

「え!あ、あ、スイマセン、で、でも」

「君観客だろ?親とはぐれてしまったのかい?悪いけど、今からここは皇族の…えっ?ムンガル卿の?この先に…そうか、わかった、じゃあ早く医務室まで行きなさい。でもここはもうちょっとしたら完全に通行禁止になるから急いでね」


 理由を言って身分を説明したら通してくれた。

 この辺は姉の近くで、要領とはなんぞや?と見てきたわたしでも何とかなった。

 ちょっと、おどおどしてしまったが、まぁ何とかなった。


「嘘はついてないんだし、もっと堂々としていれば良かったかな?えっ」


 その瞬間、わたしの足は動きを止めた。

 理由は、角の向こうから1人の人物の姿が目に入って来たから。


「っ!?」


 ライオネルにとって、その相手の名前を確認するまでも無かった。

 それは父であるムンガルやカーナが側に居たとかそんな理由ではなく。

 その人物がそこに居るだけで。

 そこを歩いているだけで。

 その空間が切り抜かれたように現実味を失ったから。


 何処か現実味の無い美しさ。

 綺麗なんて言葉では陳腐ちんぷに思えるような美麗な容姿、さらりと着けられた装飾品、イヤリングやペンダント、漆黒のドレス、どれもが貴族の自分からしても考えられない金額の品物だろう。

 だがどんな高価な金銀財宝、宝石をも霞ませる、銀線の髪はその全てを凌駕した。


 まるで夜空に浮かぶ月そのもののような存在。


 そんな人物、この国では1人しかいないだろう。

 そして目の前に現れた「その人」を見て、ライオネルは思わず言葉を漏らした。


「マリアンヌ第一皇女様」


 わたしは、もうその人しか視えなくなっていた。



              ×            ×



 結果という点において全てが思い通りになったマリアンヌ。

 上機嫌でアリーナの1階、廊下を歩く。

 後ろにカーナ、仮面を被った2人組み、そして案内役としてクルウェイから借り受けた長身の男を引き連れて。


「多少の計算違いはあったが、おおむわれが望んだ通りの結果になったわ」


 試合が終わり、皇帝が出て行く前ということもあって廊下には騎士達が増えつつあったが、その全員がマリアンヌを見るなり廊下の端に身を寄せてかしずいていった。

 それを横目にカーナはマリアンヌの発言に同意した。


「はい、流石はマリアンヌ様です。マリアンヌ様の頭脳をもってすれば、この世の全ての事象を操ることすら容易に違いありません」

「ハッハッハ、カーナよ、そんな当たり前な事をわざわざ口にする必要は無い。今にして思えばお前の怪我も遅刻も、この劇的な展開をいろどる花となる効果もあった、此度の全てを褒めてつかわすぞ♪」

「ありがとうございます、私の怪我と遅刻がマリアンヌ様のお役に立てて、これ以上ないほど嬉しく思います」

「一応言っておくけど、遅刻そこまで褒められた事では無いからな、もうしなくていいから! まぁ~それは置いといても、カーナ、今回はよくやった」

「いえ、私なんて何もしていません!全てはマリアンヌ様の」


 魔道具交換の為、ラムゼスの所に行っていたムンガルがその巨体で足早に帰って来てマリアンヌの歩く道の後ろにつくと呟いた。


「いや、やったのはほとんどお前だろ」


 ムンガルは誰にも聞こえないぐらいの声音で独り言のように呟いたのだが、カーナはそれを見事に救い上げた。

 そして眉を不満気に寄せる。


「ムンガル卿、やめてください」

「事実だろ」

「あなたは私に恩があるのですよ」

「だからそれは何の事だ?」


 マリアンヌに聞こえないように言い争う両者。

 しかし直ぐにムンガルの存在に気付いたマリアンヌ。


「ん?ムンガル、早かったな。ちゃんと相手選手に言伝ことづては伝えたのだろうな?」

「はっ!ラムゼスはまだ治療中でしたので控え室に居たスレインに魔道具を渡す時に伝えておきました!」

「スレイン?」


 歩くスピードは緩める事無くマリアンヌは問い返した。

 するとムンガルは端的にスレインという人間を表す言葉で言い表した。


「あの4人の中で顔が一番整った美形な男です」

「顔?」


 そう聞いたマリアンヌはピタリと足を止め、怪我人のカーナに寄りかかりながら笑う。


「ムンガルよ~お前には、われがどんぐりの背を比べる趣味があるように見えているのか?少し形がマシというだけで石ころは石ころ、道端に転がっている石の顔などいちいち覚えておらんわ」

「な、なるほど。そうですか」

「伝えたのならそれでよい、さっさと帰るぞ」

「皇帝陛下にはご挨拶しなくてもよいのですか?」


 カーナの手に握られた大型のナイフ。

 此度の戦利品、それにチラッと目をやると、マリアンヌは歩きながら手の甲で軽く建物の壁をコンコンと叩いた。


「ハッハッハ、ムンガル君、もう欲しい物は全て手に入れた、ならばここに用は無い。今更あんな死にぞこないの顔色を窺う必要性などあろうものか。この素晴らしい建物を後にするのは少し物悲しいが、なに…、われが皇帝の椅子に座るまでの辛抱だよ」


 その時だった、マリアンヌたちの前に1人の少女が出てきたのは。

 急な人の動きにムンガル、カーナ、その後ろに控えていた近衛騎士の男も臨戦態勢へと自然へ移行する。

 だが、出てきた人物は


「あっ!あの!マリアンヌ皇女様!」


 声が裏返って、身体も緊張でガチガチ。

 握り締めているのは刃物ではなくこの大会のチケット。

 皇族を狙う刺客としてはあまりにも不出来で可愛い襲撃者であった。

 無警戒マリアンヌは僅かに視線を少女に向ける。


「何だ、この小汚いのは?」

「私の娘です」


 それを聞いたマリアンヌ、答えたムンガルの顔をじっくりと見る。

 そして今一度、目の前の少女、ライオネルを見下ろす。


「ああ、そうなのか…似てないな」

「母親似なんです」

「相当、美人なんだな」


 呟くマリアンヌにムンガルはライオネルを見て困惑の声質で言った。


「どうしたんだ、ライオネル?なぜお前がこんな所にいる?モルも来ているのか?」

「えっ…と、お姉ちゃんは…ちょっと、あの、医務室に」


 ばつが悪そうに目をらすライオネルに対し、ムンガルは『医務室』というワードに反応するや否や、表情を変え、矢継ぎ早に質問を投げかけた。


「なぜ医務室に!?怪我でもしたのか!?」

「えっと、それは…カーナさんに助けてもらった、ていうか」

「カーナ!?なんで、なんでカーナの名が出てくる!?」

「それは…その、言えないっていゆうか…あっ!そうだマリアンヌ様!」


 少女からの急な問い掛けに再び視線を下げるマリアンヌ。


「ああ?なんだ?」

「わたしもカーナさんみたいに、マリアンヌ様にお仕えしたいんです!」


 それを聞いて理解の範疇はんちゅうを超えて、驚き混じりの声を上げるムンガル。


「何を馬鹿な事を言っている!?ライオネル!お前までモルと同じような事を!」


 一方、眉1つ動かさず、無表情のマリアンヌは答えた。


「メイドは足りている」

「メイド…じゃなくて、カーナさんみたいに、わたしもなりたいんです」


 現在、カーナは既に戦闘用に持ち込んだ服から、いつものメイド服に着替え終わっている。

 つまり、この女の子にはどうやらカーナはメイド服を着ていても、メイドとは認識されてはいないらしい。


 マリアンヌはクスッと口元を笑わせる。


「カーナ、お前、もうメイド辞めた方がいいかもな」

「えっ!?マリアンヌ様、それはどういう!?」


 驚くカーナをよそにライオネルは続ける。


「わたしはマリアンヌ様に恩義があります!お父様の事で!だから…だから!お役に立ちたいんです!」

われの前でそれだけ言うお前の心意気は買ってやるが…」


 マリアンヌは一考すると


「お前は何が出来る?何をわれにもたらせられる?」

「え…」


 ライオネルはその問いに答えられなかった。


 自分には姉と違って何も無かったから。


 せめてお姉ちゃんと通っていた騎士学校でもっと頑張っていれば。

 カーナさんも言っていたじゃないか、努力するしかないって。

 あの時に嫌々じゃなく、一生懸命努力していれば。

 努力して強くなるという事を考えれば、騎士学校という場所は最適だったのに。


 でも、もう今更何を思った所で後の祭りだ。

 わたしはその最適な場所を何をするわけでもなく、ただのうのうとやり過ごした。

 姉の影に隠れて生きてきた、そのツケが今だ。


 わたしには何も無い。


 もう遅い。

 だって騎士学校はお父様が…

 はっ!!


 まだ大丈夫だ!

 そうだよ!

 わたしには、まだ最後の希望の糸が残ってるじゃないか!

 この人ならお父様の決定をくつがえせる!


「マリアンヌ様!どうかお願いします!わたしは無理矢理お父様に騎士学校を退学させられてしまいました、何とか復学させてください!わたし、もっと頑張ってマリアンヌ様の為になるようになります!」


 目を細めるマリアンヌ。

 そして見下すように問いかけた。


「なぜ、われがお前の為にそんな雑務をせねばならんのだ?」

「いや、それは…」

「マリアンヌ様、娘の戯れ言、どうかお忘れください。ライオネル、モルを連れて早く帰りなさい」


 マリアンヌは長い溜め息を吐くと、呆れたような目つきでライオネルに言った。


「ムンガルの娘よ、よくは知らぬが父にあまり心配をかけるな。親の言うことを聞くは子の義務だぞ。カーナ、ムンガル、行くぞ」

「はい、マリアンヌ様」

「マリアンヌ様、私の娘にご教授ありがとうございます。そして我が家の恥をお見せして申し訳ありません」

「気にするな、部下の家庭内のいざこざ1つ解決するのぐらい大した事では無い」

「今は何も出来ません」

「ああ?」


 周りにいるのは当然大人たちばかり。

 こんな気弱な少女が声を上げることすら尋常じゃない勇気が必要だろう。

 それでもライオネルは言った。


「わたしは今まで何をやっても中途半端で何も誇れるものはありません。でも、わたしはあなたの為ならどんな努力でも出来ると思います。わたしの、か…」


 震える声は少しでも気を抜くと、もう出てこないような気がした。

 わたしがこんな事を言うのは恐れ多いことは分かっている。

 でも、今言わなきゃ、わたしには今しかない。


「わたしの可能性を信じてください!わたしはあなた様に仕えたいんです!」


 子供ながらに真剣な眼差しだった。

 それは一瞬といえども親であるムンガルが黙るほど。。

 しかしマリアンヌはそんな覚悟を鼻で軽く笑う。


「お前の意気込みは買おう、忠誠心も買ってやる。しかしそれだけで仕えれるほどわれは安くはない。さらにわれは希望的観測に興味は無い。詳しくは知らんが、今回はカーナに助けてもらったのなら尚の事、その命を大切にしろ、そしてそれで満足せよ。われは忙しい、以上」

「待ってください!」


 立ちはだかるようにマリアンヌの前に出るライオネル。

 それを見てマリアンヌの顔にあからさまに不快の色が浮かび上がった。

 横に居るムンガルを睨みつける。


「お前もお前だが、ムンガル、お前は自分の子にどういう教育をしているんだ?」

「申し訳ございません」


 そして苛立ちと威厳がともなった声色こわいろでライオネルに向かう。


「おい、ムンガルの娘。われが諦めろと言っておるのだから、即諦めるが筋であろうが。それにわれに直接ものを頼む所か、進む道を塞ぐなど傲慢ごうまんにもほどがある行為だぞ、身の程をわきまえろ」

「え…あの…ごめんな…さ」


 もう話は終わり、とマリアンヌは一歩前へと踏み出した。


「マリアンヌ様の言う通りです。ライオネル、さぁ、早くどきなさい、そしてモルと一緒に先に家に帰っていなさい、後から話がある」

「あっ、はい!すいません」


 ここで姉ならマリアンヌ様にすがり付いて頼むのだろうか?

 それとも事前に根回しをしたのだろうか?

 でも私には、流石にそんな事は出来ないし、度胸が無い。


 遠ざかっているマリアンヌ様の背中。


「でも」


 でも、何かが変わるかもしれない。

 変えられるかもしれないと思ったのは本当なんだ。

 姑息でも卑怯でもいい。

 この背中はわたしが変われる最初で最後のチャンスなんだ。


 わたしは此処ここにいる。

 今、そう叫ばないとわたしは変われない気がした。


 だから考えた。

 何を叫ぶか。

 路地裏でカーナさんを呼んだ時と同じく考えた。


 姉ならどうする?

 今、この場にいない姉なら。

 優秀な姉なら。


 ライオネルは大きく息を吸った。


「お姉ちゃんは騎士学校の主席です!お側に置けば、きっとこれから役に立ちます!」

「……主席?」


 とりあえず止まったマリアンヌの足。

 ライオネルの作戦第一段階は成功。

 しかし主席です!…と、叫ばれても全然ピンときていないマリアンヌ。

 なぜなら皇族である彼女に、それが凄いのかどうなのか知るよしもないから。

 だからカーナに聞いてみた。


「カーナ、騎士学校とやらの主席は凄いのか?」


 真横から投げかけられる素朴な質問にカーナは自身の痛みも忘れて慌てふためく。


「えっ!?いや、あの!すいません!私は通っていないので…まったく分かりません」


 それを聞いたマリアンヌ。

 不機嫌そうに大きく舌を打つ。


「使えない奴め。ではムンガル、主席とやらは―」


 マリアンヌが次にムンガルに問おうとした直後、ムンガルは食い気味で言い切った。


「全然凄くないです!」

「え、そうなのか?」

「はい!マリアンヌ様! 騎士学校のだいたい全員が主席です!!」


 その発言はこの場にいる全員の首を斜めに傾けさせる。


”だいたい全員が主席ってどういうことだよ?”


 するとこのアリーナに来た時にマリアンヌの案内役としてクルウェイから借り受けた近衛騎士の男が口を開いた。


「マリアンヌ皇女殿下、恐れながら口を開いてもよろしいでしょうか?」


 彼は2メートルを越える細木のような長身を折り曲げて跪く。

 マリアンヌは一考すると言った。


「あ?う~む、まぁよいだろう、許す」

「ありがとうございます。騎士学校の主席というのは知性、武勇、あらゆる事柄で1番優秀な人間に送られるものです。私も含め、近衛騎士団の全員が主席を取った人間ばかりです。私の記憶上、それを女子が取ったことなどこれまでに無かったかと」


 余計な事を!

 と口走りそうなムンガル。

 マリアンヌを横目にバレないように、目の前の男にだけ伝わるように、小さく、だがもの凄いスピードで首を振った。

 黙っていてくれ!と願いを込めて。


「いや、大した事では…無いと思うぞ。でも君のようなエリートの中のエリート、近衛騎士団である君にそこまでお世辞を言わせたなら娘も喜んでいると思う。このムンガル、今猛烈に感動している、ありがとう!じゃあもう」


 しかし、


「いやいや、ご謙遜をムンガル卿。私などは運よく主席を取ったにすぎません、女の子が男たちの中で座学はともかく実戦訓練でも遅れを取るどころか勝ってきた証が主席です。私にも不出来な弟がおりますが、主席とは程遠い結果でした。入学した途端に才能におぼれる人間も数多く居る中で努力も怠らないとは…まごうこと無き天才、感服いたしました。ムンガル卿、これでムンガル卿の跡目も安泰ですね」

「お前ふざけるなよ」

「は?何か?」

「いや…別に何でも無いぞ」


 こいつ、伝わってない。

 カーナと同じ感じか~、と頭を抱えるムンガル。

 マリアンヌは少しだけ目に興味を宿しながら言った。


「ほ~お前の娘、凄いではないか」

「いえいえいえいえいえ!」

「はい!お姉ちゃんはものすごいんです!」

「ライオネル!お前は黙っていなさい!」


 剣幕鋭くライオネルに向かう言葉に、それを越える圧力が横からムンガルを襲う。


「お前が黙ってろ、ムンガル。 今、われはお前の娘と話しておる」

「は、、い、申し訳…ございません」


 苦虫にがむしを噛んだ様な顔で黙っていくムンガル。

 まるで得物を目の前でさらわれた熊のようだった。


「さて…と。おい、娘」

「ひゃ、ひゃい!」

「姉はここに居ないが、姉とやらもわれに仕えたいと言っておるのか?」

「それは…その」


 この時、嘘は言えただろう。

 でもわたしや、姉、家族、全てを救ってくれたこの人の前で、嘘や打算や思惑を巡らせる事、それは全てが失礼だと思った。


「分かりませ…ん。ごめんなさい」

「別に謝る必要など無い。側に置いたらプラスになると思ったのは本当の事であろう?」

「それは、はい!これは妹だからとか、そんな理由じゃなく、ひいき目無しに優秀です。父の事もあるのでマリアンヌ様にも恩を感じているはずです」

「ではお前は姉のついで、おまけとしてわれに仕える、そのような形でもよいのか?」

「はい、別にいいです。慣れてますから」


 う~む、と黒く塗られた唇を指先でなぞりながら考えるマリアンヌ。

 言葉を吟味するようにマリアンヌは吟味を繰り返す。

 マリアンヌはしばし考える。



 自分への自信のなさからか、時折やたら声は小さくなるこの娘。

 基本的には人の目を見ない、常に声が震えているこの娘。


 果たして、この娘は使えるか?


 現状、姉の優秀さは十分理解できたが、この娘に関しては未知数。

 そもそもこの娘の素性がムンガルの娘という事以外は何も分かっていない。


 姉はどうやら頭も相当キレるようだ。

 それはこの娘が言った「あと少しで卒業だった」でも予想は出来る。

 あと少し、これがどれほどの期間を指しているのかは分からんが、そもそも騎士学校というのがどれぐらいの在籍期間かが分からんし、でも少なくとも1年はあるのだろう。

 ムンガルという人間を最低1年、共に生活しながらも騙すだけの頭と要領の良さも持っている。


 使えるな…。


 そこまで優秀なのに騎士学校とやらを辞めさせられたのは。

 これは簡単だな。

 ムンガルが娘を騎士にはしたくなかったという所だろう。


 姉が優秀という言葉以上に優秀というのは事実と考えてよかろう。

 一方、妹はそうではない。

 一見すると側に置くのは姉だけでいい気がする。


 が、個人的には姉よりも妹の方が面白そうだ。



 するとマリアンヌは口元を吊り上げ、舐めるような視線をライオネルに向けた。

 目からを情報を吸えるだけ吸い取って、寝ていた頭を動かし始めた。


「………」


 この娘、服は多少汚れているが顔には泣いた痕しかない。

 優秀だという姉はここに居ない。

 先ほどこの娘は医務室と言っていた。

 怪我でもしたのだろう。

 カーナが助けたとも言っていた、ならば遅刻の原因はこいつと姉か?

 カーナが姉妹の何かに巻き込まれ助けた?


 しかし、姉と違ってこの娘には泣いた痕しかない。

 姉は怪我をしたのに、だ。

 自分だけ逃げたか?カーナが来るまで隠れたか?…まぁ無傷の理由なんてそんな所だろう。

 この娘の性格を考えると更に可能性は増すしな。


 そしてこの娘は「お姉ちゃんはすごい」と言った。

 『は』か…。

 こいつ自体が自分は姉に比べて劣っていると自覚している。


 そう言えば、この娘は急に姉の事を引け合いにだしてきた。

 主席である姉の名を出さなかったのは、姉を出し抜こうとしたための可能性がある。

 われへ仕える事で姉を越えれると考えたのか?

 だがそれが上手くいかなくなるとみるや、次は迷い無く利用する道を躊躇無く選んだ。


 以上の事から予想できるこの娘の根本的な性格は…。


 卑屈で気弱、姑息で狡猾こうかつ


 こいつは騎士道を教える学校の優秀とはかけ離れた性格だ。

 われの周りにはなかなか居ない性格。

 そして、この横に居る唐変木とうへんぼくの子とは思えぬ。


 なかなかどうして、われ好みの性格じゃないか。


 このような曲がった性格の娘がどのような成長を見せるか。

 われや周りの大人たちに怯えながらも、勇気を振り絞って忠誠を口にする所も良い。


 フフフ。


 マリアンヌは上機嫌に呟いた。


青田買あおたがいだと思えば、雑務も暇つぶしぐらいにはなろうてか」


 そしてマリアンヌは横に立っている案内役の男に顔を向けた。


「お前、名前は…」

「グロエという名でございます。マリアンヌ第一皇女様」

「うむ。ではグロエ、お前に1つ任務を与える」

「はっ!何なりと」

「ここを出たら、クルウェイの所に帰る前に騎士学校とやらに寄り、ムンガルの娘2人を復学させておけ」

「は、了解致しました」


 マリアンヌに話がいった途端、どんどん話が進んでいく姉妹の学園復帰の話。

 ムンガルの不安は次々と的中していった。

 そして流石に黙って入れなくなったムンガル、必死の懇願した。


「マリアンヌ様!ちょっと待ってください! 娘たちはまだ子供ですし、女の子ですし、それに私の家庭の問題で!」


 大きな巨体の男が手を合わせたのは必死さの表れであろう。

 それを真顔で頷くこと数回、マリアンヌは大きく溜め息をつくと、1度首をゆっくり横へ振った。


「ムンガルよ…、そろそろ子離れする時期ではないかね?」


 ええ~!さっきと言ってる事が!?という顔をするムンガル。

 だがマリアンヌはそんな事お構いなしと言わんばかりに「いいかよく聞け」、と前置きをしてムンガルの肩に手を置く。


「子供というのはな、親の所有物ではないのだぞ、子供のわがまま1つ聞けずにどうする?子供のやりたい事を最大限やらせてやる、それが親の義務だ。それにだぞ、われを頼っている者の頼みを無下に断るなどわれに出来ようものか。な、カーナ?」

「はい、マリアンヌ様ほど慈悲深い方はこの世にいらっしゃいません」

「ええぇぇ~」

「では気分新たに帰ろう、あまりここに長居すると会いたくないやつに会う確立が上がってしまう。ではまたな、娘、期待している」

「はい!姉に伝えておきます!」


 その返答にマリアンヌは薄い微笑を浮かべた。


「なぜ姉に伝える?」

「え?」

われはお前に言うておる、今ここに居ない姉ではなく、お前に」

「でもお姉ちゃんに比べてわたしは…」

「優秀な姉とやらより、お前の方が相当に面白そうだ」

「え?今、何て?」

「いや、別に。あ~そうそう、お前の名を聞いておこう、お前の口から」


 ライオネルはひざまずき精一杯の敬意を示す。


「ライオネル・クラウンです」

「そうか、良い名だ。ならばライオネル、尽くせ、われの為に」


 そしてマリアンヌは立ち去る前、そっとライオネルの肩に手を伸ばすと、その手の温もりを伝えるように言った。


「期待しておるぞ、ライオネル」


 その言葉を言われた時だった。

 言葉を失ったのは。


 今まで両親、学校の先生、姉、出会った人間誰にも言われた事が無かった言葉。


”期待している”


 たった、それだけの言葉。


 初めて言われた。

 誰からも言われたことの無かった。


 きっと社交辞令だろうけど。

 でも、それでも、ずっとこの言葉をわたしは言って欲しかったんだ。

 しかも父を、そして家を救ってくれた人が言ってくれたんだ。


 期待していると。


 わたしにとって、これ以上まぶしい言葉は無い。


 姉への劣等感とか妬み、自分がずっと不良品だと思った気持ち、その全てがどうでもいいとすらどうでもいい事のように感じられた。


 本気で頑張ろう。

 わたしもこの人の為に。

 無意味だと思っていた事を、例え無駄だとしても、繰り返し積み上げていこう。

 そうしたら、わたしもいつかカーナさんのようになれるかもしれない。

 今なら、姉に勝ちたいだけでは出来ない努力も出来る気がした。


 そうか・・・


 わたしは



”わたしは誰かに期待されたかった”



 ライオネルは最後に胸を張って姿勢を正すと、敬意を込めてマリアンヌの背中に向かってお辞儀した。


「はい!頑張ります!」



閲覧ありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ

いかがでしたか?ひとりぼっちの桜らしさが出ている感じになったかと思いますがw


私自身は今回の章を書いてみて自分の書き方の方向性が分かってきた気がします(気がしただけかもですがw)やっぱりその時に裏ではこういう事が起こっていましたよ~♪みたいなのは書いていて楽しいo(´∇`*o)(o*´∇`)oとは言え、流石に今回のように章一本を全てを、、みたいなことはしないですが(笑)

総じて言うと、書いてよかったと思える章だったと思います♫その結果、皆様が少しでも楽しんでもらえたのなら幸いです♪


実は次回の章はもう方向性が決まってるんですけど、次回は本筋に戻ってマリアンヌが血で血を洗う(;゜ロ゜)ハッ!?そんな事を言ったら人が減ってしまう、ただですら現在はアップして1話目を読んでくれる新規の人が5人ぐらいなのに……(→_→)次回は、ハートフルな物語です、はい。もう本当、次回のタイトルを観た瞬間、皆さんが心温まるみたいな……ぐへへ(灬´ิω´ิ灬)ゲス顔

ではまた次回の章でお会いしましょう(^_^)/



よかったらブックマーク、評価ボタン(評価ボタンは最新話の下にあるのでw)お願いします♪次回のお話が投稿されるきっかけになったりします(^^)

因みに以前も言いましたが、点数などは、高い点数だろうが、低い点数だろうが、皆さんからの大切な意見だと思っていますの、皆さんの思い思いの点数でOKですよ♪

あっ、もちろん物語が完結するまで評価なんて付けられないよ~(>д<)って方は、無理に評価ボタンを押さなくても大丈夫ですからね(^^)♪私もその気持ちは分かるのでw

そういう方はブックマークだけでも十分嬉しいので気にしなくてもいいですよ♪

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