表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/392

33 3日目 - 午後(15)

クリックありがとうございます(^^)今期一番のオススメの深夜アニメは「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」こんにちは、ひとりぼっちの桜ですw

とても綺麗で、心が温まる作品です(o^-^o)私はこんな作品を書きたくて小説家になろうを書き始めたんだ………(  ̄- ̄)トオイメ。でも話が進めば進むほど、「私には無理だ!(>_<)」と思い知らされてます(笑)

絵も京アニなので凄く綺麗だし、よかったら皆さんも見てみてね♪♪


さて、今回のお話ですが。。

やりきった…そんな気分ですwまぁ何が言いたいかというと、スイマセン!1万文字オーバーです(>人<)切ろう切ろうと思ったのですが、流れがアレだったのでそのままアップする事にしました。

でも(表)でラムゼス対カーナの試合の中で、一切他3名が描かれていなかった理由や、ラムゼスがカーナを卑怯者呼ばわりした真相が書かれているので、ゆっくりでもいいので最後まで読んでいただけると嬉しいです(^^)


ではどうぞお楽しみ下さいませ~♪



 つい数分前クロトは出て行った。


「何かあれば残した黄金の騎士に言ってくれれば、僕にすぐ伝わるよ。じゃあ行って来る。愉快な狩りにね、ハッハッハ」


 と、言い残して・・。


 その残した黄金の騎士が今しがた突如消えた。

 3人の前から唐突に。

 何の前触れも無く。

 煙のように。


 ………

 ……


 これは一体どういう事か?


「「「………」」」


 ガレキの散乱する室内で互いの表情をうかがうようにしていた3人であったが、まずスレインが口を開いた。


「何であいつは魔道具の騎士を消したんだと思う?」

「スレインが分からないなら、俺が分かるわけねーだろ」


 ぶっきらぼうにラムゼスは即答すると、ファルヴィがポツリと呟いた。


「嫌な予感がするな」

「おいおい、やめろよ、ファルヴィの嫌な予感は洒落にならない」

「ただ単に妹を捕まえて始末したから消したんじゃないのか?」

「ははは、ありえないな、ラムゼス。始末したとして、わざわざ魔道具を解除する理由は無い」

「ファルヴィの言う通りだ。しかもクロトはあの魔道具を手足のように操っている、半日は発動したままでいける、なんて事も豪語ごうごしてたぐらいだ、解除なんてする必要は全く無い。もう少し考えてから物を言ってくれ」

「お前らが聞いたから答えたんだろうが!」


 ムスッと地べたに座り込むラムゼス、ファルヴィは渋い顔をしたまま言った。


「オイラはあの魔道具についてそこまで詳しく知らないから2人に聞きたいんだけど、クロトに何かがあった場合は魔道具の騎士は消えるのか?」


 張り詰めた空気の中、その問いに対して明確な答えを持っているものはこの場にいなかった。


 それもそうだろう。

 ただでさえクロトの魔道具は貴重な黄金シリーズの魔道具。

 能力が異質すぎて回答できるわけがない。


 スレインは1つの可能性として…、と前置きをして答えた。


「一般的に能力発動中に術者に何かがあった場合、能力は消えると思う」

「じゃあ…クロトは誰かにやられたのか?」


 ラムゼスがそう言うと、全員の表情に緊張が走った。

 そして一瞬ひんやりとした沈黙が広がったかと思うと、スレインは首を振りながら可能性を否定する。


「魔道具の性能だけならクロトは俺たちの中でもピカイチだ、万が一だってあんな小娘に負けるわけが無い」

「待てよスレイン」


 ファルヴィが押し殺すような声で言った。


「ラムゼスは別に妹にクロトがやられたとは言ってないだろ? 例えば助けに来た第三者がクロトを…って可能性もある」

「たまたま居た第三者とやらがクロトに勝てるわけが無い、それに今日この辺りには人はほとんど通っていないはずだ、助けなんて来るはずがない」


 2人の案をことごとく却下するスレインに、ラムゼスとファルヴィは目を細める。


「じゃあどういう理由だよ?」

「オイラも教えてもらおうか?」


 するとスレインは美形な顔に似合わない素振りでボリボリと頭をいた。


「ほら…、あ、あいつはさ~、たまに訳の分からん行動をするからな~、今回もその延長線だろう。きっとすぐに返って来るんじゃないか」


 ファルヴィは停滞する会話に嫌気が差したのだろう、眉を吊り上げる。


「そんな玉虫色たまむしいろの答えでオイラが納得できるわけ無いだろ。もういい」


 そして苛立ちを隠そうともせず扉の方に顔を向けた。


「オイラがちょっと見てくる、お前らはここにいろ」

「お前1人で大丈夫か?俺も付いていくぞ?」

「ラムゼスはここに居ろ、お前は午後から大一番がある。万が一にもこんな所で怪我なんてあったら、オイラたち全員が困るからな」

「…そうか、分かった。ファルヴィ、気をつけろよ」

「大丈夫、念のため魔道具も持っていく。敵が居たなら即、殺す」

「ファルヴィ」

「ん、なんだ?スレイン」

「すまないんだが…、その前に俺ちょっとトイレに」

「我慢しろ!」


 そう言ってファルヴィが槍の矛先を引きずるようにして、2人から離れていった時だった。

 東と西、両極端に別れた距離。

 まるでそれを見計らったかのように、ロビーに続くドアが開く音がした。


「!?」


 音のした方向を見る3名。


 きしんだ音だけが先行して木製の押し扉がゆっくりと開く。

 だが、人の姿は一切見えず。


「「「???」」」


 完全な無音、有るのは扉の音だけ。

 誰もいない。

 いや、暗闇で何も見えない。

 それはまるでドアが意志を持って自分で口を開けたようであった。


 吸い込まれるような暗闇から外の風が室内に流れ込み、3人の髪をサラサラと不気味に揺らす。


 そして扉はまたゆっくりと閉まっていく。

 何事も無かったかのように。

 堪らずファルヴィが扉の方向に向かって声を張り上げた。


「おいクロトだろ!早く入って来いよ!何でお前、勝手に魔道具の騎士を消して――」


 そう言いかけた、まさにその瞬間のことだった。

 まるでファルヴィの集中力が切れたのを見計らったかのようなタイミングで、真っ暗なドアの向こうから1人の人物が室内に飛び込んできたのは。


「誰だ!?お前!!」


 真っ先に声を荒げたのはファルヴィ。


 うつむき、恐ろしい速度で向かってきているため顔は見えない。

 間違いなく言えることは、クロトでは無いという事。

 最初は回避行動を取ろうかとも考えたファルヴィではあったが、一直線に襲い掛かってくる侵入者のスピードは自身の回避行動を許してはくれないことは明白だった。

 ゆえに彼はすぐに重心を落とし、自身の魔道具である槍を構えた。



           ×               ×



「「へ?」」


 コンマ遅れるようにスレインとラムゼスは惚けた声を上げる。

 ファルヴィより反応が遅れたのは2人は少し扉から距離があったことからだろう。

 そしてファルヴィに向かって疾走する侵入者を凝視し、ファルヴィと同じく「お前は誰だ!?」と自分達の危険を感じ取る。


 ラムゼスは咄嗟に首を横へ。


「スレイン、何だあいつは!?」


 ラムゼスの問いにスレインは答える余裕は無かった。

 相手が誰であれ、この状況で突っ込んでくる、それは敵であることは間違いない証。

 ならば自分が取るべき行動は決まっている。


 弓で射殺す。


 ただ問題があった。

 自身の魔道具である弓は視線の遥か先、地面に転がっている。

 スレインは拾うために足に力を入れた。


「おい!スレイン!?」

「お前は姉の側から離れるな!」


 だがスレインが地面を蹴り出す前に侵入者とファルヴィの攻防の方が先だった。



             ×             ×



 無言の侵入者はその速度を更に上げる。

 侵入者に向かって突き出されたファルヴィの魔道具である鋭利な3つ又の槍。

 もちろん念のため槍の魔道具の力を解放させて。


「……」


 準備は全て整った、ファルヴィは心の中で「勝った」とほくそ笑む。


 実はファルヴィはナイフを隠し持っていた。

 手ぶらに見せている左手の袖の中に小型のナイフを1本。

 いつも丈が合っていないと仲間に言われる手の先まですっぽりと隠れる長い袖の中に。


 一番良いのはこの槍の一突きで侵入者を撃退すること。


 しかし、それは難しいだろう。

 自分に向かってきているスピード、床にはガレキなどが散乱している、だが侵入者はまるで綺麗な床を走るようにスピードを落とさずに、しかもガレキを踏まずに突っ込んできている。

 これだけを見てもこの侵入者は相当強い。

 それに何よりも自分の勘が言っている”この女に槍は当たらない”と。


 だから槍が避けられた場合はそのまま槍を横へスライド、侵入者に魔道具を触れさせる、そうすれば触れた瞬間に重力に負けて膝を折る、そこにナイフ。

 もしも2つ全てかわされたら、手ぶらだと思って突っ込んで来た所に隠し持っていたナイフをブスリ、見えるところにだけ注意を払っているならこれで終わりだ。

 どうせだ、息の根を止める前にそっと耳元でささやいてやるのもいい「何処の誰だか知らないが、オイラに勝てると思っているのか?」と。


 即興で組み立てた見事な3段構えの策。

 ファルヴィは忍び笑うように口元をゆがませる。

 そして突き出した腕に力を込める。


「死ね!」


 だがファルヴィの目論見もくろみは見事に破算する。


 侵入者は上半身をひねり、一切のスピードを落とす事無く槍をかわす。

 しかも第2のファルヴィの策、魔道具である槍に指1本触れる事無くファルヴィの目の前まで来たのだ。


「っ!?」


 予想していた速度を遥かに凌駕してふところに飛び込んできた人物、急いでファルヴィは隠し持っていたナイフを最短距離で侵入者の首筋へ。

 しかし侵入者は柔らかい身のこなしでそのナイフをいなし、次にまるで蚊を払うような見事な手刀でナイフを弾き飛ばした。


「うぇっ!」


 ファルヴィは馬鹿な!と思わず短い声を漏らした。


 動きを読まれた!?

 いや、動きだけじゃない!まるでこちらの槍を突き出した初動から、こちらの魔道具の能力、隠し持っていたナイフの存在すらも見透かされたような感覚。


 そして、次はどうしよう!?そうファルヴィが考えた始めた時には、侵入者から目にも留まらぬ拳を叩き込まれていた。


「っぅ!?」


 まるで斬撃のような拳だった。

 自分やラムゼスの拳がなまくらだと実感するような研ぎ澄まされた拳、無駄という無駄を削げ落とした拳。

 それがあごと、包帯の巻かれた脇腹の2箇所を強打。


「グッ!」


 視界がぐらりと揺れる。

 今のあごへの1撃が的確にヒットした為だろう。

 立っていられない。

 おそらく脳震盪のうしんとう

 直、自分は膝から崩れ落ちる。


 でも、まだだ!


 ファルヴィは諦めてはいなかった。


 まだ右手の魔道具。

 これをこいつに触れさせれば逆転できる。

 過度な重力は確実にこいつは膝を折るだろう。

 さっきスレインが自分の魔道具である弓を拾いに行く所を見た。

 スレインならその隙を逃すわけが無い。

 そしてこの距離でスレインの弓は避けれない。


”悪く思うなよ、単独で乗り込んできたお前が悪いんだ”


「…あれ?」


 だが右手に力を入れるとそこに何かを持っている感覚は無く、視線を落とすと持っていたはずの魔道具、三つ又の槍はその手から消失していた。

 遅れてやって来たのは、右手首への鈍い痛み。


「……」


 意味がわからない。

 なぜ何もされていない手が痛む?

 それより武器は?

 オイラの魔道具は一体どこに?

 確かに直前まで持っていたはずの武器が無い。


 即座に目だけで探す。


 そして見つけた。

 視界の右端、空中を円を描くように舞っていた。

 飛んでいる角度、そこから咄嗟に推察するファルヴィ。


「っ!」


 こいつ!2発じゃない!

 さっきの一瞬で3発オイラに入れやがった!


 1発は脳震盪のうしんとうを狙った顎へ。

 2発目は怪我をしている脇腹。

 そしてオイラの感覚が激痛と脳震盪で麻痺している間にもう1撃を手首へ。


 どうする!?

 今からどうしたら逆転できる!?

 考えろ、考えるんだ!

 近くにはスレインとラムゼスもいる、何とかなるはずだ!


 しかしファルヴィが考えを巡らそうとした時には既に彼の視界は転地逆さまに、宙を一回転していた。

 足が払われたとファルヴィが気付いたのは地面へ仰向けで倒れこみ、背中の痛みを覚えてからだった。


「ぐはっ!!」


 顔が苦痛に歪む。


「ぬぐぅぅ」


 そして目を開けた時、真上にいたのは…


 赤みがかった髪のメイドであった。

 ファルヴィの目が大きく見開く。


”なぜこいつが!?”


 だから咄嗟に口を開いた。


「お前は―」


 しかしメイドはファルヴィの続く言葉を待たずに、鉛入りのブーツの靴底をファルヴィの胸に足を振り落とした。


「グハッ!!」


 失いかけた意識を無理矢理、現実にとどめるほどの激痛がファルヴィの全身を走り抜ける。

 振り下ろされた足は傷を負った脇腹近く。


「くぅぅ~そぉっ!お前ぇぇ何で、、ここ、ぉぉ、に」


 胸の上に乗る足は徐々にその重さを増していく。

 侵入者は、まるで獣が捕らえた獲物をすぐに食べずになぶり殺して遊んでいるように徐々に力を込めていた。


 ファルヴィは激痛に耐えながら、この女が侵入者だとしたら…、と考える。

 そして今しがたの一呼吸にも満たない攻防を必死に思い出す。


 相手の戦闘スタイル。

 筋力量からくる腕力。

 戦闘技術、その錬度。

 そして…総合的にどれだけ強いか


 自分自身、特段体術が得意というわけではない。

 ではない、が、


 自身が弱いとは到底思えないだけの訓練を受けてきた。

 ラムゼスとだっていい勝負を出来るだけの自信はある。

 実際、ラムゼスと素手で戦ったら、負けという結果はあるにしても、すぐに負けるということはまず無いだろう。

 しかしさっきこの女と数手交わした攻防はまさに桁違いだった。

 特にコレが凄いという感想は無かった。

 なぜなら、何が自分より上なのか、その判断がくだせないほど、自分より全てが上だった。

 まるで大人と子供、手も足も出ないほどの実力差。

 見ている景色、世界が違うと言っているような。


 この感覚が何なのか、ファルヴィは経験から知っていた。

 あれはラムゼスが目指しているという男と模擬訓練をした時の事。

 つまり、これが意味している事は1つ。


 間違いなくこの目の前の女は強い。

 男とか女とか、そんな小さな枠内で図れない、、

 まるで、まるで、、、


 模擬訓練の時にクルウェイと戦った、あの圧倒的な強者の力を彷彿ほうふつとさせる強さ。


 その時だった。

 今までファルヴィの中で複雑に絡み合っていた、自己の誤解や勘違い、彼が昨日から気になっていた全ての事柄ことがら、それらが頭の中で数珠じゅずのように繋がり始めたのは…


 走馬灯のようにコマ送りで思い出される記憶。


 昨日クロトは言った。


『僕が聞いた話だとカーナはダイアル城塞で10英雄を倒した時、300人のアトラス兵をも同時に倒したらしいよ』


 そして全員でありえないと言い放ち、笑った。

 その後、ラムゼスが付け加えた。


『魔道具無しでそんなことが出来るなら本当にクルウェイと同等クラスじゃないか』


 この全てが真実だったとするなら…答えは。


《カーナ・マキシマムの実力はクルウェイ・キュートと同等クラスの強さを保持している》


 ファルヴィの中で全てのピースが最悪という形でピタリとはまった。 


「ガァ…ぁあぁあァ」


 オイラの勘は当たっていた!

 この女はヤバイ!

 こいつにまともに当たっても絶対に勝てない!


 早く伝えないと!

 これは負け試合だ!

 魔道具とかそういう問題じゃないレベルだ!

 オイラ達はとんでもない思い違いをしていたんだ、オイラの授けた策だけじゃコイツには届かない、致命傷ぐらいじゃコイツと同等には程遠い!


 何でもいい、ラムゼスとスレインに、このことを伝えるために、と。


 だがそれを伝えることは叶わなかった。

 なぜならファルヴィのかすみゆく視界はそこでブツリと完全に切れてしまったから。


「ぁ……ぁ……」


 声にならない声。

 今まで黙っていたメイドは力を一切弱めることなく、踏みつけているファルヴィに対して口を開いた。


「あなたに対して特にこれといった恨みはありませんけど、同僚の娘さんを助ける為なので死んでください」


 そして言葉と同時に力はさらに強まり、ついに獲物を殺すに十分な威力となった。


「メキ!」


 肋骨が折れたであろう不気味な音が室内に響き渡る。

 躊躇ためらいや手加減といったものは一切無い。


「ぎガぁっ!っぁぁグァ…カ…カ………………………」


 もはや言葉すら発せなくなり、泡を吹いているファルヴィ。

 これ以上やると死ぬとファルヴィが感じた、まさにその時、ラムゼスが声を荒げた。


「おい!てめぇ離せ!!」

「待てラムゼス!」

「何で止めんだ!スレイン!このままだとファルヴィがられるぞ!」

「いいから、黙ってろ!」


 そしてスレインは、もう拾う間際まぎわまで近づいた足元の弓をうかがうようにして口を開いた。

 発する言葉は慎重に選びながら。


「お前、カーナ・マキシマムだな?」


 すると赤い髪の女は、足にかけた体重を少しだけ緩和させゆっくりと振り返った。


「ええ、そうですよ。そういうあなたは?」


 視線を上げ、スレインの顔をまじまじと見たカーナ、そして次にラムゼスの顔を見た。いや、正確に言うとラムゼスが手にしていた大型のナイフを見た。

 そして「ああ~」と頷く。


「まさか、あなた方とこんな所でお会いする事になるとは驚きですね。ラムゼスさん、と…え~と、スレインさんでしたっけ?」


 口調は丁寧ていねいなのに、親しみやすさは一切感じられない声だった。

 スレインは小さく息を吐いて身体から力を抜く。


「ああ、そうだ。こっちもこんな所であなたに会って驚いてるよカーナさん」

「で、ご用件は何ですか?」

「お前はこの子を助けに来たんだろ?」


 スレインはラムゼスがモルドレッドの首元に沿わしているナイフを指差す。

 カーナはそれを興味無さげに見ると頷いた。


「ええ、まぁそうなりますね。だから?」

「クロトはどうした、殺したのか?」

「クロト?」

「ここから外に出ていった奴だよ!」


 ラムゼスが声を荒げる。

 どう喝に近い口ぶりにも一切動じないカーナ。

 彼女は淡々と言葉を紡ぐ。

 紡がれる言葉に感情は無く、ただ何処までも事務的な響き。


「ああ、彼ですか。たぶん生きてるんじゃないですか?確かめてはいませんが」


 カーナは現状こう考えていた。


 なぜ私はこんな所にいるんだろう?

 悪漢を1人…いえ、今足の下にいる奴を含めて2人倒して、更に2人と戦おうとしている。

 胸糞悪むなくそわるい掃除です。

 予定では今頃、貴族街から近道であるこの通りを抜けてマリアンヌ様にクッキーをお渡していたはずなのに。

 こんなくだらない事をしている間にもマリアンヌ様がお腹を空かせて死んでしまうかもしれない。

 あっ、そう言えばクッキーどうしましたっけ?


「あ~」


 あの掴まってた女の子に持たせたんですね、後から受け取らないと。

 いや、今すぐにでも受け取るべきだろうか?

 私の後ろを付いてきていたから、きっとドアの奥にいるはずですし。

 なんと言ってもバスケットの中身はクッキーです、割れてしまっては困る。

 ええ、困ります。


「カーナさん、あなたはこれからどうするつもりだ?」


 うるさいハエだ。

 ただでさえ時間が押していて不愉快な気分なのに、余計に気分が悪くなる。


 感情の感じられない静かなカーナの瞳にスレインが映る。


「ああ、そうですね…。あなた達を殺しても問題なさそうですし、まずはこのチビっこいのを殺した後にあなたを殺します、そしてその後ラムゼスさん、あなたも…いや、それはダメですね、それでは神の望みは叶えられない」


 カーナはゆっくりとかぶりを振るとラムゼスを見射った。

 そしてここに来て初めて感情を顔面に浮かび上がらせて、ニコッと微笑んだ。


「あなたは適度に殴って終わりにしてあげましょう、本番は午後ですからね、楽しみに待っていなさい」


 スレインとラムゼスの2人は息を呑んだ。


 ただの女とは思えない威圧感。

 瞳には一切人間らしい色が映っていない。

 今まで相対あいたいしたことの無い存在への恐怖感が生まれる。

 だがすぐにラムゼスはその恐怖感を打ち消し、とんでもなく険しい目でカーナを睨んだ。


「やってみろよ、出来るもんならな」


 敵意に満ちた視線がカーナに突き刺さる。

 しかしそれを鼻でクスッと笑って受け流すカーナ。

 まるで、お前など相手にもしていない、と言っているようだった。


 結果として血管が浮き出るほどの怒りの表情を見せるラムゼス。

 奥歯がギリギリと軋みをあげ、今にもモルドレッドに首に沿わしているナイフを引き抜いてしまいそうだった。


 だがそれをスレインは片手でラムゼスを制止したまま、言葉を重ねる。

 彼は分かっていた、今自分がこなさなければならない役割が。


「残念だが、それは叶わないな。 ファルヴィを殺して、次に俺と戦っている間にラムゼスがこの子を殺す」

「あなたを秒殺すれば問題無いのではないですか?」


 ここのチビと同じようにね…、と言っているようだった。

 スレインはあくまで冷静に対処する。


「ファルヴィを殺すのに1秒、こちらに向かって来るのにお前なら3~4秒、そして俺と戦うわけだが…、ファルヴィは不意打ちで倒せたとしても、この状況から俺に不意打ちは効かない、さて俺を倒すのに一体何秒かかるかな? それにお前の魔道具発動まではタイムラグがあるんだろう?その時間も数秒はかかるはず」

「魔道具ですか?」


 一体何の事を言っているんだ?と、カーナは懐疑的な目で問い返す。

 するとスレインは語気を強めた。


「とぼけるのか?ただの不意打ちで、ファルヴィが簡単にられるわけが無い」

「ただの不意打ち…ですか」


 スレインは視線をドアへ。

 するとドアの隙間から覗く人影が目に入った。

 よく見るとそれはライオネルであった。

 今も不安げに顔を覗かせている。


 あの娘がこの女を呼んだのか。と、スレインは忌々しそうに舌を打つ。

 そして


「お前はドアを開けた際にすぐに中に入ってこなかったな、これは何らかの魔道具をドアの外から発動させたからだろう?そしてファルヴィが毒か麻痺か分からないが、それにかかったのを見定めた後に侵入してきた。違うか?」

「………」


 違う、と言った所でどうせ信じないんでしょうね。


 仲間が瞬殺される=魔道具の使用。

 理解の及ばない力をの当りにして思考を放棄。

 想像力の欠如、弱者の思考。


 もはや、この2人に自分が負ける要素は無い。


 最大限の警戒をするラムゼスとスレインとは逆に、どんどんこの2人の警戒を弱めていくカーナ。

 何も語らないカーナにスレインは続ける。


「一方、娘の首元にナイフを突きつけているラムゼスだが、力を入れて首を切り裂く方のに一体何秒かかる? 因みにお前がこちらに対して魔道具を使用したと判断した瞬間もすぐにラムゼスのナイフが娘の首をかき切るからな」


 ありもしない可能性を模索されてムンガル卿の娘を殺されても困るな。


「それは…困りますね」

「そうだろ、じゃあ、交渉だ」


 ふぅん、とカーナは己の置かれている立場を熟考しながら難しい顔をする。


「交渉ですか、あまり私はそういうのは得意ではないのですが」

「なに簡単だ、まずそちらがそこの男から足をどけろ、そして離れろ、ドアの近くまで、そうしたらこちらもこの子を解放する」


 それを聞いたカーナ、顔を伏せるとくすりと笑った。

 そしてスレインのつま先、床に無造作に置かれた弓を指差す。


「ありえませんね。あなたが拾おうとしている弓、一昨日おととい王の間で見ましたけど…それ魔道具ですよね? 私がそんなに離れたらあなたがそれを拾って撃ってこないわけがない、先にそちらがナイフをどけて下さい、そしてラムゼスさんの持っているナイフを…」


 そこまで口にするとカーナは語尾を止めた。

 そしてラムゼスの持っているナイフを一瞥いちべつ


「一応そのナイフ部屋の端に向かって投げてください、なら私も足をどけましょう。 あ、そうそう、スレインさんの足元にある弓も手に取らずに蹴飛ばして下さいね」


 スレインはその爽やかな顔の眉間にシワを寄せ首を振った。


「ダメだ、そっちが先だ、先に足をどけろ、こちらに譲歩する気は一切無い。この子がどうなってもいいのか?ラムゼスが少しでも力を入れたら頚動脈けいどうみゃくを切れるぞ」


 ラムゼスの手に持つナイフが、気絶したモルドレッドの柔らかそうな肌にあてがう。

 首筋からひとすじの血が垂れ、着ている服を赤く染めた。


 一般的に人質が女の子と成人男性であれば女の子を人質にしている方が交渉においては相当に有利だろう。

 それが分かった上でスレインは言っていた。

 しかしカーナは平然と言いのけた。


「どうぞご自由に」


 その返答スピードに熟考は感じられない。


 目が点となるラムゼスとスレイン。

 そして


「「へっ?」」


 素っ頓狂とんきょうな声だった。

 カーナは続ける。


「そこまでして助ける義理はありませんので、私は急ぎますから今回は1人助けれたので良しとしましょう。私が怪我などしてしまって、神の望みを叶えられなくなっては困りますので。ムンガル卿もきっと納得するでしょう」

「え?いや、お前は何を言って―」

「では折角です、同時にいきましょうか、3つ数えます、いきますよ」


 瞬間、スレインとラムゼスの背筋に悪寒が走った。


 この女の目は本気だ。

 今から何の躊躇ちゅうちょなく人質を見殺しにしてファルヴィを殺す気の目だ。

 おそらく、ファルヴィの事もただの虫を踏み潰す作業としか考えていない。

 いや、ファルヴィだけじゃなく人質の娘すら眼中に入っていない。

 もしかしたら人間とも思っていないかもしれない。


”じゃあ何でコイツは助けに来たんだ?”


「ちょっ、ま!スレイン!俺はどうしたらいい!?」

「えっ!?いや、その!」

「1、2、」


 真っ青な顔になったスレインは叫んだ。


「待て待て待て待て!!分かった!待ってくれ!!こちらが悪かった! ラムゼス!ナイフを捨てろ!!早く!」


 即座にナイフを捨てるラムゼス、スレインも床に転がっている魔道具である弓を蹴飛ばした。

 それをあたりにして、あれ?という表情でカーナは小首を傾げる。


「そうですか…」


 てっきり、人質が両方死んでその後、殺し合いになるかと思っていたのだが。

 まぁ、どっちでもいいですけど…。


「ではとりあえず人質から離れてください」

「わかった」

「チッ、クソ野郎が」


 殺気そのままに後ろずさりで離れていく2人、カーナは振り返るとドアの隙間から覗いているライオネルに向かって手をこまねいた。


「私はここから離れられないので、あなたが姉を回収して先に建物から出てください、私もすぐに後を追います。…あ、クッキーは先に私に渡しておいてくださいね、割れたら

困りますので」


 2人が十分な距離を離れたのを確認して恐る恐る入って来るライオネル。

 張り詰めた空気には不釣合いな甘いクッキーのにおいが室内に広がる。


「早くしてもらえますか」

「は、はい!」


 怯えきった、線の細い声で返事をすると、ライオネルは恐怖に打ち勝つように足を前へ。

 そしてクッキーの入ったバスケットをカーナ手渡すと、ラムゼスとスレイン、両名と視線を合わせないように姉の下に。


「お姉ちゃん」


 ガレキの上に横たわる姉の顔はぐちゃぐちゃになっていた。

 流れる血、腫れ上がった顔。

 見るのは心が痛んだ。

 それは逃げたことへの罪悪感だったのか、こうなることを望んだ自分への戒めからだったのか、目指した人間の終着点を見てしまったからなのか……それは分からない。

 でも確かな事は、今自分の中に喜びは無かった事。

 そしてそれは、たぶん私と違って姉の顔に涙が流れた痕跡が無かったからだろう。


「お姉ちゃん、今お医者さんに見てもらうからね」


 そう口にするとライオネルは肩を貸すようにして離れていく。

 そしてドア付近に差し掛かった辺りで


「おい、妹」

「はっ、はいっ!?」


 自分達に背を向けて去りゆく姉妹、その背後に向かってスレインは声を投げかける。

 声に怒気をまとわせて。


「姉に伝えておけ。勝負はラムゼスが勝った、約束は守れよ、もしも守らなかった時は…」

「わ、わかりました!伝えておきます!大丈夫です!お姉ちゃんは自分で言ったことは守る人なんで!」


 そう言うと、スレインの最後の言葉を言い終わる前に、ライオネルは部屋から暗闇が広がるロビーへ消えていった。

 その様子を横目で見ながらカーナはこの場で起こっている事を自分なりに考える。

 そして1分ほどの沈黙後。


「まぁ、どうでもいいか。では、私も退散するとしましょうか」


 ファルヴィの上から完全に足をどけ、離れていくカーナ。

 そしてドアをゆっくりと押し開けながら言った。


「一応断っておきますが、追いかけては来ないで下さいね。私も忙しい身の上ですので、そうなった場合は…クロトさんでしたっけ?今度は玄関付近にいる彼を人質にしないといけなくなるので」

「交渉はヘタって言ってたけど、ずいぶん上手いじゃないか」


 イヤミを込められたスレインの言葉にカーナは疑問符で答えた。


「これが交渉なのですか? 私は思ったことを、そのまま口にしているだけなのですが」


 そして付け加えた。


「まぁ、私に気を払っている暇があったら、その小さいのを一刻も早く医者に見せた方が懸命だと思いますよ。先ほど脳震盪のうしんとうを起こさせた後すぐに強い衝撃を加えたので、今後どんな容態になるか私も検討がつかないので」

「お前に言われなくてもそうする。仲間の方が大事だからな」

「お前覚えてろよ、俺の仲間をボコボコにしやがって、午後に殺してやるからな」


「………」


 その行動、言動が神経を逆なでしたのか、最後、カーナはドアを閉め、立ち去る瞬間に呟くように吐き捨てた。


「美しい友情ですね。殺したくなるほどに」



閲覧ありがとうございましたm(_ _ )m

次回がこの章のラストになります(裏話はありますw)が、、振り返ると長かったような短かったような~σ(´ x `;*)

ではまた次回お会いしましょう(^^)/~~



皆さん、私パワプロ・サクセススペシャル飽きたかもしれない( iдi )

まぁモンハンが発売したっていうのもあるんでしょうけど、ノルマの週2のサクセスすらしんどいw

今、イベント中だけど、もう1回やればお腹いっぱいかな?的な(笑)

因みにモンハンは発売して1週間、上位にいきました( ̄ー ̄)bグッ!今回もライトボウガン一筋です♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ