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13 2日目 - 午前(1)

クリックありがとうございますO(-人-)O アリガタヤ

先日、稲刈りを終えたひとりぼっちの桜ですw

3日におよぶ地獄の作業、つらかったお~w(・ω人)”))


では練りに練った2日目、その午前をどうぞお楽しみください♪



 今日も昨日に引き続きファゴット際の準備が盛況のようで、遠くに聞こえる出店の喧騒けんそうを背景に貴族街と城下町の県境けんざかいを歩く姉妹。

 ラムゼスに来いと言われた場所への道すがら、ひっそりとつらなる倉庫区画、その内の1つ、明らかに倉庫のそれとは異なる廃れた宿屋の前で2人は足を止めた。


「ここか」

「えっ!?」


 どう考えても営業を停止してからだいぶ年月を経過したであろう2階建ての宿屋だった建物。

 見上げれば半開きで今にも取れそうな窓、色あせてツタが絡まる壁面、ボロボロ塗装をほどこされたそれらはライオネルの恐怖心を最大限まで引き上げるには十分すぎる。


「よし、入るか」

「えぇ~」


 左右を見渡して人がいないことを十分すぎるほど確認した後、鍵のかかっていないくたびれたドアノブを回し室内へ。

 ライオネルも嫌々ながら後を続く。何でこんな建物が取り壊されること無く、端とはいえ貴族街にあるのか?と疑問を持ちつつ…。


 所々蜘蛛の巣が貼った窓から入ってくる優しい光が床に転がるガレキを白く染め、天井は所々が抜け落ちている5メートルほどの通路。

 良家りょうけに生まれ、姉モルドレッドと違い冒険のような事をしてこなかったライオネル、彼女にとってこの旧宿屋は恐怖を彷彿させる。

 怯えた小さな手は姉の袖を掴む。


「お、お姉ちゃん。本当にここであってる? 場所、間違ってない?」

「間違えてねーよ」


 そしてすぐ2人は以前は受付としてとして機能していたであろう場所に行き着いた。

 小さめの受付には誰も居ない、あるのは積もったホコリのみ。

 直後、男性の野太い声がフロア中に響く。


「よぉ、迷わなかったか?」


 正面受付の両側にアーチをかけるように上がっていく階段、そこにかれたくすんだ赤い絨毯じゅうたん、腰を下ろして姉妹を見下ろしてくる人物。

 昨日の4人揃そろい組みとかではなく、今日待っていたのは姉モルドレッドに弟子入りを志願されたラムゼスただ1人だった。


「はい!大丈夫です!でも話に聞いてたよりボロボロっすね!」

「ちょっ!」


 お姉ちゃーん、直球過ぎるよ!

 もっとオブラートに包んで言わないと怒られるって!

 こう…おもむきがありますね、みたいな風に言えば。


 すると昨日と違って軽装鎧すらつけていない、とてもラフな格好のラムゼスは周囲のボロボロになった壁紙を指差しながら愚痴ぐちらす。


「俺達もそう言ったんだけどな、ファルヴィの野郎が『せっかく安く買い叩いたのに無駄な出費なんてありない。周りが倉庫ばかりなんだから、見てれにこだわる理由が分からない』って突っぱねやがって改装しないままなんだ」


 あれ?そうでもない?

 普通、自分の居る建物をけなされたら怒るんじゃないの?


「ああ~言いそうですね、あの人なら」

「だろ、ここは元々俺達4人で買ったんだ、だから何か手を加える場合は4人全員の総意って事になってるからな、色々めんどくせぇんだよな」


 よっこらせ、とやる気の無さそうな声と共に立ち上がりラムゼスは1階に下りてくる。

 そして受付横の元従業員専用扉を足で押し開けると付いて来るように手招きしてきた。


「この奥は本来はキッチンと厨房だったんだが、全部取っ払って壁も吹き抜けにして、大きな1つの部屋みたいになってるから身体を動かすならそこがピッタリだろ」


 言葉に従って姉妹は歩を進める。

 進んだ先、そこは部屋を4つ足したほどの大部屋だった。


「中庭みたいだろ?」

「廃墟の広場みたいですね」


 躊躇無く感想を述べる姉に妹モルドレッドは「もう知らん」と周囲を見渡した。


 ここだけは明らかに外から光を取り入れるようにぶち抜かれた壁たち、おそらくラムゼス、スレイン、ファルヴィ、クロトの4人が基本的に居る場所だから明るさを保てるようにしたのだろう。

 しかしだからといって綺麗に清掃されているわけでは決してなく、破壊された壁の一部が今尚乱雑に地面に転がっていた。

 テーブルなどは1つも無く、小さめのソファー2つに椅子2つ、その1つ、ソファーに腰掛けるとラムゼスは事前に用意していたであろう1本の剣をライオネルに向かって差し出した。


「とりあえずお前、この剣振ってみろ」


 そう言って剣を手渡されたライオネル。


 なぜわたしが…と、しぶしぶ剣を握る。


 騎士学校で支給される物よりも一回り大きな剣。

 嫌な汗がにじみ出る。

 しかしここまできたら覚悟を決めるしかない。


 よし!やるぞ!頑張れわたし!


「やぁ!にゃっ!」


 一振りするたびに刀身の重量に身体が持って行かれそうになる。


 ライオネルは気の抜けた声と共に振る、振る、また振る、そして腕がいい感じに痺れて来た頃にラムゼスの表情を盗み見た。

 ラムゼスはとてもつまさなそうな顔であった。


 でしょうね!!


 そしてちょうど100回ほど剣が振り下ろされた頃だろうか、ラムゼスは言った。


「もう止めていいぞ」

「え、あ、は、はい」


 つ、疲れた。。


「じゃあ、次はお前も振ってみな」

「はい!」


 その後、訪れたのは耐え難い沈黙であった。

 聞こえるのは目の前で力強く振られる姉の素振り音のみ。


「……」

「……」


 不思議だな、座ってるだけなのに、さっき素振りしてた時よりも体力が削られるよ。

 ていうか何でわたしはラムゼスさんの横に座ってしまったんだろう?

 今からでも他の椅子かソファーに移るか?

 いや、でもここで急にそんな事言ったら不自然だしな。


 普通の汗が冷や汗に変化しつつあるライオネル。

 すぐ横の圧迫感に押されるようには口を開く。


「あ、あの」

「あ?何だ?」


 帰りたい、帰りたい、おうちに帰りたい。

 そんな感情を込めて言った。


「えの、あの、あ、明日ラムゼスさんって、大切な試合なんですよね?訓練とか、しなくても…いいんですか?」

「あーそうだなぁ…」


 ラムゼスはライオネルの問いにしばらく少し困ったように黙っていたが、やがて口を開いた。


「いいんだよ、俺が勝つから。俺が強いって知ってんだろ?」


 ライオネルは「そ、そうですよね」と引きつった愛想笑いを浮かべた、だが視線を落としながらも考えた。


 なんだろう、今の変な間は?

 自信があるという意味なんだろうけど。

 昨日、家に帰ってからのお姉ちゃんの話によれば、ラムゼスさんと他3人は同じぐらい強くて優秀だって言ってた。


 騎士学校をお姉ちゃん同様主席だったスレインさんを筆頭に全員が優秀な4人組。

 一般的には親の代から譲渡するという形を取り皇帝陛下の許可を得てやっと授与される爵位、それを若くして自力で皇帝陛下から授与され、しかも爵位だけじゃなく魔道具までもを皇帝陛下から与えられた4人。

 爵位を手に入れたスピードでいえばクルウェイ将軍に次いでのスピード。

 その事柄だけでもどれだけ4人が期待されているかが窺え知れる。


 どうやらお姉ちゃんの話だとその中でもラムゼスさんが一番強いらしいけど。

 まぁお姉ちゃんの憧れ補正が入ってるにしても、それでも明日大事な試合なんだしもっと訓練したほうが…。

 だってあのお兄さんたちは今頃必死にラムゼスさんを倒すために訓練してるかもなのに。

 あ、でも、そういえばお姉ちゃんも学校の模擬試験の前日はダラダラしてったけ。

 確か「今さらやったって無駄、どうせオレが勝つんだから」だった。

 優秀な人って皆前日はこんな感じなのかな?


「それにしても…」

「は、はい。な、なんですか?」


 足元に視線を落として自問するライオネルとは異なり、ラムゼスはかなり意外そうにずっと姉モルドレッドを見ていた。

 力強く振り下ろされる剣影に困惑の表情を浮かべる。

 そして少しの驚きと共に言葉を紡いだ。


 彼にとって姉妹のこれまでの評価は、ムンガルという父親を背景にした強力なコネで騎士学校に入っただけの存在であり、どうせ剣など手にした所でまともに振れないだろうというものだった、実際、姿かたちが似ている妹はアレだったし。

 だからこそ意外でならなかった。


 ラムゼスから感嘆の声が漏れる。


「いや、お前の姉…筋がいいな、それも、かなり」


 ライオネルは首の動きでそれを肯定した。


「お姉ちゃんは、優秀なので…」

「身体の芯がしっかりしてる」


 でしょうね、だって姉は主席だし。

 最下位のわたしと比べられても…。


「剣の振りも堂に入ってる」


 ラムゼスはおもむろに立ち上がる、そして今の今まで抑揚無く関心の感じられなかった声に初めて感情がこもった。


「おい、もう素振り止めていいぞ、それとちょっと手見せてみろ」

「え?ああ、はい」


 どうぞと差し出された両の手の平、その小さな手には無数の豆が存在し、何度も潰れては硬くなるを繰り返した跡が見受けられた。


「お前、普段どれぐらい素振りしてるんだ?」

「数とか数えてないっす。強くなるのに必要な回数ですね」


 なんつー答えだよ。側で聞いていたライオネルは呆れるようにそう思った。

 しかし同時に自分には絶対出来ないとも思った。

 ラムゼスもそう思ったのだろうか、握ったままの手から視線をゆっくりと上げる。


「お前…昨日さ、なにがなんでも騎士になりたいみたいな事を言ってたけど、なんでそんなに騎士になりたいんだ?」

「オレが騎士を目指したら変っすか?」

「女が普通は目指さないだろ」

「やっぱみんなそう思うのかな~」


 モルドレッドは視線を宙に泳がせる。

 だが次の瞬間、しっかりとラムゼスの目を見返した。


「でも、だからなんですよ」

「は?」

「オレはオヤジみたいに」


 と、言いかけたモルドレッドは「いや、違う」とかぶりを大きく振る。

 彼女は胸を張る。


「オレはオレが正しいと思う道を誰よりも真っ直ぐ進みたい」


 そして少し置いて付け加える。


「どんな騎士よりも騎士らしく生きたいんです!!その為にはこんな所でつまずくわけにはいかないんです!」


 それはいかにも姉らしい答えだった。

 今までの努力に裏打ちされた確固たる自信があるからこそ出てくる言葉。

 わたしには言えない言葉。


 ラムゼスは口の端を上げた。

 そしてまるで掘り出し物を見つけたような表情で。


「いいね、気にいった!お前には俺が一番得意な体術を教えてやる。マジで教えるから付いて来い、途中でを上げるなよ」

「はい!望むところです!」


 とても楽しそうなやり取り。

 近いのに遠いやり取り。

 期待される姉、いつものように蚊帳の外に追いやられる自分。


 胸がチクリとした。


 急速きゅうそくに仲を深めていく2人、それを見て。



閲覧ありがとうございましたm(_ _ )m

予定上、2日目はそんなに長くならない予定なのでよかったら次回も読んでいただけると嬉しいです♪

では~(^^)/~~~

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