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プロローグ ※挿絵あり

初回はこんな感じですよ~、って感じなので。

よかったら読んでね。

「逃げろー!殺されるぞ!!」


 戦場となった森の中でそう叫ばれた。


 お腹の底から声が割れるほど叫んだのはその部隊を率いていた将軍だった。

 敵戦逃亡てきせんとうぼうを許すという宣言に皆は蜘蛛くもの子を散らしたようにきびすをかえす。

 光が入らない所もあるほど深い森に兵士達は1人、また1人、各々獲物になる可能性を少しでも下げるために別方向へ。


 そもそもこの戦いは間違いなく勝っていた

 ”やつ”が現れるまで。

 兵士達はクマ避けの鈴を鳴らすように皆、口にする。


「なんでだよ!なんで!こんなはずじゃなかった!!」


 こちらの軍師は相手の策を見抜いていた、こちらは1000、相手は2000、戦力は相手が上でもこちらには地の利もある。

 中盤までにこちらは200失ったがそのおかげで敗走するように森の中へ、そして敵が森へ侵入してきたところを叩いていく、作戦は見事に成功、相手の軍は半分以下になった。

 あと一押しで敵軍は撤退する、それしか選択肢は無い、予定通り、しかしあの”魔女”は負けそうになるや否や1匹の猛獣を森に放った。


「たずけで!俺には国に妻と子供が!」


 閃光のように向かって来る猛獣は言葉が聞こえないかのように命乞いする兵士の命を絶っていく、なぜこの森の中で自分達の居場所を特定できるのかは分からない、もしかしたら本当に獣の類なのか?ただ実際に猛獣が牙として使用している大型ナイフに一切の迷いは見えなかった。


 次から次へと死んでいく部下達、それは将軍も分かっていた。

 戦略を超える、戦力、こんなものをあの魔女が隠し持っていたとは、、。 

 この情報だけでも国に持ち帰らねば部下達に合わせる顔もなくなる。

 だから将軍はどれだけ部下の悲鳴が森に響こうが足を止めなかった。

 責務を全うするように走った。


「もう少し、で、森を、抜ける」


 唇はカラカラ、持っていた武器はすでに手に無く、過重に追い込まれて鼓動を早くする心臓を押さえるように走ってきた甲斐もあり、将軍はもう少しで森を抜けるところまで来ていた。

 しかしそこで将軍は疑問を持つことになる、先ほどまで聞こえていた断末魔とも思える部下達の悲鳴が聞こえなくなっているのだ。


「皆死んだのか?」

「ええ」

「!?」


挿絵(By みてみん)


 質問したわけではない独り言に返答、将軍は地面へ落ちる冷や汗に同調するように首をゆっくり横へ、

 するとそこには返り血で真っ赤に装飾されたメイド服、血塗られた手、飲みきれないほどの量の血をすすりヨダレを垂らすナイフ、それらの血色に負けないほどの赤い髪をした人間が1人立っていた。


「お、女?」


 なぜこんなところにメイド服を着た女が?線の細そうな女、町にいたら引っ掛けたくなるほどのボディーライン、艶っぽい口元、見れば見るほどこの場に似つかわしくない女、しかし木々の間から差し込まれた光がその女を完全に捕らえた瞬間将軍は確信した、こいつが猛獣だと。

 人の目、いや動物ですらない、まるで機械か何か、血が通っているように見えない。

 このままだと数秒後に自分は殺される。


「待て!私は殺さないほうがいい!私はこう見えても貴族だ!捕虜として拘束すればそちらの国の利益になる!」


 将軍の発言は的確で命乞いとしてはこの上ない完璧なものだった。

 しかし次の瞬間、将軍の綺麗に整えられた髭が付属されている頭部は宙を舞っていた。


 ドサッと地面に落下して血潮を放つ先ほどまで将軍っだった物。

 二度と再会しない首と胴が血の海を作る傍らで一人佇む女はぼやくように言った。


「残念ですが、マリアンヌ様に剣を向けた罪は死でしか償えません。さようなら、名も知らない御仁」


 こうしてこの戦いは森林の大虐殺という名を持って幕を引かれたのだった。



             ×            ×



 血の匂いが充満する森。

 そこを俯瞰ふかんできるゴツゴツとした丘の上、戦場に不釣合ふつりあいな豪華な椅子にカーペット、パラソルが備え付けられた異空間いくうかんが出来上がっていた。


「ふむ、そろそろ終わった頃だな」


 そこに優雅に座るのは驚いたことに若い女だった。

 年の頃は17、18。

 戦場にはあまりに不似合いな黒く彩られたドレスに身を包み、すらっと伸びた四肢は透き通るように白い、しかし一番目に付くのは月の光とも思える銀色の長い髪。


 女は紅茶の入ったティーカップに手を伸ばす。

 そして一口、口に含むとその気品のある高圧的な瞳をメイドに向けた。


「紅茶がぬるいぞ、入れ替えろ」

「はいっ!マリアンヌ様、申し訳ありません!」


 御付きの侍女が扇ぐ風に綺麗な銀線の長髪がなびく。

 マリアンヌと呼ばれた女の鼻歌が丘に軽やかに吹き降りる風に乗って戦場に流れる。


「屋敷からわざわざ持ってきた特注の椅子いすの座り心地、至上のカーペットをひいても主張を止めない岩石がんせきたち、耳に優しい小鳥…もといコンドルのさえずり、本当に戦場というのは全くもって御しがたい。早く切り上げたいものだ」

「マリアンヌ様、兵たちが森から帰還しました」


 貴族であろう鎧を身に付ける男が人が集まる本陣、その中心にいるマリアンヌの御前で足を折って兵が報告を行った。


「そうか、どれぐらい残った?」

「およそ800です」

「半分も残っているではないか。それに比べ相手はおそらく全滅、つまり完全勝利、これもわれの采配あっての物種じゃな、皆の衆」

「「は!その通りでございます!!」」


 合言葉のように揃えられた掛け声。

 満足そうに椅子の背に体を預けるマリアンヌ、そこに血まみれのメイドが帰ってきた。


「ただいま戻りました、マリアンヌ様」


 メイドが手に持っていたのは敵国の将軍の首。というか生首。

 そして献上するように断末魔が良く似合う血なまぐさい生首を差し出す。


「止めろカーナ、そんな物を我に見せるな!そのへんにしまっておけ」

「も、申し訳ありません!こんな汚物をマリアンヌ様にお見せするなんて、私はなんてことを」


 カーナと呼ばれた殺人鬼はイソイソと手に持った敵国の首をそのへんにあった箱”茶菓子が入っていたであろうもの”に押し込む。

 それはもう物を扱うようにギュッギュと。


「そういえばなぜお前はその動きづらそうな服なのだ? 着替えてから行くという選択肢は無かったのか?」

「申し訳ございません、急いでマリアンヌ様の命令を全うしようと思うばかり忘れておりました」

「ふ~ん、まぁお前がそれで問題ないなら別にいいがな。 それでその、、われがさっきまで食べていた菓子の空き箱に入っている、いや入りきってないせいで目がさっきから合う、そいつが指揮官しきかんか? 我と対等に戦おうとしたやからがどんなやつかと思ったが、知的な顔には見えないな」

「さぁ、どうでしょうか。命令していた人間ですし、そうだとは思うのですが」


 数千の死体が転がる戦場でとぼけた会話をしている少女とメイド、話を聞いていた40代の将軍がそっと助言をする。


「この方はイーザルベル卿、敵国アトラス将軍で、知、武に長けた御仁です。このムンガル幾度か戦場にて合間見えましたので間違いございません」

「将軍? 名のある軍師ではないのか?」

「軍師ではないですが知力に長けた」

「そんなことはどうでもいい、軍師でもない人間に我が一時的にでも遅れをとったということが言いたいのか?」

「いえ、そんな滅相も無い!このムンガル、そのようなこと露ほども毛の先ほども思っておりません!」

「マリアンヌ様の言う通りです、ムンガルきょう。 マリアンヌ様は唯一にして絶対神、人間ごときに遅れを取るなどありえない」

「カーナ、お前は少し黙ってろ、話がこじれる」

「はい申し訳ありません! 息をするのを止めます!」

「ああ、死なない程度にな。 ムンガル、今回の戦いでそのイーザ何とか以外に有名なやつはいたか?」

「いえ、このムンガル見ておりません」

「う~む、そうか。じゃあこの視線の先に誰かいるな」


 マリアンヌはするどい瞳を森の奥にあるであろう敵国の本陣に向ける。

 もちろん肉眼にくがんでは届くはずもないが、いるのはわかる。

 なぜなら今回、カーナという自分にとっての切り札を切らなければ引き分けという名の実質的な負けの烙印を押されていたのは我が軍なのだから。


「そう言えばヤンから連絡はあった?」

「はい、先ほど使いから知らせが届きました。問題なく事は進んでいる…と」

「では帰るか」

「マリアンヌ様、捕虜ほりょの扱いどうされますか?」

「ん?捕虜? 何人ぐらい捕まえたのだ?」


 話を聞いて捕虜ほりょが捕まっている場所に行くとマリアンヌの前には100ほどの敵兵が縄で縛られた状態で座わらされていた。

 

「捕まえすぎであろう、こんなにはいらん。 こいつらにそこまでの利用価値はない、さっさと殺せ」


 マリアンヌの近づくヒールの足音に敵兵たちは顔を地面に向けて怯える。

 しかし1人の若い兵がマリアンヌに口を開いた。


「この魔女が!戦場に女がいるなど豪語同断ごんごどうだんだ! 汚らわしい!近づくな!!」


挿絵(By みてみん)


 場が凍りつくと時間も停止するのか?そう錯覚するほど場は凍った。

 そしてその場にいる全ての人間がまばたきすら止める中、マリアンヌの横に立っていたカーナはナイフを激強く握る。


「ゴミくずのような存在であるお前達ごときがマリアンヌ様になんという口を、、、」

「カーナ、よい、言わせておけ。所詮しょせん劣悪種れつあくしゅのたわごとだ。 にしても…そうか、我はお前達の国からもそう呼ばれているのか。では、その期待に答えてやらねばならんな」



            ×           ×



「これでまた一歩、われが玉座に近づいたというわけだ。そうであろう、カーナ?」

「はい、その通りでございますマリアンヌ様。あなた様以外に王の座に相応しい人間などおりません。そしてこの100年続いた戦争を終結しゅうけつみちびけるのもあなた様以外おりません」

「分かりきっていることをわざわざ言わなくともよい。それでは帰ろうか、暖かいベッドが我の帰還きかんを待っておる。野宿のじゅくは人をみすぼらしい気持ちにさせる」


 その日、マリアンヌが去った後、丘にはおよそ百ほどの敵国の兵の首がさらされた。

 どの個体も首から下が無い状態で。


最後まで閲覧ありがとうございました。m(_ _ )m


少しでも面白いと思っていただけたのならば、書いた身としてはこれ以上ないほど幸せです。

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