Disc1/Track3:仮初めの友情と相互理解Feat.芹沢マミ
高校に入って早1週間。初日の入学式からサボってしまって出遅れたわたしだけど、意外と困りはしなかった。それなりに親しい友人も出来て、授業は――まぁさっぱりだけど、まぁまぁ楽しく過ごせてはいる。
部活動申請期間が今日から始まるから、今はどの部活が興味あるかだとか、どの部活は楽だキツいだなんて話で盛り上がってる。入学して初めての同性の友達、ユイちゃんが言うには、バレーボールは上下関係のない部活で練習もキツくないとか。
バレーボールにもそんな話題にも興味が薄いわたしは、同じクラスのある男の子を見つめていた。
四谷照くん。
偶然わたしと同じクラスだった照くん。音楽に深い興味を持つ人として仲良くなったわたしたちは、あれ以来あんまり話すことはなかった。
~Disc1/Track3:仮初めの友情と相互理解Feat.芹沢マミ~
でも。
正直言って、音楽に興味ない人と話していてもそんなに面白くない。友人関係も大事だけど、そればっかりに気を取られるなんてわたしらしくもない。
昼休みだというのに、お弁当を食べることもなく寝たフリをしている照くんの席に向かう。同じ派閥の女の子たちが驚いた眼でわたしを見る。
「照くん、ごはん食べないの?」
わたしが声を上げると、照くんの肩がピクリと震えた。小動物みたいにおどおどした表情で顔を上げる彼。わたしは、笑顔を意識したまま待ってみる。
「……空かない」
あまりにも小さな声だったから、聞き逃してしまった。
「え?」
「お昼はいつも食べないんだ、ボク」
かすれた声。合してくれない視線。きっと、わたし以外にも同じ反応をしているんだと思う動作。
わたしは、訊いてはいけないことを訊いた気がして、笑顔で取り繕った。
「そ、そっか。照くんは、何か部活決めた?」
「え、えっと……」
「興味ある部活でもいいんだけど」
「あの……」
明らかに困ったような口ごもり方。必死に答えようとしている口の動き。わたしが発言する度、また新たに口ごもる。
わたしが答えをせかし過ぎたんだ。わたし、眼を閉じて反省。照くんが答えてくれるよう、気長に待ってみる。すると、消え入りそうな声がわたしの耳に届いた。
「ない、かな……」
「え、ないの?」
口を開く代わりに、大きく頷かれた。うつむいていた顔が、更に下に動く。
わたしは、この学校の部活動を一通り思い返してみて、納得した。
「音楽関係の部活動がないから?」
さっきよりも大きな頷きが返ってきた。2人たちの間にまぎれ込んできた唸り声は、間違いなくわたしのものだった。
そう、この学校には珍しく音楽関係の部活がない。確かに吹奏楽部はあるんだけど、ギタリストの照くんとクラシックは相いれないものだろうし、ブラスバンドには弦楽器もない。照くんも興味ないのは当然かも。
でも、この学校はどこかの部活には入らないといけない。部活には入らないといけない。でも、部活なんてしたくない。そんな人のための部活動として、卓上ゲーム部と天体部がある。どちらも活動は週0という画期的な部活だ。
でもなぁ……
「ねぇ照くん。いっそのこと軽音部とか創ってみるとかどうかな?」
わたしの提案は、照くんの首が横に動いたことで却下された。ちょっと納得いかない。
「なんで? 部活ならバンドとか正々堂々できるよ? 文化祭でライブとかできるかもしれないし、ギターとかに興味ある人だって絶対――」
「いや、その……」
照くんの歯切れが更に悪くなる。なんだか申し訳なさそうな表情をしている。わたしは何か言いたさげな彼のセリフを、黙って待ってみる。
照くんは顔を上げて、でもわたしと眼を合わせないように、窓ガラスを見つめた。
「部活創るとか、その……体力が持つ気が……」
「あ、は、は……」
なんとも言い難くて、苦笑いしか出来なかった。
そういえばそうだった。彼的には恥ずかしい話だそうで、学校どころか外出もしない時期が長くあったらしくて、学校に来るのも一苦労だと言っていた。確かに部活を創ろうとしたら、生徒会や教員相手の交渉とか部員の勧誘とか、照くんからしてみればゴウモンにも等しい苦行をしなければいけなくなる。
だったら準帰宅部に入って、ひっそりとバンド活動をやった方がいい。というのはあり得る話だ。まぁ、バンドマンとしてはスゴく不向きな気がしなくもないけど。
なんとも言えない空気を吸って吐いている間に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。