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魔法屋ガトールークと姫の憂鬱  作者: ハモリナ
3/15

Ⅱ:悩める王女

ガトールークは、教会の裏口側から、入った。



呼んでみる。


「おーい、じいさーん」




返事はない。

それはそうだ。  

姫の相手をしているのだろうから。



ロコがガトールークの胴に飛びつく。

「ガトールーク、はやく!」


「え?

あ、ああ…」


礼拝堂に下りる階段はすぐ向こうだ。


歩むガトールークの脚は重い。



彼の腕の中で、ロコはにこにこしている。

「ガトールーク、きんちょうしてるネ!」


「そりゃ、そうさ」

ガトールークはため息をついた。  

「姫様が?

俺に用があって?

もうそこまでですさまじくおそれ多いのに、わざわざ教会まで来させちゃったってことだろ?  

どんな顔して出てったらいいのかわかんないよ」


「だいじょぶだヨ」

ロコが、自分のほっぺたを両側、ひっぱってみせた。

「にーってわらって、こんにちはーっていうんだヨ!」


「…そう、

…そうだよな」


ガトールークのこわばった肩から、少し力が抜ける。


ロコが満足そうに、うなずいた。




浮き彫りの装飾が暖かい、大きな木の扉。


ガトールークは、ひとつ深呼吸して、

… それを、押し開けた。



広い礼拝堂。  

見慣れた、ステンドグラスを透けた虹色の輝きが、わずかに残っていた、ガトールークの焦燥をしずめた。



祈りの間の中心にあるふたつの人影が、振り向く。



「何をもたついておったのじゃ」

ぶすっとしたジェニファントの声が、ガトールークの耳に届いた。

「早くこっちに来なさい」


ガトールークは、ためらいなく、列をなした長い机の合間をぬって、歩み寄る。



ジェニファントの向かいに座っていた彼女が、ブロンドの髪を揺らし、立ち上がる。



「こんにちは、姫様」

ガトールークは、会釈した。

「わざわざご足労いただいて、恐縮です」


「魔法使いさん、ご機嫌うるわしゅう」

フランメール姫は、薄紅色のドレスをつまんで、微笑する。


「先日、書物庫でお会いして以来ですわね」

「そりゃあ、俺みたいな一般人は、そういつも姫様にお目にかかるわけにいかないですから」

「あら、もっと遊びにいらして。

話し相手にちょうどいいんだもの」


ガトールークの腕におさまっているロコが、姫の方に体を向ける。


そして、口を開いた。

「ひめさま、たのみごと、それ?」


フランメールが、ロコに目をやる。


「まあ、かわいい。

お名前は?」

「ロコ!」

「ロコちゃんね。

あなたはうさぎさんかしら?

それとも、猫ちゃん?」


「あー…」

ガトールークが、口を挟む。


「聞いて驚かないでくださいね」

「ええ、大丈夫よ。

どうして驚くの?」

「ロコは、イエローホビットっていう魔物なんです」



「ええっ、ま、魔物?!」


後ずさるフランメール。


「別に何もしないですよ」

「で、でも、魔物って…」


ガトールークは、ふう、とため息をつく。

彼女に歩み寄り、その腕の中にロコを押しつけた。


硬直している姫。


その表情を見上げ、ロコは腕をばたつかせる。

「ひめさまー、たのみごと、なにー?」


「え?

ああ、そ、そうね」


彼女はこわごわと顔を上げる。



「わたしの話し相手になってというのもあるにはあるけれど、

…本当にお願いしたいのは、もっと大事なことなの」


「と、いうと?」

ガトールークが腕を組む。



姫は、少し沈黙し、



… 重たそうに、口を開いた。


「レードラント国王のガルシア様…

あのお方のことを、調べていただきたいの」



ガトールークは、つい数分前魔法屋で聞いた話が、こちらにも出てきたことに驚いた。

姫が縁談を拒んでいるというのは、どうやら本当のことらしい。



彼は、訊き返す。

「調べてほしい…ってことは、ガルシア様に何か怪しいところでもあるんですか?」


「いいえ、そうじゃないのよ。

…ただ…」

姫は、うつむいた。

「なんだか、気味が悪いの」


「気味が悪いって、たとえばどんなところが?」

「たとえばというか…

…雰囲気なのよ。

何がどうというわけではないのだけれど、

…ただ、なんとなく、わたしは、あのお方が怖いの」


「…怖い…か」



ガトールークは、魔法書を買っていったレードラント兵のことを思い出した。


もしかしたら、その恐怖感は、ふたりに共通するものなのかもしれない。


姫の言葉を丸飲みするなら、

…つまり、原因は、国王。


彼の裏側を探ってみる価値は、ありそうな気がした。





「ガトールーク、ガトールーク!」



ロコの呼び声に、彼ははっと頭を上げた。



姫の腕の中で、ロコが唇をとがらせている。


「ガトールーク、すぐぼーっとする!」

「まったくじゃ、目の前に姫様がおられるというのに、まぬけもいいとこじゃわい」


ついでにジェニファントにも責められて、ガトールークは苦笑する。


「仲がよろしいのね」

姫が、微笑んだ。


ガトールークはため息をつく。



…そして、

彼は、返した。


「わかりました、その王様、ちょっと調べてみます」


「本当?」

フランメールの表情が、ぱっと晴れた。

「ありがとう、これで安心して眠れるわ!」


「あのー、調べるって決めただけで、なんにも解決してないってこと、忘れないでくださいね」

「ええ、でも平気よ、気がかりなことを放っておくのが不安で、なんとなく休めなかったの。

寝不足だとお化粧の乗りが悪いから、助かるわ」


ガトールークは、尋ねた。

「王様が、こっちで何するかとか、わかります?」


「ええ」

姫はうなずく。

「レードラント国王は、今日からお城に滞在なさっていらっしゃるのよ。

明日はわたしと、明後日はお父様とお話しをして、その次の日には舞踏会が開かれるの」


「お話しっていうのは?」


「…多分、縁談のことだわ」


ロコが、声をあげた。


「ガトールーク、えんだん、なにー?」

「結婚しようかっていう、二組の家族の話し合いのことさ」

「わあ、ひめさま、けっこん?」

「まだ、そう決まったわけじゃないんだ。

お互いのことをよく知った上で、どうするか考えるのさ」

「ふーん、じゃ、おしゃれしなきゃネ!」

「ああ、そうだ」



ガトールークは、少し考えて、


…言った。


「…うん、

…俺、明日と明後日、王の周りを探りに城に行きます。

そのあと舞踏会に紛れて、直接接触をはかってみます。

それでなんにもなかったら、姫様の気のせいだったってことで、いいですね」

「ええ、もちろんよ。

雲をつかむような話で、なんだか申し訳ないけれど」


姫は頭を下げる。



────そのとき。



離れたところから響く、鐘の音。


城の時計塔だ。


ガトールークが直してからは、問題なく動いているらしい。

試運転もせずに稼動させてしまったが、経過は良好だ。



「まあ、もうこんな時間!」

姫が、口に手を当てる。

「お茶が始まるわ、すぐ戻らないと!」


ロコが、床に飛び下りる。

「ひめさま、いそいで!」


「姫様、こちらへ。

わしがお送りいたそう」

ジェニファントが、立ち上がる。


「ありがとう、ジェニファントさん」

フランメールは、老神父のあとについて、


…青年を振り向いた。


「ねえ」

「はい?」

「ロコちゃんが言っていたわよね…

あなたは、ガトールークさん、で、合っているかしら」


ガトールークは、彼女にしっかり名乗っていなかったことに、今さら気がついた。


「────ええ、そうです。

ガトールーク=リストクラッサです」


姫は、満足そうに微笑んだ。


「…魔物って、怖くないのね」

「ええ、もちろん」

「それじゃ、また。 よろしくね」

「…はい、わかりました」



フランメール姫は、ジェニファントに導かれ、廊下に続く扉の向こうに、姿を消していった。





ガトールークは、ロコを抱き上げて、ため息をつく。


「ロコ、なんか、すごいこと引き受けちゃったなあ」

「ガトールーク、たいへんだネ!」


ひとりと一匹は顔を見合わせる。



───────次の瞬間。



外に直接つながる、礼拝堂の扉が、音をたてて開いた。


ガトールークは、そっちに目をやる。



「ああ、だから押すなと言ったろう、セレスティーナ!」

「ご、ごめーん…

つい、面白くなっちゃって」



…フェニックスが、セレスティーナの下敷きになっている。



ガトールークは、歩み寄った。


「…何してんの、お前ら」


セレスティーナが起き上がる。


「えへへっ」

彼は、頭をかいた。

「ガトールークさんと姫様の話、盗み聞きしようと思って」


「最終的には耐えきれずに、扉の隙間から中をのぞいていたがな」

フェニックスが、白い法衣についたほこりをはらって立ち上がる。


「えー、フェニックスさん、そんな言い方ないでしょ!

フェニックスさんも興味津々だったし!」

「…

…それは…」

「ほら!

姫様に呼ばれたなんて、やっぱり気になるのが自然ってもんだよねー」


「盗み聞きって…

盗み聞くほどのこと、何もないだろ」


ガトールークの言葉に、セレスティーナは肩をすくめた。


「ほんとだよー、ガトールークさん、すっごい答え方さっぱりしてるんだもーん。

もうちょっと何かあるんじゃないかと思ったんだけどなー」

「無駄だ、ガトールークにそういうませたことはまだ早い」

「それもそっかー」


「…あのなあ」

ガトールークは眉を寄せる。

「…お前ら、俺が姫様をナンパするとでも思ってたわけ?

俺がませてるとかませてないとかいう前に、どう考えてもそういうポジションじゃないだろ」


「ええ?

でもー…」

「そういうのはかっこいい王子様たちに任せとけばいいんだよ。

はい、妄想終わり!」


ガトールークがひとつ手を叩いた。


セレスティーナが唇をとがらせる。



ジェニファントが、机に頬杖をついた。

「ついでだから言うがの、ガトールーク、お前もいい加減嫁くらいもらえ」


「無理だよ」

ガトールークは、椅子に腰かけた。

「見合いするにしたってまだ早いし、俺はしばらくこのままがいいな」


ため息をつくジェニファントをよそに、

…彼は、脚を組む。



「…さあて、すみずみまで城をかぎまわるには…」




自分は面が割れすぎている。

城内にいたら、間違いなく引っ捕らえられて、牢屋にぶちこまれるはずだ。


そうならないためには…


… 自分でなければよいのだ。


たとえば、城の兵士。


…変化魔法ですませられるだろうか。


あれには本来、鮮烈な、“像”が必要なのだ。

自分の中で細かいところまでイメージできないものに変身すると、たいがい中途半端に終わる。


誰かの姿を借りられれば一番いいが、友人に適当な兵士はいない。

できるだけ、単なる軍の一部分であり、目立たない立場がいいのだが。


その点、確かにセレスティーナは兵士ではあるが、彼に化けて行動するのは困難だ。

あまりに大きな存在すぎる。


まあ、姿見の前で微調整していけば、なんとか地味な兵隊らしくなれるだろう。




「─────うん、それでいこう」


うなずくガトールーク。



セレスティーナは、首をかしげた。

「それって、どれ?」


「またどうにかして城に忍びこむんだろう」

フェニックスは困ったように、笑った。

「捕まらない程度にしてくれ」


「わかってるってば」

微笑を崩さずに、彼は答える。



「ガトールーク、ガトールーク」

いつのまにか彼の頭にのぼっていたロコが、跳ねた。


「ガトールーク、かんがえごと、おしまい?」

「ああ、おしまい」

「じゃ、あそぼ!」

「仕方ないなあ、ちょっとだけだぞ!」




外へ駆け出ていった、ひとりと一匹の背中。



見送るセレスティーナが、口を開いた。



「…ねえ、フェニックスさん、聞いてよ」

「何だ」

「最近姫様、僕に会うと、いっつも、ガトールークさんの話振ってくるんだよ」

「ほう」

「絶対脈ありじゃない?」

「…何とも言えんな」

「そうかなあ、僕、絶対姫様はガトールークさんのこと気にしてると思うんだよね…


…ジェニファントさん、どう思う?」



ジェニファントは、

─────鼻を鳴らした。



「ま、なんにもないじゃろうな」


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