プロローグ:意志の力
魔法は、人間界では、普及していない。
しかし、普及していないというだけであるともいえる。
ときたま、魔法に目をつけ、手を出す人間も、まったくいないわけではないのだ。
魔法を使うために必要なもの。
まず、魔力。
これは、魔法の使用に際して消費される、体力のようなものだ。
種族差、また個人差はあるものの、誰の体内にも備わっている。
ただ引き出し方を知らないだけなのだ。
筋力と同じように、鍛えれば、伸びることもある。
ふたつめに、知識。
これは不可欠だ。
無論、いくら力があろうが、魔法それ自体の方法を知らなければ、なんにもならない。
最後に、
──────これが一番大切といえるかもしれないが、
… “意志”である。
もっと押し並べていえば、魔法の向かうところとなる、“目的”のことだ。
この“目的”は、人によってさまざまある。
“魔″法、という名のとおり、これは、魔界に息づく魔物たちが、古来より用いたものである。
魔物たちにとって、国家を治めるための権力は、強靭な魔力(ここでは、魔法を扱う能力・素質のことをさす)の所持、それに等しいといっても過言ではない。
しかし、人間社会において、そのような魔法統治国家は存在しない。
ならば、魔法はいったい何に使われるのか。
正義のため、とは語れない。
人間たちの、魔法に対する警戒心を考えれば、人助けのために魔法、などという浅知恵な勇士はいないだろう。
とするならば。
まず自らの欲望を満たす、という点では同じもののようだが──────
その支流は、くっきりと二分される。
ただ、興味関心のおもむくままに、探求する者。
そして、
─────己に、何者も逆らえぬほどの力をたくわえ、ついには、この世すべてを手中に収めんとする者。
この、誰の目にも明らかであるような差違を、多くの民はさとらない。
善人を悪人に、また欲望のかたまりを、万人の希望に見せるもの。
少なくともそれは、多くの場合、魔法でない。
たいがい、人々の思い込み────
つまりそれもまた、集団の“意志”であるのだ。