四話 雪国の思い出
数分後、なんとか意識を取り戻したアヤはみんなと一緒にソファーに座り、それぞれ自己紹介を始めた。
「では最初に私からさせて頂きます。初めまして皆様。美原実です。実と呼んで頂いて良いですよ。後ここの部長を任されております」
「で、次はウチね。アヤには言ったけど改めて、瀬川三咲よ。三咲で良いからね。ヨロシク!では次、君達の自己紹介ね。良かったら中学時代、何部だったかも教えて」
先ず先輩たちが自己紹介を始めて、次はアヤ達の番だ。
「ハ、ハイ…では私から。初めまして。八重木真琴です。中学時代は空手部に所属してました」
「俺は葉先良です。部活はしてません。実家が酒屋でその手伝いをしてましたから」
「最後に僕は樫代文月です。アヤと呼んでください。部活は何もしてませんでしたが、妖怪に興味があって色んなとこに行ってました。勿論この学校を受けたのはこの部に入るためです。よろしくお願いします」
それぞれ簡単な自己紹介が終わったとこで、真琴が先輩達の近くを漂ってる火の玉を指した。
「あの…それってどうやって動いてるんですか?火の玉の…玩具ですか?」
確かに傍から見ればこれが自発的に動いてるとは思うわけがなく、操作してるのではと疑うのも無理はない。
「この子は遊と申します。私達が最初に仲間に出来た妖怪なんです」
「妖怪……仲間?」
まだ信じられない顔をしている真琴と違い、リョウは興味をもっていた。
「スゴイですね。…まさか本当に居たなんて驚きです」
「まぁね、実際この子みたいな怪火は何処にでも居るから探し易かったのよ。あ、この子は人に危害とか加えないから安心して」
これで遊を含めみんなの自己紹介が終わったので、アヤはさっきの話題をミサキ先輩に聞いてみる。
「ところで遊の事なんですが、どうやって見つけたのか聞いていませんでしたよね?」
「おっと、そうだった。部長話しても良いよね、あの事?」
「えぇ、勿論よ。では皆様、今から教える事は他言無用でお願いします。もし今から話す事が公になれば少々面倒な事になりますので」
その言葉に三人共頷いた。それを見てミサキは窓際の席へ行き、机の引き出しからある物を持ってきた。
それは15センチぐらいの六角形の装飾された版の上に、紫色の半球が乗った、不思議な形をした物だった。
「…これは一体何ですか?」
「何か占いに使う道具みたい?」
アヤと真琴が口々に開くと、ミノリ部長が説明を始めた。
「これは“妖怪具現灯”と言います。これから発する光を妖怪が浴びると現実世界に存在することができ、私達にも見たり触れたりすることが出来るのです。又出現した妖怪を仲間にすることが出来ます。仲間にする方法は誓約の言葉乃至行動、もしくは意思疎通が図れた時に出来ます。」
「…そんなに簡単な事で仲間に出来るんですか?」
何か拍子抜けだなっと思っていたら、ミサキ先輩が苦笑いした。
「それが簡単じゃないんだよ。確かに遊を仲間にした時はそこまで苦労しなかったけど、他のはそうもいかないかもね。その理由は大きく分けて二つ。一つは妖怪が出現する場所を正確に把握すること。矢鱈滅多な場所でコレを使っても、妖怪自体が居なかったら全く反応しないからね。ちなみに光の届く範囲は最高で半径二キロで、それに比例して使用時間が変わってきてね、最大までだと12時間効力が持つよ。でもそんな広範囲は流石に手が回らないし、時間も限られるからそこまではしないけどね。
そして後一つが妖怪との意思疎通。これが一番厄介なんだよ。相手が人型だった場合はまだ言葉が通じるから楽だけど、妖怪の中には遊みたいな特殊型や他に動物型も居るからね。これに対してはホント難しいと思うよ」
なるほどと聞いていると、一つ疑問に思う事があった。
「その効力が切れると妖怪は消えて又道具を使って出現させるんですか?」
「それはですね、一回この光を浴びた妖怪は効力が無くなっても消えたりはしません。ただ厄介なのは行動範囲です。具現灯が作動している間は、発する光の距離の中でしか妖怪達は動けません。しかし効力が切れると何処へでも動けるようになりますから探すのも大変ですし、最悪人に危害が及びます。
その時の対処法としましてもう一度妖怪を見つけ出し、この具現灯を使うことで行動力を抑える事が出来ます。しかし一回使用した後は半日は動か無くなります。だからこの道具を使用する際は注意が必要です」
「それだと気性が荒いのや、動物系などは控えた方がいいかもしれませんね…」
もし僕達が誤って最悪の妖怪を出したら、手の打ちようが無い。これは気を付けなければ!とアヤは肝に銘じた。
「さて後一つ<とっておき>があるんだけど、それは又の機会として、次はアヤ、あなたの体験談を聞かせてよ!もしかしたら妖怪に会えるかもしれないし!」
「はい。良いですよ!では昔、丁度この季節に体験した事をお話します。でも十年前の話ですので記憶が曖昧な部分もありますが…」
「いえ、構いませんよ。こちらとしては少しでも情報があれば良いのですから」
「解りました」
彼は当時の事を思い出しながらゆっくりと話し始めた。
「うわぁ!雪だ!」
電車の窓から齧り付くように外の景色に目をやりながら感嘆の声を上げていた。今日は家族とみんなで田舎の叔父が住む家に一泊二日で遊びに行っていた。元々は父親の故郷で自家を継ぐはずだったが、都会に憧れて出てきたため、叔父がそこに残ったのだ。家に行くのは年に一回盆の時にお邪魔してるのだが、今年は父親の休みが取れたので初めて冬に泊まりに行く事になった。子供の僕にとって初めての雪だった事もありテンションは高かった。
「もう、あまり燥がないの」
「まぁ、良いじゃないか。初めての雪景色なんだ。騒ぐのも無理はないよ」
「今日はこの後どこか遊びに行くの?」
いつもは叔父の家に行くと、色んな場所に連れて行ってもらえるのが楽しみだった。
「否、このまま家で食事をするだけだよ。明日の朝には帰るし今回はどこにも行かないなぁ」
「えぇ~、そうなんだぁ…」
「我慢しなさい。又今度連れて行ってあげるから」
「…は~い」
せっかく雪が降ってるのだから、外に出て色々見て廻りたかったが諦めるしかなかった。
電車を降りたら叔父が車で迎えに来てくれていて、それに乗って二十分ほど走った場所にある家へと向かって行った。家に着くと家族と親戚の方達が僕達を出迎えてくれた。
その晩、大人達は飲めや食えやの大宴会を始めた。彼方此方から笑い声が聞こえ、賑やかな時間が過ぎていく。そんな中長旅だった事もあり僕は睡魔と闘っていた。
「あら、アヤ君お眠?それじゃあ、お部屋に戻ろうか?」
僕は頷き叔母の手に引かれ、部屋の布団へと寝かされた。両親はまだ飲んでいるだしく、一人布団の温もりに包まれながら眠りについた。
どのぐらい時間がたったのだどうか?ふと誰かの気配を感じ寝惚け眼で起きててみれば、枕元の近くに白い着物を着て、銀色の髪をしたお姉さんが座っていたのだ。肌が白く綺麗な人だったが、表情は寂しそうで虚ろな感じだった。
「お姉さん…誰?どうしてそんな寂しそうな顔してるの?…」
夢心地のままそう聞いてみると、お姉さんは驚きの表情を見せた。
「君…あたしの事見えるの?」
「うん…見えるよ。白い服来てて、銀色の髪をしたお姉さん…」
お姉さんはその言葉を聞き、今度はとても嬉しそうな顔をした。
「うわぁ、初めてあたしの事に気づいてくれる人が居た!ねぇ君、お名前は?」
「…文月だよ。みんなからはアヤって呼ばれてるけど、女っぽくって嫌なんだ…お姉さんは?」
「あたし?……あたしは訳あってね、名前はないんだぁ。」
「そうなんだぁ…。でもどうしてここにいるの?…この近くに住んでるの?」
お姉さんは少し答えづらそうだった。
「お姉さんはね…気づい時からこの家にずっといるの。ここから外に出ることもできず、ずっとあたしに気づいてくれる人を探していたの」
「…どうして外に出れないの?お姉さんってどんな人なの?」
「そうねぇ…。今の君に教えるのにはちょっと早いかなぁ。もう少し成長したらあたしの事、教えてあげるね」
「う~ん……わかった。……ふぁ~…」
色んな事を話していると又眠たくなってきた。
「あ、ゴメンねぇ。このまま眠っていいよ。…それじゃあ又、いつの日か会いに来るけど、その時にお願いがあるの」
「…な~に?…」
「こんどあったら…あたしと…ね…」
結局最後まで意識が持たなかった僕は、お姉さんが言った最後の言葉をハッキリと聞く事が出来なかった。
翌日、目が覚めた僕は昨日の夜の出来事を思い出そうとしたけど、結局ハッキリとは思い出せなかった。でもお姉さんの寂しそうな、でも最後は嬉しく楽しそうな顔だけは覚えていた。
すごく気になったのでその事を叔父に話してみた。
「お姉さん?この家にかい?ハハハ、居ないよそんな人。寝惚けてたんじゃないのかい?」
叔父さんは笑いながら答えた。他の人にも聞いたが誰一人解る人はいなかった。と、不意に父がこんな事を言った。
「アヤ、それは多分“妖怪”の仕業だ。良かったなぁ、滅多に会えるもんじゃ無いぞ!」
「…妖怪?」
「そう、妖怪だ。この世には不思議な人達や出来事がある。そういったモノ達を“妖怪”って言うんだ。覚えておけ」
父の言った“妖怪”の言葉を僕は何度も心の中で復唱した。
(…そうか。お姉さんはきっと妖怪なんだ。もしかしたら妖怪の事をもっと知ればお姉さんに会えるかも…)
その日を境に妖怪に興味を持ち、又この後も不思議な体験をする事になっていくのだった。
「というのが、十年前に遭った不思議な体験なんです」
(いつ以来かな。この話をするのは。)
真琴とリョウには一回話したから、二人は懐かしそうに聞いていた。
部長と先輩はというと、部長は何やら携帯を取りらし誰かと電話し始めた。先輩の方は本棚の所に行き、
「ねぇ、君の叔父さんの住んでるとこって何処?」
「新潟ですが…」
「新潟ね…とあった。場所をもっと詳しく教えて」
「矢麻深村って所ですが」
それを聞いた先輩が一冊の本を取ってきて何かを調べ始めた。覗いてみるとそれは地図のようだ。そして矢麻深村が見つかったみたいでそれを部長に渡し、部長はそれを確認しながら電話の相手に指示を出しているようだった。そして電話を切り僕に聞いてきた。
「今叔父様とすぐに連絡出来ますか?」
「は…はい」
「では今から電話をして聞いて欲しい事があるんです。二・三日以内に泊まりに行けるのかを」
「ヱ?何を言ってるんですか?」
「ほら、いいから電話、電話!」
何なんだ、一体?と思いながらも叔父に電話してみる。
「もしもし、アヤかい?久しぶりだね。どうしたんだ?」
「えっと、お願いがありまして。急なんですが二・三日以内に泊まりに行ってもいいですか?」
「又急だねぇ。…こっちは今大雪でね、来ても家に居る事しか出来ないよ。それでいいなら来ても良いけど、今回は一人?それともみんなで来るのかい?よく休みが取れたね」
「いえ、今回は親では無くてですね。え~と……」
何て言えばいいか分からず口篭っていると、部長が携帯を貸してくださいっと合図してきたので変わった。
「初めまして。私、美原 実と申します。実はお願いがりまして……」
部長は事の成り行きを淡々と話を始めた。
「ですので一度其方にお伺いしたいと思いまして、宜しいでしょうか?」
幾つか話し合った後、どうやら最後の交渉に入ったみたいだ。その後二・三話し、部長が僕に携帯を差し出したので電話を変わった。話しを終えた部長は今度は真琴とリョウに何かを聴き始めている。
「もしもし。一体何の話をしてたの?」
「うん、何でも部活動の一貫でこちらに来たいとの事だったよ。だから来て良いよって言っておいた。しかしアヤ、高校受かったんだって。良かったなぁ。おめでとう!」
「有難うございます…」
正直こんな状況だったので、微妙な返事になってしまった…。その後少し話してから携帯を閉じた。部長は又電話しているようなので、先輩に聞いてみる。
「ミサキ先輩、何か叔父のとこに行く事になってるんですけど?」
「うん行くよ。君の話聞いてたらチャンスは今しか無いからね!」
「…?真琴達は何を聴かれたの?」
「…え~と、それがね」
すると電話を終えた部長がこう告げた。
「では皆様、新幹線の予約が取れましたので明日出発しましょう!そして“雪女”に会いに行きましょう!!」
明日?雪女!?急展開すぎて頭が追いつかないアヤだった。
お久しぶりです。
今回県名はそのまま使わせて頂きましたが、村の名前は作者が決めました。実在しませんからね。
それにしても中々うまく書けませんね。ひょっとしたら誰も読んで頂いて無いかも?
でも書いたからには、きりの良いとこまではやりたいと思います。
文章力も表現力も下手な作者ですがこれかもよろしくお願いします。
それと、後書きは毎日は書きません。書きたい時に入れていきます。
では次回から“雪女編”始まります。宜しくです。




