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第一印象

短いですが…





 背中が冷んやりとしていて少し気持ちが良かった。



 首が少し痛い。それも鋭く刺すような痛みではなく寝違えた朝のようなそれだ。



 その痛みを紛らわせようと目を瞑ったまま寝返りを打ち――、



 「っ!」



 ――頬をつねられて一気に覚醒した。



 「こ、こは……」



 赤くなった右頬をさすりながら体を起こし、周囲を見渡して状況を確認。ゲームに入る前の自室、3712号室だ。ついでに気絶中の自分に情け容赦なく攻撃を加えてくれやがった犯人も発見した。



 そいつはすぐ近くにいた。すごく近くにいた。



 「やっと起きた」



 もっと正確に言うなら、不満げな表情を隠すことなく、寝転んだ俺にまたがって前傾姿勢で俺の顔に手を伸ばしていた。さらに付け加えるなら銀色の長髪は顔をくすぐってくるし、この姿勢だと制服の胸元が覗けそうになる。小さいとは言え膨らみがないわけではない。体に押し当てられている部位全部が女の子で、相応に柔らかい。



 「な――」



 視線に気がついたのか変態を見る目つきで睨み返してきたその少女は、どこからどう見てもアバターの娘だった。俺の妄想が形を成した、という。一番眼福なアングルから見てそうだったんだから間違いない。



 「どこ見てるの? ……変態」



 「俺まだ何も答えてないんだけど! いや違うよ違うからね? むしろ胸部的なところは一切眼中になかったからね?」



 「……むかつく男ね」



 「何で!?」



 その後も何故か両手で頬をつねってくる少女をどうにか説得し、とりあえず簡易ベッドに座ってもらった。話をするにせよ、さっきの体勢じゃ主に俺が冷静でいられない。あそこまで女子と密着するようなステキ体験は今までの人生にはなかったから。



 「えっと、まず訊くけど。何でお前がここにいるんだ? アバターが実体化するのはゲームの中だけじゃないのかよ? いや、そもそもゲーム内の存在が外に出てこれるわけ――」



 「質問が多いわ。……まあ、一応こういうのもアバターの仕事ってことにしてあげるけど」

行儀よく腰掛けた少女は本当にただの人間にしか見えなかった。外見が理想的過ぎて逆にそれが、というのはあるが、むしろ〝俺の妄想と完全に合致している〟ことを除けばアバターと判断する材料はないに等しい。動作も自然だし、表情も豊かだ。投げ出された足は芸術的というほかない。そこ重要。



 「じゃあ最後から」



 「ひねくれてるな」



 「良いじゃない順番なんて。――ゲーム内の存在が外に出てこれるかどうか。そうね、まずあなたは……あ、あなた名前は?」



 おとなしく本名を名乗る。真名だの何だの言っていたいわゆる中二病な時期が俺にもあったが高校受験の前くらいには脱した。ちなみに当然漢字にカタカナのルビだった。日本でアニメやら漫画やらがここまで流行っている理由の一つは、ひらがな・カタカナ・漢字の三種類を使い分けられる言語の特性だと言って良いだろう。



 まあそれはともかく。



 「――そう。悠介はこういう話を聞いたことはない? タクティクスは二次元と三次元を繋ぐパイプを開発しているっていう話」



 「いきなり呼び捨てかよ……」



 「……食い付くところはそこではないわ」



 ゲーム内では眠たげだった目元もここではそんなことはなく、銀色の瞳がしっかりと俺の目を覗き込んでくる。正面ストレート。こちらから逸らすわけにはいかないぐらい直球だ。

まあ質問に答えるなら、聞いたことはある。



 「噂程度なら」



 「充分だわ。その噂が真実だったということね」



 「……」



 まあ確かに、認める外ないんだろう。この少女の外見は間違いなく俺の妄想そのままで、しかもさっき咄嗟に作り上げたものだ。別に常日頃から思い浮かべてたわけじゃない。それがゲームのアバターとして設定されただけでも驚いたのに、寸分違わぬ姿で現実世界にも現れている。良く似た子を連れてきているだけ、というのはありえない。それくらいこの少女の輝きは半端じゃないのだ。



 「まあ……そうなるのかな」



 「意外と理解が早いのね。驚いたわ」



 当たり前のようにアクセントは前半にあった。



 「何で初対面から馬鹿認定受けてんの俺? ……てか、まあ」



 態度的には何か軽視されてるようで腹が立たないことはないのだが――別に悪い奴じゃなさそうだしな、と。だったらその言葉を最初から疑ってかかるのもどうかと思う。この少女が手に入れた意思というのがプレイヤー寄りなのかタクティクス寄りなのかそれとも完全に独立した自我なのかすら分からなかったが、それは基本的に障害にならない。



 何たって俺は詐欺師の言葉も簡単に信じちゃうような攻略難易度底辺な人間だからな



 「え? 今何か言った? 聞こえなかった」



 「何でもない。それよりまだ俺の質問は残ってるぜ? こっちはワケ分かんないんだから」



 無意識に言葉が漏れていたらしく、慌てて取り繕った。少女は不満げに口を尖らせているが多分デフォルトだから気にしない。不満げな口元、だって俺の望んだ通りなんだ。ただあのときはツンデレ期待だったわけだが、見ての通りデレてくれる気配は一向にない。



 後に期待だ。



 「じゃあ真ん中の。……これは三つ目とは違うのかしら? まあ答えるなら、実際私が具現化してるでしょ」



 確かにそうだ。後半二つの質問は重複している。まあ混乱状態で適当に言葉を並べていただけだからそういうこともあるだろうけど……何かが引っかかった。



 「ただし一つ。これは最初の質問の答えにも関わるんだけど。……ゲーム内ならともかく、ここでプレイヤーがアバターを呼び出すのは不可能よ。それが出来るのはアバター側から望んだときだけなの。ちなみにアバターはプレイヤーの居住する部屋の外には出られない」



 このデバイスにアバターを外に出すような機能は存在しないが、アバターが出ようと思えば普通にこの部屋に存在できる、というわけだ。



 「この部屋にしか、ってのは?」



 「私は生み出された存在だから良く分からないけど……多分さっき話した〝パイプ〟が原因ね。悠介の持っているデバイスもゲームで使うけど、本当の意味であのゲームと繋がっているサーバー的なものはそこの穴から伸びてるコードの先にあるのよ。だから実体化するためにはその近くにいる必要があるの」



 少女の白い指の方向を一瞬振り返ってから俺は、少し別のことを考えていた。



 さっきの質問には普通に答えてくれたが、今の返答ははぐらかされている気がしないでもない。色々話してはいるが、核心的な〝答え〟と呼べるものがないのだ。でも想像はできる。味蕾が死滅した口内と似たようなものだと絶賛された俺の頭でも分かるくらいに単純な話。



 そう。



 第一、第二の質問の答えは、〝出てきたかったから〟だ。



 あの天然石のアイテムがどれくらい流通しているのかは知らないし、他にもアバターが意思を持つようになるアイテムがあるのかどうかも分からない。ただそうやって意思を持ったアバターでもなければ部屋に出てこようという思考すら起きないだろう。そして自分で思考できる頭を持っていたとしてもゲーム内から出たくないと思えばそうすることも出来るのだ。



 さっき俺が気になったのはそれだ。俺自身は意識していなかったのに、少女はこっちの質問を三つと数えた。普通なら最後の二つは一緒にしてしまっても不思議ではない。そうしなかったのは、彼女の中でその二つは明確な違いがあったから。



 要するに〝できる〟と〝する〟の違いだ。確かにアバターは外に出られるように設定されている。だがそれだけでは出てくる理由にはならない。つまり、



 「……何よ?」



 つまり、今目の前で不満が積もってついに腕を組み始めた少女は、ここに出てきたかったからここにいるのだ。そしてそれを、意識してか知らずの内にか、隠そうとした。



 「いや……何でもない」



 言いながら俺は自然、笑っていた。



 ――理由は別に分からなくても良いかなと思ったんだ。



 真意は不明なものの、ここに来てくれたという事実に、くすぐったいような心地よさを感じていたから。


勉強する気になんないので小説を書いています


二学期あたりに志望校下げてる可能性もありますね…

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