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〝殴りこみ〟

今回は区切り悪かったんで短めです…



 

 

 「暑い!」



 電車から降りた俺を待ち受けていたのは、まだ五月だというのに夏日を連発するほどお盛んな太陽の光。新婚さんレベルの甲斐甲斐しさに思わず叫んでしまう。周りの目が痛い気がするけどそれも自意識過剰っぽくて更にイタい。とんだ二重苦だった。



 下校時と変わらない、というよりむしろ涼しくなっているくらいなのだが、若干冷房の効いていた列車内との温度差で必要以上に暑く感じる。節電だなんだといって結局室内であれば大抵涼しいのが日本の良いところであるのだが、それが裏目に出たようなものだ。



 ――委員長と別れたあと、俺は一旦家に戻ると、とりあえず必要に思えるものをバッグに詰めてすぐに行動を開始した。両親には「友達とキャンプに行く。しばらく帰らない」と書いたメモを残してあるが、あまりに唐突だし、そもそも親も俺に学校の友達がいないことは知っているため、かなり無理があるような気もする。まあいくら考えても名案なんか出てこなかっただろうからしょうがないが。……テニススクールの合宿とか? 出てきちゃったじゃねえか。俺ってば天才なんじゃねえの? ともかく。



 まず向かったのは自宅から徒歩七分くらいのところにある割と大きな駅だった。八番ホームから快速に乗り込み、揺られること一時間半。一度乗り換えてまた三十分。目的地――招待状に記されていた場所の最寄り駅に着くころには、太陽は既にほとんど沈んでいた。



 忌々しげに汗を拭いつつポケットから手紙を取り出し、もう一度日時の欄に目を通す。四月二十七日午後七時。つまり今日、それもあと一時間弱で辿り着かないと中に入れてはくれないということだ。そうなればこれを委員長に送りつけてきた輩も特定できない。遅れるわけにはいかなかった。



 「どっちだコレ……。俺、地図読めねえんだよ……」



 しかし汗ばんだ手の内にある簡単な経路図には目立った建物どころか方角すら記入されておらず、俺じゃなくても少し戸惑うようなものだった。地図というよりは数学の図形みたいな感じもする。加えて俺は根っからの方向オンチ。学校までの道を覚えるのに高校一年の最初の一ヶ月を丸々費やした男だ、委員長の付き添いがなければもう一ヶ月はかかったこと請け合いである。初めて訪れた街だと、最終的に交番を求めて歩き回る羽目になったりする。



 そして俺を含んだ方向オンチたちの習性として、



 「とりあえず、うん。多分こっちだと思う」



 確証もないのに、自分の現在地も把握できてないのに動き出してしまう、という厄介なものがある。でもまあ実際、近辺をくまなく調べる時間もない上に地図も曖昧な今の状況では、〝賭け〟も悪くない選択だったのかも知れなかった。



 何故なら――俺はその四十分ほどのち、ほとんど正規のルートで〝救済〟プログラム本拠地に辿り着いたのだから。突然地図が読めるようになったとかじゃない。途中で面倒になってポケットの中にしまい直していた。オカルトの類は積極的に信じるタイプじゃないが、それでも招待状が自分を誘導しているように感じた。怖えよ。夏だからってわざわざホラーテイストにしなくたって良いだろう。というか夏=怪談とかいう思考回路がもう訳分かんない。



 だが、自分がオカルトの世界に足を踏み入れたのではないか、と。そんな疑問は指定のビルに到達してより強くなった。



 ……見上げる。とてつもなくデカイ。というかこれはビルなのか? 地球外生命体的な技術が加わっているようにしか考えられない。もしくはアレだ、未来……何とかだ。

少なくとも俺の位置からはそのビルがどこまで伸びているのか確認できなかった。というか雲を突き抜けているからどっちにしろ地上からじゃ無理だろう。尋常じゃない。こんな高いビルが日本にあったのか? 


 いや、それより。



 「こんなのあったら気付かないわけないだろ……」



 地図には目立った建物は書いていなかった。だがこれほど高いビルがあればそんなものなくたって駅から、いや俺の部屋からだって正確な場所が分かったはずだ。だが、俺の記憶が正しければ、こんなビルを見たことは一度としてない。生まれてから一度も。



 気付くと圧倒されそうになり、思わず首を横に振った。強くだ。心のどこかにタクティクスを怖がっている自分がいる。それを振り払ったつもり。ポーズなら誰でもできる。



 着替える時間が惜しく、そのまま着てきた制服の内ポケットからケータイを取り出した。デジタルの時計は六時五十分を指している。デジタルなのに指している、ってのはどうかと常々思ってるけどじゃあ何て言ったら良いんだろう。まあとにかく間に合った。



 と、同時に目に入った今日の日付が記憶の中のある単語と結びついた。四月二十七日、委員長の誕生日だ。彼女の挙動不審さばかりに目がいって完全に忘れていた。一生の不覚だ。サプライズパーティーでサプライズさせてサプライズな表情をゲットしようと思ってたのに。



 「とりあえずメールしとくか」



 即興だけあってちょっとシンプルな文面になってしまったが、何もしないよりはマシだろう。帰ってきたら何かプレゼントを考えればいい。そう思って送信した。今は急ぎの用がある。



 「行くか」



 誰にともなく言い、俺は正体不明の巨大ビルに足を踏み入れた。




ありがとうございました。

次の次くらいでゲームが始まる…といいなあ

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