告白と別れ話2
「そこにいる奴。いるのは分かってんだから、さっさと出て来い。」
(やばっ・・・。気づかれてたのかな?)
今は二人しかいない中庭に風が吹き、銀杏の木の葉をさわさわと揺らしている。
聞かれたくない話だったのだろう。わざとではないとはいえ、聞いてしまっていたのは事実だ。
ここは謝っておくべきだろう。
そう思った私は、隠れていた木からその男の子―零夜と呼ばれていた男の子の前に出る。
そして、私は絶句した。
(すごくきれいな人・・・・。)
目の前の男の子は、とてもきれいな顔の持ち主だった。
精悍な顔つきに、漆黒の黒髪。すこし冷たいと感じる目つきはその風貌によく合っていた。
いわゆる美形というものだ。
あの別れ話のときは遠くて顔がよく分からなかったが、今ならはっきりと分かる。
面食いの香奈華ちゃんが喜びそうだ。
私は、さっきまで必死に考えていたどう謝ろうかという考えはどっかに消えてしまった。
「おい。」
「は、はい!?」
思わず見とれて放心状態だった私を現実に戻したのは、さっきより若干冷たさの増した声。
「な、なんですか?」
オドオドする私を一瞥した男の子は言った。
「さっきの見てただろ?」
(・・・やっぱり気づかれてたんだ・・・。)
別に怒るわけでもなく、観察するように見てくる男の子。
私はここは素直に謝るべきだと思った。
だから、
「ごめんなさい。聞いていました。すいませんでした。」
と言って謝った。
男の子は一瞬呆気にとられたような顔をした。
が、すぐに表情を戻すと、今度はニッとかすかに笑う。
まるで、獲物を見つけた狼のように。
「なぁ、あんたこの後暇なんだろ?」
(この後・・・・?)
この後は・・・・この後は!!
「ちょっと付き合っ「忘れてたっ!!!」
男の子が言い終わる前に私は言う。
「はぁ?」
不可解そうな顔をする男の子の声はもう頭に届いてなかった。
そんなことより、この後はバイトだ!!
何で忘れてたんだろう!?
急いで腕時計を見る。
すでにバイト開始時刻を5分は過ぎていた。
(店長に怒られる!!)
パニックになった私を、よく分からないっと言った顔で男の子は聞いてくる。
「おい、何なんだよ?」
私は、急いで説明をする。
「この後は、とっても大事な用事があるんです!!」
「・・・・。」
何故かだんまりとする男の子をよそに、私は一人でどんどんと話を進める。
「あの、そういうことなので帰らせてもらいます!!」
「はっ!?」
「今日はすみませんでした!お先に失礼します!」
「お、おいっ!?」
男の子の声がするが、この際無視だ。
心の中で、また謝っておく。
(ごめんなさい!バイトだけは遅れるわけにはいかないんです!)
すでに遅れてるけど、だからと言ってこれ以上遅れたらどうなるか分かったもんじゃない。
心の中でもう一度謝って、また走り始める。
追い風が、急げ急げと言わんばかりに吹いてくる。
この出会いが、偶然なのか、必然だったのかは神様以外分からない。
今回を書くのは楽しかったです。
これからはどんどん、及川君を出していきたいです。
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