告白と別れ話1
その日の放課後。
私は走っていた。全力疾走で。
なぜかというと、担任の先生の話が長引いたからだ。そのおかげで下校時刻が遅くなってしまった。私は、これからバイトがある。それもあと少ししたらだ。だから、走っているわけなのだ。
「はぁっ、はぁっ・・・。」
自然に荒くなる呼吸。私は、運動音痴なわけではないが、特別運動神経が抜群なわけではない。そこそこといったところか。そのため呼吸が苦しくなる。それでも走り続けなければならない。バイトに遅れることなんてできる訳がないから。
私は今、中庭を突っ切っているところだ。この道を通ったほうが正門に近い。急いでる私にとってその道を通ることは必然だった。
(楽しそうだな・・・・。)
グラウンドのほうからは、いろいろな部活の声だったり、あるいはボールを蹴る音だったりと実に様々な音が聞こえてくる。今は部活動中であり、みんな精を出して部活に取り組んでいる。今、部活をしていないといったら、部活動未加入者だけだ。
つまり私も、部活動未加入者である。バイトをしなければならないからだ。学校側に、バイトについての了承は得ている。まぁ、家庭の事情というものだ。学校側もそれについては認識しているので、バイトをすることを了承してくれた。私にとって、バイト代=生活費なわけでバイトなしに生活は成り立たない。
(私だったら、何部に入ろうかな?)
本当だったら、私も部活をやりたい。みんなと楽しみたい。でもそれができない。だから、ちょっぴりみんなが羨ましい。
そんなことを思っていたとき、視界に何かが引っかかった。
何だろう、と思ってそちらに目を向ける。
そこにあったのは、あの銀杏の木だった。そしてその木の下に二人の男女。
(告白・・・かな。)
今朝の雪乃の言葉が頭をよぎる。
『中庭のあの大きい銀杏の木の下がおススメよ?何でも、あそこで告白すれば恋愛が成就するってジンクスがあるらしいわ。』
・・・本当だったらしい。
噂はなめちゃいけないなと私は思った。
と、その時
「・・・ねぇ、零夜。C組の金森さんと付き合ってるって本当なの?」
女の子が言った。
この距離じゃ丸聞こえだ。
さっさと通り過ぎようと思ったが、今ここを通ればあの二人に気づかれてしまう。「空気よんでよっ!!」と言われそうだ。
(どうしよう・・・・。)
とりあえず、近くにあった木にこっそりと隠れるが今は急いでいる。バイトの時間が刻々と迫る。
焦る私をよそに、さらに二人の会話は進んでいく。
「噂で聞いたんだけど、本当に金森さんと付き合ってるの?」
「・・・だったらなに?」
「なに?じゃ、ないわよ!」
女の子が激昂する。
「零夜は私と付き合ってるのに!二股なんてサイテー!!」
・・・どうやら告白ではないらしい。どんどん雲行きが怪しくなっていく。
「ねぇっ!聞いてるの、零夜!」
女の子の甲高い声が中庭に響く。
「・・・で、何が言いたいわけ?」
対する男の子は妙に冷めた声で返す。
「ひどいわっ!二股するなんて・・。もう零夜なんか知らないから!!」
「あ、そう。」
男の子が引き止めるわけでもなく、ただひょうひょうと返す。
女の子は、しばし男の子に目を向けるが自分を引き止める様子がないとわかると、「サイテー!!」と泣きながら中庭を去っていった。
(いやなところ、聞いちゃったな・・・。)
告白どころか別れ話を聞いてしまうとは。
雪乃さん、あの銀杏の木の噂は嘘みたいですよ?
実際、私が聞いたのは別れ話だったのだから。
わざとではないとはいえ、聞いてしまったのは事実なので心の中であの男女に謝っておく。
(盗み聞きしてごめんなさい!!)
そして、時計をみる。
もうバイトの始まる時間の直前だ。あと5分もない。
(これはもう間に合わないな・・・・。)
もともと間に合うかは微妙なところだったし、後で店長に謝っておかなければ。
そう思って、また走り出そうとした私に、
「おい。」
声がかけられる。
それはまさしく、あの二股男の声だった。
やっと及川登場!!
だけど、初っ端から二股男です・・・。
でも、やっとここまで来ました。
次の回を書くのが楽しみです。
読んでくださった方、毎度ながらありがとうございます!
更新が遅れがちで申し訳ありません。
できるだけ早めの更新を心がけます。