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あっぷる×ハート  作者: なか卯
7/8

伝えたい気持ち。

一人で留守中の夏海はキッチンに立っていた。

向かい合って感謝の気持ちを口に出すのは恥ずかしい。

だから、せめて疲れて帰ってくる敏之に美味しいものを食べさせてあげようと自分なりに考えた。

メニューは昔、洋風も得意なおばあちゃんに教えてもらった、自身も大好物のナスのグラタン。

味付けは会心の出来。

喜ぶかなとドキドキして、帰りを待っていると玄関が騒がしくなる。

帰ってきた!!

待っていたのを悟られないように、もう寝るといった感じにあくびするふりをして廊下に出ると・・・敏之の他に見知らぬ二人が・・・。

「た、ただいま。」

「お、おかえり・・・」

そのやりとりをニヤニヤ眺めていた二人は、私を改めて見ると「はじめまして」と言った。


「と、言うわけで、高橋龍馬と中野唯香な?」

中に入って敏之が説明を終えると、よろしく〜と手を振る。

「は、はい。」

「それにしても・・・夏海ちゃん超可愛い〜!!」

ギャルっぽい綺麗なお姉さんにいきなり抱きつかれ、どうしていいのか。

「うん。確かにすげー可愛い。」

色黒のお兄さんも私を凝視している。

当の私は横浜の人はやっぱり垢抜けているなと思ったり。

その後みんなはビールを開けて、バイト先の話題で盛り上がり始める。

三人はすごい仲が良くて、私はトイレに行くと言ってその場を抜け出した。


・・・はぁ・・・気まずい。

「敏之の馬鹿。」意味もなくそう呟きながらトイレを出ると、タイミングがいいのか、悪いのか、リビングから当人が出てくる。

何でだかドキっとしてしまい、横を無言ですり抜けようとしたが、結局うまくいかなかった。

「夏海、ごめん!」

「へ?」

なんで謝るのだろう。理由が分からずポカンとしていると「連絡も無しに友達連れてきちゃって」と顔の前に手を合わせる。

その言葉を聞いて、思わず顔がニヤけてしまう。

それは、なんだか大事にされているのが伝わってくるから。

「別にそんな事いいよ。」

そうそっけなく言って、部屋に戻った。


ちょっぴり上機嫌で居間に入ると、龍馬君が腹減ったと騒いでいる。

このままでは食べられてしまう・・・危険を感じてさりげなく料理を棚の奥に隠しこむ。

秘密工作をしていると唯香さんがなんと、鍋をやろうと言い出した。

戻ってきた敏之も賛成し、トントン拍子で準備が・・・。

私も私で、冷蔵庫の有り合わせだけどと野菜と肉を土鍋に流し入れる。

まずい。料理・・・どうしよう・・・。

グツグツ煮えたぎる鍋と、みんなを前に言い出すわけにもいかず、しょうがなく箸を進めた。


「うん!美味かった。やっぱ冬は鍋だよな。」

みんな満腹といった感じで、床に寝っころがる。

ふぅ・・・料理は明日、敏之が出かけた後にこっそり食べて隠蔽しよう。

なんだか悲しい話だが、夕飯を用意していた事が今更バレて、笑われるよりはましだし・・・。

「よし、食うだけ食ったから帰るか。」

そう言って、のそのそ二人は玄関に。

「お前等、後片付けくらいしてけよ!?」

敏之の文句を無視して、「またねー夏海!」と逃げる様に帰って行った。

「あいつら全く。」

不機嫌そうな声でつぶやくと、台所へ行こうとするが・・・ちょっと待った!

「いいよ、私がやるから?」

もし棚を見られて、隠している物が見つかったら目も当てられない。

「いや、でも結構量あるぞ?」

大丈夫と背中を押して、強引にソファに座らせる。

バイト帰りだしくつろいでてと、なんとか誤魔かすと台所に近寄らせない為にさっさと洗い物を始めた。


「ふぅ。」

食器を全て流し終え、ホッとしていると「なんだこれ?」と横から一声・・・。

嫌な予感がして見ると、ギョッとした。

「グラタン?」

どういうわけか、棚の奥から料理を取り出す敏之。

一体、何時の間に!?しかも何でそこを・・・。

「な、何それ?あ、ああ、それ何?私じゃないからね!」

動揺してかなり意味不明な事を口走っている。

しばらく怪訝な顔で私を見つめていたが、これお前が?とストレートに尋ねてきた。

言い逃れできないと諦めると、とんでもない恥ずかしさに襲われる。

逆ギレというか、一人ギレというか、とにかく八つ当たり以上の理不尽さだろう。

「そ、そうよ。悪い?何か文句あんの?一々、一々細かい男だは全く!」

心底自分のひねくれた性格が嫌になる。

ただ食べて欲しいと一言言えばいいだけなのに、何でそんな簡単な事が出来ないのだろうか。

だけども、敏之は憂鬱な私に「うるせーな」と返した後、おもむろにグラタンを食べ始めた。

「ちょ、ちょっと?食べたばっかなのに無理しなくても!」

「うん。スゲーうまい!」

「へ?」

パクパクと、あっという間に完食すると、ごちそうさまと言ってリビングを出て行く。

「な、何なのよ馬鹿。」

口ではそんな事言っているが、うまい!との感想で、今にも飛び跳ねて喜びたいくらいだ。

気を遣って食べてくれたのか、普通にお腹がまだ空いてたのか分からないけど・・・・。


自分でほっぺを引っ張って真顔に戻そうとするが、どうしても口角が上がりニヤニヤした顔になってしまう。

むむむ・・・私が馬鹿みたいじゃん。

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