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あっぷる×ハート  作者: なか卯
5/8

絆の芽生い。

「はぁ、はぁ・・・くそっ。」

夏海のおばあちゃんの話を聞いて、家を飛び出した。

夜の街を走って走って・・・。

多分、夏海がいるのはあそこしか無い。

いや、頼むからそこにいてくれ。


夏海の両親の事ですがーーー


夏海が家を出たその理由。あいつ、だからあんなに親の事を・・・

周りの目も気にせず、全力でショッピングモールの通路を走り抜けた。

裏口の扉を押し開け、あの薄暗い路地にでる。

実際はとても急ぎたいが、何一つ見落とさないようにと、周りを良く確かめながらゆっくりと進んで行く。

しばらく歩くと、多分前と同じ位置、夏海はそこにまた体育座りしていた。

「夏海?」

声をかけると顔を上げて「敏之?」と返事をする。

よっぽど驚いたのだろう。「何で!?」と、裏返った声がでた。

「携帯・・・忘れてたぞ?」

「あ、忘れてた・・・そ、それじゃごめん。この後待ち合わせだから・・・」

差し出した携帯を受け取ると、逃げる様にその場を立ち去ろうとする。

待ち合わせなんか無いのに。

「おい待った。お前の・・・」

おばあちゃんから親の話は口止めされていたのに、思わず口が滑りそうになった。

「何よ?告白でもする気?」

暗がりで表情は分からないが、クスリと笑い声が聞こえる。

相変わらず人を小馬鹿にした様な奴だけど、なんだか嬉しくて。

「違うっての。・・・だから、そ、その・・・帰ろうぜ?」

「へ?」

「お、俺の家に・・・」

暗がりで本当に良かった。多分、今顔真っ赤のはず。

「だ、駄目、行かない。」

「何でだよ?」

「べ、別に理由なんかない。」

頑なに意地を張る夏海にため息が出ると「お前のおばあちゃんに任せられた。」と明かした。

「おばあちゃん!?」と聞き直すと、元気だったとか、何を言ってたとか質問攻めにあう。

それにしても普段二人は話していなかったのだろうか。

夏海の反応は思いもよらなかったが、元気そうだったし、お前を心配していたと伝えると、よかったと何度も繰り返す。

「それと、お願いもされた。しばらくお前の面倒をみてやってくれって。」

「大丈夫だって、おばあちゃんも心配症だな〜」

家も仕事も無いのに大丈夫なわけがないだろうと促すが、何とかするから平気だと言う。

全く勝手な人だ。さっきまでは嫌でも住もうとしていたのに・・・今度は嫌でも住まないらしい。

これじゃあなんだ、まるで俺がしつこくナンパをしているみたいだ。

「こっちに友達なんかいないんだろ?今日の住む場所もないじゃんか?」

図星だったらしく、「おばあちゃんめ」と恨めしそうな声を出すと、何か決意をしたのか、うんと頷いた。


「いい加減ウザいのよ・・・私は一人がいいの・・・これからずっと・・・」

それだけ言って、夏海は背を向けて歩き出す。

敏之は何も言わない。

それは諦めたからではなく、考えていたから。

夏海の事は、はっきりいってあまり知らない。

だけど、少しではあるが知ってしまった・・・彼女がたった一人で家を出て、ここにいた理由を。

何を言おうと決めたのでも無く、自然と思いのたけが漏れた。


なに1人で強がってんだよ・・・お前には・・・


「お前には、ちゃんとした居場所が絶対に見つかる・・・だから・・・だからそれまでは俺を頼れよ!」



こいつは本当に何なんだろうか。

夏海は後ろで馬鹿みたいに大声をあげる敏之の、歯の浮くような恥ずかしい言葉に何故か立ち止まってしまった。

本当に、本当に馬鹿だ。

私なんかほっといてと、はっきり言ったのに。

それなのに、何でそんな風に言えるのだろう。

全く根拠の無い、かっこだけつけた様なセリフ。

お前の居場所は絶対に見つかる・・・

しかも見つかるかどうかも分からない、『それ』が見つかるまで自分を頼れと言っている。


私が家を出てから今まで、辛い日々を支えていた決意をまるで、そんなの知ったこっちゃ無いと言っているふうに聞こえる。

何も分かってないくせにと腹が立つ・・・


でも・・・なんで・・・涙が溢れてくる。


敏之は私の元へ歩み寄ると、困ったのか頭をかく。

それでどもりながら「帰るぞ」と言う。

私は最後の抵抗と頭を大袈裟に振ったが、手をギュッと掴まれるともう反抗出来なかった。


無言の敏之に手を引かれ、夏海も素直に帰り道を歩き出す。











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