謎の少女
すいません。二部勝手にいじくっちゃいました。
多少の食い違いがでるはずです(笑
「すいません・・・はい。失礼します。」
バイト先に今日も行けそうにない事を電話で伝え終えると、憂鬱で携帯を放り投げる。
長い事お世話になっているところだから何とか許してもらえたが、迷惑を考えると深いため息がもれた。
それでも申し訳ないが、今、家を離れるわけにはいかないんだ。
いい様に入り込まれてしまったが、その上に好き勝手やられるのはいくらなんでも我慢できないし。
リビングで一人、決意を固め廊下に出る。
あいつはテレビに飽きて、だいぶ前に寝室に上がっていった。
二階は使用禁止なんて冗談じゃないと、眉間にシワを寄せて階段を登り進む。
親の寝室の前で立ち止まり、ドアが壊れるのではないかというくらい勢い良く開け放つ。
昨日から今までの言いたい事を全て言ってやろうと、威風堂々と部屋に踏み込む・・・が。
「・・・ん?」
夏海の神妙そうな声を聞いて、状況が飲み込めず目を細めて前かがみで凝視する。
なんと間が悪いのか、まさに着替えの最中だったのだろう。
入り口に背を向けているが、上半身は生まれたまま、下半身もパンツを脱ごうと手にかけている瞬間だった。
しばらく見つめ合い、少しの静寂が流れる。
「・・・え、あ、な、え?・・・うわぁぁぁぁぁ!!!」
目の先がどうなっているか理解すると、途端に顔が急激に熱を帯びて炎上していく。意外な事に夏海も耳まで紅に染めてパニックになり、その場に尻もちをついてしまった。
「みみ、見るなぁ〜!!!!」
「ご、ごめん!ごめんなさい!!」
さっきまでの威勢はどこにいったのやら、オドオドしながら部屋を出ようとノブをとるが、手で胸まわりを覆い隠し、目にいっぱいの涙をためて弱弱しい声をあげる姿に反応したのか、鼻から出てきた赤い液体が床にポタポタ滴り落ち始める。
「ん・・・うぉ!?なんだこれ?鼻血だ!!」
手で鼻を抑えて、必死にティッシュを探すと夏海の後ろの棚に乗っかっていた。
「ちょ、ジロジロなに!?」
早く詰めて止血しなければと、血まみれになりながら小走りで夏海の方へ。
「ひぃっ!!く、来るなぁ!!!!」
勘違いしても無理は無い。身の危険を感じて手元にあった薬瓶を精一杯の力で敏之に投げつける。
「バキッ!!!」
瓶は額を直撃して床に転がり、敏之も「んが!」と鈍い声を出して倒れこんだ。
「イタたた・・・」
頭の痛みで目を覚ますと、何時の間にか自分がフローリングで這いつくばっている。
「む〜起きた?」
不機嫌そうにベットの上から夏海が睨みつける。顔は今さっきの事のせいなのか、ちょっぴり赤い。
慌てて体を起こして、ここに来た目的を思い出した。
いくらムカついていたとはいえ、ノックもせずに女の子の部屋に押し入った事は、この際無かった事と誤魔かして無理に怒り始める。
「お、おい、お前。いくらなんでもリビングだけは無理だ!住ませてもらうのに調子にのるな!じゃないと、そろそろ俺もキレるぞ!?」
間が空いた後、なんでか目をまんまるにしていたがもう限界といった感じでムフっと吹き出し、ゲラゲラ腹を抱えて転げ回る。
「な、何だよ?馬鹿にしてんのか!?」
「ハハハっ、敏之、鼻血拭きなよ、国旗みたいだよ?」
こ、国旗??
指摘されて鏡台を覗くと、鼻を中心に綺麗に丸く血が広がっていて確かに日本の国旗そのものだった。
「アッハハハハハ!!死ぬ!笑い死ぬ!」
ベットの上で悶えているのを無視して、これは話どころでは無いとティッシュを乱雑に取り出し血を懸命に拭う。
いったいどうやったらこんな芸術的な鼻血になるんだ・・・?というか、出血量半端じゃないよな。
奇跡ともいえるレベルの怪奇現象をじっと眺めて、自分でも笑ってしまう。
「いいよ。」
「へ?」
何ともマヌケな声が出た。
それが夏海は、さっきの要求に答えたらしい。しかも、いいよと。
「あれ・・・いいの?」
いや、そりゃあもちろんどんな手を使ってでも、承諾はさせるつもりだった。
けれどもこんなに簡単にいってしまった事に逆に拍子抜けしてしまう。
「うん。」
「な・・・なんだ。・・・なんだそっかあ!そうだよな。お前も話せば分かるよな!」
晴れ晴れとした気持ちになり部屋を出ようとすると、「でもね?」と余計な一言が耳に入る。
そのまま聞こえないふりをして行ってしまおうとしていたが、パーカーのフードを掴まれ首になかなかの圧力が。
「ゴフッ!・・・何すんだ、危ないだろう!」
「話はまだ終わってない。」
「・・・」
と、いうわけで再び部屋に戻された。
位置関係は何故か自分はフローリングの上に小さく正座しており、夏海はベットの上で片膝たてて偉そうにしている。
当たり前に腹が立つが、1番ムカつくのは言われるがまま素直に正座した自分だった。
しかも足の甲が地味に痛む。
「それじゃあ、話の続きね。」
「・・・ああ。」
嫌々な声に「んんッ?」と反応するが、まぁいいやといった感じで話に戻る。
「さっき、玄関の手前にいい部屋を見つけたの。」
玄関の手前?長年この家に住んでいるが、一階はリビングと洗面所、風呂場やトイレがあるだけで他に部屋は無いはずだ。
冗談でも言っているのかと言い返そうとすると、夏海はふわりと立ち上がり「ついて来て?」そう言って部屋を出る。
よく分からないが、とりあえず言われた通りに後ろについて行く事にした。
下に降りて、玄関の手前でとまると、「ここ!」と言って下駄箱の横の二枚扉を指差す。
「へ?」
驚くのにも無理はないはず。広さこそあるが、そこは明らかに物置だと見れば分かる。というか物置だ。
「へへへ、なかなか良さげでしょ?たまたま見つけたんだ。・・・コンセントもあるし、裸電球もついてるんだよ?」
笑顔を浮かべ、自慢気に倉庫の説明をし始める。もしかして、本当にここは物置だと分からないのだろうか。
「ここ物置だぞ?頭大丈夫か?」
予想以上に頭がおかしかったのではと、心配になった。
「そんなの見れば分かるでしょ?馬鹿な事言ってないで、掃除しないと。ホコリ凄いから手伝ってあげるね。」
飽きれた様に言い返し、あたかも自分はとっても良心的な事を言ってる風なそぶり。
「・・・おい、チビ。」
遂に堪忍袋の緒がキレて、夏海の顎まわりを鷲掴む。
突然の事に「む〜!」と声をあげたが、そのまま両頬を上げて、オタフク顏にしたり、唇に皮を集めてタラコにしたり。
「や、やめろぉ!」
ジタバタと必死な抵抗をするものの、無視してホレホレとほっぺたを引っ張り回す。
「ふゎ、わかっふ。ごへん!もう一度、はなひ合おう?」
喋りづらいのか、声が変にこもって何言ってるのか、まるで分からない。
こんなもんじゃ到底怒りはおさまらないが、ほっぺを弄くるのも飽きてきたので、手を離した。
手が離れるのが分かると「全く酷い目にあった。」なんてボヤいて、少し腫れた自分のほっぺを撫でまわす。