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蠍座の少年と退魔の血族  作者: 蒼山奇々
第壱話 蠍座の少年
5/10

1-5 油断大敵

 ドアを開けた先にあったのは迷い込む前の商店街でもゲームショップでもなく、周りを木々に囲まれた寂れた空き地だった。

 

 出口といえど、入り口と同じ場所に出るわけではないらしい。


 そしてもう一つ、異なる点があるとすれば。


 空き地では軍服を着た屈強な大人たちが、僕らに剣を向けて周りを囲んでいる事だろう。


 恐らく彼らは日野さんと同じ退魔士だ。


 なんでこちらに剣を向けているのかは分からない。質問しようにも一言でも喋れば喉を掻っ捌かれるような威圧感があった。


 どうしようかな……。


 僕が頭を悩ませていると、背中から声が張り上げられた。


 日野さんだ。


「何だこれは!? お前たち何をしている! 一般人にその剣を向けるなどと! 恥を知れ!!」


 日野さんの言葉にたちろぐ退魔士たち。


 けれど引く様子はない。


 そんな退魔士達の隙間から、ゆったりと歩いてくる男の姿が目に入った。

 

「――そう怒らないでほしいものですね、日野殿」

「貴方は烏丸(からすま)殿! これは貴方の指示か!?」


 日野さんの言葉に飄々とした男ーー烏丸さんは苦笑いを浮かべた。

 

「いやいや、違いますよ。僕よりももーっと上の指示ですとも。ともあれ、これではまともに話すこともできませんね。……お前たち剣を下げなさい」

「しかしこれは九条(くじょう)様のご命令で……」

「まあまあ僕が責任を取るからさ、ね?」

「はっ……」


 烏丸さんの命令によって、僕の首に向けられた剣先は下げられた。


 それでも周りを軍服の上からでも鍛え上げれているのがわかる大人達に、囲まれているのは落ち着かなかった。


 それに、だ。

 

 そんな人達を動かす力を持つこの男が不気味でならない。


 周りと変わらない軍服姿であるのに、その上に黒いコートを纏い、胸あたりには輝くバッジを二つ付けて、整った顔立ちに、モノクルをかけた男。


 一見、美形だ。


 しかし、目の下の隈がそれを台無しにしていた。それにどよんとした雰囲気も纏っていて、どうにもそれがアンバランスに感じて仕方がなかった。


 ひとことでまとめるなら、不気味で胡散臭そう。

 

 そんな烏丸さんは僕に話しかけてくる。


「驚かせてしまってすみませんね。我々も機関の人間なので、上の命令には逆らえないんですよ。ねえ、日野殿?」

 

「それはそうだが……。この少年は私の恩人であり、マガツヒ討伐の功労者なのだ。そこの所を考慮してもらいたい」

 

「もちろんですとも。ですので、貴方には安心して治療を受けて頂きたい」


 そういって烏丸さんはにこにこと笑いながら、後ろにいる部下らしき人に命じる。


 すると、背負っていた日野さんは僕から引き剥がされ、担架に乗せられてどこかへ連れて行かれてしまった。


 日野さんは最後まで僕に変なことをしたら許さないぞと烏丸さんに脅しをかけていた。

 

 烏丸さん怖いですねと笑うのみで、全然怖がっているふうには見えなかった。


「さてと、これで貴方とお話しができますね」

 

「……お話し、ですか」

 

「おや、怖がっていますか? そりゃあこんなごつい大人達に囲まれながらとなれば、怖いですよねえ」


 いや、貴方が怖いです。


 とは言えないので僕は頷いた。

 

 烏丸さんはそんな僕にそうですよねえと何度も頷くと、場所を変えましょうと提案してきた。


 たしかに僕も色々と限界が来ていた。あの高揚感も全能感も無くなり、気を抜けば倒れてしまいそうだった。

 

 マガツヒの炎で焼かれた全身の皮膚もじりじりと痛みが増してきている。


「では、こちらです。っとその前に剣をこちらに預けて貰ってもいいですか?」

 

「え、はい」


 僕は手に巻きつけていたハンカチを取って、剣を烏丸さんに差し出した。


 相当な量の血を吸ったのだろう。


 ハンカチは真っ赤に染まり、取るときにはパリパリと乾いた音がした。


 剣にも血がべっとりと付着している。


 もう翡翠色のあの美しい光がさすことはない。

 

 何が楽しいのか、烏丸さんはその様子を笑いながら見ていた。


「ふふふっ、ありがとうごさいます。では、行きましょうか?」

 

「あの、行くってどこに?」

 

「どこって霊災対策機関四国支部ですよ?」


 当然でしょうみたいに言われても、その機関なるものが何なのか僕には分からない。


 説明を求めようにも、周りからの早く行けという威圧感が凄く、僕は渋々烏丸さんの後についていくしかなかった。


「さあ乗ってください」

 

「おお……」


 少し歩くて、空き地の外。

 

 そこにあったは黒塗りのリムジンで、これがまた綺麗にコーティングされていて、美しい輝きを放っていた。


 車が特に好きというわけではないけれど、これは見惚れてしまうのも許してほしいと思う。


 だってリムジンだ。そのだけで充分な理由だろう。

 

 僕は少しだけ緊張しながら、烏丸さんに促されるままに、そのリムジンへと乗り込んだ。


 内装も外装と同じく黒を基調としていて、さらに驚いた事に中に冷蔵庫があったことだ。


 僕が目を点にしていると、烏丸さんが中身を開けて見せてくれた。そこにはぎっしりと栄養ドリンクが詰められていた。

 

 何だかちょっと闇を感じてしまった。


「私って色々と忙しい立場でしてね。この栄養ドリンクが命綱なんですよ」

 

「にしても多いですね……」

 

「良ければ一つどうですか?」

 

「え、いや結構です」

 

「そう遠慮せずに。飽きが来ないように、色んな種類の栄養ドリンクを取り寄せていますし、珍しいものもあるんですよ。ささ、どうぞどうぞ!」


 烏丸さんの強引な押しの前に僕の抵抗は無力だった。


 冷蔵庫にあった栄養ドリンクの一つを渡される。

 

「はあ……、ありがとうございます」


 さあさあ一気に飲んでくださいと煽る烏丸さんに言われるがまま瓶の蓋を捻る。


 しゅわっと音がして、ラムネの匂いが車内に広がった。


 たしかにこれは美味しそうだ。


 ……こんな胡散臭い人から渡されるものなんて、普段なら絶対に受け取らないはずなのに、僕はなんの警戒心も抱かずに、一気に飲み干した。


 炎だらけのあの環境にいて、喉が渇いていたのは事実であったけれど。


 これはおかしいと気づく頃には全てが遅かった。


「あれ?」


 ことんと、手から瓶がこぼれ落ちる。

 

 栄養ドリンクを飲み切った瞬間、僕を急激な眠気が襲った。脳の働きが低下し、目をまともに開けていることさえできない。

 

 なんですかこれと烏丸さんに聞こうとした時にはもう、僕の意識は暗闇の中へと沈んでいる。

 

 最後に耳に聞こえてきたのは、


「こんな簡単な術に引っかかるとは、やはり子供は純粋で騙しやすくていいですね」


 と笑う烏丸さんの声だった。

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