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人類存亡の危機

作者: 古数母守
掲載日:2026/04/03

 それは突然の出来事だった。世界の主要都市は皆、巨大な円盤の影に覆われた。人々は戦々恐々としていた。まもなくあの円盤の中心からビームが照射されて、都市は粉々に破壊されてしまうに違いなかった。科学力の差は歴然としていた。人類は太陽系内の惑星や衛星に小さな無人の探査機を飛ばせる程度の文明に過ぎなかった。それに引き換え彼らは恒星間航行可能なあの巨大な円盤を作り上げる程の科学技術を持っている。私たちの武器は彼らにはまるで通用しないだろう。彼らがそうしようと思えば、いつでも私たちを滅ぼせるだろう。そして私たちは彼らのすることをじっと待っている他、することがないのだ。

「地球の皆さん」

ある日、円盤から声が響いた。いよいよその時が来たのかと人々は考えた。今まで地球の言語を解析していたのかもしれなかった。ひと思いに踏み潰してしまえば良いものを、これから攻め滅ぼす相手に語り掛けてどうするつもりなのだろうと人々は思った。

「申し訳ありません。地球の女性たちを私たちに譲ってください。私たちの星で不幸な出来事があり、女性たちがことごとく死んでしまったのです。私たちの種族が生き延びるためには地球の女性が必要なのです」

いったい何を言っているのだと人々は思った。侵略者のやりそうなことではある。男は殺して女は奪うという訳だ。悔しいが言いなりになるしかない。

「私たち、喜んで犠牲になります」

女性たちは皆、そう言った。勝ち目のない地球の男たちを相手にしているよりは、圧倒的な力を持つ宇宙人について行った方がいいに違いない。彼女たちは本能的にそう感じていた。男たちはそんな女たちを止めようとはしなかった。自分たちに彼女たちを守る力がないことを男たちは自覚していた。自らの不甲斐なさをひしひしと感じながら、男たちは女たちが連れ去られるのをじっと見ているしかなかった。やがて円盤の中央から暖かいオレンジ色の光の帯が発せられ、女たちが次々と吸い上げられて行った。地球を覆っていた円盤は女たちを乗せると次々と宇宙の彼方へと消えて行った。そして地球には男たちと絶望だけが残った。


「これからどうすればいいのだろう?」

しばらくの間、地球に取り残された男たちはぼんやりと無気力に暮らしていたが、やがて現実を直視するようになった。当然のことだが、男だけでは子孫が残せなかった。このままでは人類は滅亡してしまうに違いなかった。この危機を乗り越えるためにどうすれば良いか人々は必死に思案していた。そんな危機的な状況の中、ある天才科学者が画期的な薬を開発した。それは男が女になる薬だった。

「これで地球は救われる」

人々は喜んだ。だがそこには重要な問題が潜んでいた。誰が女になるかという問題だった。生まれながらに女性の心を持ち、性と身体の不一致に悩んでいた一部の人々は喜んで女になる薬を飲んだ。彼らは、いや彼女たちは、どうしてもっと早くこの薬を作ってくれなかったのかと不満を口にするくらいだった。だが、その数は地球の人口を維持するには圧倒的に不足していた。政府は人類を滅亡から救うため、女になる勇気のある男を募った。そう言われても大部分の男は戸惑うしかなかった。男でなくなる。特にそのシンボルがなくなってしまう。そう考えただけで嫌になる男が大半だった。でも誰かが女にならねばならない。それは誰もが理解していた。そこで抽選が行われることになった。まずは人口の10パーセントの男が女になることになった。女になる者には、今後の生活に困らないベーシックインカムがこれから生まれて来る子供の分も含めて与えられることになった。そして彼らは散々思いまどいながら、ある者はアルコールの力を借りて薬を飲み、女になった。目覚めてみると股間にぶら下がっていた一物が消え去っていた。そこにはまったく新しい世界が広がっていた。

 そして次は女になった男たちとパートナーになる男を決めなければならなかった。宇宙人に女たちが連れ去られて以来、セックスに飢えていた男どもが応募に殺到した。だが子供が生まれなくなって久しい世界に、ようやく生まれて来る大切な子供たちの父親が、そんな破廉恥な人物で良いはずがなかった。人格、経済力、あらゆる面で優れた男たちが相手として選ばれた。人々は新しいカップルと地球の未来に祝福を送った。


そうして地球がなんとか危機を乗り越えようとしていた矢先、あの時の宇宙船が再び飛来した。人々は不安になった。もともと男だったとは言え、ここには女たちがいた。女好きの宇宙人がその情報をキャッチして、また連れ去りに来たのかもしれなかった。

「私たちはとんでもないことをしました。女性たちはお返します」

宇宙人は理由も言わずに連れ去られた女たちを残して去って行った。その様子を見ていた人々は喜んでいた。だが女になる薬を飲んで女になった男たちとその女たち(あるいは男たち?)と結ばれることになっていた男たちは困惑していた。

「本物の女が目の前にいるのに、どうして男だった女と結ばれなければならないのか?」

人類の未来を担う大切な子供たちの父親として、人格、経済力、あらゆる面で優れていると認められた男たちは思った。

「女になった男が男に戻る薬ができたぞ。これで問題は解決する」

天才科学者が言った。だがいったん女になった男が男に戻るというのはどうなのだろうか? そんな男とは絶対に付き合いたくないと戻って来た女たちは言いそうだった。誰が男で、誰が女で、誰が女になった男で、誰が女になった男から男に戻った男なのか、地球はかつてない激しい混乱に見舞われていた。

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