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【超超短編小説】書いてください

掲載日:2025/12/26

 生ぬるい陽射しとやたら冷たい風が駅前のロータリーをのたうち回る。

 そこに緊張感を差し込むのだ。

「書いて下さいよ」

 自分でも驚くほどの大声で俺はそう言った。

「才能があるんですよね、書いて下さいよ」

 自分が加速していく。

 視野が狭くなる。

 脳が硬化して顔が強張る。



 手の中で奴の書評が音を立てて曲がっていく。出版社の編集者の顔を思い出す。

 俺を嗤いやがって!

 全員死ねばいいんだ!


 ブレーキの壊れた脳みそは爆煙を上げながら野良アカペラショーを続ける。

「書いて下さい書いて下さい書いて下さい、俺がもう書かなくて済むように書いて下さい、その才能で書いて下さい、お願いしますよ、書いて下さい」

 ほとんど絶叫に近い声で俺は言った。

 そうだ。俺はもう書きたくなんかない。俺は書く度に自分の異常性と向き合ってしまうし、それは認められることがない。


「宛名のない手紙を書き続けた人はどうなりますか?」

 俺は叫ぶ。何か見ているようで何も見ていない。

 道を行く人たちが振り向く。

 俺を見る目は狂人を見るそれだ。

 俺はその興味と嫌悪のマーブル模様に溺れながら尚も執拗に食い下がる。


「俺とは違って才能があるんですよね、努力の及ばないそこにあなたは立っているんですよね。俺が書きたい事をあなたが書けるなら俺は書かないで済むんですよ、読んで終わりにできる。それなら書いて下さいよ、お願いですよ、書いて書いて書いて下さい。俺はそれを読みますから、絶対に、必ず読みますから、だから書いて下さいよ」



 だが俺の横を素通りした男は湿気った煎餅の様な腑抜けた曖昧な笑みで視線を合わそうとしない。

 わかってるだろ?

 俺にもお前にも才能なんて無いんだよ。

 金を払って書いて貰った書評に何の意味も──いや、それでもいいのか。


「何を見たんだ、俺の作品を読めよ」

 すれ違った男から視線を外して周囲を睨め付ける。

 遠巻きに見ていた人たちが目を逸らす。

「アイツじゃなくても構わない、アンタでもアンタでもアンタでも構わない。そうでなけりゃ俺が書かなくて済む様に俺の満足する作品を書いて読ませてくれよ」



 ついに警察官たちがやってくる。

「でもセックスは別でしょう?誰もあなたの代わりにセックスしてないんですよ」

 俺は原稿の束を落とす。

 そこに書いてある文字を俺は読めなかった。もう俺は勃起できないかも知れない。

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