1話
「うぉぉぉ〜!」
私はとんでもなく大きな歓声に驚き目を開いた。
周囲には先ほどまで一緒に研修を受けていた同僚が立っている。皆、状況が理解できていないようで、周囲をキョロキョロと見ていた。
そんな中、同期の小田くんの元に少年と少女が近寄ってきていた。
「兄ちゃん。どうする?」
「ゆうと。どうするの?」
2人は小田くんに声をかけて聞いていた。
「どうもしないよ。
あいつは僕が動くのを望まないだろうからね。」
小田くんは静かにそう言うと近くの壁に背中をつけて座っていた。
「兄ちゃん。確認は必要だよ。」
「そうだよ。ゆうと。
社会人の基本は例え分かっていることでもすれ違いを起こさないために確認を怠らないことでしょう。」
2人の言葉に小田くんは何か諦めた顔をしてから立ち上がった。
そして、小田くんはそのままより明るい方へと歩き始めた。
私はそちらに何があるのか気になり小田くんの後をついて行ってみた。
視界が開けて見えてきた光景に私は驚きのあまり固まってしまった。
そこには大きな闘技場があり、闘技場の上に男性と小柄な女性が立っていた。
「お~い。総一郎!手を貸そうか?」
小田くんは突然大きな声を張り上げた。
普段、小田くんが大きな声を出すのを見たことなかった私たちはその姿にとても驚いていた。
「ゆうと!久しぶりだな!
お前は動くな!
これはあくまでも余興だ!お前が動けば余興ではなくなるだろうが!」
闘技場に立っていた男性はこちらに向くと大きな声で叫び返してきた。
「そうか。
ファイト!」
小田くんはそれだけ言うと再びこちら側へと戻ってこようとした。だけど、突然、闘技場に立っていた総一郎さんが大きな声で呼び止めた。
「ゆうと!
余興とは言え彼女を巻き込みたくはない!
しばらく、預かってくれ!」
闘技場に立っていた総一郎さんはそう言うと横に立っていた女性を右手で持ち上げそのままこちらに向けて投げてきた。
「ちょ!」
小田くんは慌てた声をあげて闘技場の方に走っていった。
「彼女を投げるな!」
小田くんはそう言いながらどこからともなく取り出したロープを女性に向けて投げた。
ロープはまるで意思を持っているかのように女性に向けて飛んでいき女性の身体に巻き付いた。小田くんは巻き付いたロープの端を引っ張るとそのまま彼女はこちらに向けて飛んできた。小田くんは片手で女性を受け止めるとそのまま足元に下ろした。
私たちはその光景に背筋が寒くなった。なぜなら小田くんがロープで引っ張ったすぐ後、その場所を大量の矢が飛んできていたのだ。もしも一瞬でもそのロープが届くのが遅れたら彼女は矢が刺さっていただろう。
それにもし矢がなかったとしてもこの高さまで投げられた彼女を小田くんが回収を失敗したらそのまま地面に落ちて死んでいたと思える高さだ。
そんな中、小田くんたちは平然とした顔をしていた。
「ゆうと!
お前が動く時は俺が死ぬかこの余興が余興でなくなった時だ!
わかったな!」
総一郎さんの叫び声に小田くんは無言で頷くとそのままその場にひざまずいた。
「御意。」
小田くんの口から静かに低い声が出た。その小田くんの様子はいつもののんびり自由気ままな雰囲気からかけ離れていた。




