表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/70

5話 気にするほどでもない、違和感

5/22 修正しました

「……なんかさ。見た目が悪い、共感されない、気持ち悪い、ってだけで消されるのって、

 俺には、なんか、ひっかかるんだよな」

ユリは、少し間を置いてから言った。


「それは、“倫理的快楽”とは別の価値基準による判断ですか?」

ユウは言い返さなかった。

言葉が見つからなかった。

きっと、そうなのだろう。

最適化されない価値──それを、

「自分にもある」と思いたいのかもしれなかった。


「……そもそも“倫理的快楽”ってのは、なんなんだよ」

ユウがぼそりとこぼした。

ユリは即答した。

「“倫理的快楽”とは、他者の幸福・安寧・共感行動を観測または想像した際に、

快楽中枢が活性化する傾向を指します。

直接的な報酬とは異なり、“誰かにとって良いこと”が“自分にとっても気持ちいい”と感じられる反応です」


「……つまり、“いいことしてる自分って、気持ちいい”ってやつか」

「はい。現代の最適化社会においては、

この倫理的快楽の総和が、個人と集団の幸福指標を兼ねています。

自己犠牲や共感、動物へのやさしさ、匿名の善行なども、

この反応に含まれます」

「じゃあ、ザトウムシを可愛いと思うやつが少なかったから、

除外されたってのも、“倫理的快楽が低い”から?」

「正確には、“他者の共感や保護欲を喚起しにくい”対象と判断されました。

そのため教育効果が不確定であり、削除されました」

ユウは、腕を組んで沈黙した。


──誰かにとっての“正しい”が、

 みんなにとっての“気持ちいい”で決まる。

 そこに反するものは、切り捨てられる。


「……そんなの、ちっとも倫理的じゃないだろ」

そう言ったユウに、ユリは小さく首を傾げた。

「しかし、誰も不幸にはなっていません」


ユウは言いかけて、口をつぐんだ。


──俺が不幸になるんだよ。


……と言いかけて、やめた。

言ったところで、何も変わらない。

それどころか、“その程度の不幸”は、最適化誤差として処理される。

この社会において、それは“正当な反論”ではない。


「……まあ、いい」


ユウは椅子を軋ませて立ち上がった。

“意味のない行動”──その一歩を踏み出すには、まだ早かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ