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48話「思われていた」
無人タクシーが最寄りの駅から自宅に戻るころ、空はすっかり暗くなっていた。
車窓の外を、都市の光が静かに流れていく。
隣に座るユリは、目を閉じて休んでいるようにも見えた。
「……お疲れさま」
ユウが小さくつぶやくと、ユリはゆっくりと目を開けた。
「お疲れさまでした、ユウ様」
タクシーが停まる。ドアが開く。
ユウが先に立ち、ユリが続く。
冷たい都市の空気が、肌に張りつく。
「……なあ」
ユウが振り返る。
「手、貸してくれないか」
ユリは、少しだけ目を見開いた。
けれど何も言わずに、そっと手を差し出す。
ユウはその手を、やわらかく握った。
指先が、微かに震えていたのは、自分の方かもしれない。
「思ってくれたよな」
ユリは答えない。
ただ、手を少し強く握り返す。
「……ありがとう」
その言葉は、何に対するものだったのか、自分でもうまく説明できなかった。
でも、
“思われていた”と気づけた今、
“思ってくれていた”誰かに対して──
どうしても言いたかったのだと思う。
ユウとユリは、手をつないだまま歩き出す。
都市の光が、ほんの少しだけ、やわらかく見えていた。




