4話 いちゃだめなのか
5/22 修正しました
部屋に戻ると、ユリは相変わらずメイド服姿で、
テーブルの上に整った昼食プレートを並べていた。
サラダのドレッシングはユウの平均摂取量に基づいて最適化されている。
食べる気には、あまりなれなかった。
「ユウ様。体調スコアが下がっています。食事をとられたほうが──」
「……ザトウムシが除外されたんだとよ」
「……はい?」
「倫理展示の話だ。あれ、前までザトウムシいたよな。
今朝の更新で削除されてた。快楽指数が低いからってさ」
ユリは一瞬、沈黙した。
「確認いたします。……はい、最新版のデータ群において、
ザトウムシの倫理的共感指数は10.1と判定され、
映像閲覧による平均快楽反応が7.7以下で推移していたため、
教育効果が不明瞭と判断されました。
代替対象としてレッサーパンダが採用されております」
「そりゃ、パンダはかわいいもんな」
ユウは、あえてそう言って苦笑した。
「つまり、“不快だから消しました”ってわけか。合理的だな」
ユリは無表情で首を傾げる。
「“不快”という主観的表現は使用されておりません。
教育ツールとしての有効性が低いため、除外されただけです」
「……同じことだろ」
沈黙が落ちる。
外では人工雲が少しずつ形を変えていた。
それすらも“癒し率”に基づいて調整されている。
ユウはフォークを手に取ったが、動かす気になれなかった。
そのかわり、ぽつりと口にした。
「誰も見てなかったら、ザトウムシっていちゃダメなのか?」
ユリは、少しだけ表情を変えた──それが“困惑”なのか“演算遅延”なのかは、わからない。
「……その問いは、観測条件が不明瞭です。
ただ、少なくとも倫理展示においては、
観測者の反応が教育目的に資さない場合、継続掲載の優先度は低下します」
「じゃあ、お前もか?」
「はい?」
「もし”ユウ様”の快楽指数が低ければ、
お前も“最適じゃない”ってことで、除外されてた?」
「はい、その場合AI最終管理センターへ返還されていた可能性が97.5%あります」
ユウは少しの間沈黙した
つまり──俺が気に入らなければ、ユリは消える。
ただそれだけのことで、“存在の是非”が決まる。
……そういう構造なのかよ。